2013年10月27日日曜日

京都ー洛中洛外図と障壁画の美 東京国立博物館

美術品の楽しみ方には、その作品のもつ歴史遺産的な価値を楽しむというのもあると思います。今回の「京都―洛中洛外図と障壁画の美」展は、まさにそのような展覧会ではないでしょうか。

第一部は、洛中洛外図です、前期と後期の入れ替えがあるので、私が行った前期には4点展示されていました。中でも見逃せないのは狩野永徳筆の上杉本、これは以前京都国立博物館の「狩野永徳展」にも展示されていましたが、そのときは混んでいて近くに寄れなかったので、今回は近づいて見ることができました。でも、この展覧会では、東京国立博物館所蔵の岩佐又兵衛筆の舟木本がお薦めのようで、解説も詳しく、デジタル処理した大型スクリーンまでありました。それを見ると豊臣秀吉の数奇な運命をたどった方広寺大仏などが描かれており、歴史を感じます。

第二部には、京都御所にあった狩野孝信筆の《賢聖障子絵》、龍安寺にあった今はメトロポリタン美術館にある《列子図襖》、二の丸御殿大広間 四の間の狩野探幽筆《松鷹図》などが展示されています。これらの展示を観ると、当時はどんな風に見られていたんだろうという想いがわいてきます。

この展覧会で当時の京都に想いを馳せるのも良いかもしれません。会期は2013年12月1日までですが、展示替えがあり、前期は11月4日までです。上杉本を観たければ前期に行ってみてください。


2013年10月19日土曜日

北魏石像仏教彫刻の展開 大阪市立美術館

大阪市立美術館には中国石仏彫刻の山口コレクションがあります。山口コレクションは、もともと関西の実業家であった山口謙四郎氏(1886−1957)のコレクションで北魏、東魏、西魏、北周、北斉を中心とした石像仏教・道教彫刻120点以上からなっています。

今回は、山口コレクションを中心に、東京藝術大学大学美術館、台東区書道博物館、京都国立博物館、浜松市美術館などの作品を合わせて、北魏・東魏の石像仏教・道教彫刻60点を見ることができます。

見所は沢山ありますが、最初に入った所にある、天安元年(466年)の《如来座像》などプロポーションの美しさ、人をひきつける表情、衣文の流麗さなど完成度の高さに驚きます。交脚像・半跏像も一室に集められていて見応えがあります。日本では半跏像というと弥勒が多いようですが、釈迦が太子であった時代に愛馬カンダカと別れる場面の半跏像があります。珍しいところでは、平行した線で装飾された平行多線文造像の道教像が見られます。平行した線の模様はリアルな衣文が彫れなかった地方様式のようですが、装飾としてのおもしろさがあります。また、地方に展開し造られた、頭の大きな如来像や、中国古来の日月の模様が彫られた碑像もあります。最後の部屋にある雲崗石窟請来の仏頭、龍門石窟の供養人行列図など石窟寺院請来の品々も見逃せません。

大阪市立美術館での「北魏石像仏教彫刻の展開」は2013年10月20日で終わってしまいますが、またぜひ近いうちに同様なテーマで開催してもらいたい展覧会でした。

2013年10月18日金曜日

カイユボット展 ブリヂストン美術館

金曜日の夕方は東京駅近くのブリヂストン美術館に行ってみたくなるということで、「カイユボット展」へ。

ギュスターブ・カイユボットは1848年生まれ1894年没。印象派の画家たちのスポンサーでしたが、自らも絵を描き印象派展にも出展しています。

ブリヂストン美術館はカイユボットの《ピアノを弾く若い男》を購入したこともあると思いますが、今回の展覧会は気合いが入っています。60点以上のカイユボットの各地の美術館にある作品や個人蔵の作品が展示されています。また、弟のマルシェル・カイユボットの写真が多数展示されています。それに加えて、当時のパリの町をデジタルな装置で辿れるような展示や、カイユボットの人脈を辿ってみられるような展示もあります。

当時の印象派の画家達のなかで、カイユボットは画家としての評価は高くありませんでしたが、今見てみると、当時のブルジョアジーの心象をたどるのに貴重です。造型的には、すこし奇抜な構図と、光の表現に、特徴があるように思われます。ビルの受けから下を見下ろしたような構図が合ったり、逆行の光の表現があったりします。

マネ、ルノアール、ピサロ、シスレーとは異なる、19世紀の印象派の画家を見てみたいと思ったら、一度は行ってみると良い展覧会だと思います。

「カイユボット展」は2013年9月29日までです。

2013年10月14日月曜日

特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」 東京国立博物館

今、東京国立博物館・東洋館の4階の1室で、上海博物館の北宋から清までの絵画が展示されています。内容が充実しているにもかかわらず、総合文化展の料金で観ることができます。(私はパスポートをもっているので、パスポートでOK)

五代の《閘口盤車図巻(こうこうばんしゃずかん)》は、日本でも話題になった《清明上河図》のようなタッチで、街中で粉を挽く風景が描かれています。細かい描写は必見です。

北宋、南宋時代は山水画が完成された時代です。今回は、北宋時代の王詵(おうしん)《煙江畳嶂図巻(えんこうじょうしょうずかん) 》、南宋の馬麟(ばりん)《楼台夜月図頁(ろうたいやげつずけつ)》など、見逃せません。

文人画が成熟したといわれている元代からは、長大な跋文が付いている銭選《浮玉山居図巻》、倪瓚《漁荘秋霽図軸》、一本の樹木が描かれている、李士行《枯木竹石図軸》、王冕《墨梅図軸》。異民族支配の中で文人はどのような表現に達したのか興味が尽きません。

明代の絵画では、職人画家の浙派と、文人画家の呉派を比較したりできます。どちらが良いというよりも、お互いに刺激し合って絵画が発展したように思われます。雪舟にどう影響したのかなどと観るのもおもしろいとおもいます。

清代では、惲寿平の《花卉図冊(8開)》が見応えがあります。無条件にきれいです。

今回の展示は作品の展示替えがあります、前期は10月1日から10月27日まで、後期が10月29日から11月24日です。それぞれ展示期間は1ヶ月ないので、見逃さないように注意が必要です。

普段オーディオ・ガイドは使わないのですが、今回のオーディオ・ガイドは詩の説明などがあり、役にたちました。


2013年10月13日日曜日

ターナー展 東京都美術館

東京都美術館で、テート美術館の収蔵品を中心にした「ターナー展」が開催されています。

ターナーというと嵐の海景の作品を思い浮かべるかもしれませんが、この展覧会を観ると、ターナーは18世紀から19世紀前半の絵画へのニーズをくんで様々な作品を制作していることがわかります。若い頃の、各地の景観を描く地誌的風景画、クロード・ロランのような17世紀フランスの風景画家にならった歴史的風景画、イギリス貴族のグランド・ツアー的視点で描かれたイタリア古代の建造物などを描いた絵、崇高さを表現しようとするロマン的なテーマの絵。

気に入ったのは、絵の受容者の好みや意図に気をつかった大きな油絵の絵より、水彩・グワッシュでターナーが風景表現の可能性を追求した絵でした。
反対に、むりに(私はむりにと感じてしまいましたが)歴史的風景画にしようとして人物を書き込んだ絵はあまり感心できなかったというのが正直な所です。また、《平和ー水葬》など劇的な場面を描いた、絵画的・造型的追求というよりもロマン主義的主題にウェイトがある作品にもちょっとついていけないものを感じてしまいました。

ゴンブリッチは『美術の物語』のなかで、「伝統の解体後、画家に残された可能性は二つ、ターナーの道を行くかコンスタブルの道を行くかのどちらかであった。絵を書く詩人となり、感動的で劇的な効果をねらうか、それとも眼の前のモティーフにこだわり、正直に必要に自然の追求をつづけるか」と書いていますが、私はコンスタブルに1票でしょうか。

そうは言っても、この展覧会は一度見に行く価値があります。東京都美術館で「ターナー展」は2013年12月18日までの開催です。