昨年末から今年にかけて大阪の国立国際美術館で開催されていた「あなたの肖像ー工藤哲巳回顧展」が東京国立近代美術館に巡回してきましたので、早速行ってみました。
工藤哲巳(1935−1990)は、1960年の第12回読売アンデパンダン展の出展作を美術批評家の東野芳明が「反芸術」として称揚したことで有名なので、ぜひその作品をまとめて観たいと思っていました。
展示は、年代順に、「Ⅰ 1956−1962「反芸術」から「インポ哲学」まで」、「Ⅱ 1962−1969「あなたの肖像」から「放射能による養殖」まで」、「Ⅲ 1969−1970一時帰国、《脱皮の記念碑》の制作」、「Ⅳ 1970−1975「イヨネスコの肖像」から「環境汚染ー養殖ー新しいエコロジー」まで」、「Ⅴ 1975−1979「危機の中の芸術家の肖像」から「遺伝染色体の雨の中で啓示を待つ」まで」、「Ⅵ 1980−1990「パラダイス」から「天皇制の構造」、そして「前衛芸術家の魂」まで」、の6章からなっています。
初期のオールオーヴァーな抽象表現主義的な絵画作品と、晩年のメッセージの抽象性を高めた作品を除くと、生殖器、内蔵のねばねばした感触、眼球や脳髄、細胞の増殖、皮膚の残骸など、生命体の不気味さを強調した不快感をいだかせるような作品が溢れています。その前にたつと、それぞれの作品が、これはあなたの肖像だと挑発してきます。芸術作品とは、その前に立つ観者にコミュニケーションをしかけてくるものだとすると、まさにこの工藤哲巳の作品は芸術作品だといえます。あなたは、見かけを繕っているけれど、中身はこの作品と同じではないのと迫ってきます。「芸術家の肖像」シリーズの前では、博物館でミイラが並んだ部屋に入ってしまい、見たくはないれど目がいってしまうような状況におちいります。
第二次世界大戦後の美術家として、一つの方向に突き進んだ所に、工藤哲巳はいるようです。現代美術に興味がある方は、ぜひ行ってみると良いと思います。でもその時には、現代美術に馴染みのない方を誘うのはやめましょう。変な人だと思われる危険性が大です。
東京国立近代美術館で、「あなたの肖像ー工藤哲巳回顧展」は2014年3月30日まで開催です。
(蛇足でよけいなお世話ですが、図録は分厚く重いので、買う時にはそのつもりで。)
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