ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(1824-1898)は、フランスで写実主義や印象主義などと並行して現われた抽象主義の画家の一人だといわれていますが、その主要な作品はほとんど壁面装飾なので、大原美術館などに国内所蔵品はあるものの、日本ではなかなか観ることができない画家でした。今回の展覧会では、壁画の習作や、壁画を描いた後に制作した縮小作品を、各地の美術館所蔵品や個人所蔵品を集めて、シャヴァンヌの画業に迫る企画になっています。
今回の展覧会を観て、シャヴァンヌは公共施設がその壁を壁画で飾った時代の、壁画制作のスペシャリストだったのだという感じを持ちます。絵の主題は、アルカディアでの理想的な生活、「幻想」「警戒」「瞑想」「歴史」などの寓意画など、美術館などの公共施設の壁を飾るのに相応しいものです。画面は明暗差を大きくとらず、淡い色で塗り分けたもので、建物との調和が考えられているといえるでしょう。画面構成は強い透視遠近法表現を使わず、むしろそれに反するような描写もあり、壁に穴があいているように見えないようになっています。そのかわり、空気遠近法による表現が大きな自然の空間を感じさせます。人物には彫塑的な立体感はなく、そのポーズで人物を表現しています。平面を強調した画面、描かれる対象の再現よりも色面の強調などは、後のモーリス・ドニなどに繋がるものを感じさせます。
今回シャヴァンヌの頂点を極める壁画そのものを観られないのは残念ですが、それを想像することができるような、作品が集められています。19世紀のアルカディアに憧れる気分を体験してみたい方にも、絵画表現が近代的なものにいかに転換していったのかを知りたい方にも、お薦めの展覧会になっています。「シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア ビュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界」はBunkamuraザ・ミュージアムで2014年3月9日まで開催されています。
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