筑摩選書から出ている、加須屋誠著『生老病死の図像学』2012年2月15日発行を読んでみました。加須屋さんは奈良女子大学の教授で、仏教説話画研究等をされています。
この書籍では、ヨーロッパのキリスト教美術研究の手法であるイコノロジー(図像学)を、日本の仏教説話画を読み解くのに使っています。
ドイツ出身のパノフスキーのイコノロジー研究によると、絵の解釈は3段階で考えられるそうです。第一に「自然的主題」段階があり、特に専門的な知識は無くてもわかる主題です。第二に「伝習的主題」段階があり、ここでは特定のことに関する文献から得た知識が必要になります、たとえばキリストが弟子と食事をしていれば最後の晩餐ということになります。第三が「内的意味・内容」段階で、その図像にかんする深い洞察により得られるものということになるようです。加須屋さんはこれを、「仏伝図」「法華経絵」「浄土教系説話図」に由来する生老病死に関する仏教説話画を解読するのに使っています。
私にとっては初めての話も多く、たいへん面白く、250ページを超える本でしたがすぐに読めてしまいました。例えば、「生まれる」といういう「苦」の図像からは、当時の出産が座って行ったのだという話から始まり、出産に見る当時の男と女の関係、赤ん坊は外の世界から来るという思想の話まで出てきます。まだまだ、面白い話がたくさんあるのですが、ここには書ききれません。
仏教思想の根本にある、四苦「生苦」「老苦」「病苦」「死苦」に関する図像に、どんな想いが込められているか分析的に明らかにされていますので、仏教に関する図像に興味がある方、また古代から中世にかけての日本人の死生観に関して興味がある方、今の時代だから昔の人の考えも知りたいと思っている方には、お勧めの本です。
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