2012年12月24日月曜日

白隠展 BUNKAMURAザ・ミュージアム

白隠慧鶴は臨済宗中興の祖といわれる禅僧で、1686年生まれで1769年に没ですから、当時としてはかなり長命です。絵をたくさん描いたのは60才以降だそうです。

今回のBUNKAMURAの展覧会は、白隠の絵や書を日本各地から110点以上集めた大規模なものです。

面白かったのは
  • 龍嶽寺《隻履達磨》。これは「達磨が没し中国の熊耳山に葬られた後、魏の宋雲という僧侶は履の片方を持った異僧に出会い ました。どこに行くのか尋ねたところ、その異僧は西天(イン ド)に帰ると言いました。宋雲は帰国した後、帝にこの話をしました。帝は達磨の墓を開かせたところ、棺は空で、中には履の片方のみが残されていました。帝 はこの片履を少林寺(達磨の修行した寺院)に供養しました。」(東京禅センター・ウェブより)という話にでてくる達磨の幽霊です。
  • 萬壽寺《半身達磨》。これはどこかで見たことがあるのではないでしょうか。黒い地に赤い衣を着た達磨が目を見開いています。
  • 法華寺(大洲市立博物館寄託)《布袋吹於福》。大きな双幅で、一つの絵になっています。右隻では煙管を持った布袋が煙を吹き出し、左隻では煙の中から福さんという美人とはいえない女性が、寿の紋が入った着物を着て立ち上ってきます。布袋は仙人でしたっけ?
  • 永青文庫《円相》。ただの円が描かれています。
250年前に、こんなに軽妙でユーモラスな絵が、禅寺で描かれていたことに興味がわきます。
ある意味、当時の、禅のコマーシャルアートであったのでしょう。

「白隠展」はBunkamuraザ・ミュージアムで2013年2月24日までです。

2012年12月23日日曜日

中西夏之展 DIC川村記念美術館

左の写真は、DIC川村記念美術館の庭園にいる白鳥です。寒くて雨も降っていましたが、白鳥は普段通りです。

DIC川村記念美術館に来たのは、「中西夏之展」が開催されているからです。中西夏之さんは、1960年代の前半に、高松次郎さん、赤瀬川原平さんと共にハイレッド・センターとして「反芸術」的パフォーマンスを行ったことで有名ですが、今回は、改めて、初期の作品から最近の作品まで紹介する貴重な展覧会になっています。

今回展示されている初期の作品は、24歳から25歳のときに(1959年から60年)制作された、《韻》シリーズです。これは、砂を混ぜた粗い地の上に、たくさんのT字形の記号のような図を書き込んだ作品。見方によっては、古戦場の地図に書かれた兵の配置のようにも見えます。地図に書かれた丘や川のような有機的な形状の地のうえに、さまざまな変形を伴って単純な記号のパターンが繰り返されている様子は、見ていて飽きません。

中期の作品は、1963年から93年という長い期間の中で制作された、《洗濯バサミは攪拌行動を主張する》シリーズです。洗濯バサミと言っても、今あるプラスチックの洗濯バサミではなく、金属製の洗濯バサミです。見たことが無い人も多いかもしれません。その洗濯バサミが、作品にうたれた釘を掴んでたくさんぶら下がっています。金属の洗濯バサミが鈍く光を反射し、洗濯バサミの影が作品から溢れています。

最近の作品は、2009年から2011年にかけて制作された《擦れ違い/遠のく紫 し近づく白斑》シリーズです。最初にビックリするのはその展示方法です。縦2メートル50センチを超え、横は2メートルもある、大きなキャンバスが、壁にかかっているだけでなく、部屋中におかれたイーゼルの上に垂直に立てられたかたちで展示されています。その作品の数は15を超えます。というわけで、観るものは、絵の間を歩きながら、その空間を感じることになります。それぞれの絵の紫色と白色でつくられた空間が、たくさん並べるられることにより、全体としてメタ空間を形成するようになっています。

これは時間をかけて見によっても良かったと思える展覧会でした。

もちろん、わざわざDIC川村記念美術館までいったのですから、マーク・ロスコの《シーグラム絵画》やバーネット・ニューマンの《アンナの光》にも再会してきました。

「中西夏之展」は2013年1月14日までです。ちょっと東京から遠いですが、現代美術に関心がある方にはお薦めです。


2012年12月10日月曜日

アートと音楽 東京都現代美術館

東京アートミーティングの第三回は「アートと音楽」です。そう言われてみて、美術館で音楽や音が無いことに、あらためて気づきました。あえて、思い出すと、具体の展覧会で田中敦子さんのベルが鳴り響いていたこととか、ブリヂストン美術館でドビュッシーをテーマにしていたことなどでしょうか。

今回の東京都現代美術館の企画は、音楽というか、音に拘っています。

私が気になったのは、

  • セレスト・ブルシエ=ムジュノの、美術館の中に設けられた円形のプールの中で白磁の碗がぶつかり合う音を楽しむ作品
  • 坂本龍一の、コミュニケーションの難しさをピアノの音とレーザーが描く文字で表した《collapsed》
  • 植物が危機を察知して化学物質を作り近くの植物に危機を知らせる様を作品にした、クリスティーネ・エドルンドの作品
  • 地下一階の大きなスペースに、昔のレコードプレーヤーをたくさん並べて、そこから発するノイズを楽しむ作品
この展覧会を見て(聴いて)、美術館の作品からはなぜ音が出ないのだろうと、改めて考えてみたらどうでしょうか。
「アートと音楽 新たな共感覚をもとめて」は2013年2月3日までの展示です。

2012年12月8日土曜日

森と湖の国フィンランド・デザイン サントリー美術館

ちょっとした偶然が、素晴らしいものに巡り会う切っ掛けになることもあるものです。今日は金曜日で夜に美術館に行くには絶好な日なので、「会田誠 天才でごめんなさい」展に行こうと森美術館へ行ったところ、なんと地震でエレベーターが止まっていました。動き出すのを待っていても良かったのですが、サントリー美術館のフィンランドのガラスが良かったと言っている人がいたのを思い出して、サントリー美術館へ。

展覧会のタイトルはフィンランド・デザインですが、内容はフィンランド国立ガラス美術館の協力を得ての、フィンランド・ガラス器の紹介になっいます

20世紀のガラス器が中心ですから、工業製品としてのガラス器メーカーのガラス器と、アートとしての個人工房のガラス器の間で揺れ動く様子も見て取れます。キャプションにも、「1970年代の石油ショックで企業が合併し・・・」というような記述が書かれています。美術館ではなかなか見ない種類の記述です。でも、そんなことは関係なく展示作品の素晴らしさに、まいってしまいました。

1mm違っても崩れてしまうような微妙な器の形、光を反射する透明なガラスの美しさ、着色したガラスを通して見える光の精妙さ。ずっと、ここに動かずにいたいと思わせるようなものがあります。私は、特に、着色された作品が気に入りました。

会期は2013年1月20日までです。お勧めです。

【写真は、入り口を入った所のインスタレーションです】


2012年12月3日月曜日

中国王朝の至宝 東京国立博物館 2回目

いつもの東洋美術・日本美術の同好のみなさんと一緒に、「中国王朝の至宝」展に行ってきました。私は今回2回目ですが、前回は唐のあたりで閉館時間になってしまったため中途半端になっていました。今日は頑張って最後までしっかり見ることができました。

前半部分は以前このブログで感想を書いたので、今日は後半を中心に、面白かった展示を振り返って見たいと思います。


  • 北魏の墓室内に置かれた高床《石床板》。獣面、左右の力士像、獣面の上の踊る人、獣面の下の二匹のとらなど、北魏が中国だけでなく西域の影響を受けていることがわかります。
  • 北魏の《舞楽俑》。北方の人々が歌舞音曲を楽しんでいる様子が再現されています。
  • 北魏の《童子葡萄唐草文脚杯》。ギリシャのデュオニソスに起源をもつ図像が、青銅に鍍金銀で描かれています。東西文化の交流の歴史に思いを馳せることができます。
  • 東晋の《王建之墓碑》。あの有名な王羲之の一族の墓碑ということで、字はきっちりしていて格調を感じます。
  • 呉の時代、272年製の《楼閣人物神亭壷》。瓶の上に楼閣など様々なものが一見雑然とのっけている焼物。これは変。なんのためにこんなものを作ったのでしょうか。
  • 東晋の《蝉文冠飾》。金製のアクセサリーで、細工が細かい。
  • 唐時代、大理石で作られた《金剛神坐像》。座っていながら体を斜めにして金剛杵を振り上げている。造形がダイナミック。
  • 唐時代、越州窯で作られた《五花形盤》。中国秘色青磁の初期の作品だそうです。
  • 唐時代《双鳥門鏡》。宝相華を銜えて飛翔する二羽の鳥の図柄が見事です。
  • 寮の《銀製仮面》。死者の顔につけたものです。表現がリアル。
  • 宋の《阿育王塔》。阿育王とはインドのクシャーン朝のアショーカ王のこと。阿育王塔とはアショーカ王が8万4千の仏塔を造ったという話に故事にちなんで造られたもので、本作品は、木胎に鍍金を施した銀板を被せ、その表面に水晶、瑪瑙、瑠璃などを嵌めこんだ豪華なものです。4面には「薩埵太子飼虎図」「大光明王施首図」「尸毘王救鳩図」「須大拏王図」が彫られています。
このブログでは一部の作品しか紹介できませんでしたが、この展覧会には面白いものがたくさんあります。会期は12月24日までですから、今まで中国美術には興味が無かった方も、都合がつけばぜひ行かれると良いと思います。

2012年12月2日日曜日

琳派芸術II 出光美術館

今回の展覧会は、昨年東日本大震災で中断を余儀なくされた展覧会を、あらたて企画しなおし開催しようとするものです。内容は「1.金と銀の世界」「2.草花図の伝統」「3.江戸琳派の先駆者」「4.俳諧・機知・闇」「5.抱一門下の逸材」となっており、酒井抱一を中心とした江戸琳派の紹介です。

見所はなんといっても、酒井抱一の《風神雷神図屏風》《八ツ橋図屏風》《紅白梅図屏風》でしょう。《風神雷神図屏風》は俵屋宗達が描いたものを、尾形光琳が模写し、さらに酒井抱一が模写したもの。一つの絵がどう引き継がれていくかがわかります。《八ツ橋図屏風》は先日根津美術館で公開されていたボストン美術館蔵の尾形光琳《八ツ橋図屏風》の酒井抱一版になっています。《紅白梅図屏風》は酒井抱一の銀屏風表現を楽しめる一品になっています。

今回は酒井抱一以外で興味をひかれるのは、俵屋宗達の工房のしるしである「伊年」印の《四季草花図屏風》。酒井抱一を引き継ぐ江戸琳派の絵師、鈴木其一の作品。酒井抱一以前の江戸琳派の絵師、俵屋宗理の作品などでしょうか。

江戸琳派を見たいという方には見逃せない展覧会だと思います。出光美術館で12月16日まで開催です。

2012年11月25日日曜日

現代の座標 工芸をめぐる11の思考 東京国立近代美術館工芸館

たまには現代の工芸を観てみようと言うことで、東京国立近代美術館で開催されている「現代の座標 工芸をめぐる11の思考」展へ。

11人の多様な現代の工芸家の作品を集めて、現代の工芸とは何かを考えようと言う趣旨の展覧会です。

11人の作品をみて思うことは、


  • 栗木達介 陶器、帯状のものを球形に造形した作品
  • 森口邦彦 友禅、染織には馴染みがないのですが、もしかしたら面白いと感じさせる
  • 田中信之 漆、 3次元の漆の面に引き寄せられます
  • 池田巌  漆、 《作品(無題)》という用を求めない漆器が良い感じです
  • 八木明  磁器、青白磁、用の形を保ちながらフォルムの楽しさがある作品
  • 楽吉左衛門 陶器、茶陶の伝統を引継ぐと現代ではどうなるかという興味を引く
  • 武山直樹 銅、 ドレープ状の銅板に七宝の釉をかけて焼き、金箔・銀箔で点描装飾するとどうなる
  • 黒田泰造 磁器、円筒形の薄く造られた白磁が並ぶと、そこに見えるものは・・・
  • 小田橋昌代 ガラス・エナメル着彩、ガラスで人の像が造られています、これは工芸か彫刻か
  • 畠山耕治 青銅・鋳造、青銅製の多角形の容器、表面の模様は作為か偶然か
  • 関島寿子 木の蔓、木を編んだり組んだりするとどうなるか、籠に近いものもあるけれど、木という素材そのものを楽しもうという作品も
工芸に対しては、今までちょっと敬遠気味でしたが、ちゃんと観ると面白いですね。特に私のお気に入りは関島さんの木の蔓やシュロの葉を使った作品でした。

「現代の座標 工芸をめぐる11の思考」は東京国立近代美術館工芸館で2012年9月15日から12月2日までの開催です。

中国絵画 石濤・八大山人 泉屋博古館分館

早く行ってみたいと思っていた、泉屋博古館分館(六本木)で開催されている、「中国絵画 住友コレクションの白眉 石濤・八大山人−君はこの名画を見たか−」展に行ってきました。

明の末期から清の始めにかけて、社会は大きく変化している中で、個性的な画家が活躍していました。今回展示されているのはそのような画家たちの作品です。

  • 八大山人《安晩帖》
  • 石濤《廬山観瀑図》
  • 石濤《黄山図巻》
  • 漸江《江山無尽図巻》
石濤の作品を見たことはなかったのですが、観ているとじわじわと良くなってきました。ゆっくり観たい作品です。

安晩帖は三日毎に一枚づつ展示替えが行われていて、私が今回見たのは「菊鶉図」でした。《叭々鳥図》を見たかったのですが、すでに終わってしまっていました。

明・清以外にも、国宝になっている南宋時代の伝閻次平《秋野牧牛図》の展示もあって、たいへん満足しました。

会期中に今回の入場券を持って行くと、次は半額とのことなので、もう一度行ってみたいと思っています。

「中国絵画 住友コレクションの白眉」展は泉屋博古館分館で、2012年10月13日から12月16日までの開催です。


棚田康司「たちのぼる。」展 練馬区立美術館

今日で終わってしまった展覧会ですが、練馬区立美術館(左の写真です)で開催されていた棚田康司さんの展覧会です。

棚田さんの作品は、彩色した木彫の人物像です。
少女・少年が題材になっているのが多いのですが、見てすぐに連想したのが、ヨーロッパの彩色されたキリスト像です。生々しく、何か気持ち悪く、見方によれば崇高。

今回の展覧会は終わってしまいましたが、インパクトのある作品が多かったので、棚田さんの作品を観る機会があれば、また行ってみたいと思います。

棚田康司「たちのぼる。」展は2012年9月16日から11月25日まで開催されていました。

2012年11月18日日曜日

巨匠たちの英国水彩画展 Bunkamuraザ・ミュージアム

Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「巨匠たちの英国水彩画展」は、マンチェスター大学ウィットワース美術館が改修中ということで、その所蔵品の展覧会です。150点を超す作品が展示されています。

水彩画だけの展覧会ということで、地味な展覧会かなと思いながら見に行きました。第一章「ピクチャレスクな英国」のあたりは、まあ予想通りという感じ。第二章の「旅行:イタリアへのグランド・ツアー」では、200年前のイギリスの金持ちは絵葉書がわりに水彩画を買ったというのがわかります。第三章は「旅行:グランド・ツアーを超えて、そして東方へ」ということで、更なる異国の絵葉書がわりの水彩画です。第四章「ターナー」になると俄然良くなります。水彩らしい色にあった造形が何ともいえず良い感じです。第五章は「幻想」ということでウィリアム・ブレイクとフュースリなど、英国にはたまに変わった人がでてきます。第六章は「ラファエル前派の画家とラファエル前派主義」、ミレイ、ロセッティ、バーン=ジョーンズと揃っています。第七章「ヴィクトリア朝時代の水彩画」、第八章「自然」で終わりになります。

全体を見ての感想は、「ターナーは水彩も良いな」でした。
特に水彩フリークの方でなくても楽しめると思います。

この展覧会は2012年12月9日まで、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催です。


2012年11月10日土曜日

美術にぶるっ! ベストセレクション日本近代美術の100年 東京国立近代美術館

昨日、東京国立近代美術館に。
東京国立近代美術館が開設されたのは1952年で、ちょうどいま60周年です。2012年10月16日から2013年1月14日まで、60周年を記念する収蔵品展が「美術にぶるっ ベストセレクション日本近代美術の100年」として開催されています。
展示は第一部「コレクションスペシャル」と第二部「実験室1950s」に分かれています。第一部の方は、コレクションスペショアルの中でも特にスペシャルな作品から展示が始まり、その後はテーマや年代に分けて展示されています。第二部はタイトルの通り1950年代に焦点をあてた展示でタイムマシンでタイムスリップしたような気になります。

日本の近代美術にそれほど興味のない方にも、この展覧会はお勧めです。やはり、良い絵があります、気になる絵があります、時代を感じる絵があります、特定の作品を改めてじっくり観賞するのもよいでしょうし、美術史的に振り返ってみるのも良いと思います。

昨日は、たまたま、研究員の方が写真の展示を説明されるギャラリー・トークに参加することができました。そこでは、東京国立近代美術館の写真への取り組みの歴史など興味深い話が聞けたのは収穫でした。今回は絵画作品が多いので、写真の小さな部屋は素通りしてしまいがちですが、ぜひ写真展示にも立寄ってみて下さい。

私は、もう一度この展覧会に行ってみたいと思っています。

2012年11月3日土曜日

メトロポリタン美術館展 大地、海、空—4000年の美への旅 東京都美術館

東京都美術館で、「メトロポリタン美術館展 大地、海、空−4000年の美への旅」が行われています。

この展覧会の特徴は、作家、年代、地域にとらわれず、「大地」「海」「空」というテーマで展示をしていることです。そこで、今回はゲーム感覚で観賞してみようと決めて、いつもはどうしてもキャプションに目がいってしまうのですが、それをちょっと我慢して、キャプションを見ずに作品の年代や地域を言い当てられるかどうか試してみました。

難しかったのは、彫刻作品。エジプトのカバなんかは現代の作品と言っても良い造形感覚です。また、エジプト、ギリシャは分かっても、メソポタミア、ペルシャ、古代イタリアなどは、うーんどこだろうという感じです。

年代を当てやすいのは19世紀の作品。ここは年代というよりも作者が主張してきます。クールベ、ルノアール、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、アンリ・ルソー。

さすがにメトロポリタン美術館は米国を代表する美術館で、今回の展示の中にはハドソン・リヴァー派などアメリカの風景画家の作品が多く出品されていたのですが、ずっと見ていると、これはアメリカの画家の風景画と分かるようになります。

「大地、海、空」というテーマが効いているかどうか?、4000年にしては近代以降が多いのでは?、といった感はありますが、観て楽しい作品が多いので、行って損はない展覧会です。来年1月4日までの開催です。

2012年10月22日月曜日

近江路の神と仏 2回目の見学

三井記念美術館の「近江路の神と仏」展に、良く展覧会に行く皆さんといっしょに行ってきました。この展覧会に行くのは2度目になります。今回は展覧会カタログも買ってきましたので、少し復習を。
  • 善水寺の誕生釈迦仏立像。奈良時代8世紀の銅造の仏。入り口すぐの所にあります。釈迦が生まれてすぐ、獅子吼した時の姿を表していて、右手を天に向け左手は地に向けています。腕は、幼児のように太く表現されていますが、頭はちょっと小さめ。
  • 石山寺如意輪観音半跏像。石山寺の旧本尊の前立仏(平常公開されない秘仏の前に身代りとして安置される仏)と伝えられています。10世紀後半の作。如意輪観音は六観音の一つで、無限の宝を出す宝珠と煩悩を打ち砕く法輪の功徳で、衆生の苦を救い,宝財を施して願望を意の如く成就するそうです。如意輪観音は六臂が多いのですが、この像は時代の古い二臂の作例です。
  • 明寿院大黒天半跏像。11世紀の作。甲冑をつけた武装大黒天といわれる姿です。大黒天の起源に関しては、インドのシヴァ神、クベーラ神説などあり大変興味深いので、また勉強したいと考えています。後の時代には大黒天は大国主神と習合して、いわゆる「大黒さま」になって行きます。
  • 櫟野寺(いちいのでら)十一面観音立像。10世紀の作。像高167.4cmと大きく存在感があります。様々な方向から顔をみると、表情が変化して、写真の図像よりもずっとよいと感じました。
  • 永昌寺地蔵菩薩立像。10世紀の作。永昌寺は甲賀の農村にある天満宮の別当寺です。像は量感のある体躯をしていて、深く刻まれ衣文は、きっちりと整理されています。最初は僧形神像だった可能性もあるといわれているようです。
  • 石山寺多宝塔の大日如来座像。鎌倉時代12世紀、快慶の初期の作です。顔は大きいのですが天冠台を頭の上に載せているせいか、全体のバランスはとれていると感じます。前で見ていると迫力ある顔が迫ってくるようです。衣文や足の曲線などが美しく表現されています。
涅槃図など仏画にも面白いものがありましたが、夜も遅くなってきたので、今日の復習は仏像に留めておきます。

「近江路の神と仏」展は三井記念美術館で11月25日までの開催です。

2012年10月21日日曜日

五島美術館 新装開館記念「時代の美」

五島美術館が10月20日に新装開館の運びになったので行ってみました。外観などが変わったわけではないので、それほど新しくなったという印象はありませんが、ここが開かれるのは嬉しいことです。

新装開館記念として「時代の美」をテーマに、連続して展覧会が開催されます。


  • 奈良・平安編が2012年10月20日〜11月18日
  • 鎌倉・室町編が2012年11月23日〜12月24日
  • 桃山・江戸編が2013年1月5日〜2月17日
  • 中国・朝鮮編が2013年2月23日〜3月31日
奈良・平安編の前半・後半に分かれていて、目玉の一つである《源氏物語絵巻》は後半の展示になるので注意が必要です。前半が10月20日〜11月4日、後半が11月6日〜11月18日です。

奈良・平安は、古写経、古写本、古筆の展示が多いので、そちらに興味があまりないとちょっと辛いかもしれません。絵画は、《過去現在因果経断簡(益田家本)》、《麻布山水図》、《観普賢経冊子》、《高僧図 石山寺観祐筆》、《沙門地獄草紙断簡(益田家本甲巻) 火象地獄図》、玄証本 高山寺旧蔵の《白描応現観音図》、《白描執金剛神像》、《白描四天王図像》が展示されています。

2012年10月20日土曜日

シャルダン展 三菱一号館美術館

シャルダンの絵が好きだというのは、ちょっと恥ずかしいような気がします。美術には尖った所があるべきだといつもは思っているせいかもしれません。でも、シャルダンには引きつけられるものがあります。

三菱一号館の「シャルダン展 − 静寂の巨匠」に引き寄せられてしまいました。

シャルダンは1699年生まれですから、まさに18世紀の画家です。ロココが流行る時代に、当時のアカデミーの序列ではレベルが低いとされた静物画を描き始め、後に売れる風俗画を描くようになりますが、晩年になってまた静物画に戻って行きます。静物画が好きだったのでしょう。シャルダンの静物画は、17世紀オランダの静物画のように多くのものを配置し艶やかかに描くものではなく、シンプルな構図の中に数種類の果物を静かなたたずまいの中に置くような作品です。

桃の盆とぶどう
桃の籠とぶどう
すももの籠
水差しとフロマージュ・ブランのある静物
水差しときゅうりとさくらんぼ
木いちごの籠
ティーポットとぶどう
葡萄の籠
銀のゴブレットとりんご
桃の籠

ここに書いたのは今回の展覧会で展示されている作品です。
タイトルを見ただけでもおいしそうですね。
紅茶に浸したマドレーヌから小説を展開したプルーストもシャルダンに惹かれたようですが、それもわかるような気がします。

「シャルダン展」は三菱一号館美術館で2013年1月6日まで開催しています。

2012年10月13日土曜日

中国王朝の至宝 東京国立博物館

2012年10月10日から東京国立博物館で「中国王朝の至宝」展が始まりました。中国美術に興味がある私としては、これは行かなくてはいけない、ということで金曜日の夜に早速見に行きました。見る時間が短かいので、全部見られないかなと思っていましたが、予想通り唐まで見た所で夜8時になり、また行かなくてはになってしまいました。

今回の展示の特徴は、黄河流域の中原だけではなく、長江流域の文化にもかなり目配りをしていた点でしょうか。

私が興味を持った展示品の中から一部を紹介すると、
  • 現在の四川省にある三星堆遺跡2号祭祀坑から出た《突目仮面》。これは青銅の仮面ですが、見て驚くのは大きいこと、高さ82.5cmあります。名前の通り目が飛び出していて、額から上の方に一本角のようなものが伸びています。
  • 同じく三星堆遺跡2号祭祀抗の《人頭像》。青銅の上に金を貼付けた顔です。顔の造作が大きいのが面白い。
  • これも現在の四川省にある金沙遺跡から出た、玉でできた《玉琮》。玉琮とは中央が空いた円筒に直方体がついたもので、この玉琮では4段の直方体がついている。高さが16.6cmある大きな玉です。
  • 現在の河南省から出た、夏の時代の《動物文飾板》、二里頭遺跡出土。青銅の上に緑松石で模様が美しい。
  • 河南省出土の殷の時代の《方鼎》。今回青銅器はそれほどたくさんは出品されていませんが、これは大きくて見応えがあります。
  • 現代の湖北省、楚の貴族「邸陽君」の夫人の墓「天星観2号暮」から出土された、《羽人》、《虎座鳳凰架鼓》、どちらも木に漆、羽人のほうは革も使っている。造形が面白い。
  • 山東省出土の戦国時代の《犠尊》。青銅に金・銀・緑松石の象嵌。架空の動物だが、その動物の柔らかい質感が素晴らしい。
  • 秦始皇帝兵馬俑の《跪射俑》。等身大の俑。凛々しい顔の兵士の、このリアリティ。
  • 陝西省出土の前漢の《竹節柱博山炉》。青銅に鍍金銀。高さ58cmで竹のような節のある棒の上に神山である博山という山がついている。
ここまでで、まだ前漢です。

今まで、中国美術に関心が無かった方も、ぜひこれを機会に中国美術を見てみたらどうでしょうか。展覧会は12月24日まで開催です。

2012年10月8日月曜日

近江路の神と仏 三井記念美術館

三井記念美術館で、「琵琶湖をめぐる 近江路の神と仏名宝展」が行われています。
近江の古社寺に伝わる、奈良時代から鎌倉時代にかけての、仏像、神像、絵画が約100点展示されています。国宝/重要文化財も多数あり、見所満載です。

琵琶湖の周辺は、日本の文化の中心に近く、しかも社会的な混乱から逃れることができたせいで、古いものが残っているのでしょうか。

仏像、仏画の中から何が良かったかを言うのは難しいですが、無理に選ぶとすれば石山寺の快慶作《大日如来座像》でしょうか。

三井記念美術館で2012年11月25日までの開催ですが、絵画は前・中・後期に分けて展示替えされますから、出品目録を見て行くようにするのが良いと思います。

2012年10月7日日曜日

久しぶりの、ギャラリー巡り

昨日は、久しぶりにギャラリー巡りのグループで、浅草橋から馬喰町、東神田近辺のギャラリーを巡ってきました。

ギャラリー名 住所 展示内容

ラディウム-レントゲンヴェルケ 中央区日本橋馬喰町2-5-17 渕沢照晃個展。銅版エッチングの版画と銅版を眼鏡状の額に納めた作品

unseal contemporary 中央区日本橋馬喰町2-5-17 (レントゲンの裏にあります) 小倉涌個展。第二次大戦後のマッカーサーが降り立った日本をモチーフにして、そこに見えるものは何か

KOKI ARTS 千代田区東神田1-15-2 ローズビル1F 高嶋英男展。そこにあるのは陶器の花瓶の内側の暗がりをこちらに向けた人体像
αM 千代田区東神田1-12-11 アガタ竹澤ビルB1F 「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう」シリーズの小西紀行展。今、家族を表現するにはどうするか、これは一つの答えか
TARO NASU 東京都千代田区東神田 1-2-11 宮本隆司「薄明のなかで見よ」展。スイスから提供されたピンホール・カメラで撮影した新作約30点
Maki Fine Arts 中央区日本橋大伝馬町15-3 内田ビル1F 池田衆展。写真を切って、貼ってみると、そこにできるものは、新たな世界
KANEKO ART TOKYO 千代田区岩本町2-6-12 曙ビル1F 神川智子展。青い絵具の連なりから見えるものは何だろう
fabre8710 千代田区神田東松下町19 興亜第1ビルB1/B2 小田原亜梨沙展。ここにあるのはちょっとした日常の空想の物語

2012年10月5日金曜日

リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝 国立新美術館

国立新美術館でリヒテンシュタイン家のコレクション展が開催されています。リヒテンシュタイン公国の元首であるリヒテンシュタイン家の個人コレクションで、個人コレクションといては英王室につぐコレクションだといわれています。

ルネサンス期から19世紀にかけてのコレクションから、今回はバロックを中心に139点日本にきています。

気になる展示をいくつか紹介すると。

  • ルーベンス《キリスト哀悼》1612、油彩・カンヴァス。キリストが十字架から降ろされた後、マリアをはじめ人々が取り囲み悲しみにくれる図です。キリストを斜めに配した構図、それぞれの人の涙の描きわけなど、見所がたくさんあります。
  • ルーベンス《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》1616、油彩・カンヴァス。ルーベンスの5歳の娘の肖像。顔を描くタッチが素晴らしい。
  • ヴァン・ダイク《マリア・デ・タシスの肖像》1629/30、油彩・カンヴァス。以前このブログにも書きましたが、肖像を書いてもらうのならヴァン・ダイクですね。絶対うまく描いてくれます。
  • ルーカス・クラナッハ(父)《聖エウスタキウス》1515/30、油彩・板。さすが北方の画家、十字架を頭に付けた鹿が聖人の前に現れた場面が、細かい所まで緻密に描かれています。
  • グイド・レーニ《マグダラのマリア》17世紀前半、油彩・板。マグダラのマリアらしさが表れています。
  • マディアス・ラウフミラー《豪華なジョッキ》1676、象牙。象牙製のジョッキで、サビニの女達の略奪の場面が細密に彫られています。
絵画だけでなく、家具、工芸もありますから、時間をかけて観ると良いと思います。特にバロックや、ルーベンスが好きな方にお勧めです。

国立進美術館で2012年12月23日までの開催です。

2012年9月22日土曜日

ドビュッシー、音楽と美術 ブリヂストン美術館

土曜日の夜にブリヂストン美術館の「ドビュッシー、音楽と美術」展へ。

ブリヂストン美術館の土曜の夜は空いていることが多いので、今回もそうかなと思って行くと、なんと大違いで、大勢の観客がいてびっくりしました。ドビュッシーに人気があるのか、オルセーとオランジェリーから来ている作品に人気があるのか、どちらでしょうか。もちろん、この展覧会企画が良かったということもあるでしょうけれど・・・。

一見して感じたのは、19世紀末から20世紀にかけてのドビュッシーが活躍した時代の雰囲気でした。美術で言えば、ポスト印象主義、アールヌーヴォーの時代です。ドビュッシーの音楽を聞いている限り、音楽という抽象化が進んだ世界のせいか時代感をそれほど感じなかったのですが、こう並べてみるとまさに世紀の転換期の雰囲気。

私が気に入ったのは、たくさん展示されていたモーリス・ドニの作品の中から、《ミューズたち》、《木々の下の人の行列》、《イヴォンヌ・ルロールの肖像》と、エミール・ガレの作品、《たまり水》、《蜻蛉草花文花瓶》、《過ぎ去りし苦しみの葉》。

以前も日本に来ていましたが、ナビ派のもとになったといわれる、ポール・セリュジエがゴーギャンの手ほどきを受けて描いた《タリスマン》も注目です。

「ドビュッシー、音楽と美術 印象派と象徴派のあいだで」は、ブリヂストン美術館で10月14日まで開催です。

2012年9月16日日曜日

ジェームス・アンソール 写実と幻想の系譜 損保ジャパン東郷青児美術館

今日は不安に思いながら、新宿の損保ジャパン東郷青児美術館へ。何が不安かというと、美術の本の図版などで観るかぎり、今までのところ、ジェームス・アンソールが好きになれていないからです。まあ、こういう不安は的中してしまうこともあるし、観たら良いじゃないということになることもあるので、予見をもたずに行ってみましょう。

メインの作品は、やはり、仮面の人が着飾ってひしめいている《陰謀》、骸骨が部屋の中を騒いで廻る《首吊り人の死体を奪い合う骸骨たち》、骸骨の姿の画家がイーゼルの前に立つ《絵を描く骸骨》。象徴表現主義的な(一言で言ってしまえばグロテスクな)作品ばかりでなく、もっと早い時代の風景画の作品なども多く展示されていました。

結論から言ってしまうと、私にとっては、どうもねというのが正直な感想。仮面とか骸骨とかインパクトのある素材を使っているのだけれども、そういったものに対する文化的素養の差か、「それで・・・」というような気になってしまいます。

珍しい作品であることは間違いないので、興味のある方は行ってみたらどうでしょうか。損保ジャパン東郷美術館で、2012年11月11日まで開催です。


2012年9月15日土曜日

辰野登恵子・柴田俊雄 与えられた形象 国立新美術館

 「与えられた形象」というタイトルで、辰野登恵子(たつのたえこ)と柴田俊雄(しばたとしお)の2人展が、国立新美術館で開催されています。

 辰野登恵子さんは色彩豊かな抽象絵画の画家。柴田俊雄さんは人工物の風景を写真にする写真家。その2人の「与えられた形象」(英語で言うと"Given Forms")というタイトルの展覧会です。
 
 辰野登恵子さんは、まず、絵の大きさが気持ち良い。例えば《UNTITLED 94-3》という作品は227.0 X 182.0cm。他の作品もだいたい同じくらいのサイズの作品になっています。このくらいの大きさの作品が、国立新美術館のようなホワイト・キューブの中に展示されていると、観るものと絵との関係がすごく良い。東京国立近代美術館の「ポロック展」でも思いましたが、やはり絵の大きさはすごく大事です。
 次に良い感じなのが、描かれる対象(それが具体的なものであれ、心象的なものであれ)であるオブジェクトと、画面のイメージの関係が、絵の枠の中で相互に浸食していく感覚。大きな形を見ていると、知らず知らずのうちに、目は表面の絵具の動きに移っています。絵の色彩の変化や色彩の接続を楽しんでいると、そこにある大きな構図に気づきます。それが何度も繰り返すような感覚があります。そこには大きな構造と微妙な表現が共存しています。
 とにかく、一つの絵の前に長い間いてもまったく飽きることがありません。

 柴田俊雄さんが撮る写真は、大規模な土木工事が多く、それは大きなダムであったり、土砂崩れを防ぐ土留めであったりします。繰り返し現れる人工物の形、積み重ねられたコンクリートのブロック、延々と続く細い鉄製の階段。でも、それらの人工物も自然の中にあるため、直線や平面を主張することはできずに、山や土や川の動きに合わせた空間の歪みを受け入れなければいけません。
 隅々にまでフォーカスされて、中心も無く周辺も無い、自然と人工物の造形が、カメラの枠で切断され、美術館の壁に現れています。カメラはそれぞれの土地に結びついた構造物を再現しているはずですが、感じるのは土地との結びつきを感じない抽象的な構成です。

 2人は東京藝術大学の同級生で、ポップ・アートやミニマル・アートの時代に、それぞれのアートを作り上げていきました。今では異なる様式で制作していますが、このような2人展であらためて作品を並べてみると、そこには何か共通するものを感じます。

 かなり気に入ったので、帰りがけに図録を買いましたが、これがかなりの大作。図録を手渡されるとき「重いですよ」といわれて持ってみると、本当に重いのでビックリ。

 「与えられた形象」展は、国立新美術館で、10月22日までの開催です。

2012年9月2日日曜日

京都へ、現地調査

美術館やトリエンナーレも良いですが、たまには美術品を現地で見てみようということで、夏休みをかねて一泊二日で王道の京都へ行ってきました。とりあえず今回はメジャーな所です。

一日目

  • 東寺、講堂の立体曼荼羅。昨年、東京国立博物館で行われた「空海と密教美術展」にも何体かは貸し出されていましたが、やはり現地ですべての像がそろっていると迫力があります。中でも惹かれたのは、四隅に配置されている、持国天、増長天、広目天、多聞天の四天王と、梵天でしょうか。
  • 神護寺、薬師如来立像。高雄のバス停から、川まで降りてまた対岸を上るので、暑い中ちょっと大変です。本尊の薬師如来は、平安初期の一木造りの像で、威圧感のある容姿です。腕が太いのが印象的。残念ながら、像の近くに寄れず細部は良く見えませんでした。
二日目
  • 清涼寺、釈迦如来立像。保津川をトロッコ列車で見てから、嵯峨野の清涼寺へ。清涼寺の釈迦如来像は、北宋で造られたもので、釈迦38歳の姿を写したと言われる像。衣を通肩に着け、スリムな姿。
  •  養源院、俵屋宗達の杉戸絵。獅子、象、麒麟の造形が「へん」で面白い。ついでに、血の付いた天上の説明もしてくれます。(血の跡の方がメインで見に来る人もいるかもしれませんが・・・)
  • 智積院、長谷川等伯・長谷川久蔵の障壁画。これはもともと秀吉の遺児鶴松の菩提を弔いために造られた祥雲寺の障壁画。等伯らしく判りやすい「きれいさ」に感心。
やっぱり、美術作品をその関わりがある土地で観るのは良いですね。楽しい2日間になりました。

2012年8月25日土曜日

カルペ・ディエム花として今日を生きる 豊田市美術館

豊田市美術館で、「カルペ・ディエム 花として今日を生きる」展が開催されています。

カルペ・ディエムとは、紀元前1世紀のローマの詩人、クィントゥス・ホラティウス・フラックスの『歌集』第1巻第11歌に出てくる言葉で、「一日の花を摘め」という意味だそうです。どうせ死ぬんだから今を楽しもうということです。

そういうわけで、今回の展示は12人の現代作家の、枯れことを予感させる花や死ぬ事にかかわる作品が展示されています。

イケムラレイコさんは、昨年秋に東京近代美術館で「うつりゆくもの」という展覧会が開催されていたので記憶に残っています。近美では陶製の少女が床に転がっていましたが、今回はそのメメント・モリ・バージョンで作品名も《メメント・モリ》という陶製の女性の腐敗した死体が床に転がっています。ストレートな表現ですが感じるものがあります。

インパクトがあったのは、伊藤薫さんの《Angela Reynolds wears Valentino》という作品で、きれいなドレスを着て死んでいく女性が写真になっています。バレンティノを着たアンジェラ・レイノルドさんは美しい顔をして木に引っかかっています。こんな死に方も悪くは無いと思ってしまいます。

荒木経惟さんは、奥さんとの新婚旅行の《センチメンタルな旅》シリーズの作品と、奥さんが死んだときの《冬の旅》シリーズの作品が並べて展示されています。ここにあるのはリアルな現実を作品に昇華させた形です。

宮島達男さんは、《Death Clock》、それぞれの人の死ぬまでの時間を時計が刻んでいきます。何十人ものDeath Clockが展示されているのは、気味悪くもあり一種壮観。

この展覧会には何か気になるものがあります。おもわず、まだ完成していない展覧会図録を予約して帰ってきました。

「カルペ・ディエム 花として今日を生きる」展は、豊田市美術館で、2012年9月23日までです。

2012年8月18日土曜日

村山知義の宇宙展 世田谷美術館

世田谷美術館で「村山知義の宇宙」展が開催されています。

村山知義は、ベルリンで学び、ダダや構成主義の洗礼をうけ、日本に戻り、大正から昭和にかけて前衛美術運動を展開した人です。

1925年に制作され、現在東京国立近代美術館に所蔵されているコラージュ作品《コンストルクチオン》は見たことはありましたが、今回の展覧会を見て改めてどのような活動をした人だったのかがわかりました。

村山知義が行ったことを列挙すると、

  • コラージュ作品の制作
  • 前衛美術家グループ「マヴォ」「三科」の結成
  • ダンス・パフォーマンスの実演
  • 芸術理論の出版
  • 舞台装置の制作
  • 小説の出版
  • 脚本家
  • 演出家
  • 子供向け雑誌のイラスト
と何でも行った人です。

20世紀前半の、日本の前衛的といわれていた美術の動向を勉強するには、良い展覧会だと思いますが、細かい文書資料も多いので、じっくり取り組んで見ないと、この展覧会の良さはわからないかもしれません。私の場合には、演劇関係の展示は、「猫に小判」的でした。

「村山知義の宇宙 すべての僕が沸騰する」展は、世田谷美術館で、2012年7月14日から9月2日の開催です。

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012

2012年7月29日から9月17日まで、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012」が行われています。2000年から始めた大地の芸術祭は、今年第5回目になっています。

トリアンナーレなどの定期的に開催される現代美術のイベントもずいぶんたくさん行われるようになりました。、2011年には第4回「横浜トリエンナーレ」、2010年に最初の回が行われた「愛知トリエンナーレ」、これも2010年に最初の回が行われた「瀬戸内国際芸術祭」。

それぞれが都市で行われたり、地方で行われたり、美術館の協力を得て行ったりと、多様な展開を見せ、訪れるとそれぞれ異なった印象を受けます。

今日は、越後妻有アートトリエンナーレをバスで廻るツアーに参加しました。日帰りだったので、十日町エリアと《光の館》を含む一部の川西エリアしか観られなかったのが残念でしたが、それでも楽しめました。

妻有で3年おきに開催されているトリエンナーレは、越後妻有という地域文化を持っている地域に、また過疎などのマイナス面も含めて典型的社会状況をもった地域に対して、現代美術という定義も定かでないものをぶつけることにより、地域とアートの可能性を追求しようとしたのだと思います。それに、今回は、美術館のような顔を持った「越後妻有里山現代美術館キナーレ」が加わりました。

そんな中で、引きつけられた作品は

  • キナーレの中庭の大きなスペースを使って展示されているインスタレーション、クリスチャン・ボルタンスキーの《No Man's Land》。これは古着を大きな山と積んで、その上方から巨大クレーンで古着をつまんだり落としたりするもの。古着は人間がいなくなった後の人間の残骸を思わせ不気味。
  • キナーレの中にある、墨で造った立体作品。山本浩二の《フロギスタン》。この作品には自然の暖かさともろさがあります。一つ欲しいけれどもすぐに壊しそう。
  • 十日町駅からはだいぶはなれた所にある枯木又で、京都精華大学が行っている枯木又プロジェクトの中の、小松敏宏の《Snow Room》。雪が溶けた水が入っている小瓶をたくさん積み上げた作品。コンセプトが面白い。
  • もぐらの館の中の、田中哲也の《輝器》。焼き物で光る物体を造る。発想も面白いが、発光している姿が美しい。
越後妻有トリエンナーレが、また機会を見つけて、行ってみたいイベントであることは、たしかです。


2012年8月5日日曜日

大英博物館古代エジプト展 森アーツセンターギャラリー

今、何故かエジプト展が重なっていますが。古代エジプト人の死生観や、死者があの世にうまくいけるようにするための呪文に興味がある方は、森アーツセンターギャラリーで開催されている、《大英博物館古代エジプト展》に行ってみてはどうでしょうか。「死者の書」に関して丁寧に説明されています。

「死者の書」は死後ちゃんとあの世に行き、復活できるようにするための、旅行ガイドのようなもので、途中で旅を妨げるような者がでてきたり、前世の行いを計られたりするとき、どのようにすれば良いかが書かれているわけです。

世界で一番長いといわれる、大英博物館所蔵の、ネシタネベタイシュルウのために作られた、全長37mに及ぶ死者の書が展示されていますから、見に行って損は無いと思います。太陽神「ラー」とか、冥界の王「オシリス」とか、「バー」とか「カー」とか言う精霊のこともわかるようになります。

お約束のミイラも2体出ていますが、むき出しではないので、ミイラ嫌いの方でも大丈夫だと思います。

造型的には、顔と足は横を向いていて肩は正面を向いているエジプト型の人がたくさん出てきますが、どれも同じだなと思ってしまいます。同じ墓の中に入れられた図像でも、中国の漢代画像石ではもっと作者の創意工夫があって図像自体が面白いのですが、この差はどこからくるのでしょうか。そこが文明の違いなのか、興味があります。

森アーツセンターギャラリーで9月17日までの開催です。

2012年8月4日土曜日

久隅守景 夕顔棚納涼図屏風 東京国立博物館

今、東京国立博物館の総合文化展の7室で、久隅守景の《納涼図屏風》が展示されています。

久隅守景は狩野探幽の弟子で江戸時代前期の画家ですが、狩野派をはなれて活動をしていたため、生没年や経歴の詳細は不明ということです。

《納涼図屏風》は一般には《夕顔棚納涼図屏風》といわれる二曲一隻の屏風で、小さな貧しい小屋から張り出した夕顔棚の下に「ござ」を敷き、親子三人がほとんど裸で簡単な着物を付けただけで涼んでいる図です。女性なんかは上半身裸です。

図版では見ていたのですが、実物は初めて見たので、こんなに大きい絵だったのかと改めて思いました、もちろん屏風ですから大きいわけですが、図録ではそんな感じがしなかったということです。
夕顔棚というのもあまり知らなかったのですが、藤棚のような棚に夕顔がはわせてあるもののようです。ちなみにGoogleで「夕顔棚」と検索してみると、ほとんどこの《夕顔棚納涼図屏風》が引っかかってくるというのは、夕顔棚というのは珍しいものなのでしょうか。このへんは私も良くわかりません。
夕顔のさらっとした筆のタッチや、涼しげな親子など、見ているだけでも涼しく気持ちいいだろうなと思わせる絵です。

17世紀の作品ですから、日本でもヨーロッパでも僧侶や貴族でない一般人が好むような風俗画が描かれた時代の作品と言えるのだと思いますが、こんなにも何もしていない人が描かれた絵というのは世界にも珍しいのではないでしょうか。オランダの風俗画などでは、飲んで乱痴気騒ぎをしたり、手紙を書いたり、家事をしていたり、何かしています。

涼しい絵を見たいという方、世の中ぼんやりしてても良いではないかと思われる方、9月2日までに東京国立博物館に言ってみたらどうでしょうか。


2012年7月23日月曜日

貞慶展 金沢文庫

神奈川県の金沢文庫で「御遠忌800年記念特別展 解脱上人貞慶」展が行われています。いつものセミナーの皆さんと行ってきました。

貞慶は作家ではなく平安時代末期から鎌倉時代にかけての高僧です。ですからこの展覧会は空海展や法然展といった種類の展覧会です。遠忌というのは50年以上経った年忌ですから、貞慶の没後800年を記念しての展覧会ということになります。

貞慶は当時あらわれた法然や親鸞の浄土宗や浄土真宗に対抗する、南都仏教の法相宗の高僧になります。法相宗は玄奘三蔵を元にして慈恩を祖とする宗派で、「個人にとってのあらゆる諸存在が、唯(ただ)、八種類の識によって成り立っている」という唯識論を信奉しています。有名な運慶の「無箸」「世親」の像は法相宗の僧です。

今回の展覧会では、貞慶ゆかりの、笠置寺、海住山寺や、興福寺、春日大社に関わる、展示がされています。

私の見所リストは、

  • 《春日権現験記絵》第十一巻、宮内庁三の丸尚蔵館
  • 《興福寺曼荼羅図》、京都国立博物館
  • 《法相曼荼羅図》、根津美術館
  • 《春日宮曼荼羅》、バーネット&バートコレクション
  • 《弥勒菩薩立像》、東大寺中性院
  • 《釈迦如来立像》、峰定寺
  • 《四天王立像》、海住山寺
  • 《五重塔初層内陣扉絵》、海住山寺
この展覧会は、2012年6月8日から7月29日までです。東京からはちょっと遠いですが、鎌倉時代の絵画・彫刻に興味がある方は行ってみてはどうでしょうか。

2012年7月21日土曜日

奈良義智展 横浜美術館

今、横浜美術館で「奈良義智:君や僕にちょっと似ている」展が開催されています。横浜美術館では2001年にも大規模な奈良美智展を行っているので、11年ぶりにふたたび大きな展覧会をすることになります。

奈良美智は、「くせのありそうな子供」キャラクターを増殖させ変奏するアート、という印象を持っていたのですが、今回の展覧会ではその印象が少し変わりました。それは、表現の手法や、描かれる対象の類型が今までとは異なっているせいのようです。

最初に驚いたのは、会場を入って最初に大きなブロンズ像があったことです。《真夜中の巡礼者》《ノッポのお姉さん》《樅の木》など9点出展されています。テーマは子供ですが、等身像以上の大きさの像が、滑らかでない表面をもって造形されています。その存在感はかなりのものがあり、今までの紙の表現が、違う次元に飛んだように感じます。

また、これは絵の作品ですが、《Young Mother》という子供ではなく若い母親をテーマにした作品がありました、顔やポーズは子供の絵と同じですが、子供の像とは微妙に雰囲気が違っています。これは子供の延長としての母親なのか、新たなモンスターの発生なのか。

奈良美智はこれからどこに向かっているのでしょう。興味があります。

横浜美術館の「奈良義智:君や僕にちょっと似ている」展は2012年7月14日から9月23日までの開催です。

2012年7月13日金曜日

マウリッツハイス美術館展 東京都美術館

金曜日ですが休みをとれたので、マウリッツハイス美術館展に行ってみました。

混雑を心配している方もいらっしゃると思いますので、最初に混雑情報。金曜日午後2時半に到着でしたが、入場券を買った後、切符切りのところで入場制限をしていて、ここでの待ち時間は15分くらい。展覧会場の中の《真珠の耳飾りの少女》のところで絵の近くで見る人は列を作る仕掛けになっていて、ここでの待ち時間は20分くらいでした。

マウリッツハイス美術館は、オランダが全盛であった17世紀に、オランダ総督ウィレム5世とその子オランダ国王ウィレム1世が収集した作品を核とした収蔵品をもつ美術館です。現在、改装中ということで今回多くの作品が日本に貸し出されてきています。

当然、今回の展示も17世紀オランダとフランドルの絵画です。展覧会場は3フロアに分かれていて、地下一階からエスカレータで順次上がって行きます。地下一階は「美術館の歴史」「風景画」「歴史画」、一階は「肖像画とトリーニー」(トローニートは特定の人物の肖像画ではない人物像)、二階は「静物画」「風俗画」

展示の中で、気になったもの、気に入ったものを紹介します。
  • ヤーコブ・ファン・ライスダール《漂白場のあるハールレムの風景》1670−1675
    地平線を低い位置にとって、遠くにはハールレムの街が細かく描かれている。その上には雲が広がっている。光の具合が精妙。
  • ペーテル・パウル・ルーベンス《聖母被昇天(下絵)》1622−1625
    アントワープにある作品の下絵、下絵とはいえルーベンスが自ら描いたもので、ドラマチックな表現。
  • アンソニー・ヴァン・ダイク《アンナ・ウェイクの肖像》1628、《ペーテル・ステーフェンスの肖像》1627
    肖像画を描いてもらうならヴァン・ダイクが良いですね。ベラスケスなんかに描いてもらったら隠している悪意まで描かれてしまいそうだし、レンブラントに描いてもらったら年をとったところを曝け出されてしまいそうですが、ヴァン・ダイクなら注文主の期待を裏切ることがないでしょう。
  • カレル・ファブリティウス《ごしきひわ》1654
    小林頼子さんの『フェルメール論』では、フェルメールが影響を受けたデルフト派の画家としてこのファブリティウスをあげています。小さな作品ですが、壁とその前の鳥のいる空間をこんなふうに表現できるのに感心。
  • ヤン・ステーン《親に倣って子も歌う》1668−1670
    ヤン・ステーンお得意の風俗画です。大きな絵の中に、人がひしめいていて、空間も乱痴気騒ぎで歪んでいます。こんなことをしてはいけないという教訓画だそうですが、でも本当はこんなのが好きだったのではないかと思ってしまいます。
  • ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》1665
    フェルメールの絵は室内が描かれているものが多いのですが、この絵と、メトロポリタン美術館の《少女》は部屋は描かれず暗い背景に人物が表現されています。まわりに何もないだけ、見る人は描かれている少女に引きつけられていきます。ほら、こっちを見ていますよ。
止まらないで見てくださいと言われながら絵を鑑賞するのはいやですが、それでも一見の価値はあります。東京での開催は9月17日までです。その後9月27日から2013年1月6日まで神戸市立博物館に巡回です。

2012年7月7日土曜日

トーマス・デマンド展 会期は明日まで。東京都現代美術館

東京都現代美術館で「トーマス・デマンド」展が開催されています。トーマス・デマンドは現代ドイツの作家です。

トーマス・デマンドの作品は、人がものを認識する工程を意識させるようなものです。

東京都現代美術館では以前の企画展でもありましたが、今回も、最初の一巡はパンフレットなしで廻り、次いでパンフレットを見ながら廻ってくれというものでした。

最初の一巡。
いろいろな題材の模型を紙で作り、それを写真に撮った作品がならんでいて、「実物そっくり」「でもやっぱり紙で軽い感じ」「リアリティがないだけ奇麗」というのが感想。

パンフレットをもらっての一巡。
単に壁から外の光がもれている作品と思ったのは、ジャクソン・ポロックが使っていたアトリエの写真をもとにして、それを紙で再現し、さらにそれを写真にした作品であると判明。
単なるバスルームだと思ったのは、死体が風呂に浮かんでいるのを見つけた事件記者が、警察に届ける前に、中に踏み込んでスクープにしたことにより、物議をかもした写真を、紙で模型にして、それをさらに写真にした作品であると判明。
というような作品が続いて、頭がくらくらしてきます。
福島第一原子力発電所の事故後の制御室に最初に明かりをつけた時の写真から作った作品などもあります。

ものとは何、できごととは何、それを再現するとは何、表現するとは何、といろいろ考えさせられる展覧会です。

展覧会の会期はもう残り少なく、明日(7月8日)までですが、もしも明日時間がある方にはお勧めです


「具体」-ニッポンの前衛 18年の軌跡  国立新美術館

まだ戦争が終わって10年も経たない1954年に、当時の前衛的美術家が吉原治良のもとに集まり、具体美術協会「具体」を結成しました。それは18年続き1972年に吉原治良の死とともに終わりになります。この展覧会は、その日本の前衛美術ムーブメントを振り返ってみる展覧会です。

こういう展覧会を見に行く時、当時輝いたものが残念なものに変質していないかという危惧があります。まだ時間のフィルターにかかっていないが、賞味期限になってしまった作品に出会う危惧があるわけです。
当時の熱気を追体験できるか、それとも見たくないものを見てしまうのか。期待半分、怖さ半分で、展覧会会場に行きました。

国立新美術館一階の会場は、金曜日の夕方という事ですいています。

以下は感想です。

  • 「具体」が最初は展覧会を開くよりも、「具体」という冊子をつくり、自らの作品を国内外に知ってもらおう事に重点を置いていたという事は知りませんでした。「具体」の2号と3号はジャクソン・ポロックにも送られていました。これは美術家集団の試みとしては新しい試みですね。
  • 今年の2月から5月まで東京都現代美術館で田中敦子さんの展覧会が開催していましたが、そこにもあった作品が今回も展示されていました。現代美術館の時と同様に、ベルで大きな音を出す作品が、会場に鳴り響いています。田中敦子さんは今でも現代の作品として通用します。
  • 白髪一雄さんは、足で描くアクション・ペインティングで有名で、今回もそういった作品も展示されていましたが、私には、《超現代三番叟》という真っ赤で大きな舞台衣装に興味を引かれます。
  • 「具体」と「アンフォルメル」との接近に関しては知っていましたが、今回改めて、具体メンバーとミシェル・タピエが写った写真などを見て、その関係の深さが理解されました。海外に作品をもっていきやすいように、当初は多くあったインスタレーション作品が少なくなり、絵画作品が増えたというような、解説もありました。そういうこともあったのですね。
  • 私個人の感想としては、アンフォルメル的であったり、暑い抽象といった作品でないものに、面白いものがありました。
9月10日までですので、興味ある方は行かれてはどうでしょうか。今見ても面白いものがたくさんあります。

2012年7月1日日曜日

ベルリン国立美術館展 国立西洋美術館

早く行きたいと思っていた、ベルリン国立美術館展に行ってきました。

ちょっと前に、上野に行った人から、西洋美術館の前に列ができていたという話も聞いていたので、混雑を覚悟だったのですが、東京都美術館で昨日から開催されているマウリッツハイス美術館展に人は流れて行ったのか、列は無し、絵の前も押し合いへし合いでなくゆっくり鑑賞できました。ラッキーですね。

私の注目作品は、

  • チーマ・ダ・コネルアーノ工房、《聖ルチア、マグダラのマリア、アレクサンドリアの聖カタリナ》、1490年頃、油彩・板
    ヴェネチア初期ルネサンスの作品です。3人の聖女が調和のとれた配置、色彩で、描かれ。静かな空間を作り出しています。
  • ティルマン・リーメンシュナイダー派、《聖母戴冠》、1510年頃、菩提樹材
    ドイツの中世的題材の彫刻。素朴な味わいで、聖母マリア信仰が盛んだったんだなとわかります。
  • グレゴリア・ディ・ロレンツォ・ディ・ヤコポ・ディ・ミーノ、《女性の肖像》、1470年頃、ストゥッコ
    イタリアルネサンス後期の典型的な肖像彫刻。一般の人をモデルに理想美を追求するとこうなるかというような作品。
  • アルブレヒト・デューラー、《ヤーコブ・ムッフェルの肖像》、1526年頃、油彩・板のちにカンヴァスに張り替え
    今更言うのもへんだけれど、やはりデューラーはうまい。
  • ルーカス・クラナッハ(父)、《ルクレティア》、1533年、油彩・板
    昔、美術書で最初にクラナッハのヌードを見た時、奇妙に官能的でなんて変な絵なんだと思ったのを思い出しました。
  • ヤン・ダヴィッドゾーン・デ・ヘーム、《果物、花、ワイングラスのある静物》、1651年、油彩・カンヴァス
    オランダの画家、非常に緻密な静物画。葉っぱに毛虫がついているところを見届けてください。
  • ヨハネス・フェルメール、《真珠の首飾りの少女》、1662−1665、油彩・カンヴァス
    これに関しては何も説明はいりませんね。今回は1mくらいの近さから、「早く先に進んで」などと言われずに、ゆっくり見ることができました。帰ってきてから、あらためて図録の写真を見たのですが、左下の暗い部分がつぶれて見えなくなっています。やはり本物を見ないといけないですね。
  • レンブラント・ファン・レイン、《ミネルヴァ》、1631、油彩・カンヴァス
    暗い背景の中に、三角形のどっしりとした構図のミネルヴァがこちらを向いています。やはりレンブラントは光と影の画家。
  • イタリアの素描が数十枚。
今回のベルリン国立美術館展の図録は、たいへん力が入っているようです。中には、国立西洋美術館の学芸員の方が書いた、「イタリア素描の技法さまざま」などという記事も載っていたので、思わず買ってしまいました。


2012年6月30日土曜日

三菱一号館美術館 バーン=ジョーンズ展

金曜日の夜に行くなら、三菱一号館美術館くらいの大きさの美術館がベスト。というわけで、昨晩、バーン=ジョーンズ展に行ってきました。

実は、ラファエル前派は私の苦手な領域です。図像の象徴性、中世風物語への接近、生活と芸術をいっしょにしようなどと考えているウィリアム・モリスとの密接な関係、などがどうも好きになれない理由で、絵画はもっと純粋でなければいけないという思いです。

ところが、見てみると、引きつけられる所が多い、これは不思議でした。
気になった作品は、


  • 黒チョークでバーン=ジョーンズ好みの女性が描かれている、《ディスベ − ピュラモスとディスベの物語》
  • 運命を表す大きな車輪のそばに3人の男がいる、《運命の車輪》
  • バーン=ジョーンズの自画像だと言われる、《魔法使い》
  • 大きな海蛇が気味悪い、《果たされた運命:大海蛇を退治するペルセウス》
  • 皆が寝てしまっている、《眠り姫 − 連作「いばら姫」》
19世紀の中世に憧れるイギリスに興味がある方は、展覧会に足を運んでみると良いと想います。展覧会は8月19日までです。

私がバーン=ジョーンズのことを嫌いでなくなったのは、古代中国美術を勉強しているせいで、へんな物語や、へんな造形に対して、免疫ができたせいかもしれません。

2012年6月17日日曜日

今日は雨の中屋外活動「建築見学散歩」横浜山手編

今日は残念ながら雨でしたが、いつもの建築散歩同好の皆さんと横浜山手に行ってきました。いわゆる「洋館」が今日の目玉。


  • 山手カトリック教会、J.J.スワガー、1933
  • カトリック横浜司教館別館、1927
  • カトリック横浜司教館、妻木頼黄、1937
  • 山手公園管理事務所(旧山手68番館)、1934
  • ブラフ18番館
  • 外交官の家(J.M.ガーディナー)、1910
  • 山手214番館
など。

上下式窓、鎧戸、出窓、スレート屋根など、「洋館」の意匠を満喫しました。
ブラフ18番館には、横浜に関する図書が読める部屋などもあります。興味があれば、行ってみるのも良いかもしれませんね。


2012年6月10日日曜日

ブリヂストン美術館開館60周年記念 収蔵品展

ブリジストン美術館開館60周年記念ということで、「あなたに見せたい絵があります。」というサブタイトルの展覧会が行われています。石橋財団ブリヂストン美術館蔵の作品ばかりでなく、石橋美術館の収蔵品からも、展示されています。

今回の展覧会は、様式別や作者別ではなく、1章「自画像」、2章「肖像画」、3章「ヌード」、4章「モデル」、5章「レジャー」、6章「物語」、7章「山」、9章「川」、10章「静物」、11章「現代美術」、という構成です。
そういうわけで、日本の作品も海外の作品も一つの部屋の中で隣同士で展示されています。雪舟、クールベ、セザンヌ、岡鹿之助が「山」という括りで同じ部屋に展示されているので、びっくりします。

ブリジストン美術館の収蔵品は見たことがあるものが多いのですが、今回は見て面白かったのは(良い絵だという観点ではなく、たまたま気になったという観点です)


  • マネ、《自画像》、1878−79、マネにかかると自画像もこうなる。
  • 中村彝、《自画像》、1909、暗いな。
  • 関根正二、《子供》、1919、技術的には?だとは思うのですが、なぜか惹きつけられます。
  • マチス、《画質の裸婦》、1899,最近マネの色彩に関して話を聞いたので、改めて色使いを確認。
  • 浅井忠、《グレーの洗濯場》、1901,浅井忠は随分年をとってからフランスに行ったんだなと気づきました。
  • ポロック、《Number2》、1951、東京近代美術館のポロック展で、ポロック全盛期後に興味があったので。
雪舟の、石橋美術館蔵《四季山水図》は、《山水長巻》を見た後だったので、うーん。
青木繁は、ブリジストン美術館での「青木繁」展でも見ているのですが、どうも好きになれない。

「ブリヂストン美術館開館60周年記念 あなたに見せたい絵があります」展は、2012年6月24日までです。






2012年6月3日日曜日

東京都美術館から、東京藝術大学大学美術館の「高橋由一」展へ

今日は、彫刻を造っている友人が展覧会を行っているというので、東京都美術館の「創型展」へ。公募展に立寄る事は少ないので、こんなことになっているのかと、興味深く見せてもらいました。彫刻は今でも仏像とか人物象が多いんだなとか思いながら会場を一巡。

東京都美術館はリニューアルしてから初めてでしたが、メインの入り口が南側に変わっていました。

その足で、東京藝術大学大学美術館の「近代洋画の開拓者 高橋由一」展へ。
高橋由一は、明治時代に時代に翻弄された洋画の先駆者だという知識はもっていても、作品は《鮭》を見た事があるくらいだったので、これだけ高橋由一の作品を一同に見られるのは貴重な機会でした。

会場の最初にある、「油絵以前」という章では、墨を使って西洋画的な試みをしているのが面白い。墨を使って水墨画の伝統に基づかない絵を描こうとするとどうなるのかが判ります。
その後、展覧会は「人物画・歴史画」、「名所風景画」、「静物画」、「東北風景画」と章立てされていますが、私が面白かったのは肖像画、江戸時代から明治時代へ変わる当時の人々がリアルに表現されています。

「高橋由一」展は6月24日までです。

2012年5月27日日曜日

「至高の中国絵画コレクション」 静嘉堂文庫美術館

静嘉堂文庫創設120周年・美術館開館20周年記念として、静嘉堂文庫美術館で、「受け継がれる東洋の至宝」というシリーズで展覧会が企画されています。


Part1が2012/4/14-6/24に「東洋絵画の精華 ― 名品でたどる美の軌跡 ―」、Part2が2012/9/22-11/25に「岩﨑彌之助のまなざし ― 古典籍と明治の美術 ―」、Part3が2013/1/22-3/24に「曜変・油滴天目 ― 茶道具名品展 ―」となっています。


Part1はさらに前半と後半に分かれて、前期が「珠玉の日本絵画コレクション 4/14-5/20」、後期が「至高の中国絵画コレクション 5/23-6/24」です。


「至高の中国絵画コレクション」に行ってみました。静嘉堂文庫美術館はちょっと交通が不便で、東急田園都市線の二子玉川からバスで10分くらいになります。バスは1時間に3本程度なので美術館のWEBで事前に時間を確認して行くと良いかもしれません。


今回の目玉は、何と言っても、日本の絵画に大きな影響を与えた、南宋/元の絵画でした。
いつも名前が出てくる、牧谿、夏珪、馬遠関連が「伝」も含めてですが揃っています。

  • 伝馬遠、《風雨山水図》、南宋・13世紀
  • 牧谿、《羅漢図》、南宋・13世紀
  • 伝夏珪、《山水図》、南宋-元・13-14世紀
道釈人物画も、ユーモラスで面白いですね。

  • 因陀羅 楚石梵埼題、《禅機図断簡 智常禅師図》、元・14世紀
  • 虎巌浄伏題、《寒山図》、元・13-14世紀
入場券は、「受け継がれる東洋の至宝」シリーズの展覧会の次回割引券も兼ねていますので、また行ってみる事にしましょう。


2012年5月19日土曜日

会期間際で、曾我蕭白展へ

千葉市美術館で、5月20日まで「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」展が開催されています。

会期も最後になって慌てて行ってきました。なぜ今まで行かなかったかというと、どうも蕭白は好きになれないだろうという予感があったため、では、なぜ行ったかというと、東京博物館で行っている「ボストン美術館 日本美術の至宝」にあった蕭白の「雲龍図」を見たためです。

なぜ蕭白が好きになれないだろうと思っていたかというと、曽我派という古くさい絵を元にして、マンガのキャラクターのような珍妙なテイストを加えて、なんとか受けを狙っていた絵師だろうと思っていたからです。

見た結果は、蕭白の事をものすごく好きにはなれないまでも、蕭白はすごいなと思いました。また機会があればまた見たいとも思いました。

理由の一つは、タッチのダイナミックさ。《牧童群牛図屏風》の牛がすごい。《唐獅子図》の獅子は、なんなんだこれは。

気持ち悪いだろうなと思っていた、問題の、《群仙図屏風》は、気持ち悪い前に表現力にびっくり。龍にのっている仙人の着物の乱れ具合、龍が巻き起こしている大気の渦巻き、ガマをかまっている女性の服の模様の緻密さ(これは図版ではわからない)、そしてこんなに変なものがたくさん描いてあるのに、全体として構図が破綻していない事。すごいですね。

《群仙図屏風》の左側にひっそり置かれていた、《美人図》もすごい。裸足で立って、物理的にあり得ないようなバランス、そしてなんとぼろぼろに破れた手紙を噛んでいる図です。同じ手紙つながりでもフェルメールの静謐な感じとはなんという差なんでしょうか。

というわけで、私に取っては新発見がたくさんあった、曾我蕭白展でした。いままでの食わず嫌いはなんだったんだと、少し反省。


2012年5月13日日曜日

アンリ・ル・シダネル展

なんでも行ってみようシリーズです。
つまり、好きかどうかわからないし、だめかもしれないなと思いながら、でもそれならそれでいいじゃないかと思って行ってみる、シリーズです。

アンリ・ル・シダネルのことはよく知りませんでした。損保ジャパン東郷青児美術館の展覧会のポスターには、「薔薇と光の画家」「フランス ジェルブロワの風」と書いてあります。なんだこれはと言いながら、新宿まで出かけてみました。

会場のパネルを読むと、アンリ・ル・シダネルは、1862年モーリシャス島生まれ(スエズ運河ができるまえインド航路の寄港地として栄えたそうです)、1939年没ですから、19世紀末から20世紀にかけて絵画の世界も大変革の時代に生きていたわけです。それでもその中で、アカデミーに反旗を翻すこともあまりなく、印象派の技術も取り入れて、穏やかな風景画や室内画を描いた人のようです。

どうも個人的には食指が動かないタイプですが、見れば好きになるかも知れない。

作品の主なテーマは、フランスの地方の風景画、庭園を描いた作品、室内を描いたアンティミスムの作品です。技術的には印象派に近く、日没間近や曇った日など微妙な光が好きなようです。

私としては、風景や室内の緑色の色合いがよかったので、嫌ではなかった。緑色の画家と呼びたい。結論としては、見にきて良かったなです。

ちなみに、ジェルブロワはアンリ・ル・シダネルが庭に薔薇園を作ったフランスの小さな村だそうです。

たまには、力が抜けた展覧会も悪くはありません。

「薔薇と光の画家 アンリ・ル・シダネル展 −フランス ジェルブロワの風−」は、新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で2012年4月14日から7月1日まで開催です。

2012年5月6日日曜日

国立新美術館 大エルミタージュ美術館展

エルミタージュ美術館の収蔵品を使った展覧会が2012年4月25日から国立新美術館で開催されています。展覧会のタイトルは「国立新美術館開館5周年、大エルミタージュ美術館展、世紀の顔・西欧絵画の400年」です。連休中に時間を見つけて行ってみました。

エルミタージュ美術館は、ロシアのエカチュリーナ(昔はエカテリーナと言っていた)2世が1764年に作ったのが初めで、一般に公開されるようになったのは1863年以降です。現在3百万点の作品が収蔵されているといわれています。

今回の展覧会は、ヴェネチア・ルネサンスから20世紀まで年代順の展示で、第一章は「16世紀ルネサンス:人間の世紀」、第二章は「17世紀バロック:黄金の世紀」、第三章は「18世紀ロココと新古典派:革命の世紀」、第四章は「19世紀ロマン派からポスト印象派まで:進化する世紀」、第五章「20世紀マティスとその周辺:アヴァンギャルドの世紀」となっています。

どうしても見たいお気に入りの作品があればそこに直行というのも良いと思いますが、今回の展覧会では、展覧会の趣旨でもあるように、西欧絵画の歴史を実感してみるのが、良いのではないでしょうか。実際に現物を見ながら歴史を感じるというのは、日本では国立西洋美術館の常設展くらいでしかできないのですから。

私の個人的なみどころは、

  • ティツィアーノ・ヴェチェリオ 《祝福するキリスト》
  • ロレンツォ・ロット 《エジプト逃避途上の休息と聖ユスティナ》
  • ドメニコ・ティントレット 《男の肖像》
  • バルトロメオ・スケドーニ 《聖家族と洗礼者ヨハネ》
  • ペーテル・パウル・ルーベンス 《ローマの慈愛》
  • アンソニー・ヴァン・ダイク 《エリザベスとフィラデルフィア・ウォートン姉妹の肖像》
  • レンブラント・ファン・レイン 《老婦人の肖像》
  • フロンソワ・ブーシェ 《クピド(絵画の寓意)》
  • ユベール・ロベール 《古代ローマの公衆浴場跡》
  • ウジェーヌ・ドラクロワ 《馬に鞍をおくアラブ人》
  • アンリ・ルソー 《赤い部屋(赤のハーモニー)》
印象派以降の作品は日本での展覧会でも見ることが多いので、どうしても興味は16世紀、17世紀になってしまいます。

大エルミタージュ美術館展の会期は、2012年7月16日までですから、機会があればもう一度見に行きたいと思っています。

2012年5月1日火曜日

ウクライナの至宝展 スキタイ黄金美術の煌めき

山梨県立博物館で、「ウクライナの至宝展 スキタイ黄金美術の煌めき」展が開催されています。ちょっと東京からは遠いのですが、東日本では山梨でしか開催しないということなので、美術のセミナーのメンバーといっしょに行ってきました。

この展覧会は、ウクライナ独立20周年記念にちなんで、ウクライナ国立歴史博物館とウクライナ歴史宝物館の収蔵品を展示するものです。展示品は、スキタイ文化からロシア正教関係の遺品まで長い歴史をカバーしていますが、展覧会のタイトルにあるように、スキタイがなんといっても目玉になっています。

スキタイは、紀元前8世紀から紀元前3世紀にかけて、黒海の北から東に向けて勢力を持っていた、遊牧騎馬民族です。スキタイ文化は、細かい金製品の加工技術、ギリシャ文明の影響、遊牧民族ならではの造形が合わさったものになっていて、今回の展示品もそのような特徴が現れたすばらしいものでした。

前4世紀のゴリュトス(弓矢入れ)はグリフォンや動物闘争文がスキタイらしい。
同じく前4世紀の《猪頭付き剣と鞘》の鞘には、猪の頭の飾りがついていて、全体は動物闘争文になっています。
スキタイを代表する名品といわれているのが、金の胸飾りですが、門外不出ということで、今回レプリカが展示されていました。レプリカでも、その模様の面白さ、精巧さには驚きます。

満足度の高い展覧会でした。山梨県立博物館での開催は5月7日までです。

2012年4月28日土曜日

サントリー美術館 雪舟 山水長巻

サントリー美術館で、「毛利家の至宝 大名文化の精粋」展が開催されています。毛利家ゆかりの宝物で大名文化を改めて感じようという展覧会です。4月27日金曜日の夜に見に行きました。

肖像画、刀剣、書状、典籍、婚礼調度、茶道具などがあり、国宝7点、重要文化財20点と、見所満載です。

そうはいっても、私の最大関心事は、雪舟の《山水長巻》ですので、入場した後直ぐに直行。作品の前は、拍子抜けするほどすいていました。東博の「ボストン美術館展」など、立ち止まらないでなどと言われながら見る展覧会と比べると、雲泥の差です。

《山水長巻》は長さ16メートル、とにかく長い作品です。
端の方から見ていくと、これが雪舟だというごつごつした岩が目に入ります。そして山水画のお決まり、高士が童士をつれて道を歩いています。これから山水画がはじまると嬉しくなる瞬間です。

16メートルの絵をゆっくり見ていくと、樹の描き方には、松の描き方、杉の描き方、落葉樹の描き方、近くの樹の描き方、遠くの樹の描き方のパターンがあり、岩の描き方には、近くのごつごつした岩の描き方、上面が平らな岩の描き方、天から降りてくるような岩の描き方、穴が開いた岩の描き方のパターンがあります。人の描き方もパターン化しているようです。このような部品とも言えるパターン化したものを、近景、中景、遠景の中に、うまく配置し、水や空白の部分を置き、薄墨を使い空気遠近法のように奥行きを表現し、全体をひとつの作品として見せるようにしているのだということがわかります。もちろん、ただ部品を配置している作品ではなく、全体の構成、各部分の構図、樹や岩などのパーツの表現の仕方に、雪舟らしい大胆さや力強さがあります。
《山水長巻》は《四季山水図》ともいわれ、四季が描かれているはずなのですが、冬が雪山でわかりやすい以外は、意外に季節のシンボルとなるようなものが少なく、見終わってから、あれ、四季はどうだったのかなという感じです。絵の少しの変化を感じ、どこが春、夏、秋なのか探してみるのも楽しみの一つかもしれません。
今回近くで見て、水墨画といっても色が付いているのだなというのも、発見でした。水や岩には青、樹の葉には緑、花が実には赤、人の衣には茶や白などの色がついています。濃い色ではないのですが、これらの色が、墨の濃淡と組み合わせられて、絵をたいへん魅力的なものにしています。

絵の近くで、じっくり時間をかけて鑑賞でき、大満足でした。

サントリー美術館、「毛利家の至宝 大名文化の精粋」展は、2012年4月14日から5月27日までの開催です。



2012年4月22日日曜日

根津美術館 KORIN展

昨日、初日でしたが、根津美術館で開催された「KORIN展」に行って来ました。

なんといっても、今回は、根津美術館所蔵の《燕子花図屏風》とメトロポリタン美術館にある《八橋図屏風》が並べて展示指定あるのが目玉になっています。同じ伊勢物語の八橋を題材にした絵ですが《燕子花図屏風》を書いてから《八橋図屏風》までには10年の隔たりがあります。

感想は、同じ伊勢物語の場面からとったにしても、《燕子花図屏風》は燕子花を描いていて、《八橋図屏風》は八橋を描いているな、というものです。なんだ、タイトル通りで何を言っているんだと思われるかもしれませんが、じっと見ていると《燕子花図屏風》からは燕子花の変奏曲のような心地良いリズムが聞こえてきます、それに対して《八橋図屏風》では燕子花はいくつかのかたまりのマスになっていて、それよりも垂れ流し技法で描かれた橋の素晴らしさや構図の斬新さが見えてきます。

同時に展示されていた、光琳の《夏草図屏風》《四季草花図屏風》もなかなか良い感じでした。



以下、伊勢物語より、


むかし、男ありけり。
その男、身をえうなきものに思ひなして、
京にはあらじ、東の方に住むべき国求めにとて行きけり。
もとより友とする人、ひとりふたりして、いきけり。
道知れる人もなくて惑ひ行きけり。
三河の国、八橋といふ所にいたりぬ。
そこを八橋といひけるは、水ゆく河の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ八橋といひける。
その沢のほとりの木の蔭に下り居て、餉(かれいひ)食ひけり。
その沢に、かきつばたいとおもしろく咲きたり。
 それを見て、ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字を、句の上に据ゑて、旅の心をよめ」といひければよめる。

      からごろも 着つつなれにし つましあれば
      はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ

とよめりければ、みな人、餉の上に涙落して、ほとひにけり。

2012年4月16日月曜日

ボストン美術館 日本美術の至宝 2回目


昨日の日曜日、東京国立博物館で開催されている「ボストン美術館 日本美術の至宝」展に、2度目になりますが、行ってきました。今回は、日本美術や東洋美術のセミナーを受講している皆さんと一緒です。

前回見たときには、展覧会前半にある、平安時代から鎌倉時代にかけての、仏画、仏像、絵巻に大変興味をそそられ、今回も、もう一度それらの作品を見るのを楽しみにしていきました。前回はすぐ目立つ《馬頭観音菩薩像》や快慶の《弥勒菩薩立像》に目がいったのですが、今回は歴史的に価値がある鎌倉時代の《法華堂根本曼荼羅図》や平安時代前期の《菩薩立像》に引きつけられました。ボストン美術館には、本当に良いものが揃っていて、保存状態も良いのに、改めて感心します。

展示後半では、実は今まで、醜悪としか言いようのない仙人などがでてきて、まったく好きでなかった曽我蕭白を、もしかしたら面白いかもしれないと感じてしまいました。
今回来ている中では、やはり《雲龍図》でしょうか。1763年作ですから江戸時代中期です。高さは165cm、幅は135cmの襖8枚分ありますから、全体では幅が1080cmです。しかも展示されているのは龍の頭と尻尾の部分だけで、実際には胴の部分があったはずということですからすごく巨大な絵ということになります。西洋画で大きいといわれるダヴィッドの《ナポレオンの戴冠式》は高さ621cm、幅979cmですから、横幅では蕭白のほうが勝っていますね。しかもダヴィッドは大勢の人を描いて絵が大きくなっているのに対して、こちらは一匹の龍が全体を占めているわけで、大迫力です。蕭白の絵師としての実力はすごいなと感じます。

帰りに立ち寄った、本館の狩野長信筆、国宝《花下遊楽図屏風》も見ごたえがあり、良い一日でした。

2012年4月14日土曜日

ジャクソン・ポロック展 2回目

今、東京国立近代美術館で行われているジャクソン・ポロック展は既に一回見に行ったのですが、その後、ジャクソン・ポロックのセミナーを聴講したり、図録を見たりしたので、改めて興味が募り、今日もう一度展覧会を見に行きました。

今日は二度目なので、順路を無視して、最初にポロックが作品を作っているフィルムを見に行きました。なるほど、最盛期の描き方は、絵具を撒き散らすドリッピングというよりも絵具を垂らすポーリングですね。床に置いた絵の周りを廻り、休み無く筆を動かす様子からは、後にこれがアクション・ペインティングと呼ばれたのも良くわかります。

次に、今回の目玉と言われる、テヘラン現代美術館の《インディアンレッドの地の壁画》へ。この作品は今回の展覧会の中では大きく、183cm × 243.5cmの大きさですが、ポロックのベストの作品の大きさからすると、小さめですね。例えば、MOMAにあある《One:Number31》だと、269.5cm x 530.8cm もあります。それでも、絵の中心が無いオールオーバーである事や、地と図の関係を無くしたり、絵具の塗り重ねで表現する等、ポロック最盛期の特徴は十分に判ります。

ここで、改めて、会場の入り口の方に戻り、最初の方から見て行きます、この展覧会は年代順に展示されているので、ポロックの年に沿った作品の展開が良くわかります。
西海岸から出てきて、ニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグで学び、アメリカ地方主義、インディアンの伝統、メキシコの壁画などから影響を受け、試行錯誤をした時代が1941年くらいまで続きます。そこから何がきっかけか、シュールリアリズムの自動筆記的なものや、地と図に関する研究を行い、アメリカの現代作家としてもてはやされる時代になります。これが30代。そこから大きく飛躍し36才から38才くらいが、いわゆるポロックらしい全盛期の作品になります。《インディアンレッドの地の壁画》もこの時代の作品です。しかし、最盛期でありながら、ポーリングした後に銀の絵具を塗ったり、画面を大きく切り取ったり、ここで止まらないという意志が見える作品も出てきます。そこから39才以降は、ブラック・ポーリングなど迷いの時代に入って行き、42才くらいになると行き詰まり作品を作れなくなります。最後は44才に自動車事故で亡くなります。
今回の展覧会は、ポロックの、成長、さまざまな試行、最盛期、迷い、停滞の、生涯が良くわかる構成になっています。

最後に出口の所にある、アトリエの再現で、写真を一枚。上の写真です。

この展覧会では、その後世界のアートシーンがどうなったのかまでは示されていませんが、ポロックの後どうなったのか、学習してみたいテーマです。オールオーバーを追求してカラーフィールド・ペインティングに行く方向、抽象から転換してポップ・アートに行く方向。いずれにしろポロックが行き着くとこまで行ってくれたおかげで現代アートは次に展開して行く事になります。

(追伸) 東京国立近代美術館開館60周年記念手帳を入手できました。しかも表紙はポロック。嬉しいですね。

2012年4月9日月曜日

南條史生 アートを生きる





出張先で本屋さんに行くと、気になる本に出会えることがあります。
今日見つけたのは、南條史生さんの『アートを生きる』でした。まだ3月31日に発行されたばかりです。

南條さんは、今は森美術館館長ですが、今までヴェネチア・ビエンナーレに関わられたり、横浜トリエンナーレの第一回目を手がけられたり、さまざまな美術イベントのキュレーションをされています。今回の本は、その南條さんが若い頃から今に至るまで、何をされたのか書かれた本で、あああれかと思い出すイベント、あの人の事かと興味を引かれる作家や美術関係者がたくさん出てきます。

読みはじめると、そのライブ感に引き込まれて、新幹線の中で一気に読んでしまいました。
キュレータとして活躍された理由は、時代を読む力、新しいことに関する好奇心、人とのネットワークを築く力、チャンスを逃さない強い姿勢にあったのだなということが良くわかります。

本を読んでいるだけでは物足りなくなり、家に帰るのを遠回りして、この本の中でも紹介されている、南條さんが関わられた横浜の上大岡のパブリックアートまで見に行ってしまいました。ここにある写真がそれで、奈良美智さんの作品です。

現代美術のキュレーションに興味がある方は、一読してみたらどうでしょうか。

南條史生「アートを生きる」、角川書店、 2012

2012年4月8日日曜日

出光美術館 悠久の美 唐物茶陶から青銅器まで

出光美術館で、収蔵品から中国関係のコレクションが展示されています。

展覧会のサブタイトルに「唐物茶陶から青銅器まで」とありますが、普通に年代を追って考えると「青銅器から唐物茶陶まで」となるのではないかと思いますが、それが逆転している所が面白い所です。つまり、日本での中国美術品の受容は、鎌倉時代から室町時代に、唐物といわれる南画や陶器が入ってきたのが元になっていて、中国の夏・商(殷)・周の物品はだいぶ後になって関心がもたれるようになった、ということをこの展覧会のサブタイトルは表しています。

今回の展覧会は、出光コレクションの中から、唐物と、唐物以前の青銅器を中心に玉器や陶磁器が展示されています。

特に今回は青銅器の展示が多いのですが、出光コレクションのこれだけまとまった青銅器の展示は13年ぶりのことだそうです。
今年は、東京国立博物館の「北京故宮博物院200選」展にも大きな青銅器が何点も来ていましたし、泉屋博古館では「中国青銅芸術の粋」展が行われ住友コレクションの青銅器の充実ぶりを示していました、青銅器に興味がある人にはたまらない展覧会が続いています。

この展覧会には商以前の物品の展示もあります。

  • 良渚文化(前5200〜前4200)の、獣面文玉琮、獣面文鳥形玉
  • 仰韶文化(前4800〜前2500)の、彩陶双耳壺
  • 大汶口文化(前4300〜前2400)の、紅陶鬹
  • 龍山文化(前2500〜前2000)の、玉琮片、黒陶高脚杯
  • 二里頭文化(前2000〜前1600)の、玉戈、灰陶縄蓆文鬹
中国古代文明に興味がある人は、ちょっと見てみたくなるでしょう。

私は、今回の展覧会では、商時代の鴟鴞卣(しきょうゆう)が面白かったです。
鴟鴞はフクロウかミミズクで(フクロウと書いてある資料と、ミミズクとかいてある資料があります。手近にある図鑑では、耳のように立った「羽角」と呼ばれる羽毛があるのがミミズクだそうです)、卣は酒を入れるポットです。つまりミミズク型の酒入れです、中国古代の造形は何か変で興味を引かれます。

出光美術館、「悠久の美 唐物茶陶から青銅器まで」展は、2012年4月3日から6月10日までの開催です。



2012年4月5日木曜日

セザンヌ パリとプロヴァンス

昨日、仕事が休みだったので、国立新美術館で始まっている「セザンヌ パリとプロヴァンス」展を見に行ってきました。

今回のセザンヌ展は、単なる回顧展ではなくパリでの制作とプロヴァンスでの制作を対比して見てみようというものです。

生まれ育った場所で、ある意味引きこもって制作できるプロヴァンス。新たな芸術の潮流があり、さまざまな批判にもさらされるパリ。ゴシックの伝統を持つ表現主義的なフランス北部。ロマネスクからつながる構成主義的な伝統を持つフランス南部。セザンヌはその間を20回以上往復したそうです。

展覧会は、初期、風景、身体、肖像、静物、晩年に分けて構成されています。また、作品それぞれには、パリとパリ周辺のイル=ド=フランスで制作された作品と、プロヴァンスで制作された作品とで、キャプションを色分けし、観客に2つの制作場所のどちらで制作したのかわかった上で作品を見るように促す仕掛けになっています。

今回、90点近くあるセザンヌの作品を見て感じるのは、一つは、セザンヌ自ら「印象主義を美術館の作品のように堅固で永続的なものにしたい」と言ったように、それぞれの絵が持つ存在感、二つめは、絵具を筆でキャンバスの上にのせていくことに対する心地良い感じ。
展示会企画者のパリとプロヴァンスという視点も含めて、セザンヌがどうしてこのような絵を描いていったのか、より理解を深めたいと思わせるような展覧会でした。

「セザンヌ パリとプロヴァンス」展は、国立新美術館で、2012年3月28日から6月11日まで開催です。


2012年3月30日金曜日

アートフェア東京2012

アートフェア東京2012が、今日(2012年3月30日)から3日間開催されていますので、早速のぞきに行きました。そうです、のぞきに行ったのです。冷やかしですみません。
昨年は、3月11日の東日本大震災の影響で、アートフェア東京は春に開催できず夏になってしまいましたから、予定通り開催するという何でもないことにも感慨深いものがあります。

内容は、いつものように、工芸から現代美術まで多様です。

全体を通してみると、高橋龍太郎さんのコレクションにあるような、ネオテニー(幼形成熟)的な、成熟しきれない感性を成熟させたような作品が目立ったような気がします。また、女性をきれいに描いたホキ美術館にあるような写実的作品も目につきました。やはりこういう作品が売れるのでしょうか。

私が気になったのは、

  • バンビナート・ギャラリーの平川恒太さんの、物語性を感じる作品。
  • 山本現代の田中圭介さんの、高さ3mくらいありそうな立体作品。
  • 新生堂の佐藤草太さんの、好きにはなれないけれど、つい恐いもの見たさで見てしまう、脂ぎった大人の男性や、しょぼくれた老人を、描いた作品。
  • MEGUMI OGITA GALLERYのホリー・ファレルさんの、本をアクリルと油で描いた作品。
  • 「ギャラリーためなが」のチェン・ジャン・ホンの作品。
今回は残念ながら冷やかしでしたが、ぜひ現代作家の作品を購入してみるという楽しみにもチャレンジしてみたいですね。


生老病死の図像学

筑摩選書から出ている、加須屋誠著『生老病死の図像学』2012年2月15日発行を読んでみました。加須屋さんは奈良女子大学の教授で、仏教説話画研究等をされています。

この書籍では、ヨーロッパのキリスト教美術研究の手法であるイコノロジー(図像学)を、日本の仏教説話画を読み解くのに使っています。

ドイツ出身のパノフスキーのイコノロジー研究によると、絵の解釈は3段階で考えられるそうです。第一に「自然的主題」段階があり、特に専門的な知識は無くてもわかる主題です。第二に「伝習的主題」段階があり、ここでは特定のことに関する文献から得た知識が必要になります、たとえばキリストが弟子と食事をしていれば最後の晩餐ということになります。第三が「内的意味・内容」段階で、その図像にかんする深い洞察により得られるものということになるようです。加須屋さんはこれを、「仏伝図」「法華経絵」「浄土教系説話図」に由来する生老病死に関する仏教説話画を解読するのに使っています。

私にとっては初めての話も多く、たいへん面白く、250ページを超える本でしたがすぐに読めてしまいました。例えば、「生まれる」といういう「苦」の図像からは、当時の出産が座って行ったのだという話から始まり、出産に見る当時の男と女の関係、赤ん坊は外の世界から来るという思想の話まで出てきます。まだまだ、面白い話がたくさんあるのですが、ここには書ききれません。

仏教思想の根本にある、四苦「生苦」「老苦」「病苦」「死苦」に関する図像に、どんな想いが込められているか分析的に明らかにされていますので、仏教に関する図像に興味がある方、また古代から中世にかけての日本人の死生観に関して興味がある方、今の時代だから昔の人の考えも知りたいと思っている方には、お勧めの本です。

2012年3月27日火曜日

今日のGoogleはミース・ファン・デル・ローエ

今日(2012年3月27日)、Googleで検索しようとしたところ、いつもは"Google"と書いてあるところに建物の図柄が載っていました。これはもしかしたらと思って、カーソルをその図柄に持っていくと、やはりミース・ファン・デル・ローエです。今日は誕生日で生誕126周年でした。

ミース・ファン・デル・ローエは、ル・コルビュジェ、フランク・ロイド・ライトと共に、近代建築の元を築いた建築家で、ガラスと鉄骨のビルはこのひとを除いては語れませんね。
徹底してモダンに突き進んだ、私の好きな建築家です。
代表的な作品はニューヨークのシーグラムビル、イリノイ工科大学のクラウン・ホール、イリノイのファンズワース邸。

"Less is More"がミース・ファン・デル・ローエの信条です。今でも当てはまりますね。

2012年3月25日日曜日

ボストン美術館 日本美術の至宝

東京国立博物館で、「ボストン美術館 日本美術の至宝」展が始まったので、早速見に行ってきました。

海外の日本美術コレクションではボストン美術館が質量ともに最高と言われています。それは、明治になって日本美術という概念を確立し美術教育を始めたフェノロサと岡倉天心が、ボストン美術館の日本美術品収集もリードしたためです。

ためしに、Museum of Fine Art, Boston (ボストン美術館)のウェブで、日本絵画のコレクションの記述を見ると、次のように描かれています。日本絵画は数千点あり、その中心は、アーネスト・フェノロサ、ウイリアム・スタージス・ビゲローにより収集されたもの。15世紀の禅に係る水墨画、狩野派の絵、浮世絵、そして絵巻物の吉備大臣入唐絵巻と三条殿夜討巻、で知られている。

今回は、そのボストン美術館から、92点の美術品が里帰りしていて、どれも素晴らしい作品です。

東京国立博物館では、どの作品を見たいですかアンケートを行っており、その結果は、
1、《雲龍図》曾我蕭白
2、《弥勒菩薩立像》快慶
3、《鸚鵡図》伊藤若沖
4、《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》
5、《竜虎図屏風》長谷川等伯
となっています。

今日私が見て気に入ったのは、
1《普賢延命菩薩像》
2《松に麝香猫図屏風》伝狩野雅楽助
3《松島図屏風》尾形光琳
4《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》
5《馬頭観音菩薩像》

平安時代から明治まで、絵だけでなく刀や染織も、曾我蕭白はなんと11点も、というわけで、ここまで集めたのかボストン美術館という感じです。

展覧会会期は、2012年3月20日から6月10日ですから、もう一度行ってみようと思っています。


2012年3月20日火曜日

VOCA展

先週の金曜日に、上野の森美術館に「VOCA展」を見に行ってきました。

VOCA展とは、推薦委員に40才以下の若手の作家の推薦を依頼し、その推薦された作家が新たに平面作品を制作し出品するものです。作品は、選考委員が選考し、優秀な作品には賞が与えられます。VOCA展は1994年に始まり、今回は19回目にあたります。

今回の推薦委員は、美術館の学芸員、独立キュレーター、学校の先生、ジャーナリストなど35名の方です。

選考委員は次の方々です。


  • 高階 秀爾 (選考委員長/大原美術館館長)
  • 酒井 忠康 (世田谷美術館館長)
  • 建畠 晢  (京都市立芸術大学学長)
  • 本江 邦夫 (多摩美術大学教授)
  • 神谷 幸江 (広島市現代美術館学芸担当課長)
  • 光田 由里 (美術評論家)
  • 南嶌 宏  (女子美術大学教授)
今回推薦され出品されている作家と作品は次のようになっています。
  • 池森 暢昌     今生ザウルス
  • 榎本 耕一     電撃氏(でんげきうじ)
  • 呉 夏枝     十五つの房
  • 大成 哲      まねび No.6      【佳作賞】
  • 奥村 雄樹     くうそうかいぼうがく
  • 尾家 杏奈     からっぽのからだ
  • 柏原 由佳     21'19   /  クルイスク      【佳作賞 大原美術館賞】
  • 椛田 ちひろ   影の声
  • 桑久保 徹     Study of mom      【VOCA奨励賞】
  • 小村 希史     終止符/Period  /  フェーズ/Phase
  • 近藤 智美                 のこそうヒトプラネスト
  • 鈴木 星亜                    絵が見る世界11_03      【VOCA賞】
  • 関根 直子     とめどない話 / 差異と連動
  • 五月女 哲平   彼、彼女、あなた、私
  • 高橋 芙美子   はざま
  • 高橋 ゆり     儚くも嘘吹く
  • 武居 功一郎    untitled(adaptation)      【VOCA奨励賞】
  • 竹中 美幸     溢れる時間 / 発芽
  • 田中 千智     きょう、世界のどこか
  • 津田 直     Back Door #2 / Back Door #3
  • 永岡 大輔     accumulating - 01
  • 永禮 賢     untitled
  • 濱田 樹里     地の起源
  • 堀川 すなお   lighter, D, 凹oo-凸3, 0
  • 前沢 知子     組替え絵画/私たちの作品を見てくださいー30/49,2011
  • 松下 徹     Kelen(Skull)
  • 松本 三和     地上
  • 三浦 洋子     無題
  • 宮地 明人     paradox-明日のために-
  • 宮本 佳美     creation
  • 山内 光枝     眼はおのずと見開いた
  • 山田 郁予     安心毛布とかそういうのください
  • 吉濱 翔     音響装置no.1
  • ワタリドリ計画(麻生知子、武内明子) ワタリドリ通信 / ワタリドリ計画

展覧会を見ての感想としては、作品から、物語的なものを感じさせることが多いものが多かったということです。受賞作で言うと、鈴木星亜さん、桑久保さん、柏原さんの作品に、そのようなことを感じました。作家の皆さんの他の作品も見てみたいですね。

現代美術の展望「VOCA展2012 -新しい平面の作家たち-」展は、上野の森美術館で、2010年3月15日から3月30日まで開催です。
http://www.ueno-mori.org/voca/2012/

2012年3月19日月曜日

今和次郎 採集講義展

今まで、今和次郎さんのことを知りませんでした。今和次郎さんは1888年生まれ。考現学の創始者、民俗学者、民家研究家、服装研究家、建築家。とにかく、住むことや生活することに対する興味がすごい。

パナソニック汐留ミュージアムで2012年1月14日から3月25日まで開催されている「今和次郎 採集講義展」には、その今和次郎さんがかかわってきた、多様な資料が所狭しと並べられています。
その一端を書いてみると、

  • 日本の各地にある民家のスケッチ
  • 今和次郎設計の恩賜郷倉(凶作に備えて米を備蓄するために作った建物)の模型
  • 朝鮮の民家のスケッチ
  • 雨樋、植木鉢等路傍で見つけたものの図
  • 関東大震災後のバラックの図
  • 今和次郎が作った「バラック装飾社」の作品
  • 銀座で見る履物、着物、外套、帽子などを分類グラフ化して整理したもの、しかもそのグラフには実物の絵が描かれている
  • オシメの模様採取
  • 東京場末女人の結髪
  • 今和次郎が作ったセツルメントハウス(地域社会の貧困者救済のための施設)の図
  • 今和次郎が作った装飾された椅子
  • 西洋・日本、古代〜近代女性服装史概略図
唖然として、「すごいですね」としか言いようがありません。

今回の展覧会での収穫の第一は、考現学から出てくる、たくさんの採集されたものを見ることでしたが、それと同じくらい感動したのは、バラック(もうこの言葉も死後かもしれませんが)を装飾するための会社を作ってしまった人がいたことです。雨露を忍ぶだけのバラックではいけない、そこには装飾が必要だと言って、バラックを装飾をするための「バラック装飾社」を作ってしまったわけです。その会社は、関東大震災後建てられたバラック作りの商店の、看板をつくったり内装をしたりしています。貧しくても、何も無くても、より楽しく生活するためにできることはある。今さんて、すごい人だったのですね。

展覧会は3月25日まで開催されていますので、興味のある方は、ぜひ行ってみてください。

2012年3月17日土曜日

野田裕示 絵画のかたち/絵画の姿

左の写真の、人気のない寂しいカフェはどこのカフェでしょうか。そうです、国立新美術館の2Fのカフェです。夜6時半くらいです。

金曜日の夜は、美術館も8時まで開いている所が多く、良い時間を過ごせることが多いのですが、少し人気のない展覧会だと、美術館独り占め状態になり、贅沢なような、寂しいような、気分を味わうことになります。

今日、国立新美術館で開催されている、「野田裕示 絵画のかたち/絵画の姿」展も、そんな感じでした。独り占めではありませんでしたが、観客よりも監視員さんのほうが何倍か多いような状況でした。良い展覧会なのに残念、皆さん来てください。

野田裕示(のだひろじ)さんは1952年和歌山県生まれ、多摩美術大学を卒業し、80年代より活躍されている抽象絵画の作家です。今回の展覧会は、3章から成っていて、1)1980年代 絵画の可能性への試み、2)1990年代 独自の様式の確立と展開、3)2000年代 さらなる可能性を求めて、という年代順の構成です。また、2カ所に彫刻家の岡本敦生さんとのコラボレーション作品が置かれています。

1980年代は、薄い木箱の中にカンバスをまるめたまま置いた作品や、木枠をカンバスで包み込んだ上に描いた作品等、単に平面のカンバスに絵を描かないぞという作品。
1990年代は、平面上にカンバスを重ねてカンバスを折り曲げて使ったり、カンバスを縫い合わせたりした上に、描いた作品。
2000年代は、カンバスに細工をするよりも、こころに浮かんだ形状を絵にしたような作品。

こう書いていくと、理念先行のようですが、実際の作品を見ると、1980年代、90年代の作品では、カンバスの縫い目の感触、重ねられた色が作る微妙な色彩、筆のあと、絵具が流れた跡、色が擦れたような跡など、手作業の工程を感じさせるような要素が多く、絵としての実体がそこにあることを強く感じます。絵のまえに長い時間立って絵と対話を続けたくなるような作品です。
2000年代の作品は、自由に心に浮かぶ不定形な形状を描いたような作品、日本の障壁画のように真ん中に空白を大きくとり大きな筆跡を残したような作品と、新たな展開を示しています。私はその色の出し方や、色の対比のさせかたが、気に入りました。
作品は、全部で140点もあるので、最後の方は「後15分です」のアナウンスで、慌てて見なければいけなかったのが残念です。

野田裕示さんの作品は、パンフレットやポスターを見ただけで、ああ、こういう作品なんだ決めてしまわず、ぜひ本物を見てもらいたいと思います。

「野田裕示 絵画のかたち/絵画の姿」は国立新美術館で2012年4月2日までの開催です。

2012年3月11日日曜日

ジャン=ミシェル オトニエル マイウェイ

原美術館で開催されている「ジャン=ミシェル オトニエル マイウェイ」展は、今日、2012年3月11日までの開催です。私は、良い展覧会だと聞いていたので、昨日の午後慌てて、行って来ました。

ジャン=ミシェル オトニエル(Jean-Michel Othoniel)は、1964年生まれのフランスの作家で、現在はパリ在住です。オトニエルは1992年ドクメンタでの硫黄を使った作品で最初に注目されました。1993年からはガラスを使った作品を作り始めます。2011年にパリのポンピドゥーセンターで開催された「マイウェイ」展には20万人の入館者を集めています。

今回は、1992年から1993年に作られた、ワックス、硫黄、黄ろうを使った作品、《時計皿》《長い苦しみへの入り口》《目》《女予言者の穴》《象ったヴィーナス》から展示されていますが、多くは最近のムラノガラスを使った作品になっています。
《私のベッド》は実物大のベッドをガラスで装飾した作品。様々な色のガラスを直線上に並べたバナーと呼ばれる作品。《ラカンの結び目》《ラカンの大きな結び目》というガラス玉を連ねて紐のようにしそれを3次元にひねり切れ目無く循環するようにした作品。透明な瓶の中の水に様々な形態のガラスを閉じ込めたものを多数並べた《涙》。
私のお気に入りは、2階の真ん中の部屋にあった《ハピネスダイアリー》。これは屏風のように折曲がる衝立てに沢山の桟を配置しそこに深紅のムラノガラスを通してある作品、横3.5m、縦2mの大きな作品です。

オトニエルのガラスを使った作品は、ガラスの硬質な表面の輝き、有機的に微妙に変形した形態、鮮やかな色彩を連ねる諧調、とにかく観て楽しくなることは間違いあありません。

ユベール・ロベール 時間の庭、国立西洋美術館

国立西洋美術館は、ときどき日本ではあまり有名でない作家の企画展を行います。例えば2008年に開催された「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」。今回のユベール・ロベールも日本ではほとんど知られていないのではないでしょうか。

かわった企画が嫌いでない私としては、早速行ってみました。

ユベール・ロベール(Hubert Robert)は、18世紀のフランスの画家で、1733年生まれ、1808年没ですから、50歳代半ばで1789年のフランス革命を経験することになります。同時代の画家としては、ロココ派のフラゴナールなどがいます。
ユベール・ロベールが何を描いたかというと、ローマの廃墟をモチーフにして、想像も交えて描いた風景画です。パンフレットには「廃墟のロベール」として名声を築いたと書いてあります。イタリア人が描く、都市景観画(ヴェドゥータ)や奇想画(カプリッチョ)のような絵を、フランス人のユベール・ロベールが、ローマを題材にして描いたといえばわかりやすいでしょうか。

今回展示されている作品の大部分は、フランスの南東部のヴァランスにあるヴァランス美術館が所蔵する、サンギーヌといわれる赤チョークで描かれた素描ですが、大きな油絵も、ヴァランス美術館、ルーブル美術館、イル・ド・フランス美術館、国立西洋美術館、静岡県立美術館、ヤマザキマザック美術館などから来ています。展示作品数は全部で130点。

展示は6章に分かれています。

  • Ⅰ「イタリアと画家たち」、ユベール・ロベールが研究したと思われる、17世紀の風景画家たちの作品
  • Ⅱ「古代ローマと教皇たちのローマ」、ローマの名所旧跡を描いた、ユベール・ロベールの若い頃の作品
  • Ⅲ「モティーフを求めて」、ピトレスクなモティーフを求めてローマ郊外の自然や廃墟となっている神殿等を描いた作品
  • Ⅳ「フランスの情景」、イタリアからフランスにもどって、フランスの広場や教会をモティーフとして取り込みながら、イタリアの思い出を展開した作品
  • Ⅴ「奇想の風景」、自在にモティーフを取り扱い、「廃墟のロベール」の名声を得た時期の作品
  • Ⅵ「庭園からアルカディアへ」、ユベール・ロベールは「国王の庭園デザイナー」という称号を得たように、庭園デザイナーとしての側面を持っている。ここでは絵と庭園の相互作用を感じさせる作品
展示を観て、ローマの廃墟の絵を堪能したと思えるか、同じような絵が沢山あり少し退屈してしまうかは微妙です。当時の貴族のように「ローマの廃墟を見ながら、時の移り変わりに想いをいたす」気持ちになるのは、現代人には難しいかもしれませんね。

国立西洋美術館、開催期間は2012年3月6日から5月20日です。




2012年3月10日土曜日

サントリー美術館 東洋陶磁の美

サントリー美術館で2012年1月28日から4月1日まで「悠久の光彩 東洋陶磁の美」展が開催されています。

今回の展示品は大阪市立陶磁美術館の所蔵の名品です。これは元をたどれば安宅産業の安宅英一が収集した安宅コレクションで、安宅産業が1977年に破綻し消滅した後、色々あって最終的に住友グループが大阪市に寄贈したものです。

今回の展覧会は、大阪市立東洋陶磁美術館が2011年12月26日から2012年4月6日の間、設備工事のために休館になるので、その間に主要な所蔵品を東京で見てもらおうというものです。中国陶磁が67点、韓国陶磁が66点、展示されています。その中には国宝の、《飛青磁花生》と《油滴天目茶碗》も含まれています。

私が良いと思ったのは、龍泉窯の《飛青磁花生》、定窯の《白磁銹花 牡丹唐草文瓶》、鈞窯の《月白釉碗》など中国宋時代の作品でした。何回も見たいなと思わせるものがあります。

陶磁器は私の得意分野ではないので、まずは、大阪市立東洋陶磁美術館ウェブサイトの「陶磁入門」で勉強してみようと思っています。
http://www.moco.or.jp/intro/guide.html

2012年3月9日金曜日

イ・ブル展:私からあなたへ、私たちだけに

今、六本木の森美術館でイ・ブル展が行われています。

イ・ブル(Lee Bul)は1964年にソウルで生まれた女性アーティスト。1990年代にアジアに現れた傑出したアーティストの一人だと英語版WIKIPEDIAには書いてあります。1999年ヴェネツィア ビエンナーレの韓国代表。2010年に東京都現代美術館で行われた「トランスフォーメーション展」にも《クラッシュ》という作品が展示されていました。

会場に入ると、最初に天井から有機的な血のようなしみのある物体(作品)がぶら下がっているのでビックリします。その後は、何か気味悪いような、それでいて離れられないような、生命体を思わせる作品。自らが、その気味の悪い彫刻を纏って飛行場に出現するイベント作品の記録影像。人体を超えて人体の一部をサイボーグ的にしたようなプラスティックの造形作品。MOMAで撤去を命じられた生魚を装飾した作品の記録。作家が作品を孵化させるためにつかうスタジオを再現したスペース。過去/現在の韓国の歴史的/政治的状況を造形にしてみた作品。作家がお気に入りなのかなと思わせる大きな犬の作品。そして作家が森美術館で展示する所を記録したメーキング影像。

どんな作品かは、森美術館のウェブ・ページから見てください。
http://www.mori.art.museum/contents/leebul/introduction/index.html

この展覧会を見て、イ・ブルさんは、まさに現代の作家だと改めて感じます。作家としては、最初にイベントで注目されたというのも現代的です。1990年代のフェミニズムだと言われたイベントも、MOMAでの作品撤去の話も、スキャンダラスです。
作品を見ると、外面的でなく内蔵的な生命への関心、個人的なことばかりでない韓国の政治的・社会的なものへの関心など、イ・ブルさんが、作品を通して何かを探している、又は何かを探した過程が作品になっている、と感じることができます。

展覧会は5月27まで開催されています。アジアの現代美術に関心があるかたにはお勧めです。

2012年3月4日日曜日

「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」展

靉嘔に関しては、だいぶ前に、東京国立近代美術館所蔵で作品を見て衝撃を受けたのを覚えています。たぶん《アダムとイヴ》だったと思うのですが、人物を虹色のスペクトルで塗り分けた作品で、日本にもこのように色彩でコンセプトを表現することにこだわった人がいたんだと感心しました。

昨日3月3日に、東京都現代美術館の「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」展の、学芸員の方によるギャラリーツアーに参加させてもらい、靉嘔の全貌が見えてきました。

靉嘔は1931年の生まれですから、現在80才です。
靉嘔とは変なペンネーム(雅号?)ですが、これは仲間内で「あいうえお」の中で好きなのはどれかと聞き、「あ」「い」「お」を選んだということだそうで、面白いですね。

靉嘔の活躍は、1950年代、当時の日本の美術としては突出して明るい、オプティミスティックな表現で、大きな作品を作り始めた所から始まります。今回の展示品では《田園》がその代表作になります。
1958年にアメリカに渡ると、そこでは絵画平面にとらわれない、環境作品を作り始め、オノ・ヨーコらのフルクサスとの交流も持ちます。その後、虹色のスペクトラムを使った作品をたくさんつくるようになります。

私が今回の「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」展で興味を持った点は、

  • 靉嘔がレジェ的な一種オプティミスティックな絵画からスタートし、環境芸術、ハプニングなど1950年代から1960年代の最先端の動向に呼応していったその歴史。
  • その後、線・形を超えて、虹の色で表現するまさにユニークなスタイルを獲得し、それで様々な作品が作られたこと。
  • 伝統から離れた作品を作っているように見ながら、般若心教を写した作品や、中国の漢詩を写した作品があり、日本・東洋文化に対する関心もあったことがわかる点。
  • 芸術の普及を考え、版画作品にも力を入れられていて、版画作品も多く展示されていること。
  • そして、今回の展覧会のためにあらたに作った大きな作品があり、まだまだ活躍をされているのだと判った点。ちなみに、靉嘔さんは日曜日には会場に来られて、ハプニングをされたりしているそうです。
「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」展は、2012年2月4日から5月6日までの開催です。200点を超える作品が展示されていますから、見に行かれる方は、ゆっくり時間をとって行くと良いでしょう。靉嘔さんは、毎週日曜日午後1時から2時間くらい、会場内で作品のオブジェクトを並べ替えるというパフォーマンスをされているということですから、その時に行くのが良いかもしれませんね。

2012年3月3日、ギャラリー巡、渋谷から六本木

2012年3月3日、又々、いつものギャラリー巡りのメンバーと一緒にギャラリーやアートスポット巡り。今日は渋谷から六本木です。

六本木では、6つのギャラリーが、国立新美術館で開催されている平成23年度五美術大展と歩調を会わせて「六本木αアートウィーク」を行っているので、そのいくつかを訪問しました。

写真は、移動の間に立寄った、国立新美術館近くの六本木トンネルにある、東京都が行っているストリート・ペインティングです。

名前場所展示内容
西武渋谷店美術画廊渋谷区宇田川町21-1西武渋谷店B館8階にある美術画廊です。今の展示は、東北芸術工科大学にゆかりの作家の展示「トウホクノチカラ」です。2月29日〜3月11日。深井聡一郎さんの陶器の動物シリーズなど。
https://www2.seibu.jp/wsc-customer-app/page/020/dynamic/shop_details/ShopDetails?shop=S000000361
Bunkamuraギャラリー渋谷区道玄坂2-24-1Bunkamuraにあるギャラリー。「飛翔する二つの旋律-有元利夫・舟越桂版画展-」を2月24日から3月4日まで行っています。レンタルスペースのボックス・ギャラリーではボロフスキー グラスアート展。
http://www.bunkamura.co.jp/gallery/
六本木605画廊港区六本木7-5-11 カサ・グランデ・ミワ605
東京造形大学の若い版画作家の作品。入野陽子、西平幸太、藤木佑里恵、水本伸樹。
http://roppongi605hanga.com/roppongi605hanga-home.html
ANOTHER FUNCTION港区六本木7-20-2 アバンティ407多摩美術大学大学院 在学中の写真作家、山本渉展。
http://fudeya.net/gallery/
ギャラリー・トリニティ
東京造形大学院生によるグループ展「panorama」。清原亮、清水信幸、長堀恵三。
http://www.g-trinity.com/schedule/index.html

2012年2月27日月曜日

大倉集古館 普賢菩薩

2012年2月26日、大倉集古館から泉屋博古館分館に行ってきました。

泉屋博古館分館の「神秘のデザイン 中国青銅芸術の粋」展は2回目の訪問で、このブログにも書きましたので、今日は大倉集古館で気になったものの話を書いてみます。

大倉集古館では企画展として「蒐めて愉しむ鼻煙壺  −沖正一郎コレクション−」展が行われているのですが、今日は常設展示の国宝《普賢菩薩騎象像》のほうに注目してみます。

普賢菩薩が像の上に結跏趺坐し合掌している像です。平安時代院政時代の作で、定朝様式の穏やかな顔をもった、繊細な仏像になっています。普賢菩薩は独尊として、法華経を守る仏として、特に女性の信仰を集めたようです。

ついでに国指定文化財等データベースで、国宝・重要文化財の彫刻で、普賢菩薩を検索してみると次の表のようになりました。
名称時代所在地所有者コメント
木造普賢菩薩騎象像平安東京都財団法人大倉文化財団国宝はこれだけ
木造騎象普賢菩薩及び十羅刹女像平安山形県本山慈恩寺一般非公開
木造十一面観音及脇侍普賢菩薩立像平安長野県大法寺
木造普賢菩薩座像平安三重県普賢寺
厨子入木造普賢菩薩像平安京都府岩船寺
木造普賢菩薩騎象像平安京都府妙法院
木造普賢菩薩立像平安大阪府孝恩寺
木造文殊普賢菩薩立像飛鳥奈良県法隆寺
木造普賢菩薩騎象像平安奈良県円證寺

普賢菩薩というのは平安時代に信仰を集めた事がわかります。またこの中で騎象像は3体になっています。

福島県立美術館のベン・シャーン展、作品貸出しを断られる

今日の朝日新聞に、福島県立美術館で2012年6月3日から7日16日にかけて開催される予定の「ベン・シャーン クロスメディア・アーティスト」展に、米国の美術館から貸出しを断られたり、又は貸出しの見通しがたたないため、69点の展示を断念した、との記事が掲載されていました。もちろんその理由は、福島の原子力発電所の事故の影響から、作品と同行する人を保護するためです。
断ってきたのは、ハーバード大学付属フォッグ美術館、メトロポリタン美術館、ニューヨーク美術館、他4館とのことです。

「ベン・シャーン クロスメディア・アーティスト」展は、神奈川県立近代美術館葉山館、名古屋市美術館、岡山県立美術館、福島県立美術館の巡回展で、今は名古屋市美術館で開催されています。福島では米国の美術館から貸出しを受けられないということになると、福島は展示内容を変えなくてはいけなくなります。

ということは、今回の約380点ある展示作品のうち、フォッグ美術館の50点前後の写真作品が展示できないことになり、今回のテーマであるクロスメディア・アーティストの写真を使った表現の部分が欠落することになってしまいます。ベン・シャーンの写真作品にはベン・シャーンの社会に対する関心がつよく表されているので、この展示がなくなってしまうのはたいへん残念です。

改めて、福島県立美術館のホームページを見ると、今は、震災復旧と敷地の除染のために、休館中ということで、BLOGには生々しい除染の状況が載っていました。言葉を失いますね。

2012年2月24日金曜日

草原の王朝「契丹」 静岡県立美術館

静岡県立美術館の「草原の王朝契丹 美しき3人のプリンセス」展に行ってきました。
静岡県立美術館は静岡駅から二つ目の草薙駅からタクシーで2メータで行けます。静岡県立美術館は1986年に開館した県立美術館で、収蔵品として、17世紀以降の日本の山水画・西洋の風景画、ロダンの彫刻、そして静岡県らしく富士山の絵を収集しています。

今回は残念ながら滞在時間が1時間半くらいしかとれなかったので、収蔵品展のほうは又の機会にして、企画展の契丹のほうに集中しました。
契丹民族は、10世紀から12世紀に、中国の北からモンゴルにかけて、北宋が苦慮した「遼」という国を作ったことで有名です。北宋は遼に対して毎年「歳幣」として銀や絹を遼に送り平和を買っていました。これが北宋を疲弊させた原因の一つだと言われています。

今回の展覧会では、そんな契丹の美術を、唐から受けた影響、遊牧民としての伝統、仏教の受容の観点で紹介しています。

展示の中で目を引いたのは、
  • 彩色木棺。10世紀前半。幅130cm、長さ231cm、高さ110cmの大型の木棺で、赤い色で彩色され、牡丹唐草・鳳凰などの金属板が貼り付けられています。屋根部分が頭のほうが高く足のほうが低くなっているのが特徴です。
  • 獅子文盒、龍文盒。10世紀前半。盒とは蓋つきの容器です。銀製鍍金の金属製で、打ち出しで、それぞれ獅子、龍が形作られています。唐の図像がここまで伝播しているのがわかります。
  • 金製仮面、鳳凰文冠、鳳凰文靴、これらは埋葬された契丹のプリンセス「陳国公主」が付けていたものです。靴がブーツになっているのが遊牧民族の特徴を表しています。
これらのほかにも、琥珀の首飾り、皮袋をかたどった磁器、三彩の陶器、木製の舎利塔など、興味深いものが多数あります。

10世紀から12世紀は日本では平安時代ですが、そのころ大陸では北宋と遼が拮抗して対峙しており、その遼では唐から受継いだ文化と遊牧民の文化を融合させた文化があったわけです。

この展覧会は、九州国立博物館から巡回し、2011年12月17日から2012年3月4日までは静岡県立美術館で開催され、4月10日から6月10日は大阪市立美術館、7月12日から9月17日は東京藝術大学大学美術館で開催されます。近くに来たときには立ち寄ってみたらどうでしょうか。

2012年2月20日月曜日

AERAの松井冬子さん

朝、駅を歩いているとキオスクになにか気になるものが・・・・。AERAの表紙で強い視線をこちらに向けている女性はどこかで見たことがあると思ったら、それは松井冬子さんでした。そう、ちょうどこの前の土曜日に見に行ったのが横浜美術館の「松井冬子展」でしたから、こんな所でまた会えるとは。

AERAの表紙の写真は、チャン・ドンゴン、布袋寅泰、ヴィム・ヴェンダース、松田翔太、デビッド・フィンチャーそして松井冬子ですから、松井さんもなかなか有名人ですね。

紹介記事でも書いてあるかなと思い買ってみると、「表紙の人」というページに、「重力に逆らう幽霊の情念に興味がある」「日本画は技術が大事で感覚だけでは描けない」といった話の紹介記事が、表紙とは違う写真と共に、掲載されていました。
残念だったのは、松井さんの作品が紹介されていなかったこと、AERAの読者には松井さんの作品をしらない読者も多いでしょうから、作品の紹介も会ったら良かったのに。

AERAの松井冬子さんに興味を持った人には、ぜひ横浜美術館にも行ってもらいたいですね。

AREA '12.2.27 朝日新聞出版。

2012年2月19日日曜日

松井冬子展 世界中の子と友達になれる

横浜美術館で「松井冬子展 世界中の子と友達になれる」が開催中です。
美術手帳の2008年1月号の松井冬子さん特集を読んでから、気になる作家でしたので、これは観にいかないといけないと思っていましたが、やっと時間を作って横浜まで行ってきました。

松井冬子さんは、1974年に静岡県森町で生まれ、東京藝術大学で日本画を学ばれています。《世界中の子と友達になれる》は卒業制作です。2007年には博士論文「知覚神経としての視覚によって覚醒される痛覚の不可避」で博士号を取得されています。

今回は大学在学中の平成2001年から平成2011年までの作品が展示されています。

会場を入ると、正面に《盲犬図》があり、地が透けて見えるような細いうねった毛をもった、力を失ったでも生きることに執着している生き物の図に、引きずり込まれます。

会場は年代別でなくテーマ別に構成され、第一章「受動と自我」、第二章「幽霊」、第三章「世界中の子と友達になれる」、第四章「部位」、第五章「腑分」、第六章「鏡面」、第七章「九相図」、第八章「ナルシシズム」、第九章「彼方」となっています。
特に、2011年に作成された《転換を繋ぎ合わせる》《應声は体を去らない》《四肢の統一》を加えて5作品が展示されている「九相図」がハイライトでしょうか。

作品は、その描かれている対象が、死であり、喪失であり、消滅であることが、無条件に強い印象を与えます。これは間違いのないところです。ただ、それを理性的に分析して、考え抜かれたと思われる、輪郭線、構図、精妙な色彩で表現している所に、すごく惹かれます。

開催期間は2011年12月17日から2012年3月18日で、終了まであと1ヶ月ありますから、行ってみてはどうでしょうか。

2012年2月15日水曜日

簡単すぎる名画鑑賞術

知らない本屋さんをぶらぶらして、なんとなく気になる本を衝動的に買ってしまうのは、ネット本屋さんにない楽しみです。豊橋の駅の近くの本屋さんでは、新幹線の中で読むのにちょうどよさそうだったので、ちくま文庫から出ている西岡文彦さんの『簡単すぎる名画鑑賞術』を買ってしまいました。

西岡文彦さんは、1952年生まれ、多摩美術大学教授・版画家。著書に『絵画の読み方』、『絶頂美術館』、『モナ・リザの罠』、『名画に見る聖書の世界』など。一般の読者に絵画を知ってもらおうという趣旨の本をいろいろ出されています。

今回買った『簡単すぎる名画鑑賞術』は、1998年に講談社から出版された『私だけがいえる 簡単すぎる名画鑑賞術』を改題し文庫本化し、2011年11月にちくま文庫から出版されたものです。

ダ・ヴィンチ、ウォーホール、デュシャン、モネ、マネ、ドラクロア、レンブラント、スーラ、ゴッホ、クリムト、セザンヌ、ピカソ、モンドリアンなど有名な人を取り上げ、絵画のマーケットが教会・王侯貴族から市民に変わったことで絵のテーマも市民の生活になった、ルネッサンス期には「対象の見え方」を描いていたがキュビズムでは「対象そのもの」を描いた、現代美術はアートとは何かの問いかけ自体をアートにするなど、言われ尽くされていることかもしれませんが、わかりやすく説明されています。美術に関心がありこれから少し勉強してみようかなという方にはお勧めの本です。

私が面白かったのは、「レンブラントの絵にあんなにニスが塗られてしまったのは、ニスを塗った方が乱暴な筆遣いがまとまって見えるという美術家の助言に従ったため」、「マネは薄い色の絵具の上に濃い色の絵具を重ねていた、これは黒い服をきれいに描くため」、「クリムトはマーラーは、繊細であるが量感が無い所が似ている」など。なるほどそうだったのかというような話もたくさんあり、新幹線の中退屈せずに過ごせました。

2012年2月11日土曜日

2月10日 ジャクソンポロック展開催

「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」が2012年2月10日から東京国立近代美術館で始まりました。昨年愛知県美術館で行われたものの巡回です。ジャクソン・ポロックは好きだと公言しているからにはいるからには、これは最初の日にいかなければいけないと考え、昨日の夜行ってきました。

東京国立近代美術館の企画展を行う一階会場に、ジャクソン・ポロックの作品64点のみが展示されているので、かなり余裕をもった展示になっています。目玉のテヘラン現代美術館所蔵の《インディアンレッドの地の壁画》などは一部屋使って展示されています。またポロックが、床に置いたキャンバスに缶の中の塗料を大きな筆で叩き付けている影像も、映写されています。会場を出た所には塗料だらけのアトリエも再現されていて興味を引きます。

展示は四章に分かれています

  • 1930-1941年 初期 自己を探し求めて
  • 1942-1946年 形成期 モダンアートへの参入
  • 1947-1950年 成熟期 革新の時
  • 1951-1959年 後期・晩期 苦悩の中で
ジャクソン・ポロックはもちろんアクションペインティングのポーリング技法によるオールオーバーな作品が有名なわけですが、この展覧会では、そこに至る作品と、その後の作品が、多数展示されていて、ポロックってどんな人だったんだろうという興味がつきません。

ちょうど百年前の生まれで、若い頃からアルコール依存症、44歳で交通事故で死亡。
初期の神秘的・表現主義的作品、ヨーロッパのシュールリアリズムの影響、まったく新しいスタイルの獲得、完成しすぎたスタイル故の次への模索。行き詰まりと突然の死。
評論家のクレメント・グリーンバーグ、コレクターのペギー・グッゲンハイムなどと共にアメリカの現代美術を作る。

この展覧会では、ジャクソン・ポロックにもともとある表現主義的な指向、シュールリアリズム的なオートマティスムの影響、メキシコ壁画のような大胆な塗料の使い方の習得、これらが1947年から1950年にかけて奇跡的な化学反応を起こし、全く新しいスタイルができあがるのを、目の当たりにすることができます。

お勧めの展覧会です。2012年5月6日までの開催です。

2012年2月7日火曜日

2012年2月4日、いつものギャラリー巡りのメンバーと一緒に

2012年2月4日、いつものギャラリー巡りのメンバーと一緒に、今年初めてのギャラリーやアートスポット巡り。銀座中央通を中心に午後半日過ごしました。

名前場所展示内容
鉄道歴史展示室東新橋1-5-3東京ステーションギャラリーは現在リニューアル中ですが、ここで美術館活動をしていました。2011年12月6日から2012年3月18日まで「現代絵画の展望 24の時の瞳
http://www.ejrcf.or.jp/shinbashi/
クリエイションギャラリーG8銀座8-4-17リクルートのギャラリー。2012年1月17日から2月16日、マイク・エーブルソンの「ウィールプリンター展」。車輪を使っての印刷。
http://rcc.recruit.co.jp/g8/
資生堂ギャラリー銀座8-8-3新進作家に発表の場を提供するshigeido art eggの6回目。2012年2月3日から26日まで、鎌田友介展。
http://www.shiseido.co.jp/gallery/
東京画廊BTAP銀座8-10-5瀧本光國の「彫るもの、彫ること」展。2012年1月21日から2月25日。木を彫って作った瀧など。風景の木彫と言う素晴らしい発想。
http://www.tokyo-gallery.com/
ggg銀座7-7-2DNP文化振興財団のギャラリー。2012年1月13日から2月25日まで、「没後10周年記念 田中一光 1980-2002」。懐かしいポスターがたくさん展示されています。
http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/
銀座三越銀座4-6-16キス・ザ・ハート 東日本復興支援アート&チャリティプログラム。銀座の真ん中にヤノベケンジの垂れ幕、ステンドグラスが。
http://www.mitsukoshi.co.jp/
松屋銀座デザインギャラリー銀座3-6-1「森正洋・デザインのことば」。2012年1月25日から2月19日。タイトルどおり森正洋さんの言葉が展示されています。
http://www.matsuya.com/m_ginza/exhib_gal/
コバヤシ画廊銀座3-8-122012年1月23日から2月4日まで杉田和美写真展「オープニングパーティ」、最近一年間の展覧会のオープニングの写真。だれがだれだかわかりますか。
http://www.gallerykobayashi.jp/
シャネル・ネクサス・ホール銀座3-5-3「エリオット・アーウィットが見つめたパリ」、2月3日から2月29日。古いパリが好きな方にはお勧め。
http://www.chanel-ginza.com/nexushall/
INAXギャラリー2京橋3-6-18「堂東由佳 virus 展」、2012年2月2日から2月27日。小さい絵がいっぱいで平面を埋め尽くしています。
http://inax.lixil.co.jp/gallery/
ギャラリーなつか京橋3-4-2「ギャラリーなつか」が新しい場所に移りました。2012年1月23日から2月4日まで、新生2012VOL2として、上野慶一、金沢健一、永井夏夕展。作家の方に作品の説明をしていただきました。2月6日から2月18日までは、VOL3、内海信彦、佐藤忠、福原栄子展。
http://homepage2.nifty.com/gallery-natsuka/
ポーラ・ミュージアム・アネックス銀座1-7-7梶野彰一、ジェーン・バーキン写真展。2012年2月3日から3月11日。ジェーン・バーキンの最近の写真。
http://www.pola.co.jp/m-annex/

2012年2月6日月曜日

荒木経惟ー人・街ー

家から近いので贔屓にしている、奥沢(自由が丘の近く)にある世田谷美術館分館・宮本三郎記念美術館で、「荒木経惟ー人・街ー」展が開催しているので立寄ってみました。この展覧会はⅠとⅡに分かれていて、Ⅰは昨年終わり、Ⅱが2012年1月4日から3月20日まで行われています。

Ⅱの部の展示は次のようになっています。

  • 1966年の《地下鉄》
  • 1966年の《動物園》
  • 1988年の《東京物語》
  • 1990年の《冬へ》
  • 1992年の《東京日和》
なぜ作成年を強調しているかというと、荒木さんの写真が時代を切り取っているからです。

Ⅱの部では、Ⅰの部であった新宿のあぶない街のような荒木さんらしいギラギラしたものは無いのですが、それだけに普通の光景の中の「普通の変さ加減」がよく見えてくるようです。
地下鉄や、動物園や、渋谷の街の中の、美化されない猥雑な風景、強い喜怒哀楽ではない、そこにある微妙な日常の表情。

地下鉄と動物園は、スクラップブックに貼られた作品なので、現物はあるページしか見られませんが、そのかわり全体をビデオで見られるようになっています。

ここは宮本三郎記念美術館なのでもちろん宮本三郎さんの作品も展示されています。

入場料も200円ですから、近くに来られる方はぜひ立寄ってみてください。

2012年2月4日土曜日

DOMANI・明日展

文化庁・国立新美術館主催の「DOMANI・明日展」が国立新美術館で2012年1月14日から2012年2月12日まで行われているので、行ってみました。

「DOMANI・明日展」は、文化庁の芸術家在外研修制度により、海外研修を行った作家が作品を発表する展覧会です。
芸術家在外研修制度とは、芸術家が海外で研修をうけるのを国が支援する制度で、1967年から始まっています。2012年で見ると、「美術、音楽、舞踊、演劇、映画、舞台美術等、メディア芸術の各分野における新進の芸術家、技術者、プロデューサー、評論家等が、海外の芸術団体、劇場等で実地研修する際の渡航費・滞在費を支援します」となっています。渡航期間は、1年、2年、3年、80日があります。派遣予定人数は62名、その中で美術は22名です。

今年の「DOMANI・明日展」の作者と作品は次のようになっています。

  • 山口牧子、1962年生まれ、絵画、2007年にイギリスへ派遣。今回の出品作は、日本画の顔料を使い淡い色彩で、画面いっぱいに非具象的な表現を行っている。
  • 阿部守、1954年生まれ、彫刻、2000年イギリス、2009年ノルウェーへ。作品は、鉄を使った環状のものをならべたインスタレーション。
  • 横澤典、1971年生まれ、写真、2007年アメリカへ。出品作は街や樹々を、撮影技術や、切り貼りにより、フラットな作品にしたもの。
  • 塩谷亮、1975年生まれ、洋画、2008年にイタリアへ。作品は、女性をモデルにした写実絵画。
  • 綿引展子、1958年生まれ、現代美術、2008年ドイツへ。作品は、和紙にオイルパステルで描いたものや、布を使った作人、柔らかい感触を感じさせる。
  • 津田睦美、1962年生まれ、写真、2009年オーストラリア/ニューカレドニアへ。今回は、ニューカレドニアに渡った日系移民が第二次世界大戦に巻き込まれて辿った運命を写真で展示。
  • 児嶋サコ、1976生まれ、絵画、2009年ドイツへ。ネズミを描いた作品。ネズミのことを自らのように感じるとコメントがついている。
  • 元田久治、1973年生まれ、版画、2009年オーストラリア/アメリカへ。今回の作品は、世界のいろいろなランドスケープが廃墟になっている作品。

今回のDOMANI展は45周年を記念して、過去に研修を経験したベテラン作家53名の作品も展示されています。今日はそのなかから8名の作家の方のギャラリートークも行われていました。

気に入った作品は、綿引さんの布を使った作品、山口さんの作品は普通に気持ち良い。




2012年1月31日火曜日

宋の山水画、北京故宮博物院200選展に触発されて

今、東京国立博物館で「北京故宮博物院200選」展が行われており、宋時代の絵画作品も良いものが展示されています。せっかくですから、理解を深めるために、中国宋時代の山水画について少し整理してみます。

絵の話に入る前に、中国の宋の時代に関して調べてみました。
宋は、唐が滅びた後の五代十国の時代を経て中国を統一した王朝です。宋王朝の中でも960年から1127年までを北宋と言い、女真族の金に攻められ南に逃げ延びた後1127年から1279年を南宋と言います。北宋の都は《清明上河図》に書かれていた開封。南宋の都は臨安です。南宋も1279年にモンゴル(元)に滅ぼされます。
宋の時代は、北方に遼、西夏、金、モンゴル(元)など強い国があり北からの脅威にさらされ続けましたが、国内は軍よりも文を重んじ、文人官僚が社会を支配します。
農業・商業は唐の時代に比べ大きく発展しました。灌漑が進み農業生産が増え、鉄の生産量も増え、都市化も進みます。紙幣が初めて作られるのも宋の時代です。

それでは宋の山水画を、描いた人毎に整理してみます。最初は宋の前の五代から始めます。
  • 荊浩(けいこう)、五代の人。乱世を避け山にこもって山水画を描く。伝承作品《匡櫨図》は山頂を仰ぎ見る高遠の構図、墨のタッチで山岳の量感・質感を表す皴法(しゅんぽう)。華北水墨山水画の基礎的表現。
  • 董源(とうげん)、五代から北宋初期の人。江南の水郷風景を俯瞰で描く。丸みを帯びた山、水平線を強調。南宋画の祖といわれる。
  • 関同(かんどう)、長安に出る。荊浩の弟子。
  • 李成(りせい)、開封に上るが、終生在野で仕事をする。華北の実景的水墨山水画を大成。《茂林遠岫図巻》の評価は高い。
  • 巨然(きょねん)、開封で仕事をする。董源の作風と華北の作風を統合する。伝承作品に《層巖叢樹図》。
  • 范寛(はんかん)、華原出身。《谿山行旅図》は切り立った山岳描写。《雪景寒林図》は北宋の大きな画面の代表作。范寛のころ華北山水画が全盛となる。
  • 王希孟(おうきもう)は宮廷画家。《千里江山図》は景物を密に細かく表現。
  • 許道寧(きょどうねい)、超現実的な傾向。
  • 郭煕(かくき)、これまでの華北の画家とは異なり宮廷画家。高遠・平遠・深遠の三遠法に基づく山水画を得意とする。《早春図》が代表作。《山村図軸》はそこに行きたいと思わせる。
  • 米友仁(べいゆうじん)、金の侵入で江南に逃れる。文人画を定着させる。董源、巨然の作風を再現し、米法山水を作る。《瀟湘奇観図巻》は文人画家として心象風景を描く。
  • 李唐(りとう)。南宋の院体画家。院体画も江南山水画的な平明なものになる。
  • 劉松年(りゅうしょうねん)、南宋の院体画家。
  • 馬遠(ばえん)、南宋の院体画家。辺角の景が有名。
  • 夏珪(かけい)、南宋の院体画家。《渓山清遠図》の景観描写は南宋山水画の理想とされる。
以上、美術出版社『カラー版東洋美術史』などを参考にしました。

この後は元の文人画になり、今回東京国立博物館にもきている趙孟頫などが出てくるのですが、それは又別に整理してみようと思います。

2012年1月29日日曜日

平家納経、平清盛展

江戸東京博物館で、NHKの大河ドラマにちなんで、「平清盛展」が行われています。平家納経が展示されているというので、見に行きました。日本美術の入門書では、平安時代の美術として平家納経が必ず出てくるので、ぜひ一度見たかったというのが理由です。
さすが大河ドラマの影響か、会場はちょっと混んでいました。昨年、江戸東京博物館のヴェネツィア展に行ったとき、見たかったカルパッチョの絵になかなかいきつかなかったのを思い出し、今回はその轍を踏まないように、最初に平家納経に足を向けました。

平家納経は、平家一門が繁栄を願い、1164年に厳島神社に奉納したものです。平家納経は、願文、法華経28巻、無量義経、観普賢経、阿弥陀経、般若心教の全33巻で、平家一門の人が一巻づつ書き写しています。一巻づつ写経する「一品経」は当時流行っていたそうです。料紙には雁皮紙を使用し、表裏に金銀の箔や砂子が撒かれ、豪華に仕上がっています。見返し部分にはその今日の内容を表す絵が描かれています。
なぜ神社に経を奉納するかというと、本地垂迹説で、厳島明神の本地は十一面観音であるということになっていたためです。

今回の展覧会に展示しているのは33巻のうち、平清盛願文、法華経信解品第四、法華経法師功徳品第十九、法華経陀羅尼品第二十六、の4巻です。残念ながら見返しの絵の部分はかなり不鮮明になっていましたが、それにしてもできたときの豪華さは想像できます。

平家納経を納めていた、金銀荘雲龍文銅製経箱もすばらしいもので、特に龍が良いですね。

平家納経関連以外では、平安期の王朝風仏画の基準となる作例と言われている、京都国立博物館所蔵の十二天のうちの《伊舎那天》も興味深く見ました。伊舎那天は十二天のうち東北を守る天です。

平清盛展は、2012年1月2日から2月5日までの開催です。




渋谷ユートピア

渋谷の松濤美術館で「渋谷ユートピア」という展覧会が2012年1月29日まで行われていました。もう最後だというので28日に行ってみました。
松濤美術館は渋谷区の美術館で、財団法人渋谷区美術振興財団が運営しています。ここは何と言っても白井晟一さんが作った建物が眼を引きます。外側は石造りですが微妙なカーブを描いています、窓が無いためその形態の存在感を強く感じさせます。建物の中は、ドーナツのように屋上から地下二階まで空いた空間になっていて、そこに向かった窓がついています。その中空の一階部分には橋が渡されています(右の写真)。

今回の展覧会のほうは、1900年から1940年に渋谷周辺に住んでいた芸術家の作品を集めた展覧会になっています。少し前に板橋区立美術館で行われていた池袋モンパルナス展に似た趣向です。ただ池袋モンパルナスのほうは芸術家が自らそう名乗っていたわけですが、渋谷のほうはとくに渋谷で何かを一緒に行おうというわけでは無かったようです。展示の内容も渋谷関係という以外では一つの方向を向いているわけではなく、色々な傾向の作品が展示されています。そういう理由からか、個々の作品はおもしろくても、展覧会としてのまとまりはどうかなという印象でした。

以下、展示されている作家です。

  • 菱田春草(1874-1911)、いうまでもなく明治時代の日本画家、日本美術院創設に参加。
  • 岡田三郎助(1869-1939)、洋画家、フランスでラファエル・コランに師事、東京美術学校教授
  • 有馬さとえ(1893-1978)、女性画家の先駆者
  • 杉浦非水(1876-1965)、グラフィックデザイナー、三越のポスターなどを制作
  • 伊東深水(1898-1972)、日本画家、美人画で有名
  • 辻永【つじひさし】(1884-1974)、洋画家、花の写生画集を作る
  • 岸田劉生(1891-1929)、洋画家、《道路と土手と塀》は東京国立近代美術館に
  • 村山槐多(1896-1919)、洋画家、夭折の画家、人物画に特徴
  • 竹久夢二(1884-1934)、大正浪漫を代表する画家
  • 富永太郎(1901-1925)、夭折の詩人画家
  • 児島善三郎(1893-1962)、日本のフォーヴィスム
  • 平塚運一(1895-1997)、版画家

2012年1月24日火曜日

ザ・ベスト・オブ・山種コレクション No2

ブログを書く順が逆転しましたが、先週土曜日の冷たい雨が降るなか、山種美術館を訪れました。1月に入ってから、ザ・ベスト・オブ・山種コレクションの後期の展示が行われています。後期の展示は、「戦前から戦後へ」ということでより現在に近くなっています。
会場は、雨にもかかわらずかなり混んでいました。近代の日本画も人気があるのがわかります。

目玉は、速水御舟の《炎舞》です。これは初めて見ました。
図版を見て思っていたよりも実物は小さな作品でした。きっと絵の迫力が大きな絵をイメージさせたのでしょう。また、よりリアルな表現の作品かと思っていましたが、実物を見てリアルを指向した作品でないのがわかります。炎は仏教の彫刻のように様式化されています、また炎の上を舞っている蛾はすべて正面を向いています。そこにあるのは、リアルさを異なる次元の真実にトランスレートした世界のように感じました。

その他の作品で面白かったのは、奥村土牛でしょうか、《鳴門》《醍醐》など自然を映した絵が気に入りました。

この展覧会は2月5日までの開催です。

2012年1月22日日曜日

北京故宮博物院200選 No2

今日は東京国立博物館で行われている北京故宮博物院200選展に再び行ってきました。前回は1月4日に行って清明上河図を中心に見たのですが、今日はその他の作品をじっくり見ました。天気は良くなかったのですが、日曜日ということもあり会場はかなり混んでいました。私は今日はパスしましたが、清明上河図のほうは210分待ちとなっていて、建物の外まで列がのびていました。

全体を通して改めて気づいたのは、一言で中国といっても、その実体は多様な民族の関わりがあり、中国の美術もその中で形作られてきたということです。

文人画が発達した北宋・南宋の後は、モンゴル民族の元王朝(1271−1368)となります。普通の感覚でいうと、他民族に支配される時代にはそれまでの文化は廃れてしまうのではないかと思ってしまいますが、そうならないのが元の時代の面白いところです。いろいろ葛藤はあったのでしょうが、宋に仕えていた人が元にも仕えて大きな影響力を持ったりしています。
今回の展示品の中でも、元のものは良いものが来ています。例をあげると、
趙 孟頫(ちょうもうふ) 《水村図巻》
朱德润 《秀野軒圖卷
柯九思 《清閟閣墨竹図軸


清(1644−1912)は女真族の王朝ですが、真の皇帝がチベット仏教を信仰していたというのは初めて知りました。
チベット仏教はチベットが7世紀から14世紀にインドから直接取り入れた仏教で、後期密教の強い影響を受けています。
チベット仏教関係の展示にも面白いものがあります。

《大威徳金剛(ヤマーンタカ)立像》、清時代
《宝生仏坐像》、インド・バーラ朝
《観音菩薩立像》、チベット
《上楽金剛(チャクラサンバラ)立像》、チベット

今回は《乾隆帝是一是二図軸》の展示が凝っていました、図は乾隆帝が中国の歴史的文物に囲まれ、文人の姿で描かれているというものです。展示室には、そこに描かれているテーブルや、青銅器・陶磁器などが一緒に展示されています。この軸は清朝が意識的に漢民族の伝統の上に成立しているのだということを示す興味深い図になっています。

さすがに中国は奥が深いですね。中国美術への関心がますます強くなりました。





2012年1月20日金曜日

パリへ渡った石橋コレクション 1962年春

東京駅の近くのブリジストン美術館は便利なので時間があると立ち寄ってしまいます。2012年1月7日から3月18日までは、「パリへ渡った「石橋コレクション」 1962年春」が開催されています。

石橋コレクションは、ブリジストンタイヤ創業者の石橋正二郎さんのコレクションで、青木繁などの日本の作品や、フランス印象派から現代までの海外の作品が、集められています。

1962年の春に、そのなかからフランスの作品50点が選ばれ、当時パリのパレ・ド・トーキョーにあったパリ国立近代美術館で、「東京石橋コレクション─コローからブラックに至るフランス絵画展」として展示されました。いわば里帰りした訳です。当時は日本にもフランス絵画の良いコレクターがいるんだと感心されたようです。(国立近代美術館は1977年にパレ・ド・トーキョーからポンピドゥー・センターに移転しています)

今回は、ブリジストン美術館60周年を記念して、50年前にフランスに行った作品を改めて見てみようという趣旨の展覧会です。

作品は、コロー、ドラクロア、ドーミエ、ドービニー、クールベ、モンティセリ、ピサロ、マネ、ドガ、シスレー、セザンヌ、モネ、ルノワール、ルソー、ゴーガン、シニャック、ボナール、マティス、ルオー、ヴラマンク、デュフィ、ドラン、ピカソ、ブラック、ユトリロ、シャガールと、ビッグ・ネームばかりです。
全体を通して、前衛的な尖った作品はなく、色や筆致がきれいな見て心地よい作品が多いと感じます。これはコレクターのセンスかもしれませんね。

私は、もう当たり前すぎて申し訳ないですが、セザンヌの《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》が気に入りました。

金曜日の夜6時半頃から8時近くまで会場にいたのですが、その間に会った観客の人はほんの数人で、一部屋占有状態が続いて、たいへん贅沢な時間でした。

2012年1月17日火曜日

村上隆さんインタビュー記事

2012年1月17日、朝日新聞朝刊に村上隆さんのインタビュー記事が載っていました。
横見出しとして「世界でトップを取る」。縦見出しには「3.11で社会変化、芸術家も動くとき、もだえ苦しみ作る」とあります。「世界でトップ」の話をしたいのでしょうか、「3.11後の芸術家」の話をしたいのでしょうか、見出しだけだとちょっと不明です。記事を読んでみると、見出しどおり、世界でトップの話と、3.11後の芸術家の話が、並列で書かれていました。

面白いと思った所を紹介します。

インタビュアーが村上さんはクールジャパンの旗手ですねと言ったのに対して、「クールジャパンなどとは外国では誰も言っていない。僕はクールジャパンとは何も関係ない」
村上さんの何が評価されていると思いますかという問いに、「日本の美を解析して、世界の人々が『これは日本の美だな』と理解できるように、かみ砕いて作品を作っていること」「僕は戦後日本に勃興したアニメやオタク文化と、江戸期の伝統的絵画を同じレベルで考えて結びつけ、それを西洋美術史の文脈にマッチするよう構築し直して作品化するということを戦略的に細かにやってきました」
そのあと、村上さんが「芸術企業論」や「芸術闘争論」にも書かれている言説が続きます。日本の芸術家は、グローバルな美術市場や美術作品流通のメカニズムの中で、戦略性をもって活動すべきだという論です。
最後に、3.11以降の社会に対し、「芸術ごときで世の中は変わらないが」と言いつつ、国際社会に発信し続ける活動家になると宣言されています。
今は、3.11のメモリアルになる全長100mの五百羅漢図を、100人のスタッフを使って作成中で、これを2月にカタールのドーハの個展で展示する予定だそうです。

今日のこの新聞記事を見る前に、村上隆さんが2011年11月9日にニューヨークのクリスティーズで「New Days」という3.11のチャリティー・オークションを仕掛け、6億8千万円の売上を上げた、という美術手帳2012.01に載っている記事を読んでいたので、2つの情報を合わせて、改めて、村上さんのグローバルで、問題意識を持った、戦略的な活動の一端を見たような気がしました。

2012年1月15日日曜日

泉屋博古館分館 中国青銅芸術

2012年1月7日から2月26日まで、六本木にある泉屋博古館分館開館10周年、「神秘のデザイン ー中国青銅芸術の枠ー」が開催されています。
これは、分館が東京に開館してから10年経つのを記念して、住友家が収集したコレクションの中でも貴重な中国青銅器を紹介するものです。

商(殷)・西周・春秋・戦国期の青銅器が55点、秦から清にかけての青銅器が33点、展示されています。青銅器は今回の「北京故宮博物院200選展」にも来ていますし、中国の文物の展覧会にも来ていますが、これだけ青銅器だけが並んでいるのを見ると壮観です。しかも一点づつ模様の説明があり、主要な作品には拡大写真での説明があり、X線CTスキャナによる断面の図もあります。
なにしろ周の時代の青銅器の模様は細かいですから、図録だけではわからないことがたくさんあります、それを近くでじっくり見られるます。

周時代の青銅器には、怪獣の顔の形を模様化してある、饕餮文(とうてつもん)が付いているものが多いのですが、それにもいろいろなパターンがあり、それぞれの表現の工夫があることが見えます。
また、龍も、虁文(きもん)という横向きで1本足がついた模様でたくさんでてきます。

3000年前の人がどんなものを作っていたのかと興味を持ったら、ぜひ一度行ってみると良いと思います。