2014年12月28日日曜日

リー・ミンウェイとその関係 森美術館

12月は展覧会に行く時間をなかなかとれず、ブログを書くのも久しぶりになってしまいましたが、年内にぜひ行きたかった、森美術館で開催している「リー・ミンウェイとその関係」展に行ってきました。

リー・ミンウェイ氏は台湾生まれのアーティストで、イェール大学で彫刻を学び、ニューヨークで活動しています。

リー・ミンウェイは、個人と個人のつながりを、観客との対話によるパフォーマンスを通して、アートとして表現するという珍しい作品を作っています。

今回森美術館で行われているパフォーマンスを幾つか紹介すると、

(1)中国の、空が破れた時それを縫って直したと言われる「女媧」という女神を、凧にして上げてもらうプロジェクト

(2)観客に縫ってもらいたい品物を持ってきてもらい、会場でそれを観客と縫い手が会話しながら縫い、それを縫った糸とともに展示するプロジェクト(パンフレットに載っているプロジェクトです)

(3)抽選で当たった観客が対話しながら食事をするプロジェクト

(4)花を観客にもって帰ってもらい、帰りにだれか知らない人にそれをプレゼントしてもらうプロジェクト

(5)箱の中に入れた思い出の品物を、観客に開けてもらい見てもらうプロジェクト

(6)個人的な感謝や謝罪の手紙を書くプロジェクト

(7)ピカソの《ゲルニカ》を砂で描き、その上を大勢で歩いたのちに、きれいな色の模様とするプロジェクト

どうでしょうか、個人がひととつながることを意識化するプロジェクトが並んでいます。

また特別企画として、人のパーソナルな関係性をテーマにした、イヴ・クライン、鈴木大拙、アラン・カプロー、ジョン・ケージの作品なども展示されています。

それぞれのプロジェクトに関して、リー・ミンウェイが解説するビデオが流れているのですが、リー氏の穏やかな顔と声が印象的です。

展覧会の会期は2015年1月4日までとあとわずかですが、会期中無休で正月も開催してます。お勧めの展覧会です。


2014年10月21日火曜日

日本国宝展 東京国立博物館

東京国立博物館で、国宝だけを集めた企画展が開催されています。このような企画は、平成になってから3回しか行われてなく、前回は2000年の開催でしたから、かなり久しぶりな企画です。前後期を合わせると120点を超える作品を見ることができます。

今回は「祈り、信じる力」をサブタイトルにして、五章に分けて展示されています。第一章は「仏を信じる」で飛鳥時代から平安時代にかけての仏教美術、第二章は「神を信じる」で土偶・銅鐸・神像、第三章は「文学、記録に見る信仰」で絵巻・書跡・典籍・古文書、第四章は「多様化する信仰と美」で鎌倉時代から室町時代の美術品、第五章は「仏の姿」で仏像となっています。

博物館や美術館で、造形遺品をもともとのコンテクストを離れて、視覚の興味として見ることの是非はあると思いますが、教科書や美術書のなかでみていたものに直接触れる意味は大きいと感じさせられます。

展示は、10月15日から11月9日までが前期、11月11日から12月7日までが後期になっていて、展示替えがあります。特別出品の正倉院宝物は10月15日から11月3日の展示です。さらに10月26日までしか展示されない作品もあります。事前に出展期間の情報をウェブなどから入手して、観たいものを確認してから行かないと、観たい作品を見逃しそうです。

作品リストはこちらから
http://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=item&id=3890

2014年10月11日土曜日

ウィレム・デ・クーニング展 ブリヂストン美術館


2014年10月8日からブリヂストン美術館で「ウィレム・デ・クーニング展」が開催されています。デ・クーニングを日本でまとめて見られる機会は少なかったので、早速行ってきました。

抽象表現主義は、日本でも2012年に回顧展が開催されたジャクソン・ポロックや、川村記念美術館に良いコレクションがあるマーク・ロスコが有名ですが、ウィリアム・デ・クーニングも見逃せない作家です。

今回は、パワーズ・コレクションの1960年代の女性像を中心に35点が、入口に近い2室に展示されています。パワーズ・コレクションのポップ・アート作品は2013年に新国立美術館で開催された「アメリカン・ポップ・アート」で見ることができましたが、パワーズ・コレクションはポップ・アートだけではなかったわけです。パワーズ・コレクションの他には、国内の美術館の所蔵品から7点、ニューヨーク近代美術館から1点、個人蔵の1点が展示されています。

ウィレム・デ・クーニングは、1904年オランダのロッテルダム生まれ、1926年に渡米して、ニューヨークで抽象表現主義の作家といわれるようになっていきます。デ・クーニングの代表作は1950年代の女シリーズで、その強烈な色使い、グロテスクなイメージ、立体感を拒絶した平面性に特徴があります。今回出展されている作品は、作家60才代の作品が中心になっていて、強烈さは少し整理されて弱まっているかもしれませんが、デ・クーニングらしさは十分感じられるものになっています。

今まで図版でしか見ていなかったデ・クーニング作品を目の前にすると、赤と緑の補色を大胆に使った色遣い、白い絵の具が生なまま存在する絵の具の物質感、どこから始まりどこで終わるのかわからない線から見えてくる形象、眼や口を取り出して強調した顔のイメージ、立体感を拒否した筆跡と、見えてくるものがたくさんあります。デ・クーニングは、何かを表象することを徹底的に否定し、作品自体で存在することを追求したのではないかと、感じます。

抽象表現主義というと「アクション・ペインティング」という言葉がセットのように付いてまわりますが、これはハロルド・ローゼンバーグという批評家が書いて有名になった言葉です。もっとも有名なアクション・ペインターはジャクソン・ポロックですが、ローゼンバーグはデ・クーニングを見てアクション・ペインティングといったと言われています。デ・クーニングが、パネルの前でどんな行為を行ったのか、その結果がどうなったのかを考えるのも良いのではないでしょうか。

「ウィレム・デ・クーニング展」は2015年1月12日までの開催です。

2014年9月27日土曜日

チューリヒ美術館展 国立新美術館

国立新美術館で「チューリヒ美術館展」が始まりました。展覧会のサブ・タイトルには「印象派からシュルリアリスムまで」とありますが、フランスの画家たちばかりでなく、スイスゆかりの作家や、表現主義的・象徴主義的な作家の作品も多く、ぜひ行ってみたい展覧会になっています。私がサブ・タイトルをつけるなら「セガンティー二からジャコメッティまで」でしょうか。

次のような作品がお薦めです。

  • アルプスを描いて有名なジョヴァンニ・セガンティーニですが、今回は晩年の象徴主義的な《淫蕩な女たちへの懲罰》《虚栄》が出展されています。
  • 展覧会カタログでもフォーカスされているモネの《睡蓮の池、夕暮れ》は2枚のパネルをつないで横6mもある作品。ここでは絵のサイズや絵の枠とはなにかを考えてみたくなります。
  • ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌは、それぞれの個性が出ていて、理屈をいわずに楽しめます。
  • ホドラーはスイスの孤高の画家。印象派やポスト印象派のペインタリーな作品を観ていると、ホドラーの線描重視に新鮮なものを感じます。今回、日本では馴染みのないホドラーの作品が6点出展されています。
  • ムンクの作品も今回4点出展されています。《叫び》のようなムンク的ではない《ヴィルヘルム・ヴァルトマン博士の肖像》に注目。
  • 日本ではあまり観ることがない、表現主義の作品では、キルヒナーの《小川の流れる森の風景》、ベックマンの《マックス・レーガーの肖像》。
  • ココシュカも5点あります。気味悪さでは《プットーとウサギのいる静物画》。
  • シャガールが好きな方は、今回の5点も楽しめます。
  • シュルリアリスムではエルンストの《都市の全景》。絵に作家の意図しないものをどう取込むか。
  • スイス出身でフランスで活躍したジャコメッティの作品は6点出展されています。《立つ女》に注目
全体を通して、スイスという場所のコレクションのせいか、フランスの作家、ドイツの作家、スイスに関わる作家と目配りされているように思われます。フランス流の画面上の造形を追求する流れと、イタリア・ドイツ・スイスにみられる表現主義的/象徴主義的な流れが、19世紀から20世紀前半にかけて同時並行に存在していたことがわかる、興味深い展覧会です。

国立新美術館での「チューリヒ美術館展」は2014/9/25から12/15です。

2014年9月7日日曜日

メトロポリタン美術館古代エジプト展女王と女神 東京都美術館

エジプトの美術というと、熱烈なファンか、最初から敬遠する人に別れるような気がします。
紀元前4400年頃から紀元まで4000年以上続く古代エジプトにロマンを感じるか、ピラミッドとミイラに象徴される現代からすると馴染みにくい葬祭儀礼を持つ文明と見るかによって異なるのかもしれません。
私は、数千年にわたって、同じイメージを作り続ける、そのときそのイメージとは何なのかという関心で、観に行きたくなります。現代の概念のアートではないイメージとは何なのでしょうか。

今回の展覧会は、ニューヨークのメトロポリタン美術館にある厖大なエジプト・コレクションから、女性という切り口で選択した作品が来日しています。約200点が全て日本初公開だそうです。

見所は、エジプトのハトシェプスト女王関連の展示です。ハトシェプスト女王は、紀元前1400年代の中頃に、夫のトトメス2世の死後、王位継承権をもつ継子トトメス3世の摂政となり、しだいに実権をとり王となったと言われています。歴史の中でたいへん珍しい女性の王という意味では、中国の則天武后のような存在でしょうか。アルカイック・スマイル的な微妙な微笑みを感じさせる像の頭部や、若い男性的な容姿のひざまづく像などが展示されています。石でできた像には、ギリシャ以降の理想的人体像への興味とは異なる、物質としての存在感を感じます。

他には、エジプトの女神関連の展示物や、アクセサリーがたくさん展示されています。展示は年代順ではないので、エジプト数千年の歴史の中でいつごろ作られたものなのかを確認しながら見ると良いかもしれません。

「メトロポリタン美術館古代エジプト展 女王と女神」は東京都美術館で2014年9月23日までの開催になっています。

2014年8月9日土曜日

ヴァロットン 冷たい炎の画家 三菱一号館美術館

フェリックス・ヴァロットン(1865-1925)は、スイスのローザンヌ生まれのナビ派の画家で、多くの油絵と木版の作品を残していますが、それほど知られた画家であるとはいえないようです。

今回の展覧会は、オルセー美術館とRMNグラン・パレにより組織化され、2014年1月までグラン・パレ、6月までアムステルダムのゴッホ美術館、9月まで三菱一号館美術館に巡回する回顧展です。

日本の展覧会タイトル「冷たい炎の画家」よりも、オリジナルの「Fire Beneath the Ice」のほうが、今回の展覧会意図を表しているかもしれません。画面表面の滑らかさの下に、表現したい内容が炎をあげている、それを作品のなかに探ってみようというわけです。オルセー美術館・オランジェリー美術館総裁のギ・コジュバル氏は「ヴァロットンは、欲望と禁欲の間の葛藤を強迫観念的な正確さで描き、男女間の果てなき諍いに神話的なスケールを与えています」と言っています。

三菱一号館美術館が所有している多くの木版画作品も展示され、ヴァロットンとはどのような画家だったのかを知る良い機会になっています。私が気に入ったのは、油絵で公園の人物を多視点で描いた《ボール》です。

「ヴァロットン 冷たい炎の画家」展は、印象派の後に出現した多様な作家に興味をもっている方にお薦めの展覧会です。三菱一号館で2014年9月23日までの開催になっています。

2014年7月12日土曜日

オルセー美術館展 印象派の誕生 国立新美術館

国立新美術館で、「オルセー美術館展 印象派の誕生 描くことの自由」が始まったので観に行きました。

印象派の誕生とありますが、あまり印象派にとらわれずに、19世紀から20世紀にフランスでどのような絵が描かれたのかを観に行くと良いと思います。

展示は、第一章「マネ、新しい絵画」、第二章「レアリスムの諸相」、第三章「歴史画」、第四章「裸体」、第五章「印象派の風景」、第六章「静物」、第七章「肖像」、第八章「近代生活」、第九章「円熟期のマネ」となっており、マネに始まりマネに終わります。

第一章では、マネの《笛を吹く少年》が見所です。正直にいうと、軍楽隊用のするどい音がする横笛を吹く少年の絵のどこが良いのだろうと、思っていました。実物を観ると、平面的な画面に描かれた、黒い上着、赤いズボン、それらを縁取る白い絵の具の、見事な色面の対比が良いのだとわかります。

第二章では、ミレーの《晩鐘》がなんといっても有名です。夕方になり晩鐘が鳴ると、農民が死んだ人々を憶って祈る場面です。庶民を敬意をもって描くのが、この時代のあらたな潮流だったというのがわかります。

第三章はアカデミーの歴史画です。印象派が出現してくる時に、まだ因習的な歴史画も描かれていましたと紹介される絵に興味を覚えます。次の第四章に展示される、ブグローやカバネルも同じ文脈の作品です。

第四章にあるモローの《イアソン》はモローが好きな方には必見。繊細な装飾物の表現などモローならではです。

第五章「印象派の風景」には、日本でも馴染みのある作家の作品が並んでいます。

第六章では、ファンタン=ラトゥールの《花瓶の菊》に、この時代の静物画があらわれているようにおもいます。

第七章の肖像では、ホイッスラーの《灰色と黒のアレンジメント第1番》が見所です。黒い服を着た老女が横を向いて座っている作品ですが、その黒いかたまりと左側にあるカーテンのようなものの対比が観る人に強い印象を与えます。タイトルにあるように、音楽的といってもよいかもしれません。ホイッスラーはもっと追っかけてみたい作家の一人です。

第八章、ドガの《バレエの舞台稽古》はドガらしい作品。モネの《サン=ラザール駅》も観ておきたい。

第九章は晩年のマネの作品ですが、《アスパラガス》がおいしそうです。

今回の展覧会では、観ておきたい絵が多く来ています。できれば、19世紀から20世紀にかけての絵画の展開を整理した上で行くと、より楽しめるのではないでしょうか。

「オルセー美術館展」は国立新美術館で10月20日までの開催です。


2014年5月30日金曜日

チベットの仏教世界 もうひとつの大谷探検隊 龍谷ミュージアム



関西で仕事があったので、空いた時間に龍谷ミュージアムの「チベットの仏教世界 もうひとつの大谷探検隊」へ。

大谷探検隊が西域からインドを調査をしたのは有名ですが、実はそれとは別に2人がチベットに派遣されて、チベット仏教の調査をしていました。今回の展覧会はその業績を紹介するものです。

ちょうど運よく学芸員のかたによるスライドでの説明があり、それを聞けたのですが。チベットにはインドで発展した大乗仏教の最後の形が伝わったのだそうです。そういうわけで中国や日本にはない経典に基づいた像などがあるという話で、そうだったのかと納得しました。

今回の展覧会で特に力を入れて展示されていたのが、現在のダライラマの前のダライラマが、遺言で、その時に渡った学僧、多田等観氏に贈った仏伝図です。仏伝図自体が日本ではめずらしいですが、特にこの仏伝図には、初転法輪から涅槃にいたるまでの知られていない仏伝がたくさんありたいへん珍しいものになっています。そこにはキリストの生涯にあるような、弟子をどのように獲得していったのかなどの伝記がたくさん描かれています。

今回の展覧会は6月4日までの開催です。チベットに興味がある方、仏伝図に興味がある方にはお勧めです。

2014年5月16日金曜日

マインドフルネス 髙橋コレクション展 名古屋市美術館

日本の現代美術の蒐集家で知られる高橋龍太郎さんのコレクション展です。
関西へ出張があったので、時間の都合をつけて行ってきました。

髙橋さんのコレクションは、部分的には色々な所、例えば会田誠展などで見ることがあったのですが、これだけ一堂に集まったのを見るのは初めてでした。
入り口で草間彌生の女子と犬のオブジェに出会うところから、期待を持たせられる展示になっています。展示は一階、二階、地下と広がっているのが、収集の規模の大きさを示しています。

展示は、草間彌生を始め、村上隆、奈良美智、会田誠、山口晃、鴻池朋子、束芋、蜷川実花、小谷元彦と、現代美術の有名どころを集めて多彩です。髙橋コレクションは、幼形成熟という意味のネオテニーというタイトルで展覧会になっていたこともありますが、いわゆる「大人」にならない夢の世界のような作品が多いことに注目させられます。

現代日本に出現した一群のアーチストをどう見るか考えるために、見に行くのも良いのではないでしょうか。

名古屋市美術館で、6月8日までです。

2014年5月11日日曜日

中村一美展 国立新美術館

中村一美さんという方は、勉強不足で知りませんでした。
今回、国立新美術館で中村一美さんの個展が開かれ、150点に及ぶ展示でその全貌が一堂に見られます。

中村さんは、西洋美術のモダニズムの頂点を示す抽象表現主義の研究を出発点に、日本・東洋の美術も研究し、新たな制作原理を確立していったようです。
基本は自然のものそのものの再現ではなく、抽象化された形象を見せる作品となっています。しかしタイトルには、文学的な含意があるタイトルがつけられているものも多く、絵画平面だけに収まらない、人が外的にもつイメージにつながる構想力にも関心がありそうです。

作品により幾何学的な線を強調したものと、色面の対比を基本に記号的な模様があるものに別れるようですが、いずれも垂直方向の強調と斜めの線の使い方が観る人の近くに刺激を与えるようにみえます。

私にとっては、中村一美さんの作品はたいへん興味のもてるものでした。国立新美術館で5月19日までですが、興味のある方はぜひ行かれることをお勧めします。

2014年5月5日月曜日

ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション Bunkamuraザ・ミュージアム

連休中は遠くへ出かけると混んでいると思い、近くのBunkamuraザ・ミュージアムへ。
ポルディ・ポッツォーニ美術館の作品が展示されています。
ポルディ・ポッツォーニ美術館は、1881年にミラノの貴族ジャン・ジャコモ・ポルディ・ポッツォー二をコレクションを展示するために開設された美術館です。コレクションは、古代、鎧・武器、陶磁器、時計、東洋、家具、ガラス器、本、宝石などたいへん幅広いのですが、今回の展覧会では、鎧や時計が少しと、あとはイタリアを中心とする絵画が展示されています。それでも当時の貴族のコレクションがどのようなものであったか、その一端がわかります。

今回一番の目玉になっていたのが、15世紀のイタリアの画家ポッライオーロです。ポッライオーロは、ユニークな構図のロンドン・ナショナル・ギャラリーにある《聖セバスティアヌス》が有名ですが、今回来ている《貴婦人の肖像》もなかなか見応えのある作品で、顔の輪郭の微妙な線、髪飾りやネックレスなどいい感じです。

サボナローラに影響された後の、ボッティチェッリは何となく敬遠していましたが、《死せるキリストへの哀悼》は素通りできずに見入ってしまいました。ここにある線はルネサンスではなくマニエリスムだと思いました。

時代は下って、ヴェドゥータ画の大家、カナレットの《廃墟と古代建造物のあるカプリッチョ》もカナレットらしい変さ加減がでていて楽しめます。

「ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション」は、イタリアが好きな方にはお薦めの展覧会です。5月25日までBunkamuraザ・ミュージアム

2014年4月10日木曜日

東大寺展 あべのハルカス美術館

大阪出張で時間ができたので、天王寺に新しくできた「あべのハルカス」の中にある「あべのハルカス美術館」へ。

今は開館記念特別展ということで、2014年3月22日から5月18日まで、「東大寺展」が開催されています。

「あべのハルカス美術館」のWEBを見ると、特徴は(1)ターミナル立地の都市型美術館、(2)国宝も展示可能な設備、(3)近鉄沿線の文化財をはじめ、日本・東洋・西洋・現代と多彩な展覧会を企画とあります。正直なところ、なんだか良くわかりません。近鉄が力をいれて開設した美術館であることは間違いないようです。

今回は最初の展覧会ということもあって、国宝《誕生釈迦仏立像・灌仏盤》、重要文化財《木造弥勒仏座像》など、国宝や重文が多数出展されていて、見ごたえはあります。

私は、《執金剛神立像》の彩色を東京芸大と理科大が再現したCGに興味がありました。うーん、当時はこんな極彩色だったんだ・・・。

天王寺の近くに行かれるかたは、寄ってみたらどうでしょう。

この美術館の今後の展覧会予定を見ると、今BUNKAMURAで開催されている「ミラノ ボルディ・ベッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション」の巡回、「デュフィ展」、「新印象派光と色のドラマ」、「高野山開創1200年記念 高野山の名宝」となっています。今後は、東京のBUNKAMURA的な路線を目指すのでしょうか?

2014年3月31日月曜日

シャガール展 静岡市美術館

もう終了してしまいましたが、静岡市美術館で開催されていたシャガール展を観ての観想です。この展覧会は2013年の夏から、北海道立近代美術館、宮城県美術館、広島県立美術館、静岡市美術館と巡回し、最後に2014年4月から愛知県美術館で開催されます。

展覧会コンセプトは60才を過ぎたシャガールが、1950年以降、歌劇場、美術館、大聖堂などの大きな空間を飾る作品を制作したのを見ていこうという企画です。

シャガールは、天上画、ステンドグラスなどの様々なフォーマットの中でも、シャガールが獲得したシャガールらしい表現を行っているように見えます。奥行きの無い平面性を強調する絵の具の表現、稚拙ともいえる形象の中に懐かしいようなシンボルを見いだす表現。20世紀後半の作品としてのコンテンポラリーな感じの無さが、劇場、教会などという伝統的な建造物とマッチしているようです。

私の個人的な観想としては、馴染みのシンボルに囲まれる気持ち良さと、20世紀後半の表現がこれで良いのかという思いが交差した、というのが正直な所です。

興味がある方は、名古屋に行ってみると良いと思います。


2014年3月16日日曜日

「幻触」と石子順造 静岡県立美術館

この展覧会は、放っておけない展覧会でしたが、ブログに書きにくい展覧会でした。そこで、展覧会に行った順とブログの順が逆転してしまいました。

展覧会には、静岡で結成された「幻触」というグループとそれに関わった評論家石子順造にまつわる作品や資料が展示されています。

ブログに書きにくかったわけは、まだまだ理解が及ばないことが多いためだと思います。
  • 『幻触」というグループがなぜ静岡で結成されたのか、それは東京や関西のアーティストの活動と何が異なっていたのか
  • 評論家とアーティストはどのような関係だったのか、
  • 今回も展示されている「ハイレッド・センター」や「もの派」との関係は?
  • 「幻触」の思想はどう引継がれていったのか
そんなことが気になります。

今ちょうど、東京国立近代美術館で「あなたの肖像 工藤哲巳展」が、渋谷区立松濤美術館で「ハイレッド・センター 直接行動の奇跡」が開催されています。この展覧会と合わせて、1960年代とは何かもう一度確認したいという思いが強くなっています。

「「幻触」と石子順造」展は、静岡県立美術館で2014年3月23日までの開催です。


相国寺承天閣美術館 円山応挙展

京都でちょっとイベントがあり泊りがけで行ってきました。二日目には時間が空いたので、相国寺承天閣美術館で開催されている「円山応挙展」へ。

今回珍しいところでは、応挙本邦初公開の相国寺開山堂襖絵、与謝蕪村の慈照寺方丈襖絵などがありました。応挙作品は、定番の《牡丹孔雀図》、《朝顔狗子図》などを含めて20点以上展示されています。さらに応挙が研究に使ったような明朝の絵画が展示されたり、弟子の長沢蘆雪、原在中の作品もあり楽しめます。

この展示を見て、改めて、写生と言いながら単純な写実で無い、応挙の表現の多様性に感心しました。開館三十周年記念「円山応挙展」は2014年3月23日までです。

今回の京都でのイベントは、いい年をしての大学(京都造形芸術大学)の通信教育部卒業式だったので、まだ桜は咲いていませんが、春の気分での美術館巡りでした。

2014年3月9日日曜日

ハイレッド・センター 直接行動の軌跡展 松濤美術館

ハイレッド・センターは高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之により1963年に結成された美術家のグループ。今回の展覧会は、ハイレッド・センター結成50周年にちなんだもので、名古屋市美術館から渋谷区立松濤美術館に巡回されています。

ハイレッド・センターの位置づけを鳥瞰的に見れば、辻惟雄の『日本美術の歴史』にあるように、ダダ、ネオダダの日本に於ける表れだと考えられます。もう少し、その時代にズームしてみるならば、1950年代から1960年代初頭にかけては、政治的・社会的問題を意識したルポルタージュ絵画などが出現し、フランスのミシェル・タピエが仕掛けたアンフォルメルがブームを呼び、読売アンデパンダン展の中で芸術表現の拡張が模索がされた時代です。1960年代になると、アメリカのネオ・ダダなどと通底する従来の絵画・彫刻を超えたアート概念が提唱されていきます。「反芸術」がいわれたのもこの時期になります。このような時代にハイレッド・センターが出現してきます。

今回の展覧会では、ハイレッド・センターが行ったハプニング(今の言い方ならパフォーマンス)である、「山手線のフェスティバル」、「第5次ミキサー計画」、「第6次ミキサー計画」、「シェルター計画」、「大パノラマ展」、「ドロッピング・ショー」、「首都圏清掃整理促進運動」などの記録が展示されています。また、意図せず行うことになった「模型千円札裁判」に関しても充実した資料が展示されています。さらに各作家の代表的な作品の展示もあります。

この展覧会に行かれたら、ぜひ図録(2000円)も買って資料(証拠?)を精査し、目撃者気分・共犯者気分を味わうことをお勧めします。展覧会の楽しみが倍加します。

私には、「後に残らない行動自体をアートとする」芸術概念の拡張を目の当たりにすることも刺激的でしたが、個々の作家のアーティストとしての力量にも惹かれました。高松次郎の紐を使ったり影を使ったりする空間表現の追求、中西夏之のプラスチック・砂・洗濯バサミなど物質への執着、赤瀬川原平のオブジェクトを異化するコラージュ作家としての面白さに関心しました。

松濤美術館での「ハイレッド・センター 直接行動の奇跡展」は2014年3月23日までです。今東京国立近代美術館で開催されている「工藤哲巳回顧展」と共に観ると、この時代が良くわかると思います。


2014年2月23日日曜日

イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる 国立新美術館

大阪に国立民俗学博物館があるのは知っていましたが、これまで行く機会は逸していました。今、そのコレクションの中からイメージに着目した展覧会が、東京の国立新美術館で始まったので早速行ってきました。

入るとすぐにパプアニューギニアをはじめとする仮面に出迎えられます。アートというよりも民俗学の地味な資料なのでないかと思っているところに、一発ガーンときます。その後は高さ6メートルを超えるような葬送に使う塔とか、チベットの仏教美術とかあって、息もつけないほど引き込まれます。

後半の展示では、現代の文明が各地の地元の文明とどう重なりあっていくのかというテーマになります。ビール瓶形の棺桶やメルセデスベンツ形の棺桶など、なかなか見られないものがあります。最後は日常使う道具を美術館に持ち込むとどうなるかという展示になっています。

ヨーロッパのルネサンス以降のアートや、中国の宋時代以降の洗練されたアートも良いですが、人間が造形にいかに関わってきたのを考える時、その原点につながると言えるような様々な民族の造形表現にぜひ触れてみたいものです。金曜日の夜に行ったのですが、お客さんがそれほど多くなかったのをたいへん残念に思いました。

「イメージの力 国立民族学博物館コレクションにさぐる」は2014年6月9日まで国立新美術館で開催です。

展示内容の詳細は、国立新美術館のWEBへ ⇒
http://www.nact.jp/exhibition_special/2013/power_of_images/

2014年2月16日日曜日

アンディ・ウォーホル展 永遠の15分 森美術館

20世紀らしいアーティストを一人挙げるとすると、それはアンディ・ウォーホルではないでしょうか。ウォーホルは、産業社会から消費社会へ変わっていく中で、題材としてパッケージに入った食材や、マリリン・モンローや毛沢東などのアイコンを使いました。また複製の時代に相応しく、複製することをアートとして見せました。そして、アーティストを、職人でも、孤高の人でもない、ビジネス・パーソンとしました。

そんなアンディ・ウォーホルの全貌を紹介するのが、今、森美術館で開催されている「アンディ・ウォーホル展 永遠の15分」です。この展覧会は、ウォーホル没後25周年を記念して、アメリカのペッツバーグにあるアンディ・ウォーホル美術館の収蔵品を中心に構成され、2012年からシンガポール、香港、上海、北京と巡回していました。今回の東京が最後の巡回地になります。展覧会では、ウォーホルが商業デザイナーだったころから晩年までの活動全体がカバーされ、展示も、シルクスクリーン作品ばかりでなく、ウォーホルが制作を行ったシルバー・ファクトリーの一部が原寸大で再現されていたり、実験映画の映像作品があったりと多彩です。

私にとっては、マリリンや、キャンベル・スープ缶などは、いつものという感じでしたが。初期のデザイン、ファクトリーの再現、縫合写真、ヴィデオ作品、タイムカプセルなど、今まで見たことが無い作品や資料も多く、ウォーホルを改めて知る良い機会になりました。

20世紀美術に関心がある方には見逃せない展覧会だと言えると思います。「アンディ・ウォーホル展 永遠の15分」は森美術館で、2014年2月1日から5月6日まで開催されています。


http://www.mori.art.museum/contents/andy_warhol/about/index.html

2014年2月10日月曜日

ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860−1900 三菱一号館美術館

今三菱一号館美術館で「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860−1900」展が開催されています。19世紀の英国絵画と言うとターナーとラファエル前派が有名ですが、ラファエル前派は1948年に結成された後、1853年頃にはもう自然解散してしまいます。その後は、ラファエル前派に参加したダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ジョン・エヴァレット・ミレイ、ウィリアム・ホフマン・ハントは,それぞれ唯美主義へと繋がる活動を進めることになります。唯美主義はオスカー・ワイルドなどの文学のムーヴメントとしては知られていても絵画のムーヴメントとしてはあまり知られていないような気がしますが、今回の「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860−1900」は、そこに焦点をあてています。

展覧会は、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の所蔵品を中心に、絵画作品だけでなく、陶器、壁紙のデザイン、家具、建物のデザイン図、写真と多様です。これは唯美主義が、美しい絵画を求めるだけでなく、生活環境を美的にすること狙っていたことを示しています。

私が、ロセッティや、「オリンピアの画家たち」といわれたフレデリック・クレイトン、アルバート・ムーアの「美しい絵」と同じくらい気になったのは、

  • 唯美主義の作家たちの中で異色な、アメリカで生まれ、パリで絵画を習得し、ロンドンで活躍した、ジェイムス・マクニール・ホイッスラーの《ノクターン:黒と金−輪転花火》。ホイッスラーは、美しいものを求めるだけでない、絵画に革新を求めるアーティストです。
  • ウィリアム・モリス、ウォルター・クレイトンなどの壁紙。第二次世界大戦後、抽象表現主義の画家たちはオールオーヴァの絵を、壁紙のようだといわれて腹をたてましたが、この展覧会ではハイ・アートと言われるものと、装飾用の壁紙が並んでいます。アートとは何か、装飾とは何か、考えさせられます。
  • ローレンス・アルマ=タデマの《肘掛け椅子》。こんな形の椅子は見たことがない。無条件に一つ欲しい。もちろん、これが合う部屋といっしょに。こんな品物に出会えるのもこの展覧会の魅力になっています。


「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860−1990」展は、とにかく美しいと言われているものを見たい人、19世紀英国の美術はどんなものだったのかに興味がある人にお薦めです。三菱一号館美術館で2014年5月6日まで開催されています。

2014年2月4日火曜日

あなたの肖像ー工藤哲巳回顧展 東京国立近代美術館

昨年末から今年にかけて大阪の国立国際美術館で開催されていた「あなたの肖像ー工藤哲巳回顧展」が東京国立近代美術館に巡回してきましたので、早速行ってみました。

工藤哲巳(1935−1990)は、1960年の第12回読売アンデパンダン展の出展作を美術批評家の東野芳明が「反芸術」として称揚したことで有名なので、ぜひその作品をまとめて観たいと思っていました。

展示は、年代順に、「Ⅰ 1956−1962「反芸術」から「インポ哲学」まで」、「Ⅱ 1962−1969「あなたの肖像」から「放射能による養殖」まで」、「Ⅲ 1969−1970一時帰国、《脱皮の記念碑》の制作」、「Ⅳ 1970−1975「イヨネスコの肖像」から「環境汚染ー養殖ー新しいエコロジー」まで」、「Ⅴ 1975−1979「危機の中の芸術家の肖像」から「遺伝染色体の雨の中で啓示を待つ」まで」、「Ⅵ 1980−1990「パラダイス」から「天皇制の構造」、そして「前衛芸術家の魂」まで」、の6章からなっています。

初期のオールオーヴァーな抽象表現主義的な絵画作品と、晩年のメッセージの抽象性を高めた作品を除くと、生殖器、内蔵のねばねばした感触、眼球や脳髄、細胞の増殖、皮膚の残骸など、生命体の不気味さを強調した不快感をいだかせるような作品が溢れています。その前にたつと、それぞれの作品が、これはあなたの肖像だと挑発してきます。芸術作品とは、その前に立つ観者にコミュニケーションをしかけてくるものだとすると、まさにこの工藤哲巳の作品は芸術作品だといえます。あなたは、見かけを繕っているけれど、中身はこの作品と同じではないのと迫ってきます。「芸術家の肖像」シリーズの前では、博物館でミイラが並んだ部屋に入ってしまい、見たくはないれど目がいってしまうような状況におちいります。

第二次世界大戦後の美術家として、一つの方向に突き進んだ所に、工藤哲巳はいるようです。現代美術に興味がある方は、ぜひ行ってみると良いと思います。でもその時には、現代美術に馴染みのない方を誘うのはやめましょう。変な人だと思われる危険性が大です。
東京国立近代美術館で、「あなたの肖像ー工藤哲巳回顧展」は2014年3月30日まで開催です。

(蛇足でよけいなお世話ですが、図録は分厚く重いので、買う時にはそのつもりで。)


2014年2月2日日曜日

ブリティッシュ・カウンシル・コレクション 東京ステーションギャラリー

今、東京ステーションギャラリーでブリティッシュ・カウンシル・コレクションから「プライベート・ユートピア ここだけの場所」が開催されています。

ブリティッシュ・カウンシルは、1934年にイギリスに設立された国際文化交流機関で、世界にイギリスの文化を広げることを目的とし、英語、アーツ、教育と社会に関する活動を行っています。ブリティッシュ・カウンシル自体は展示施設を持ちませんが、20世紀なかごろから、キャリアを積んでいない若手イギリスのアーティストの作品を購入し、ルシアン・フロイト、ヘンリー・ムーア、バーバラ・へップワース、ベン・ニコルソンをはじめとする現代作家の、8500点を超える作品を収集しています。

今回は、そのブリティッシュ・カウンシルのコレクションの中から選ばれた28人の作家の作品が展示されています。そのうちの5人は毎年イギリスを代表する現代美術の作家に贈られるターナー賞の受賞者です。「昔々あるところに・・・」「喜劇と悲劇の幕間に」「見たことのない景色の中で」「わたしの在り処」「’ちょっと拝借’の流儀」の5つの章に分けて展示されています。すべてが1990年後半以降の作品のため、20世紀中頃までの表現の純粋性を追求するようなモダニズム的指向は希薄で、個人のプライベートな関心事に拘り、個人をベースにしてなんらかのつながりを探し求めるような作品が多いように感じました。

興味があれば、東京ステーションギャラリーのウェブ http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/now.html だけでなく、こちらのブリティッシュ・カウンシルのウェブ http://www.britishcouncil.jp/private-utopia も見てから行くと良いと思います。

私のお気に入りは、

  • サイモン・スターリングの、スペイン原産のシャクナゲを、外来植物となってしまっているスコットランドから、再びスペインへ返しにいく場面を写真の連作にした、《シャクナゲを救う/7本のシャクナゲをスコットランドのエルリック・ヒルから救いだし、1763年にクラース・アルステーマによってもたらされる以前に植えられていたスペインのロス・アルコルノカレス公国へ移植する》という作品。


  • ハルーン・ミルザの、テレビの中に料理をする映像が写り、ノイジーな音が流れる、《タカ・タック》という作品。
現代のイギリス美術の動向を伝える、「プライベート・ユートピア ここだけの場所」は東京ステーション・ギャラリーで、2014年3月9日まで。場所も東京駅で便利なので、普段は現代美術を見ることのない方もちょっと立寄ってみてはどうでしょうか。




2014年1月26日日曜日

クリーブランド美術館展 東京国立博物館

「クリーブランド美術館展」が東京国立博物館で開催されています。クリーブランド美術館はクリーブランドの実業家たちにより、1913年に設立され1916年にオープンした美術館で、コレクションは、エジプト・中近東、ギリシャ・ローマ、ヨーロッパ、アメリカ、アメリカ原住民、中国、インド・東南アジア、現代、工芸、素描と全方位で、そこには日本美術も入っています。2000点に迫る日本美術コレクションの大部分は、第二次世界大戦後の混乱期に日本から流出したものだそうです。

今回の展覧会は、そのクリーブランド美術館から日本の絵画の里帰りという趣向で、平成館の2階の半分を使って開催されています。章立ては「神・仏・人」、「花鳥風月」、「物語世界」、「近代西洋の人と自然」、「山水」です。展覧会カタログでは「神・仏・人」「花鳥風月」「山水」、「物語世界」、「近代性用の人と自然」の順になっていますから、展示場の都合で順序が入れ替わったのでしょう。

私が関心を持った作品を少し挙げると、次のようになります。

  • 鎌倉時代の《二河白道図》。阿弥陀の浄土へ行く道は狭いが、釈迦如来に励まされて行くことができるという話です。今回展示されている絵に関して、展覧会カタログに詳しく解説したテキストが載っているので、興味がある方はそれを読んでみると面白いと思います。
  • 鎌倉時代の《融通念仏縁起絵巻》。「融通念仏縁起絵巻」の最古の伝本だということです。
  • 室町時代の《厩図屏風》。本展覧会とは関係ないのですが、つい最近観た山口晃の《厩図》を思い出して笑ってしまいました。
  • 雪村周継《龍虎図屏風》。雪村は16世紀に関東を中心に活躍した画僧で雪舟に私淑したといわれています。雪村は《呂洞賓図》の龍が有名ですが、クリーブランドの龍もかなり良く、強い「気」を感じさせます。左隻の虎は猫のようですが愛嬌があります。
  • 日本の絵ではありませんが、米友仁《雲山図巻》。米友仁は米芾(ベイフツ)の子で米法山水の基を作りました。今回展示の作品は解説に後補が多いと書かれているが、南宋の山水を感じることができます。
  • 曽我蕭白《蘭亭曲水図》。蕭白おなじみの変な仙人はいませんが、蕭白にかかると普通の風景もなにか怪しくなります。
  • 深江蘆舟《蔦の細道図屏風》。蘆舟は尾形光琳に学んだ絵師。伊勢物語第九段「宇津山」に題をとった作品で、日本の絵の色彩の美しさを改めて感じることができます。


「クリーブランド美術館展 名画でたどる日本の美」は、ぜひ行ってみたい展覧会にです。東京国立博物館で2014年2月23日まで開催。

2014年1月25日土曜日

シャヴァンヌ展 Bunkamuraザ・ミュージアム

シャヴァンヌは、代表的な西洋美術通史の、ゴンブリッチの『美術の物語』やH.W.ジャンソンの『西洋美術の歴史』では全く触れられてなく、美術出版社の『カラー版西洋美術史』に165文字だけ記述があるだけですから、あまり知られていない画家といえるでしょう。そのシャヴァンヌの全貌を明らかにする、「シャヴァンヌ展」が、現在Bunkamuraザ・ミュージアムで開催され、3月には島根県立美術館に巡回されます。

ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(1824-1898)は、フランスで写実主義や印象主義などと並行して現われた抽象主義の画家の一人だといわれていますが、その主要な作品はほとんど壁面装飾なので、大原美術館などに国内所蔵品はあるものの、日本ではなかなか観ることができない画家でした。今回の展覧会では、壁画の習作や、壁画を描いた後に制作した縮小作品を、各地の美術館所蔵品や個人所蔵品を集めて、シャヴァンヌの画業に迫る企画になっています。

今回の展覧会を観て、シャヴァンヌは公共施設がその壁を壁画で飾った時代の、壁画制作のスペシャリストだったのだという感じを持ちます。絵の主題は、アルカディアでの理想的な生活、「幻想」「警戒」「瞑想」「歴史」などの寓意画など、美術館などの公共施設の壁を飾るのに相応しいものです。画面は明暗差を大きくとらず、淡い色で塗り分けたもので、建物との調和が考えられているといえるでしょう。画面構成は強い透視遠近法表現を使わず、むしろそれに反するような描写もあり、壁に穴があいているように見えないようになっています。そのかわり、空気遠近法による表現が大きな自然の空間を感じさせます。人物には彫塑的な立体感はなく、そのポーズで人物を表現しています。平面を強調した画面、描かれる対象の再現よりも色面の強調などは、後のモーリス・ドニなどに繋がるものを感じさせます。

今回シャヴァンヌの頂点を極める壁画そのものを観られないのは残念ですが、それを想像することができるような、作品が集められています。19世紀のアルカディアに憧れる気分を体験してみたい方にも、絵画表現が近代的なものにいかに転換していったのかを知りたい方にも、お薦めの展覧会になっています。「シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア ビュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界」はBunkamuraザ・ミュージアムで2014年3月9日まで開催されています。

2014年1月10日金曜日

山口晃展 群馬県立館林美術館

今週末までの会期の展覧会がたくさんあるのに、見逃しているものが多い、少しでもカバーしておかなくてはということで、最初に選んだのが群馬県立館林美術館で開催されている「山口晃展」。

群馬県立館林美術館に行くのは初めてです。この美術館は群馬県で2番目の県立美術館で、県の東側にも美術館が欲しいということで、作られた美術館だそうです。開館は2001年です。近現代美術を対象とする美術館で、テーマは「自然と人間」だそうで、フランソワ・ポンポンの《シロクマ》などをコレクションしています。どのような活動をしているのかと、昨年の企画展をみると「山口晃展」の他には「籔内佐斗司展 やまとぢから」「鹿島茂 バルビエXラブルール展 アール・デコのモダンなイラストレーション」ですから、かなり個性的です。

今回、2013年10月12日から2014年1月13日まで開催されている「山口晃展」は、現代美術家として人気のある山口晃(1969- )の、子供のころのお絵描きから、東京藝術大学のころの作品、最近の先品まで、作品を集大成しているといえます。館林から乗ったタクシーの運転手さんは、美術館にこんなに人が来ているのは今までなかった、北海道や関西の人も来ていて、週末は駐車場も一杯になっていると言っていました。「山口晃展」は大人気です。

山口晃の作品は、髙橋コレクションの展覧会などで、観たことはありますが、こんなに一堂に会していると大迫力です。江戸以前の日本の絵画様式を転用しながら、発想の赴くままに、確かな技術力を駆使して、制作した遊び心あふれる作品が多いようです。《百貨店圖 日本橋三越》、《九相圖》、《五武人圖》、《厩圖》などなど。そうかと思うと、《頼朝像図版写し》など、「何を観ているの」と問いかけるようなコンセプチュアルな問題提起の作品もあります。《中西夏之氏公開制作之圖》、《澁澤龍彦著『獏園』挿絵原画》なども見所でしょうか。

図録は予約で3月にできるということでしたので、申し込んで帰ってきました。