2014年2月23日日曜日

イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる 国立新美術館

大阪に国立民俗学博物館があるのは知っていましたが、これまで行く機会は逸していました。今、そのコレクションの中からイメージに着目した展覧会が、東京の国立新美術館で始まったので早速行ってきました。

入るとすぐにパプアニューギニアをはじめとする仮面に出迎えられます。アートというよりも民俗学の地味な資料なのでないかと思っているところに、一発ガーンときます。その後は高さ6メートルを超えるような葬送に使う塔とか、チベットの仏教美術とかあって、息もつけないほど引き込まれます。

後半の展示では、現代の文明が各地の地元の文明とどう重なりあっていくのかというテーマになります。ビール瓶形の棺桶やメルセデスベンツ形の棺桶など、なかなか見られないものがあります。最後は日常使う道具を美術館に持ち込むとどうなるかという展示になっています。

ヨーロッパのルネサンス以降のアートや、中国の宋時代以降の洗練されたアートも良いですが、人間が造形にいかに関わってきたのを考える時、その原点につながると言えるような様々な民族の造形表現にぜひ触れてみたいものです。金曜日の夜に行ったのですが、お客さんがそれほど多くなかったのをたいへん残念に思いました。

「イメージの力 国立民族学博物館コレクションにさぐる」は2014年6月9日まで国立新美術館で開催です。

展示内容の詳細は、国立新美術館のWEBへ ⇒
http://www.nact.jp/exhibition_special/2013/power_of_images/

2014年2月16日日曜日

アンディ・ウォーホル展 永遠の15分 森美術館

20世紀らしいアーティストを一人挙げるとすると、それはアンディ・ウォーホルではないでしょうか。ウォーホルは、産業社会から消費社会へ変わっていく中で、題材としてパッケージに入った食材や、マリリン・モンローや毛沢東などのアイコンを使いました。また複製の時代に相応しく、複製することをアートとして見せました。そして、アーティストを、職人でも、孤高の人でもない、ビジネス・パーソンとしました。

そんなアンディ・ウォーホルの全貌を紹介するのが、今、森美術館で開催されている「アンディ・ウォーホル展 永遠の15分」です。この展覧会は、ウォーホル没後25周年を記念して、アメリカのペッツバーグにあるアンディ・ウォーホル美術館の収蔵品を中心に構成され、2012年からシンガポール、香港、上海、北京と巡回していました。今回の東京が最後の巡回地になります。展覧会では、ウォーホルが商業デザイナーだったころから晩年までの活動全体がカバーされ、展示も、シルクスクリーン作品ばかりでなく、ウォーホルが制作を行ったシルバー・ファクトリーの一部が原寸大で再現されていたり、実験映画の映像作品があったりと多彩です。

私にとっては、マリリンや、キャンベル・スープ缶などは、いつものという感じでしたが。初期のデザイン、ファクトリーの再現、縫合写真、ヴィデオ作品、タイムカプセルなど、今まで見たことが無い作品や資料も多く、ウォーホルを改めて知る良い機会になりました。

20世紀美術に関心がある方には見逃せない展覧会だと言えると思います。「アンディ・ウォーホル展 永遠の15分」は森美術館で、2014年2月1日から5月6日まで開催されています。


http://www.mori.art.museum/contents/andy_warhol/about/index.html

2014年2月10日月曜日

ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860−1900 三菱一号館美術館

今三菱一号館美術館で「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860−1900」展が開催されています。19世紀の英国絵画と言うとターナーとラファエル前派が有名ですが、ラファエル前派は1948年に結成された後、1853年頃にはもう自然解散してしまいます。その後は、ラファエル前派に参加したダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ジョン・エヴァレット・ミレイ、ウィリアム・ホフマン・ハントは,それぞれ唯美主義へと繋がる活動を進めることになります。唯美主義はオスカー・ワイルドなどの文学のムーヴメントとしては知られていても絵画のムーヴメントとしてはあまり知られていないような気がしますが、今回の「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860−1900」は、そこに焦点をあてています。

展覧会は、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の所蔵品を中心に、絵画作品だけでなく、陶器、壁紙のデザイン、家具、建物のデザイン図、写真と多様です。これは唯美主義が、美しい絵画を求めるだけでなく、生活環境を美的にすること狙っていたことを示しています。

私が、ロセッティや、「オリンピアの画家たち」といわれたフレデリック・クレイトン、アルバート・ムーアの「美しい絵」と同じくらい気になったのは、

  • 唯美主義の作家たちの中で異色な、アメリカで生まれ、パリで絵画を習得し、ロンドンで活躍した、ジェイムス・マクニール・ホイッスラーの《ノクターン:黒と金−輪転花火》。ホイッスラーは、美しいものを求めるだけでない、絵画に革新を求めるアーティストです。
  • ウィリアム・モリス、ウォルター・クレイトンなどの壁紙。第二次世界大戦後、抽象表現主義の画家たちはオールオーヴァの絵を、壁紙のようだといわれて腹をたてましたが、この展覧会ではハイ・アートと言われるものと、装飾用の壁紙が並んでいます。アートとは何か、装飾とは何か、考えさせられます。
  • ローレンス・アルマ=タデマの《肘掛け椅子》。こんな形の椅子は見たことがない。無条件に一つ欲しい。もちろん、これが合う部屋といっしょに。こんな品物に出会えるのもこの展覧会の魅力になっています。


「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860−1990」展は、とにかく美しいと言われているものを見たい人、19世紀英国の美術はどんなものだったのかに興味がある人にお薦めです。三菱一号館美術館で2014年5月6日まで開催されています。

2014年2月4日火曜日

あなたの肖像ー工藤哲巳回顧展 東京国立近代美術館

昨年末から今年にかけて大阪の国立国際美術館で開催されていた「あなたの肖像ー工藤哲巳回顧展」が東京国立近代美術館に巡回してきましたので、早速行ってみました。

工藤哲巳(1935−1990)は、1960年の第12回読売アンデパンダン展の出展作を美術批評家の東野芳明が「反芸術」として称揚したことで有名なので、ぜひその作品をまとめて観たいと思っていました。

展示は、年代順に、「Ⅰ 1956−1962「反芸術」から「インポ哲学」まで」、「Ⅱ 1962−1969「あなたの肖像」から「放射能による養殖」まで」、「Ⅲ 1969−1970一時帰国、《脱皮の記念碑》の制作」、「Ⅳ 1970−1975「イヨネスコの肖像」から「環境汚染ー養殖ー新しいエコロジー」まで」、「Ⅴ 1975−1979「危機の中の芸術家の肖像」から「遺伝染色体の雨の中で啓示を待つ」まで」、「Ⅵ 1980−1990「パラダイス」から「天皇制の構造」、そして「前衛芸術家の魂」まで」、の6章からなっています。

初期のオールオーヴァーな抽象表現主義的な絵画作品と、晩年のメッセージの抽象性を高めた作品を除くと、生殖器、内蔵のねばねばした感触、眼球や脳髄、細胞の増殖、皮膚の残骸など、生命体の不気味さを強調した不快感をいだかせるような作品が溢れています。その前にたつと、それぞれの作品が、これはあなたの肖像だと挑発してきます。芸術作品とは、その前に立つ観者にコミュニケーションをしかけてくるものだとすると、まさにこの工藤哲巳の作品は芸術作品だといえます。あなたは、見かけを繕っているけれど、中身はこの作品と同じではないのと迫ってきます。「芸術家の肖像」シリーズの前では、博物館でミイラが並んだ部屋に入ってしまい、見たくはないれど目がいってしまうような状況におちいります。

第二次世界大戦後の美術家として、一つの方向に突き進んだ所に、工藤哲巳はいるようです。現代美術に興味がある方は、ぜひ行ってみると良いと思います。でもその時には、現代美術に馴染みのない方を誘うのはやめましょう。変な人だと思われる危険性が大です。
東京国立近代美術館で、「あなたの肖像ー工藤哲巳回顧展」は2014年3月30日まで開催です。

(蛇足でよけいなお世話ですが、図録は分厚く重いので、買う時にはそのつもりで。)


2014年2月2日日曜日

ブリティッシュ・カウンシル・コレクション 東京ステーションギャラリー

今、東京ステーションギャラリーでブリティッシュ・カウンシル・コレクションから「プライベート・ユートピア ここだけの場所」が開催されています。

ブリティッシュ・カウンシルは、1934年にイギリスに設立された国際文化交流機関で、世界にイギリスの文化を広げることを目的とし、英語、アーツ、教育と社会に関する活動を行っています。ブリティッシュ・カウンシル自体は展示施設を持ちませんが、20世紀なかごろから、キャリアを積んでいない若手イギリスのアーティストの作品を購入し、ルシアン・フロイト、ヘンリー・ムーア、バーバラ・へップワース、ベン・ニコルソンをはじめとする現代作家の、8500点を超える作品を収集しています。

今回は、そのブリティッシュ・カウンシルのコレクションの中から選ばれた28人の作家の作品が展示されています。そのうちの5人は毎年イギリスを代表する現代美術の作家に贈られるターナー賞の受賞者です。「昔々あるところに・・・」「喜劇と悲劇の幕間に」「見たことのない景色の中で」「わたしの在り処」「’ちょっと拝借’の流儀」の5つの章に分けて展示されています。すべてが1990年後半以降の作品のため、20世紀中頃までの表現の純粋性を追求するようなモダニズム的指向は希薄で、個人のプライベートな関心事に拘り、個人をベースにしてなんらかのつながりを探し求めるような作品が多いように感じました。

興味があれば、東京ステーションギャラリーのウェブ http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/now.html だけでなく、こちらのブリティッシュ・カウンシルのウェブ http://www.britishcouncil.jp/private-utopia も見てから行くと良いと思います。

私のお気に入りは、

  • サイモン・スターリングの、スペイン原産のシャクナゲを、外来植物となってしまっているスコットランドから、再びスペインへ返しにいく場面を写真の連作にした、《シャクナゲを救う/7本のシャクナゲをスコットランドのエルリック・ヒルから救いだし、1763年にクラース・アルステーマによってもたらされる以前に植えられていたスペインのロス・アルコルノカレス公国へ移植する》という作品。


  • ハルーン・ミルザの、テレビの中に料理をする映像が写り、ノイジーな音が流れる、《タカ・タック》という作品。
現代のイギリス美術の動向を伝える、「プライベート・ユートピア ここだけの場所」は東京ステーション・ギャラリーで、2014年3月9日まで。場所も東京駅で便利なので、普段は現代美術を見ることのない方もちょっと立寄ってみてはどうでしょうか。