2012年12月24日月曜日

白隠展 BUNKAMURAザ・ミュージアム

白隠慧鶴は臨済宗中興の祖といわれる禅僧で、1686年生まれで1769年に没ですから、当時としてはかなり長命です。絵をたくさん描いたのは60才以降だそうです。

今回のBUNKAMURAの展覧会は、白隠の絵や書を日本各地から110点以上集めた大規模なものです。

面白かったのは
  • 龍嶽寺《隻履達磨》。これは「達磨が没し中国の熊耳山に葬られた後、魏の宋雲という僧侶は履の片方を持った異僧に出会い ました。どこに行くのか尋ねたところ、その異僧は西天(イン ド)に帰ると言いました。宋雲は帰国した後、帝にこの話をしました。帝は達磨の墓を開かせたところ、棺は空で、中には履の片方のみが残されていました。帝 はこの片履を少林寺(達磨の修行した寺院)に供養しました。」(東京禅センター・ウェブより)という話にでてくる達磨の幽霊です。
  • 萬壽寺《半身達磨》。これはどこかで見たことがあるのではないでしょうか。黒い地に赤い衣を着た達磨が目を見開いています。
  • 法華寺(大洲市立博物館寄託)《布袋吹於福》。大きな双幅で、一つの絵になっています。右隻では煙管を持った布袋が煙を吹き出し、左隻では煙の中から福さんという美人とはいえない女性が、寿の紋が入った着物を着て立ち上ってきます。布袋は仙人でしたっけ?
  • 永青文庫《円相》。ただの円が描かれています。
250年前に、こんなに軽妙でユーモラスな絵が、禅寺で描かれていたことに興味がわきます。
ある意味、当時の、禅のコマーシャルアートであったのでしょう。

「白隠展」はBunkamuraザ・ミュージアムで2013年2月24日までです。

2012年12月23日日曜日

中西夏之展 DIC川村記念美術館

左の写真は、DIC川村記念美術館の庭園にいる白鳥です。寒くて雨も降っていましたが、白鳥は普段通りです。

DIC川村記念美術館に来たのは、「中西夏之展」が開催されているからです。中西夏之さんは、1960年代の前半に、高松次郎さん、赤瀬川原平さんと共にハイレッド・センターとして「反芸術」的パフォーマンスを行ったことで有名ですが、今回は、改めて、初期の作品から最近の作品まで紹介する貴重な展覧会になっています。

今回展示されている初期の作品は、24歳から25歳のときに(1959年から60年)制作された、《韻》シリーズです。これは、砂を混ぜた粗い地の上に、たくさんのT字形の記号のような図を書き込んだ作品。見方によっては、古戦場の地図に書かれた兵の配置のようにも見えます。地図に書かれた丘や川のような有機的な形状の地のうえに、さまざまな変形を伴って単純な記号のパターンが繰り返されている様子は、見ていて飽きません。

中期の作品は、1963年から93年という長い期間の中で制作された、《洗濯バサミは攪拌行動を主張する》シリーズです。洗濯バサミと言っても、今あるプラスチックの洗濯バサミではなく、金属製の洗濯バサミです。見たことが無い人も多いかもしれません。その洗濯バサミが、作品にうたれた釘を掴んでたくさんぶら下がっています。金属の洗濯バサミが鈍く光を反射し、洗濯バサミの影が作品から溢れています。

最近の作品は、2009年から2011年にかけて制作された《擦れ違い/遠のく紫 し近づく白斑》シリーズです。最初にビックリするのはその展示方法です。縦2メートル50センチを超え、横は2メートルもある、大きなキャンバスが、壁にかかっているだけでなく、部屋中におかれたイーゼルの上に垂直に立てられたかたちで展示されています。その作品の数は15を超えます。というわけで、観るものは、絵の間を歩きながら、その空間を感じることになります。それぞれの絵の紫色と白色でつくられた空間が、たくさん並べるられることにより、全体としてメタ空間を形成するようになっています。

これは時間をかけて見によっても良かったと思える展覧会でした。

もちろん、わざわざDIC川村記念美術館までいったのですから、マーク・ロスコの《シーグラム絵画》やバーネット・ニューマンの《アンナの光》にも再会してきました。

「中西夏之展」は2013年1月14日までです。ちょっと東京から遠いですが、現代美術に関心がある方にはお薦めです。


2012年12月10日月曜日

アートと音楽 東京都現代美術館

東京アートミーティングの第三回は「アートと音楽」です。そう言われてみて、美術館で音楽や音が無いことに、あらためて気づきました。あえて、思い出すと、具体の展覧会で田中敦子さんのベルが鳴り響いていたこととか、ブリヂストン美術館でドビュッシーをテーマにしていたことなどでしょうか。

今回の東京都現代美術館の企画は、音楽というか、音に拘っています。

私が気になったのは、

  • セレスト・ブルシエ=ムジュノの、美術館の中に設けられた円形のプールの中で白磁の碗がぶつかり合う音を楽しむ作品
  • 坂本龍一の、コミュニケーションの難しさをピアノの音とレーザーが描く文字で表した《collapsed》
  • 植物が危機を察知して化学物質を作り近くの植物に危機を知らせる様を作品にした、クリスティーネ・エドルンドの作品
  • 地下一階の大きなスペースに、昔のレコードプレーヤーをたくさん並べて、そこから発するノイズを楽しむ作品
この展覧会を見て(聴いて)、美術館の作品からはなぜ音が出ないのだろうと、改めて考えてみたらどうでしょうか。
「アートと音楽 新たな共感覚をもとめて」は2013年2月3日までの展示です。

2012年12月8日土曜日

森と湖の国フィンランド・デザイン サントリー美術館

ちょっとした偶然が、素晴らしいものに巡り会う切っ掛けになることもあるものです。今日は金曜日で夜に美術館に行くには絶好な日なので、「会田誠 天才でごめんなさい」展に行こうと森美術館へ行ったところ、なんと地震でエレベーターが止まっていました。動き出すのを待っていても良かったのですが、サントリー美術館のフィンランドのガラスが良かったと言っている人がいたのを思い出して、サントリー美術館へ。

展覧会のタイトルはフィンランド・デザインですが、内容はフィンランド国立ガラス美術館の協力を得ての、フィンランド・ガラス器の紹介になっいます

20世紀のガラス器が中心ですから、工業製品としてのガラス器メーカーのガラス器と、アートとしての個人工房のガラス器の間で揺れ動く様子も見て取れます。キャプションにも、「1970年代の石油ショックで企業が合併し・・・」というような記述が書かれています。美術館ではなかなか見ない種類の記述です。でも、そんなことは関係なく展示作品の素晴らしさに、まいってしまいました。

1mm違っても崩れてしまうような微妙な器の形、光を反射する透明なガラスの美しさ、着色したガラスを通して見える光の精妙さ。ずっと、ここに動かずにいたいと思わせるようなものがあります。私は、特に、着色された作品が気に入りました。

会期は2013年1月20日までです。お勧めです。

【写真は、入り口を入った所のインスタレーションです】


2012年12月3日月曜日

中国王朝の至宝 東京国立博物館 2回目

いつもの東洋美術・日本美術の同好のみなさんと一緒に、「中国王朝の至宝」展に行ってきました。私は今回2回目ですが、前回は唐のあたりで閉館時間になってしまったため中途半端になっていました。今日は頑張って最後までしっかり見ることができました。

前半部分は以前このブログで感想を書いたので、今日は後半を中心に、面白かった展示を振り返って見たいと思います。


  • 北魏の墓室内に置かれた高床《石床板》。獣面、左右の力士像、獣面の上の踊る人、獣面の下の二匹のとらなど、北魏が中国だけでなく西域の影響を受けていることがわかります。
  • 北魏の《舞楽俑》。北方の人々が歌舞音曲を楽しんでいる様子が再現されています。
  • 北魏の《童子葡萄唐草文脚杯》。ギリシャのデュオニソスに起源をもつ図像が、青銅に鍍金銀で描かれています。東西文化の交流の歴史に思いを馳せることができます。
  • 東晋の《王建之墓碑》。あの有名な王羲之の一族の墓碑ということで、字はきっちりしていて格調を感じます。
  • 呉の時代、272年製の《楼閣人物神亭壷》。瓶の上に楼閣など様々なものが一見雑然とのっけている焼物。これは変。なんのためにこんなものを作ったのでしょうか。
  • 東晋の《蝉文冠飾》。金製のアクセサリーで、細工が細かい。
  • 唐時代、大理石で作られた《金剛神坐像》。座っていながら体を斜めにして金剛杵を振り上げている。造形がダイナミック。
  • 唐時代、越州窯で作られた《五花形盤》。中国秘色青磁の初期の作品だそうです。
  • 唐時代《双鳥門鏡》。宝相華を銜えて飛翔する二羽の鳥の図柄が見事です。
  • 寮の《銀製仮面》。死者の顔につけたものです。表現がリアル。
  • 宋の《阿育王塔》。阿育王とはインドのクシャーン朝のアショーカ王のこと。阿育王塔とはアショーカ王が8万4千の仏塔を造ったという話に故事にちなんで造られたもので、本作品は、木胎に鍍金を施した銀板を被せ、その表面に水晶、瑪瑙、瑠璃などを嵌めこんだ豪華なものです。4面には「薩埵太子飼虎図」「大光明王施首図」「尸毘王救鳩図」「須大拏王図」が彫られています。
このブログでは一部の作品しか紹介できませんでしたが、この展覧会には面白いものがたくさんあります。会期は12月24日までですから、今まで中国美術には興味が無かった方も、都合がつけばぜひ行かれると良いと思います。

2012年12月2日日曜日

琳派芸術II 出光美術館

今回の展覧会は、昨年東日本大震災で中断を余儀なくされた展覧会を、あらたて企画しなおし開催しようとするものです。内容は「1.金と銀の世界」「2.草花図の伝統」「3.江戸琳派の先駆者」「4.俳諧・機知・闇」「5.抱一門下の逸材」となっており、酒井抱一を中心とした江戸琳派の紹介です。

見所はなんといっても、酒井抱一の《風神雷神図屏風》《八ツ橋図屏風》《紅白梅図屏風》でしょう。《風神雷神図屏風》は俵屋宗達が描いたものを、尾形光琳が模写し、さらに酒井抱一が模写したもの。一つの絵がどう引き継がれていくかがわかります。《八ツ橋図屏風》は先日根津美術館で公開されていたボストン美術館蔵の尾形光琳《八ツ橋図屏風》の酒井抱一版になっています。《紅白梅図屏風》は酒井抱一の銀屏風表現を楽しめる一品になっています。

今回は酒井抱一以外で興味をひかれるのは、俵屋宗達の工房のしるしである「伊年」印の《四季草花図屏風》。酒井抱一を引き継ぐ江戸琳派の絵師、鈴木其一の作品。酒井抱一以前の江戸琳派の絵師、俵屋宗理の作品などでしょうか。

江戸琳派を見たいという方には見逃せない展覧会だと思います。出光美術館で12月16日まで開催です。