2012年7月23日月曜日

貞慶展 金沢文庫

神奈川県の金沢文庫で「御遠忌800年記念特別展 解脱上人貞慶」展が行われています。いつものセミナーの皆さんと行ってきました。

貞慶は作家ではなく平安時代末期から鎌倉時代にかけての高僧です。ですからこの展覧会は空海展や法然展といった種類の展覧会です。遠忌というのは50年以上経った年忌ですから、貞慶の没後800年を記念しての展覧会ということになります。

貞慶は当時あらわれた法然や親鸞の浄土宗や浄土真宗に対抗する、南都仏教の法相宗の高僧になります。法相宗は玄奘三蔵を元にして慈恩を祖とする宗派で、「個人にとってのあらゆる諸存在が、唯(ただ)、八種類の識によって成り立っている」という唯識論を信奉しています。有名な運慶の「無箸」「世親」の像は法相宗の僧です。

今回の展覧会では、貞慶ゆかりの、笠置寺、海住山寺や、興福寺、春日大社に関わる、展示がされています。

私の見所リストは、

  • 《春日権現験記絵》第十一巻、宮内庁三の丸尚蔵館
  • 《興福寺曼荼羅図》、京都国立博物館
  • 《法相曼荼羅図》、根津美術館
  • 《春日宮曼荼羅》、バーネット&バートコレクション
  • 《弥勒菩薩立像》、東大寺中性院
  • 《釈迦如来立像》、峰定寺
  • 《四天王立像》、海住山寺
  • 《五重塔初層内陣扉絵》、海住山寺
この展覧会は、2012年6月8日から7月29日までです。東京からはちょっと遠いですが、鎌倉時代の絵画・彫刻に興味がある方は行ってみてはどうでしょうか。

2012年7月21日土曜日

奈良義智展 横浜美術館

今、横浜美術館で「奈良義智:君や僕にちょっと似ている」展が開催されています。横浜美術館では2001年にも大規模な奈良美智展を行っているので、11年ぶりにふたたび大きな展覧会をすることになります。

奈良美智は、「くせのありそうな子供」キャラクターを増殖させ変奏するアート、という印象を持っていたのですが、今回の展覧会ではその印象が少し変わりました。それは、表現の手法や、描かれる対象の類型が今までとは異なっているせいのようです。

最初に驚いたのは、会場を入って最初に大きなブロンズ像があったことです。《真夜中の巡礼者》《ノッポのお姉さん》《樅の木》など9点出展されています。テーマは子供ですが、等身像以上の大きさの像が、滑らかでない表面をもって造形されています。その存在感はかなりのものがあり、今までの紙の表現が、違う次元に飛んだように感じます。

また、これは絵の作品ですが、《Young Mother》という子供ではなく若い母親をテーマにした作品がありました、顔やポーズは子供の絵と同じですが、子供の像とは微妙に雰囲気が違っています。これは子供の延長としての母親なのか、新たなモンスターの発生なのか。

奈良美智はこれからどこに向かっているのでしょう。興味があります。

横浜美術館の「奈良義智:君や僕にちょっと似ている」展は2012年7月14日から9月23日までの開催です。

2012年7月13日金曜日

マウリッツハイス美術館展 東京都美術館

金曜日ですが休みをとれたので、マウリッツハイス美術館展に行ってみました。

混雑を心配している方もいらっしゃると思いますので、最初に混雑情報。金曜日午後2時半に到着でしたが、入場券を買った後、切符切りのところで入場制限をしていて、ここでの待ち時間は15分くらい。展覧会場の中の《真珠の耳飾りの少女》のところで絵の近くで見る人は列を作る仕掛けになっていて、ここでの待ち時間は20分くらいでした。

マウリッツハイス美術館は、オランダが全盛であった17世紀に、オランダ総督ウィレム5世とその子オランダ国王ウィレム1世が収集した作品を核とした収蔵品をもつ美術館です。現在、改装中ということで今回多くの作品が日本に貸し出されてきています。

当然、今回の展示も17世紀オランダとフランドルの絵画です。展覧会場は3フロアに分かれていて、地下一階からエスカレータで順次上がって行きます。地下一階は「美術館の歴史」「風景画」「歴史画」、一階は「肖像画とトリーニー」(トローニートは特定の人物の肖像画ではない人物像)、二階は「静物画」「風俗画」

展示の中で、気になったもの、気に入ったものを紹介します。
  • ヤーコブ・ファン・ライスダール《漂白場のあるハールレムの風景》1670−1675
    地平線を低い位置にとって、遠くにはハールレムの街が細かく描かれている。その上には雲が広がっている。光の具合が精妙。
  • ペーテル・パウル・ルーベンス《聖母被昇天(下絵)》1622−1625
    アントワープにある作品の下絵、下絵とはいえルーベンスが自ら描いたもので、ドラマチックな表現。
  • アンソニー・ヴァン・ダイク《アンナ・ウェイクの肖像》1628、《ペーテル・ステーフェンスの肖像》1627
    肖像画を描いてもらうならヴァン・ダイクが良いですね。ベラスケスなんかに描いてもらったら隠している悪意まで描かれてしまいそうだし、レンブラントに描いてもらったら年をとったところを曝け出されてしまいそうですが、ヴァン・ダイクなら注文主の期待を裏切ることがないでしょう。
  • カレル・ファブリティウス《ごしきひわ》1654
    小林頼子さんの『フェルメール論』では、フェルメールが影響を受けたデルフト派の画家としてこのファブリティウスをあげています。小さな作品ですが、壁とその前の鳥のいる空間をこんなふうに表現できるのに感心。
  • ヤン・ステーン《親に倣って子も歌う》1668−1670
    ヤン・ステーンお得意の風俗画です。大きな絵の中に、人がひしめいていて、空間も乱痴気騒ぎで歪んでいます。こんなことをしてはいけないという教訓画だそうですが、でも本当はこんなのが好きだったのではないかと思ってしまいます。
  • ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》1665
    フェルメールの絵は室内が描かれているものが多いのですが、この絵と、メトロポリタン美術館の《少女》は部屋は描かれず暗い背景に人物が表現されています。まわりに何もないだけ、見る人は描かれている少女に引きつけられていきます。ほら、こっちを見ていますよ。
止まらないで見てくださいと言われながら絵を鑑賞するのはいやですが、それでも一見の価値はあります。東京での開催は9月17日までです。その後9月27日から2013年1月6日まで神戸市立博物館に巡回です。

2012年7月7日土曜日

トーマス・デマンド展 会期は明日まで。東京都現代美術館

東京都現代美術館で「トーマス・デマンド」展が開催されています。トーマス・デマンドは現代ドイツの作家です。

トーマス・デマンドの作品は、人がものを認識する工程を意識させるようなものです。

東京都現代美術館では以前の企画展でもありましたが、今回も、最初の一巡はパンフレットなしで廻り、次いでパンフレットを見ながら廻ってくれというものでした。

最初の一巡。
いろいろな題材の模型を紙で作り、それを写真に撮った作品がならんでいて、「実物そっくり」「でもやっぱり紙で軽い感じ」「リアリティがないだけ奇麗」というのが感想。

パンフレットをもらっての一巡。
単に壁から外の光がもれている作品と思ったのは、ジャクソン・ポロックが使っていたアトリエの写真をもとにして、それを紙で再現し、さらにそれを写真にした作品であると判明。
単なるバスルームだと思ったのは、死体が風呂に浮かんでいるのを見つけた事件記者が、警察に届ける前に、中に踏み込んでスクープにしたことにより、物議をかもした写真を、紙で模型にして、それをさらに写真にした作品であると判明。
というような作品が続いて、頭がくらくらしてきます。
福島第一原子力発電所の事故後の制御室に最初に明かりをつけた時の写真から作った作品などもあります。

ものとは何、できごととは何、それを再現するとは何、表現するとは何、といろいろ考えさせられる展覧会です。

展覧会の会期はもう残り少なく、明日(7月8日)までですが、もしも明日時間がある方にはお勧めです


「具体」-ニッポンの前衛 18年の軌跡  国立新美術館

まだ戦争が終わって10年も経たない1954年に、当時の前衛的美術家が吉原治良のもとに集まり、具体美術協会「具体」を結成しました。それは18年続き1972年に吉原治良の死とともに終わりになります。この展覧会は、その日本の前衛美術ムーブメントを振り返ってみる展覧会です。

こういう展覧会を見に行く時、当時輝いたものが残念なものに変質していないかという危惧があります。まだ時間のフィルターにかかっていないが、賞味期限になってしまった作品に出会う危惧があるわけです。
当時の熱気を追体験できるか、それとも見たくないものを見てしまうのか。期待半分、怖さ半分で、展覧会会場に行きました。

国立新美術館一階の会場は、金曜日の夕方という事ですいています。

以下は感想です。

  • 「具体」が最初は展覧会を開くよりも、「具体」という冊子をつくり、自らの作品を国内外に知ってもらおう事に重点を置いていたという事は知りませんでした。「具体」の2号と3号はジャクソン・ポロックにも送られていました。これは美術家集団の試みとしては新しい試みですね。
  • 今年の2月から5月まで東京都現代美術館で田中敦子さんの展覧会が開催していましたが、そこにもあった作品が今回も展示されていました。現代美術館の時と同様に、ベルで大きな音を出す作品が、会場に鳴り響いています。田中敦子さんは今でも現代の作品として通用します。
  • 白髪一雄さんは、足で描くアクション・ペインティングで有名で、今回もそういった作品も展示されていましたが、私には、《超現代三番叟》という真っ赤で大きな舞台衣装に興味を引かれます。
  • 「具体」と「アンフォルメル」との接近に関しては知っていましたが、今回改めて、具体メンバーとミシェル・タピエが写った写真などを見て、その関係の深さが理解されました。海外に作品をもっていきやすいように、当初は多くあったインスタレーション作品が少なくなり、絵画作品が増えたというような、解説もありました。そういうこともあったのですね。
  • 私個人の感想としては、アンフォルメル的であったり、暑い抽象といった作品でないものに、面白いものがありました。
9月10日までですので、興味ある方は行かれてはどうでしょうか。今見ても面白いものがたくさんあります。

2012年7月1日日曜日

ベルリン国立美術館展 国立西洋美術館

早く行きたいと思っていた、ベルリン国立美術館展に行ってきました。

ちょっと前に、上野に行った人から、西洋美術館の前に列ができていたという話も聞いていたので、混雑を覚悟だったのですが、東京都美術館で昨日から開催されているマウリッツハイス美術館展に人は流れて行ったのか、列は無し、絵の前も押し合いへし合いでなくゆっくり鑑賞できました。ラッキーですね。

私の注目作品は、

  • チーマ・ダ・コネルアーノ工房、《聖ルチア、マグダラのマリア、アレクサンドリアの聖カタリナ》、1490年頃、油彩・板
    ヴェネチア初期ルネサンスの作品です。3人の聖女が調和のとれた配置、色彩で、描かれ。静かな空間を作り出しています。
  • ティルマン・リーメンシュナイダー派、《聖母戴冠》、1510年頃、菩提樹材
    ドイツの中世的題材の彫刻。素朴な味わいで、聖母マリア信仰が盛んだったんだなとわかります。
  • グレゴリア・ディ・ロレンツォ・ディ・ヤコポ・ディ・ミーノ、《女性の肖像》、1470年頃、ストゥッコ
    イタリアルネサンス後期の典型的な肖像彫刻。一般の人をモデルに理想美を追求するとこうなるかというような作品。
  • アルブレヒト・デューラー、《ヤーコブ・ムッフェルの肖像》、1526年頃、油彩・板のちにカンヴァスに張り替え
    今更言うのもへんだけれど、やはりデューラーはうまい。
  • ルーカス・クラナッハ(父)、《ルクレティア》、1533年、油彩・板
    昔、美術書で最初にクラナッハのヌードを見た時、奇妙に官能的でなんて変な絵なんだと思ったのを思い出しました。
  • ヤン・ダヴィッドゾーン・デ・ヘーム、《果物、花、ワイングラスのある静物》、1651年、油彩・カンヴァス
    オランダの画家、非常に緻密な静物画。葉っぱに毛虫がついているところを見届けてください。
  • ヨハネス・フェルメール、《真珠の首飾りの少女》、1662−1665、油彩・カンヴァス
    これに関しては何も説明はいりませんね。今回は1mくらいの近さから、「早く先に進んで」などと言われずに、ゆっくり見ることができました。帰ってきてから、あらためて図録の写真を見たのですが、左下の暗い部分がつぶれて見えなくなっています。やはり本物を見ないといけないですね。
  • レンブラント・ファン・レイン、《ミネルヴァ》、1631、油彩・カンヴァス
    暗い背景の中に、三角形のどっしりとした構図のミネルヴァがこちらを向いています。やはりレンブラントは光と影の画家。
  • イタリアの素描が数十枚。
今回のベルリン国立美術館展の図録は、たいへん力が入っているようです。中には、国立西洋美術館の学芸員の方が書いた、「イタリア素描の技法さまざま」などという記事も載っていたので、思わず買ってしまいました。