2013年12月23日月曜日

実験工房展 戦後芸術を切り拓く 世田谷美術館

第二次世界大戦後、日本の美術界には戦争の空白を取り戻し再興しようとする様々な動きが発生します。敗戦翌年の1946年3月には、戦前の文展、帝展を受けつぐ日展が開催され、また在野の二科会などの公募展も再開されます。またこれらの画壇の動きに異を唱える日本美術会が出現し1947年に日本アンデパンダン展を開催され、1949年には読売新聞社が主催する日本アンデパンダン展(読売アンデパンダン展)も開催されます。1956年には世界の美術の動向を紹介する「世界・今日の美術展」が日本橋高島屋をかわきりに全国を巡回し、1957年にはアンフォルメルを唱道するミシェル・タピエが来日します。このような時代のなかで、造形芸術と音楽を合わせて展開した前衛芸術運動が、「実験工房」です。美術の分野からは、絵画では、北代省三、福島秀子、山口勝弘、写真では大辻清司、版画では駒井哲郎が実験工房のメンバーとなっています。音楽の分野のメンバーには、佐藤慶次郎、鈴木博義、園田高弘、武満徹、福島和夫、湯浅譲二がいました。

今回の世田谷美術館の「実験工房展」は日本で初めて公立美術館が「実験工房」だけに焦点をあてて企画した展覧会となっています。「実験工房」の代表作が展示されているばかりでなく、パンフレット、手紙などエフェメラの展示も充実しています。

抽象的空間表現を追求した北代省三、福島秀子、絵画や彫刻の枠を離れた視覚表現を目指した山口勝弘など、戦後という言葉を使う必要がない純粋な芸術となっていることに関心します。図録を精読し、このメンバーがこの後どのような活動したかをもう一度確認した後、再び観に行きたい展覧会でした。

「実験工房展」は世田谷美術館で2014年1月26日までの開催です。

2013年12月1日日曜日

江戸の狩野派 出光美術館

日本の美術史の中でも一番有名な流派が狩野派だと言われています。室町時代から江戸時代まで続く御用絵師です。狩野永徳の《洛中洛外図屏風》や《唐獅子図》など直ぐに思い浮かべることができます。でも、改めて江戸狩野といわれると、どれだけ分っているのかとちょっと心もとない。改めて日本美術史の本を見ると、驚くことに、江戸狩野にたいしてページを割いていない。狩野永徳に関して少し書いてあるだけです。

そんな状況の中で、改めて江戸の狩野派って何という疑問に答えてくれるのが、今、出光美術館で開催されている「江戸の狩野派 優美への革新」です。探幽、尚信、安信などが展示されています。

見所は、
  • 探幽《叭々鳥・小禽図屏風》の墨の技、余白の取り方の巧さ。
  • 探幽《鸕鷀草葺不合尊降誕図》の構図のおもしろさ。
  • 探幽《源氏物語 賢木・澪標図屏風》の大和絵への接近。
  • 探幽《 白鷴図》。写生は応挙だけでない。
  • 尚信、安信がこんな絵を描いていたのかというのもわかります。
  • 展示最後の、京狩野と江戸狩野の対比も、なるほどという感じです。
「江戸の狩野派」は出光美術館で2013年12月15日までです。

2013年11月16日土曜日

バルビゾンへの道 Bunkamuraザ・ミュージアム

ときどき名前ではその内容が良くわからない展覧会があります。「バルビゾンへの道」展もそうかもしれません。

山形県山形市山寺には、後藤季次郎氏の収集品を展示する、山寺後藤美術館があります。今回の展覧会は、その後藤美術館の所蔵品から70点の絵画作品を展示するものです。内容は16世紀から19世紀にかけての物語画、肖像画、風景画、静物画です。そういうわけで、バルビゾンだけに反応して会場にいくと、なにこれということになります。それでも、日本では名前はあまり知られていなくても、当時のアカデミーの絵画ってどんなものという興味がもてるなら、楽しめる展覧会だと思います。もちろん、バルビゾンもありますので、そこだけを目指して観るということでも良いでしょう。

私が良いと思ったのは、シャルル=フランソワ・ドービニーの《川辺の風景》でしょうか。

Bunkamuraザ・ミュージアムでの「バルビゾンへの道」展は2013年11月18日までの開催です。

2013年11月5日火曜日

古径と土牛 山種美術館

20世紀の「日本画」というのはどうも苦手な領域です。小林古径は1883年生まれ1957年没、奥村土牛は1889年生まれ1990年没ですから、どうみても20世紀の画家です。ちなみにピカソは1881年生まれ1973年没。デュシャンは1887年生まれ1968年没ですから同じ世代です。そこでどうも腑に落ちないのが、確かに古径の花はきれいだし、ネコはキュートだし、清姫はすさまじいのですが、なぜ20世紀にこれを描かなければいけないのかです。

分らないものは追求したいということで、山種美術館の「小林古径生誕130年記念 古径と土牛」に行ってきました。確かに、古径《清姫》連作の「寝所」の、白い衣を掛けて寝ている安珍、撫子色の十二単を着て屏風から除く清姫、全体を引き締める黄色の几帳の色の対比は見事だし、土牛の《蓮》のこの世のものとはおもえない緑色の雲に浮かぶ蓮の花には引き込まれるのですが。でも、「それでどうしたの」という思いはどうしても残ってしまいます。そこで何となく納得したのが、山種美術館で売っていた図録の最初のページに載っている、小林古径の写真を見たときでした。そこには、古径と土牛が着物を着て絵を描いている写真がのっていました。たぶん、着物を着て絵を描くような生き方が良くわかっていないから、古径や土牛が分らないのではないだろうかと。

そんなことを考えながら山種美術館を出て21世紀の恵比須に戻ってきましたが、どうもまだ良くわからないからまた見てみたいが続きそうです。

「小林古径生誕130年記念 古径と土牛」は山種美術館で2013年12月23日までです。


2013年11月2日土曜日

ゴッホ、スーラからモンドリアンまで 印象派を超えて点描の画家たち 国立新美術館

あまり期待しないで観に行ったところ、素晴らしく良かったという展覧会があります。「ゴッホ、スーラからモンドリアンまで 印象派を超えて点描の画家たち」は、まさにそんな展覧会でした。なにしろ展覧会の名前が長い、しかも「ゴッホと色彩の旅へ」とのサブタイトルまでついています。これってどんな展覧会?という感じです。

その内容は、オランダのオッテルローにあるヘレーネ・クレラー=ミュラー氏のコレクションを展示するクレラー=ミュラー美術館の作品を日本にもってきたものです。図録のテキストで長尾光枝氏は、「本展覧会は、ジョルジュ・スーラが開拓し、その盟友であるポール・シニャックが普及させた「分割主義(Divisionism)」という理念とその実践に着目することにより、モダンアートを特徴づけるひとつの類型を掘り出そうという試みである」と書いています。最初からそう言ってくれれば分かりやすかったのにと思います。

点描と良く言われますが、点であることに注目せずに、色を独立させ分割し網膜上で視覚混合させることに意味があると捉えると、「分割主義」になるということです。そう考えると、スーラやシニャックの「分割主義」の成果はゴッホにつながり、さらにそれをモンドリアンが深化させ、ついにモンドリアンの幾何学的抽象にまでつながっていきます。

この展覧会では、様々な「分割主義」の作家を観ることができます。スーラやシニャックはもちろん、アンリ=エドモン・クロス、マクシミリアン・リュス、モーリス・ドニの作品があります。ゴッホも「分割主義」の視点で観ることができます。私が気に入ったのはゴッホの《じゃがいものある静物》。ベルギーとオランダの「分割主義」者、テオ・ファン・レイセルベルヘ、アンリ・ヴァン・ド・ヴェルド、ヤン・トーロップなどフランスの「分割主義」に比べ精神主義的、象徴主義的な作品にも惹かれる所があります。

モンドリアンも、1903年のまだ具象的な《ヘイン河畔の樹》、「分割主義」らしい1909年の《砂丘》、普遍的な美を目指した1913年の《コンポジションNo.11》、成熟期のモンドリアンらしい1927年の《赤と黄と青のあるコンポジション》などが展示されています。《コンポジションNo.11》の前ではずっと長く立ち止まって観てしまいました。

たいへん楽しめる展覧会でした。「ゴッホ、スーラからモンドリアンまで 印象派を超えて点描の画家たち」は国立新美術館で、2013年12月23日までです。展覧会タイトルに惑わされずに観に行ってはどうでしょうか。

2013年10月27日日曜日

京都ー洛中洛外図と障壁画の美 東京国立博物館

美術品の楽しみ方には、その作品のもつ歴史遺産的な価値を楽しむというのもあると思います。今回の「京都―洛中洛外図と障壁画の美」展は、まさにそのような展覧会ではないでしょうか。

第一部は、洛中洛外図です、前期と後期の入れ替えがあるので、私が行った前期には4点展示されていました。中でも見逃せないのは狩野永徳筆の上杉本、これは以前京都国立博物館の「狩野永徳展」にも展示されていましたが、そのときは混んでいて近くに寄れなかったので、今回は近づいて見ることができました。でも、この展覧会では、東京国立博物館所蔵の岩佐又兵衛筆の舟木本がお薦めのようで、解説も詳しく、デジタル処理した大型スクリーンまでありました。それを見ると豊臣秀吉の数奇な運命をたどった方広寺大仏などが描かれており、歴史を感じます。

第二部には、京都御所にあった狩野孝信筆の《賢聖障子絵》、龍安寺にあった今はメトロポリタン美術館にある《列子図襖》、二の丸御殿大広間 四の間の狩野探幽筆《松鷹図》などが展示されています。これらの展示を観ると、当時はどんな風に見られていたんだろうという想いがわいてきます。

この展覧会で当時の京都に想いを馳せるのも良いかもしれません。会期は2013年12月1日までですが、展示替えがあり、前期は11月4日までです。上杉本を観たければ前期に行ってみてください。


2013年10月19日土曜日

北魏石像仏教彫刻の展開 大阪市立美術館

大阪市立美術館には中国石仏彫刻の山口コレクションがあります。山口コレクションは、もともと関西の実業家であった山口謙四郎氏(1886−1957)のコレクションで北魏、東魏、西魏、北周、北斉を中心とした石像仏教・道教彫刻120点以上からなっています。

今回は、山口コレクションを中心に、東京藝術大学大学美術館、台東区書道博物館、京都国立博物館、浜松市美術館などの作品を合わせて、北魏・東魏の石像仏教・道教彫刻60点を見ることができます。

見所は沢山ありますが、最初に入った所にある、天安元年(466年)の《如来座像》などプロポーションの美しさ、人をひきつける表情、衣文の流麗さなど完成度の高さに驚きます。交脚像・半跏像も一室に集められていて見応えがあります。日本では半跏像というと弥勒が多いようですが、釈迦が太子であった時代に愛馬カンダカと別れる場面の半跏像があります。珍しいところでは、平行した線で装飾された平行多線文造像の道教像が見られます。平行した線の模様はリアルな衣文が彫れなかった地方様式のようですが、装飾としてのおもしろさがあります。また、地方に展開し造られた、頭の大きな如来像や、中国古来の日月の模様が彫られた碑像もあります。最後の部屋にある雲崗石窟請来の仏頭、龍門石窟の供養人行列図など石窟寺院請来の品々も見逃せません。

大阪市立美術館での「北魏石像仏教彫刻の展開」は2013年10月20日で終わってしまいますが、またぜひ近いうちに同様なテーマで開催してもらいたい展覧会でした。

2013年10月18日金曜日

カイユボット展 ブリヂストン美術館

金曜日の夕方は東京駅近くのブリヂストン美術館に行ってみたくなるということで、「カイユボット展」へ。

ギュスターブ・カイユボットは1848年生まれ1894年没。印象派の画家たちのスポンサーでしたが、自らも絵を描き印象派展にも出展しています。

ブリヂストン美術館はカイユボットの《ピアノを弾く若い男》を購入したこともあると思いますが、今回の展覧会は気合いが入っています。60点以上のカイユボットの各地の美術館にある作品や個人蔵の作品が展示されています。また、弟のマルシェル・カイユボットの写真が多数展示されています。それに加えて、当時のパリの町をデジタルな装置で辿れるような展示や、カイユボットの人脈を辿ってみられるような展示もあります。

当時の印象派の画家達のなかで、カイユボットは画家としての評価は高くありませんでしたが、今見てみると、当時のブルジョアジーの心象をたどるのに貴重です。造型的には、すこし奇抜な構図と、光の表現に、特徴があるように思われます。ビルの受けから下を見下ろしたような構図が合ったり、逆行の光の表現があったりします。

マネ、ルノアール、ピサロ、シスレーとは異なる、19世紀の印象派の画家を見てみたいと思ったら、一度は行ってみると良い展覧会だと思います。

「カイユボット展」は2013年9月29日までです。

2013年10月14日月曜日

特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」 東京国立博物館

今、東京国立博物館・東洋館の4階の1室で、上海博物館の北宋から清までの絵画が展示されています。内容が充実しているにもかかわらず、総合文化展の料金で観ることができます。(私はパスポートをもっているので、パスポートでOK)

五代の《閘口盤車図巻(こうこうばんしゃずかん)》は、日本でも話題になった《清明上河図》のようなタッチで、街中で粉を挽く風景が描かれています。細かい描写は必見です。

北宋、南宋時代は山水画が完成された時代です。今回は、北宋時代の王詵(おうしん)《煙江畳嶂図巻(えんこうじょうしょうずかん) 》、南宋の馬麟(ばりん)《楼台夜月図頁(ろうたいやげつずけつ)》など、見逃せません。

文人画が成熟したといわれている元代からは、長大な跋文が付いている銭選《浮玉山居図巻》、倪瓚《漁荘秋霽図軸》、一本の樹木が描かれている、李士行《枯木竹石図軸》、王冕《墨梅図軸》。異民族支配の中で文人はどのような表現に達したのか興味が尽きません。

明代の絵画では、職人画家の浙派と、文人画家の呉派を比較したりできます。どちらが良いというよりも、お互いに刺激し合って絵画が発展したように思われます。雪舟にどう影響したのかなどと観るのもおもしろいとおもいます。

清代では、惲寿平の《花卉図冊(8開)》が見応えがあります。無条件にきれいです。

今回の展示は作品の展示替えがあります、前期は10月1日から10月27日まで、後期が10月29日から11月24日です。それぞれ展示期間は1ヶ月ないので、見逃さないように注意が必要です。

普段オーディオ・ガイドは使わないのですが、今回のオーディオ・ガイドは詩の説明などがあり、役にたちました。


2013年10月13日日曜日

ターナー展 東京都美術館

東京都美術館で、テート美術館の収蔵品を中心にした「ターナー展」が開催されています。

ターナーというと嵐の海景の作品を思い浮かべるかもしれませんが、この展覧会を観ると、ターナーは18世紀から19世紀前半の絵画へのニーズをくんで様々な作品を制作していることがわかります。若い頃の、各地の景観を描く地誌的風景画、クロード・ロランのような17世紀フランスの風景画家にならった歴史的風景画、イギリス貴族のグランド・ツアー的視点で描かれたイタリア古代の建造物などを描いた絵、崇高さを表現しようとするロマン的なテーマの絵。

気に入ったのは、絵の受容者の好みや意図に気をつかった大きな油絵の絵より、水彩・グワッシュでターナーが風景表現の可能性を追求した絵でした。
反対に、むりに(私はむりにと感じてしまいましたが)歴史的風景画にしようとして人物を書き込んだ絵はあまり感心できなかったというのが正直な所です。また、《平和ー水葬》など劇的な場面を描いた、絵画的・造型的追求というよりもロマン主義的主題にウェイトがある作品にもちょっとついていけないものを感じてしまいました。

ゴンブリッチは『美術の物語』のなかで、「伝統の解体後、画家に残された可能性は二つ、ターナーの道を行くかコンスタブルの道を行くかのどちらかであった。絵を書く詩人となり、感動的で劇的な効果をねらうか、それとも眼の前のモティーフにこだわり、正直に必要に自然の追求をつづけるか」と書いていますが、私はコンスタブルに1票でしょうか。

そうは言っても、この展覧会は一度見に行く価値があります。東京都美術館で「ターナー展」は2013年12月18日までの開催です。

2013年9月29日日曜日

清雅なる情景 日本中世の水墨画 根津美術館

根津美術館はいつも良い展覧会を開催していますが、今回の「清雅なる情景 日本中世の水墨画」も楽しめます。

気になった作品は、

  • 滝が目をひく、芸阿弥筆《観瀑図》一幅、室町時代 1480。芸阿弥は将軍家に仕える同朋衆、能阿弥の子、相阿弥の父
  • 観音菩薩が随分くつろいだ姿をしている、赤脚子筆《白衣観音図》一幅、室町時代 15世紀。白衣観音は三十三観音の一つ。赤脚子は東福寺画系の絵師、中国唐代以降の禅宗教団のなかで生まれた図像で、観音が波が打ち寄せる岩の上でくつろぐ姿を描く
  • 中国元代の因陀羅筆の《布袋蔣摩訶問答図》一幅、元時代 14世紀。人の顔がおもしろい
  • 墨の濃いところと薄いところの対比が美しい、高先景照題詩の《山水図》一幅、室町時代 15世紀。
水墨画に関心があればぜひ観ておきたい展覧会です。2013年10月20日まで、根津美術館。

2013年9月21日土曜日

六本木クロッシング2013 アウト・オブ・ダウト展 森美術館

いつも、美術館にいく皆さんと、経始まる「六本木クロッシング2013 アウト・オブ・ダウト展」へ。

3年毎に行われる六本木クロッシング、今年はオーストラリアとアメリカのキュレーターを含めて作品を選び、社会的問題意識も持って現代アートの「いま」と問いかける企画になっているようです。「疑い」は「疑いもなく」に変わるでしょうか。

展示は、前半はアートが造形にとどまらず、社会につながる意味や象徴と強く繋がり、様々な問いかけをする作品。後半は、アートという表現手段を追求した作品が多かったように感じました。

私が面白いと思ったのは、

  • 小林史子の椅子を積み上げたインスタレーション。座るという機能を持たなくなった椅子が、様々な記憶の残滓として巨大な壁になっているような作品。


  • 金氏徹平の様々なイメージが仮想的な奥行きを持ち集積した作品。
  • サイモン・フジワラの、ほんものの岩や、岩的なものに、宗教的な想いを馳せる作品。
社会的な問題意識やメッセージと関わりをもっている、繋がっていると示すだけでは、それをアートで行う必要が無い。アートであるがゆえに表現できる物は何かと、考えさせられる展覧会でした。

六本木、森美術館で、2014年1月13日まで。



2013年9月13日金曜日

システィーナ礼拝堂500年祭記念 ミケランジェロ展 天才の軌跡 国立西洋美術館

日本で西欧のオールド・マスターの展覧会が開催されると聞くと、どんな作品がくるのか気になります、本当に観るべき作品が来るのだろうかと。特に、ミケランジェロともなれば、大きなフレスコの作品や彫刻作品が、日本で観られるなど考えられません。

今回の展覧会も第一級の作品を期待せず、日本でミケランジェロという名前をつけどのような展覧会が可能なのかと興味をもって観ると楽しめる展覧会になっているのではないでしょうか。ミケランジェロの子孫が引継ぐ、フィレンツェのカーサ・ブオナローティのコレクションの中から、ミケランジェロ15歳のときのレリーフ《階段の聖母》、死の前の年の木彫《キリストの磔刑》、フレスコ画を描くための習作素描、自筆手紙などが展示されています。

国立西洋美術館の、「システィーナ礼拝堂500年祭記念 ミケランジェロ展 天才の軌跡」は2013年9月6日から11月17日までです。


2013年9月1日日曜日

米田知子 暗なきところで逢えれば 東京都写真美術館

もしかしたら、何でもない、風景や建物の写真。
でも、それにちょっとした説明が与えられると、それは人の記憶の記録に変容してしまう。
そんな写真が並んでいるのが、米田知子の「暗なきところで逢えれば」展です。

写真についている説明は・・・・・・

  • 「サハリン島」より「帝政ロシア時代、囚人が掘ったトンネルの入口、”3人兄弟の岩”をながめて」
  • 「Japanese House」より「日本統治時代に設立された台湾銀行の寮、後の中華民国中央銀行職員の家」
  • 「積雲」より「平和記念日・広島」
  • 「積雲」より「避難した村・飯館村・福島」
  • 「Scene」より「 野球場-終戦直前まで続けられた特攻出撃の基地の跡/知覧 」
  • 「見えるものと見えないもののあいだ」より「安部公房の眼鏡ー『箱男』の原稿を見る」
  • 韓国国軍機務司令部だった建物「Kimusa」
  • 「パラレル・ライフ:ゾルゲを中心とする国際諜報団密会場所」より「小石川植物園」
写真自体と、それに付けられた説明と、観る人の想いが重なったときに、作品が現われてきます。

森美術館の「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」のアーティストトークで、米田知子さんが話された内容が、森美術館の公式BLOGに掲載されていますので、そちらも参照してみてください。
http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-d030.html

「米田知子 暗なきところで逢えれば」展は、東京都写真美術館で、2013年9月23日までです。


2013年8月26日月曜日

曼荼羅展 宇宙は神仏で充満する! 根津美術館

根津美術館所蔵の、平安、鎌倉、室町の曼荼羅の展覧会。
いつもの、東洋美術、日本美術を学習している方々といっしょに観にいってきました。

曼荼羅といったら金剛界曼荼羅、胎蔵曼荼羅の両部曼荼羅が思い浮かびますが、今回は両部曼荼羅はもちろん様々な曼荼羅が展示されていて楽しめます。
金剛界の八十一尊で構成される《金剛界八十一尊曼荼羅》。
浄土教系の観無量寿経に基づく《当麻曼荼羅》。
珍しい弥勒の浄土を描く《兜率天曼荼羅》。
本地垂迹説により本地を表す《日吉山王本地仏曼荼羅》。
垂迹神を表す《日吉山王垂迹神曼荼羅》。
春日宮の《春日宮曼荼羅》。

密教の目的別の別尊曼荼羅として、
善無畏訳の儀軌に基づく《尊勝曼荼羅》、不空訳の儀軌に基づく《尊勝曼荼羅》。
日輪をかかげる《愛染明王像》、宝珠を捧げる《愛染明王像》。
記憶力増進の《求聞持虚空蔵菩薩・明星天子像》。

昔の人の、宇宙を理解しようとする熱意、現世利益を追求する強い意志が、みえてくるようです。

「曼荼羅展 宇宙は神仏で充満する!」展は、根津美術館で、2013年9月1日まで開催です。

2013年8月24日土曜日

谷文晁 サントリー美術館

江戸時代後期の画家として谷文晁という名前は聞いたことがあります。TVのお宝番組にもよく出てきます。でも谷文晁ってこういう画家だと言うイメージが湧いてきません。

今回のサントリー美術館の「谷文晁展」にいくと、その理由がわかります。谷文晁は、文人画の伝統にたちながら、中国清朝の画家で日本にも来ていた沈南蘋(しんなんびん)の絵も勉強し、明代の画院系の画派である浙派も取り入れたということです。つまり何でもあり。そういうわけで、これが文晁だという色がわかりにくいのだと思います。

また、社会人としても、松平定信とも親しく、酒井抱一ら文化人とも親交を結び、渡辺華山など弟子もたくさんもつという、人のネットワークをしっかり作った人だったようです。

誤解を恐れずに言えば、谷文晁は優秀で良い人のようだけれども、何か突き抜けたところのない人だったのかもしれません。先品も中途半端なように見えてしまうのは、そんな先入観のせいでしょうか。

そんな中で、こんな作品も制作したのかと思ったのが、《文晁夫妻影像》という、文晁と奥さんの阿佐子の二人の横顔のプロフィールをシルエットで描いた作品。どうして突然このような絵がでてきたのか興味がわきます。

サントリー美術館の「谷文晁 生誕250周年」は、明日(2013/8/25)までの開催です。

2013年8月19日月曜日

アンドレアス・グルスキー展 国立新美術館

現代美術の中で写真は外せないということで、今日はアンドレアス・グルスキー展へ。

ここ10年ギャラリー向けの写真でもっともよく使われるスタイルは、無表情という意味のデッドパンだといわれています(シャーロット・コットン『現代写真論』より)。デッドパンはクールで、超然としていて、大きく、鮮烈なところが特徴だそうです。その中でも代表的なのが、デュッセルドルフ芸術アカデミーのベルント・ベッヒャーのもとで学んだアンドレアス・グルスキー(1955−)だといわれています。

グルスキーの写真は何と言っても大きい。《フランクフルト》という飛行場の掲示板が写されている作品は、縦237cm、横504cmもあります。そして対象から離れたところから見る視点をとっているにもかかわらず、すみずみまで鮮明な画面になっていることが衝撃的です。ディスカウントショップの陳列棚を撮った《99セント》、パリのアパルトマンの並んだ窓を撮った《パリ、モンパルナス》、北朝鮮アリラン祭のマスゲームを撮った《ピョンヤン》、地下1000メートルにあるニュートリノ検出装置を撮った《カミオカンデ》。商品取引所に人が密集しているのを撮る《シカゴ商品取引所Ⅲ》。
このような作品は、アナログの大判カメラで撮影し、現像したネガをスキャナーで読み取り、修正を掛けた後、画像を繋ぎ合わせ、でき上がったデータを再びネガに焼き付けてプリントするそうです。

今回は、このような大きく鮮明だけでない、油やゴミにまみれた川面を瞑想的な雰囲気で見せる《バンコク》シリーズ、衛星写真をデジタル処理で加工した《オーシャン》シリーズなども出展されています。

人は何を見ているのか、それを改めて考えるようにと、迫ってくるような展覧会でした。
現代美術に関心ある方には、ぜひ見ることを薦めたい展覧会です。国立新美術館で2013年9月16日まで開催されています。

2013年8月9日金曜日

三菱一号館美術館 浮世絵 珠玉の斎藤コレクション Ⅱ

三菱一号館美術館で開催している。「浮世絵 珠玉の斎藤コレクション」展は、3回展示替えがあります。今開催しているのは2期目で、江戸後期の風景画を中心にした展示になっています。早い話が、葛飾北斎の《冨嶽三十六景》と、歌川広重の《東海道五拾三次之内》があります。他にも国芳なんかも展示されています。展覧会のWEBを見ると「江戸のツーリズム」という趣向のようです。
ここはぜひ、北斎の力づくで面白いものにしてしまう奇想と、広重のその場所の魅力を引き出す力を比べてみたいところですが、改めて両者を比較して、どちらか一方は選べないな・・・・でした。
2期は8月11日までで、3期は8月13日から「うつりゆく江戸から東京」になります。3期には小林清親の「光線画」が出展されるようで、これも楽しみです。


国立新美術館 アメリカン・ポップ・アート展

国立新美術館で、「アメリカン・ポップ・アート展」が今週から始まりました。展覧会の企画としては、アメリカのコレクターのコレクションを持ってきて展覧会にするというありがちなものですが、ポップ・アート作品をまとめてみられるめったにない機会ですから、これは行かなくてはいけないと、さっそく覗いてきました。

今回の展示は、アメリカのコロラド州を本拠にする、ジョン・アンド・キミコ・パワーズ夫妻のコレクションで、ポップ・アートの前段階の、ロバート・ラウシェンバーグやジャスパー・ジョーンズから始めて、ラリー・リヴァーズ、ジム・ダイン、クレス・オルデンバーグ、アンディ・ウォーホル、ロイ・リキテンスタイン、メル・ラモス、ジェイムズ・ローゼンクイスト、トム・ウェッセルマンとなっています。

以下は私の観想です。

  • ロバート・ラウシェンバーグ。人は色々なものを見ている、イメージ、シンボル、イコン的なもの、絵具の塗り後。それならそれをまとめて、それぞれの価値をフラットにして、並べて混ぜ合わせて作品にしてしまおう。ラウシェンバーグはそう思ったのではないでしょうか。改めて見て、これは面白いと感じます。
  • ジャスパー・ジョーンズ。平面上に立体を描くことに気を使うなんて止めよう。平面には平面を描けばいいじゃないか。そうかもしれないけれど、ちょっと退屈。
  • クレス・オルデンバーグ。ここまで、何でも柔らかくしてしまえば、もうなにも言うことなし。
  • アンディ・ウォーホル。見知った作品ばかり。でもこの大きさでこの彩度の高い色を見ないと、本当のウォーホルじゃない。改めて見て良かった。
  • ロイ・リキテンスタイン。漫画の女性を拡大しドットでいっぱいにした作品も良いけれど、モネのルーアンの大聖堂をリキテンスタイン風にした作品や、立体作品もおもしろい。
  • トム・ウェッセルマン。人間(というか女性)をコマーシャルなイメージにフォルム化しコンポジションにしてしまう。これはこれで行き着く所まで行き着いているようには思うけれど、この先どうなるんだろう。
アメリカン・ポップ・アート展は、2013年10月21日までです。

2013年7月28日日曜日

太田記念美術館 江戸の美男子

三菱一号館の「浮世絵珠玉の斎藤コレクション」展に行って、少し浮世絵の関心が高まったところで、そういえば太田記念美術館は原宿と近くにあるにもかかわらず一度も行ったことがないのを思い出して、行ってみました。

太田記念美術館では、スリッパに履き替える仕組みにびっくりし、軸装した肉筆画は畳に座って観賞できるようになっているのにも驚きました。確かに、観賞する対象が違えば、観賞するやり方も変わるのが正解ですね。

今、太田記念美術館では、「江戸の美男子」の展覧会を開催していました。役者だけでなく男子に焦点を当てた浮世絵展とは珍しい。今更ながら、そうだったのかと発見したのは、武者絵や役者絵などを別にすると、男と女の区別は顔ではわからず、来ているものの差や、ヘアスタイルで見分けるしかないことです。ここには、今考える「男らしさ」「女らしさ」などを超えた、江戸の文化があるのだと気づきました。

浮世絵も楽しいなと思い始めた、昨今です。

太田記念美術館の「江戸の美男子」展は、2013年8月25日までです。

2013年7月13日土曜日

浮世絵 珠玉の斎藤コレクション 三菱一号館美術館

斎藤文夫(1928年7月11日 - )氏が収集し、川崎・砂子の里資料館 に収蔵している浮世絵作品を、三菱一号館美術館で3期に分けて展示する企画となっています。

第1期は2013年6月22日から7月15日。浮世絵の黄金期
第2期は7月17日から8月11日。北斎・広重の登場
第3期は8月13日から9月8日。うつりゆく江戸から東京

第1期で興味深かったのは

  • 浮世絵の祖といわれる菱川師宣(?ー1694)の、墨摺絵の韃靼人を描いた《韃靼人狩猟図 狸・鳥》
  • 錦絵の創始者といわれる鈴木春信(1725?ー1770)の《風流やつし七小町》は小野小町を当世風に「やつし」描かれたもの。この全作品7つがそろっているのは斎藤コレクションしか無いということです
  • 鳥居清長(1752ー1815)が四代目鳥居家を継ぐ前の、背の高い女性を描いた《女湯》
  • 喜多川歌麿(?ー1806)の《恵比須講》《青楼十二時》
第2期、3期も期待しましょう。

2013年7月1日月曜日

やきものが好き、浮世絵も好き 萩美術館浦上記念館名品展 根津美術館

今日は、いつも中国美術・東洋美術の講座にでている皆さんといっしょに、根津美術館に。今、根津美術館では「やきものが好き、浮世絵も好き 山口県立萩美術館・浦上記念館名品展」という長い名前の特別展を開催しています。萩美術館とは萩市出身のコレクター浦上敏郎氏が収集した中国・朝鮮陶器と浮世絵を2500点山口県に寄贈したのをきっかけに1996年に開館した美術館です。
今回はその萩美術館から東洋陶器130点と浮世絵62点が根津美術館で公開されています。浮世絵は前期と後期にわけて31点ずつの公開です。

中国のやきものでは、何と言っても興味を惹くのは、紀元前2900−2600年の大汶口文化の鬹(キ)といわれる三足器、紀元前2400−2000年の馬家窯文化の彩陶など新石器時代の陶器。こんな形や模様をどうしたら考えつくのかと思います。
そこから年代を追って展示されていますが、私の趣味でこれはというものを列挙すると、西晋時代の壺の上に鳥、虎、胡人、建物、蟹などをこれでもかと付けた神亭壺。北魏時代のリアルな牛、馬、駱駝。唐代の三彩。北宋定窯の白磁の壺。北宋景徳鎮の青白磁。

朝鮮のやきものは、ゆるい感じの「へたうま」的模様が彩色されているものに、面白いものが沢山あります。

浮世絵は、刷りが良いとこんなに良くなるのかと改めて感じることができました。私が感心したものをランダムに列挙すると、鈴木春信《五常 仁》、鳥居清長《隅田川渡し船》、喜多川歌麿《煙草を吸う女》、葛飾北斎《百物語 こはだ小平二》《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》、歌川広重《東海道五十三次之内 庄野 白雨》《名所江戸百景 亀戸梅屋舗》

満足度の高い展覧会でした。
根津美術館で7月15日まで開催です。

2013年6月23日日曜日

オディロン・ルドン 夢の起源 損保ジャパン東郷青児美術館

今日、最終日にあわてて行ってみました。

今回の展覧会は、オディロン・ルドン作品を多く持つ岐阜美術館所蔵の作品に、ボルドー美術館などの作品や関連資料を加えて、ルドンの画家としての成長の跡をたどれるようにした、よい企画の展覧会でした。まさに「夢の起源」はどこにあるのか探る楽しみがありました。

ルドンの作品に関しては、私は、どうしても黒の時代の異形な生物や眼を描いた作品に、いかにも頭で変なものを考えつきましたというようなところが見えて、馴染めないのですが、そのかわり色の着いた作品は、黒の時代の練習作品も含めて、たいへんいい感じだと思われました。

形の再現など気にしない、平面上の色とテクスチャーへのこだわりが、たいへん好ましいもののように思われます。平面上の色の漸進的変化や色の対比は、何時までみていてもあきません。

また機会があればルドンをみたいなと思わせる展覧会でした。

ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の軌跡 江戸東京博物館

1970年代からアメリカの収集家が集めた、日本の江戸期の絵画コレクションを紹介する企画です。

出展されている作品は江戸のビッグ・ネームです。
琳派から、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、鈴木其一、神坂雪佳。
文人画から、池大雅、与謝蕪村、浦上玉堂。
円山四条派から、円山応挙、長沢蘆雪。
奇想派から、伊藤若冲、曾我蕭白。
浮世絵から、菱川師宣、懐月堂安度。

日本の江戸期絵画を好きになったアメリカのコレクターが、どのような作品を収集したのか、見に行くのも良いと思います。

江戸東京博物館で2013年7月15日までです。

2013年6月9日日曜日

佐脇健一 未来の記憶 目黒区美術館

昨日、いつも美術館見学をいっしょに行っている皆さんと、目黒区美術館で開催されている「佐脇健一 未来の記憶」展に行きました。

佐脇健一さんは、ブロンズや鉄の鋳造作品を中心に作品を創られていますが、今回は大きなインスタレーション、写真と絵を組み合わせた作品、ヴィデオ作品、木の箱を使った作品など、多様な作品が展示されていました。

目黒美術館の展示では、目黒区美術館、大分市美術館を俯瞰した作品に導かれて会場に入っていきます。

最初に、写真と絵を組み合わせたフォト・ドローイングの作品から見ることになります。一番大きな作品は、近代産業の遺物である「軍艦島」の建造物の写真に、手書きの筆あとが残る青い空を組み合わせた作品です。その空は細いグリッド線の上に描かれています。この写真と絵の組み合わせが不思議な感じを引き起こします。たぶん、遺物の写真だけであれば、その遺物の歴史的な意味をさぐったりすることになるはずです、ところがここには手書きの空が組み合わせれています。これにより、作者はこの風景を記憶の中に定着したかったのだと理解されます。そうすると、これを観る者は、その記憶を共有するように仕向けられることになります。

先に進むと、たくさんの木箱がならんだ部屋になります。木箱の中には、ここにはミニュチュアの産業遺物が入れられていて、内側の立ち上がる面には空と雲の写真が貼られています。図録では、これは東洋的な小宇宙で、神棚や仏壇のような礼拝的価値も見いだされると書かれていますが、私の印象では、西洋の聖人の遺物をいれた聖遺物箱のように感じられました。そこには過去からのメッセージが物体の形で目の前に置かれているようです。

2階にいくと、大きな鋳造作品があります。地面から切り取られたような作品には、原子力発電所の炉心や、放射性廃棄物の永久貯蔵施設、捨てられた無人偵察機など、メッセージ性の強いオブジェが載せられています。ここでは、素材の金属の質量がそこにある建造物や機械の動かしがたさを、金属の錆びた表面が長い時間の経過を表しているようです。

今回の展示では、ほとんどの作品には人が登場しません。そのため、これらの展示品は、思い出す人もいなくなった後に残る、記憶の残骸であるように感じられます。最初に感じた不思議さは、記憶の残骸を共有するよう作品が迫ってきたためかもしれません。

目黒区美術館での展覧会は、残念ながら、本日、2013年6月9日に終わってしまいますが、佐脇さんの作品は、また機会があれば観てみたいと感じます。

2013年6月5日水曜日

プーシキン美術館展 愛知県美術館

2011年4月に横浜美術館から名古屋、神戸と巡回する予定になっていた「プーシキン美術館展」。それが東日本大震災で中止になって、今年、愛知美術館、横浜美術館、神戸市立博物館と巡回しています。

横浜にくるまで待っていれば良かったのですが、ちょうど名古屋に行く序でがあったので、愛知県美術館に「プーシキン美術館展」を見に行きました。プーシキン美術館はフランス近代の絵画の収集で有名で、今回も19世紀から20世紀にかけてのフランス絵画が多く出展されています。

印象派、ポスト印象派以降で、私が興味を持ったのは、
ポール・ゴーギャン《彼女の名前はヴァイルマティといった》
ポール・ゴーギャン《働くなかれ》
アンリ・マティス《青い水差し》
マリー・ローランサン《女の顔》
キース・ヴァン・ドンゲン《黒い手袋をした婦人》
モイーズ・キスリング《少女の顔》
アドゥアール・ヴァイヤール《庭》
フィンセント・フォン・ゴッホ《医師レーの肖像》
エドガー・ドガ《バレエの稽古》
カミーユ・コロー《突風》

それ以前の作品では
ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル《聖杯の前の聖母》
ジャン=レオン・ジェローム《カンダウレス王》
ジャック=ルイ・ダヴィッド《ヘクトルの死を嘆くアンドロマケ》
ユベール・ロベール《ピラミッドと神殿》
フランソワ・ブーシェ《ユピテルとカリスト》
クロード・ロラン《アポロとマルシュアスのいる風景》
ニコラ・プッサン《アモリびとを打ち破るヨシュア》

展覧会企画としては、ありがちな海外有名美術館の収蔵品巡回展示ですが、気になる作家のまだ見ていない作品を観る機会としては良いのではないかと思います。

「プーシキン美術館展」は、愛知県美術館では2013年4月26日から6月23日まで、横浜美樹幹では7月6日から9月16日まで開催さます。

2013年6月3日月曜日

「桂ゆき ある寓話」展 東京都現代美術館

桂ゆきは、1913年生まれ1991年没のアーチストです。今年が生誕100年になります。

桂ゆきは、日本画と油絵を学んで、1931年21歳の時に、初個展「コラージュ展」でデビューしました。今回の展覧会では、桂ゆきの絵の特徴は(1)細密表現(2)コラージュ(3)戯画的表現であるとしています。

明治以後の日本の絵画、とくに前衛的であると評されている絵画には、古くさく感じるものが多くあるというのが、私の正直な感想ですが、桂ゆきの絵は今見て新鮮です。その理由は、画面構成力、テクスチャーの追求、色彩の選択の仕方にあるように思います。
人によっては戯画的なテーマに目がいくでしょう。大胆な画面構成、滑稽な動物の形態、楽しい童話的な雰囲気。ただ、私は、現代アートになぜ戯画的表現が必要なのか納得していない点があるので、戯画的な作品に関してはちょっと態度保留です。

桂ゆきは、日本の画壇やグループから距離を置いて活動した作家、世界を知ったうえで土着的ではない日本を表現した作家です。

「桂ゆき ある寓話」展は、東京都現代美術館で2013年6月9日までです。あと一週間で終了です。

2013年6月2日日曜日

レオナルド・ダ・ヴィンチ展 天才の肖像 東京都美術館

アンブロジアーナ図書館は、フェデリーコ・ボッローメオ枢機卿によりミラノに1607に設立された、西洋史上3番目と言われる図書館です。17世紀に、レオナルド・ダ・ヴィンチの『アトランティコ手稿』を収集しています。

現在開催されている、東京都美術館の「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」には、この『アトランティコ手稿』から絵画、光学、建築、平方、機械、人体飛行などに関するものが出展されています。

レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿や、レオナルド・ダ・ヴィンチの時代の資料に興味がある方には、行ってみる価値のある展覧会ではないでしょうか。東京都美術館で2013年6月30日まで開催です。

2013年5月20日月曜日

アントニオ・ロペス展 BUNKAMURAザ・ミュージアム

5月の第2週に、ウィーンで美術館巡りをしていたために、このブログへの投稿も少し休みになってしまっていました。ウィーンでの話はまたどこかで整理したいと思いますが、今日は、BUNKAMURAザ・ミュージアムで行われている、アントニオ・ロペス展の話をしたいと思います。

アントニオ・ロペスは1936年生まれのスペインのリアリズム絵画の作家です。第2次世界大戦後スペイン、特にマドリッドの絵画は、世界のメインストリームとは別発展をしていました。ガラパゴス的進化をしたとも言えるでしょう。リアリズムとはいってもフォトリアリズムのようなリアリズムではなく、具象を通じてものの存在に迫るといったリアリズムです。

とにかく、今の常識からかけはなれています。例えば、93.5cm X 90.5cm、油彩の《グラン・ピア》では、人のまだいない朝の街角の様子を7年かけて描いています。また、244cm X 122cm、鉛筆の《バスルーム》は、本当にバスルームを3年かけて描いています。デュシャンのように便器を作品だとするのも衝撃的ですが、便器のあるバスルームを3年もかけて描くのはもっと衝撃的ではありませんか。等身大の男性裸体のブロンズ像を立たせずに横たえて展示している作品もあります。これには本当にびっくりしてしまいました。

現代のアートとは何かを考えるためにも、一見の価値はあるのではないでしょうか。

アントニオ・ロペス展は、BUNKAMURAザ・ミュージアムで2013年6月16日まで開催です。

2013年5月5日日曜日

国宝燕子花図屏風 <琳派>の競演 根津美術館

いつもの尾形光琳の《燕子花図屏風》です。今回も琳派作品と共に展示されています。

《燕子花図屏風》以外には、俵屋宗達工房作品とみられる「伊号」の印が押された《四季草花図屏風》、宗達工房をひきついだ喜多川相説の《四季草花図屏風》、野々村仁清の豪華な壺《色絵山寺図茶壺》、本阿弥光悦の色紙、尾形光琳の《白楽天屏風》、酒井抱一の《七夕図》などが見られます。

《燕子花図屏風》を観ながら、少ない色と同じモチーフで、なぜこの絵は成立しているのだろうかと考えたり、宗達工房の《四季草花図屏風》を観ながら、この屏風はどのように使われたのか考えたりしていると、連休らしいのんびりした時間を過ごせます。

「国宝燕子花図屏風 <琳派>の競演」は2013年4月20日から5月19日です。

2013年4月28日日曜日

チム↑ポム「PAVILION」 岡本太郎記念館

2011年5月に渋谷にある岡本太郎の壁画《明日の神話》を、福島第一原発の事故を表すパネルで拡張してみせ、物議をかもしたのがチム↑ポムという集団でした。岡本太郎記念館の平野暁臣は、そのチム↑ポムを認めて、今回、岡本太郎記念館でのチム↑ポム「PAVILION」展開催の運びになったわけです。

チン↑ポムの作品は2階に展示されていて、2つの部屋とそれを繋ぐ廊下が展示場になっています。

最初の部屋には4つの作品から構成されています。一番目をひくのは、無人の福島、岡本太郎の太陽、渋谷を、チム↑ポムに導かれてカラスの群れが飛ぶビデオ作品。そのスクリーンの左側には岡本太郎の墓を見つめる女性の映像。スクリーンの右にはゴミを墓地に埋め黒いゴミ袋を墓石のようにするビデオ作品と、それに呼応する石で創られたゴミ袋。スクリーンの反対側には、岡本太郎が恐山などで撮った写真を、チン↑ポムが焼いた木の上に焼き付けた作品。

最初の部屋から、岡本太郎が書いた「殺すな」というパネルの前を通って、次の部屋に進むと、そこは光が入らない空っぽのホワイト・キューブの部屋。壁に穿かれた明るい部分を覗くとそこにはプラスチックの治具に支えられて宙に浮いている岡本太郎の骨が一片。

ここにあるのは、メッセージ性の強い作品ですが、単純に言葉を造形作品に置き換えただけのアジテーションではありません。こういう形でしか表現できないものがあるという作者の思いが強く感じられます。

展覧会は、青山の岡本太郎記念館で、2013年3月30日から7月28日までです。

2013年4月24日水曜日

貴婦人と一角獣展 国立新美術館

今、15世紀から16世紀にかけては、ルネサンスの最盛期ですが、ゴシックが最後の光を放つ時代であり、リーメンシュナイダーの彫刻などすばらしい作品も制作されていました。実はそのころは、タピスリーの最盛期でもありました。今回、フランス国立クリュニー中世美術館から来ているのは、そんな時代の最上級の6枚のタピスリー《貴婦人と一角獣》で、《触覚》《味覚》《臭覚》《聴覚》《視覚》《我が唯一の望み》です。

国立新美術館の展示は、大きな半円形の部屋を作り、その壁面にこの6枚のタピスリーだけが掛けられています。その部屋の周りには小部屋があり、そこには、このタピスリーの動物、植物、服装、紋章の図像研究の展示があり、一角獣のキリスト教的意味や宮廷での意味が論じられています。つまり、全ての展示がこの6枚の絵に向いています。

ここには、ルネサンスが追求したような、三次元的な空間の描写、自然の再現、理想的な人体表現などはありませんが。赤い色と緑色の対比の心地よさ、植物であふれた画面の豊穣さ、可愛い小動物達、美人というよりも個性的な顔立ちの貴婦人と召使い達、一角獣がもつ象徴的な意味を思いめぐらす楽しみなどがあります。

西洋中世の作品を日本で観る機会はかなり少ないので、今回はたいへん良い機会だと思います。お薦めの展覧会です。開催期間は2013年4月24日(今日です)から7月15日です。

2013年4月22日月曜日

熱々東南アジアの現代美術 横浜美術館


2013年4月13日から6月16日まで、横浜美術館で「熱々東南アジアの現代美術」が開催されています。

横浜美術館が主催、シンガポール美術館が共催の形で、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジアの8ヶ国から25人の作家の作品が出展されています。

この展覧会から感じるのは、東南アジアの現代作家の社会への問題意識です。国境、民族、都市化、グローバル化、独立に関わる痛み、地域社会の閉塞感などの課題を形にして見えるようにしたい、そんな意図を強く感じます。

ここに載せた写真は、シンガポールのリー・ウェンの《世界標準社会(World Class Society)》という作品の一部になっているアンケートに解答した結果入手した「World Class Society」バッチです。

日本でも、会田誠や、Chim↑Pomなど、社会に対する関心をテーマにするアーチストが注目を浴びるようになっているように思いますが、それらとも通底するものがあるように感じます。

とにかく、勢いを感じます。横浜ですが、機会があれば見に行かれたらどうでしょうか。

2013年4月14日日曜日

九州国立博物館

太宰府の観世音寺へ行った後、九州国立博物館へ。

九州国立博物館は2005年に開館した博物館。東京、京都、奈良に次ぐ4番目の開館です。丘の上に地面に沿うようにして造られた建物で、菊竹・久米設計共同体の設計です。

今回はじめて行って、びっくりしたのは、そのアプローチです。太宰府天満宮の奥から、長いエスカレータと動く歩道を辿って行くと、入り口のエントランスになります。

今回は、3階の特別展示室はヴェトナム展の準備中で、4階の文化交流展示室で所蔵品を中心とする展示と古武雄の陶器の展示がされていました。土器、銅鐸など考古学的展示が多かったのですが、私の興味を引いたのは、ガンダーラの仏伝図、ヴァーチャル・リアリティで再現された装飾古墳、古代の年代測定法紹介の一室でした。

九州国立博物館は、新しい博物館として、今後どう展開していくのか注目したいと思います。

太宰府 観世音寺

九州に行ったついでに、太宰府の観世音寺へ。

観世音寺は天智天皇が母の斉明天皇の冥福を祈り746年に建立した寺です。当時は、戒壇院も置かれていて、西日本で随一といわれた寺院です。梵鐘は日本最古で国宝になっています。

境内に「観世音寺宝蔵」があり、仏像13体が収められています。
丈六の《十一面観世音菩薩立像》《馬頭観世音菩薩隆三》《不空羂索観世音菩薩立像》など大きさに圧倒されます。造形的に面白かったのは平安期初期の一本彫りの《兜跋毘沙門天立像》です。

この後、九州国立博物館へ。


石橋美術館 美のレッスン

先週末に九州で仕事があったので、ついでに石橋美術館へ。久留米にある石橋美術館へは福岡天神から西鉄で。

石橋美術館は、石橋正二郎のコレクションを基にした美術館で、東京のブリジストン美術館とは兄弟関係。ブリジストン美術館が西洋近代が中心なのにたいして、こちらは日本の近代を中心にして、一部近世以前のものが収蔵されています。青木繁のコレクションが有名。

今回は収蔵品を「美のレッスン」という形で見せています。女性、服、風景、海など章だてをして美を発見してもらおうという展示になっています。

以前ブリジストン美術館の「青木繁」展に出展されていた《わだつみのいろこの宮》《海の幸》や坂本繁二郎の《放牧三馬》などに再開。

《天平の面影》など藤島武二の作品も充実しています。また古賀春江の作品を多く所蔵しているということにも改めて気付きました。その他興味を持ったのは、百武兼行《臥裸婦》、白髪一雄《白い扇》、野見山暁治《風の便り》、猪熊弦一郎《青い星座》、黒田清輝《針仕事》など。全部で100点以上出展されていて、大満足です。

別館の方も充実していて、丸山応挙《牡丹孔雀図屏風》《竹に狗子波に鴨図襖》、酒井抱一《新撰六歌仙四季草花図屏風》などがあります。磁器では元時代の《青磁鉄斑紋瓶》が見事です。

九州久留米ということで、行くのがちょっと大変ですが、良い美術館でした。
「美のレッスン展」は2013年6月9日まで。

2013年4月7日日曜日

エドワード・スタイケン写真展 世田谷美術館

いつも展覧会は開催すぐに行くことが多いのですが、今日の展覧会は最終日でした。行ったのは、世田谷美術館で開催されている「エドワード・スタイケン写真展 モダン・エイジの光と影 1923−37」。

エドワード・スタインという人はよく知りませんでした。調べてみると、1879年生まれのアメリカの写真家です。青年時代はスティーグリッツなどとともに芸術写真をつくっていましたが、そのご商業写真を撮るようになり、VOGUEやVANITY FAIRに女優やモデルの写真を載せるようになります。その後MOMAの写真部長となり冷戦期に68カ国273人の写真からなる「ザ・ファミリー・オブ・マン」展を開催します。これはアメリカのプロパガンダかと議論され、日本の高島屋にも巡回した展覧会です。

今回の展覧会は、スタイケンが商業写真を撮っていたころの展覧会で、VOGUEに掲載された女優やファッションモデルの写真、VANITY FAIRに掲載された女優、映画監督、文学者、政治家などの写真が展示されています。

おもしろいのは展示のキャプションに、写真の説明ではなく、写っている女優に関する説明がついていた点です。つまり、これは写真自体が興味の対象ではなく、写真が写している女優に興味があるという視点を、この展示で示しているわけです。

ちょっと前まで横浜美術館で開催されていた「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー展」や、今回の世田谷美術館の「エドワード・スタイケン写真展」を見ると、写真は芸術なのかといろいろ考えさせられます。


2013年4月3日水曜日

ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアムのルーベンス展。今日で3回も行ってしまいました。何回も行った理由は、すごく良かったからというよりも、そこにはもった何かあるはずだと思ったせいかもしれません。

その結果、一番良かったのは、ルーベンスの原画を元にした版画作品でした。版画作品はアントワープ王立美術館、プランタン=モレトゥス博物館/市立版画素描館から、30点出品されています。17世紀当時版画は現在の画集のようなもので、だれがどんな絵を描いているということをヨーロッパ中に伝える手段で、ルーベンスは良い版画を作ることにかなり力を注いでいたそうです。その成果がここにあるように思われます。有名すぎる作品ですが、《キリスト降架》の構図などすばらしいものです。

次に面白かったのはヴァン・ダイクの作品。ヴァン・ダイクは、肖像画家として有名ですが、今回は《髭の男の頭部》《悔悛のマグダラのマリア》など肖像画でない作品が来ていて、その表現力の高さに感心しました。

バロックに感心をもつなら、ルーベンスを素通りするわけにはいかないとおもいます。展覧会は4月21日までですから立寄ってみたらどうでしょうか。


2013年3月24日日曜日

「アートフェア東京 2013」「G-tokyo 2013」

このブログではいつも展覧会の話題が多いのですが、今日は今2つ同時に開催されている、「アートフェア東京 2013」と「G-tokyo 2013」という2つのアートフェアを、いつもギャラリー巡りをしている皆さんと一緒に見に行きました。

美術品を鑑賞するスペースである展覧会と、美術品の市場であるアートフェアでは、その雰囲気も違いますし、作品との対話のしかたも違うということを、あたりまえですが再確認しました。一言でいうと集中するのが難しいということです。これはいくらなんだろうなどという邪念が入り込んできます。これは売れていますよという赤いマークも気になります。

そうは言っても、こっちを見てくれと呼んでいるような、楽しい出会いがあります。
今回私を呼んでいたのは、「G-tokyo 2013」にMISA SHIN GALLERYが出していた、アイ・ウェイウェイの作品です。一つは、圧縮したお茶の葉を立方体にした作品、もう一つは、景徳鎮で焼いた豆状のものに彩色したものをガラスのジャーに収めた作品でした。自然素材を使った作品、自然作品を模した素材を使った作品には、自然と人の関係を考えさせるようなものもあります。また、圧縮したお茶の葉が見せる面の触感、陶器で作った豆の触感といった、感覚にダイレクトに迫るものもあります。

今後もアート・フェアーはフォローしたいなと思い、また機会があれば買ってみたいなと思った一日でした。

2013年3月17日日曜日

ラファエロ展、国立西洋美術館

現代にいたる美術は、ルネサンスそれも特にラファエロからどう発展させるか、またラファエロをどう否定するかを、追求していった歴史だといえるのだと思います。
というわけで、ラファエロ自筆の作品を見られる機会が東京であるのなら、見に行かないというわけにはいきません。

今回は、国立西洋美術館、フィレンツェ文化財・美術館特別監督局、読売新聞社、日本テレビ放送網が主催し、フィレンツェ文化財・美術館特別監督局長官が総合監修を行う形で開催されています。

出展作品のうち22点が、ラファエロ・サンティ本人の作ですから、ビッグ・ネームが展覧会のタイトルになっていても、ほとんどが工房の作品であったり、周辺の画家の作品であったりする展覧会とは一線を画しています。作品も、ウフィツィ美術館、カポディモンテ美術館、ペルガモ・アカデミア・カッラーラ絵画館、ブタペスト国立西洋美術館、ルーブル美術館、フィレンツェ・パラティーナ美術館、ウルビーノ・マルケ州国立美術館、J・ポール・ゲッティ美術館、プラド美術館、ヴァチカン美術館と、様々なところから集められています。

改めて作品を目にして感じたのは、見たままそのものを再現的に表現したものではなく、対象を理想の比例配分で見直し、輪郭線の美しさを強調し、筆の跡を消すことにより描くという行為に気づかせないようにした作品であるということです。ヴェネチア派とは異なる調和がとれた色の使い方や、細かく書き込まれたアクセサリーの繊細さも目を引きます。
ラファエロは伝統・権威のもとになってしまっていますから、ラファエロには興味が無い・好きではないという方もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひ現物の作品にあたって見たらどうでしょうか。私は純粋に気に入りました。
図録の中には、「ラファエロと16世紀の装飾芸術の革新」というテキストも載っています。16世紀宝飾に目をつけて、作品を見てみるというのも面白いかもしれませんね。

「ラファエロ展」は国立西洋美術館で、2013年4月19日までの開催です。

2013年3月8日金曜日

フランシス・ベーコン展 東京国立近代美術館

フランシス・ベーコン、気になる作家です。1909年ダブリンで生まれて、ロンドンで仕事をし、1992年に亡くなっています。つまり、フランスでの美術界の変革、第二次世界大戦を挟んでの、アメリカ美術の隆盛の中で、それらのムーブメントから離れて、特異な作品を作り続けたわけです。

フランシス・ベーコンに関するイメージは、ベラスケスが描いたインノケンティウス10世の肖像画を翻案した作品に見られる、人の肉体と精神をエキセントリックにデフォルメしたような作品を描く作家というものです。そして、そんな作品は人間に対するシニカルな追求が生んだのではないかというものです。

とにかく、早く観てみたいという想いから、東京国立近代美術館の「フランシス・ベーコン展」の初日に行ってきました。

作品の分析的な話はこれから良く考えてみることにして、今日は実物を観ての印象を整理してみたいと思います。
まず、そうだったのかと思ったのは作品のサイズが思っていたよりも大きいということ。このサイズは、作品を分析的に鑑賞するというサイズではなく、また抽象表現主義のオールオーバーな作品のように環境になってしまうようなサイズではなく、まさに絵と観る人が対峙するようなサイズであったということです。つぎに、事前に予想していなかったことは、その画面が表現する内容に、そうだそういうふうにも感じられると、共感できたということです。周囲の空間と浸透しあう人間、肉的である人間、異形な形になった人間、浅い囲われた空間の中にいる人間に、そうだよねと思えるという感覚です。

まだ、一言でフランシス・ベーコンは何かとは言えませんが、やはりここには何かあるなという思いがわいてきます。ぜひ、いろいろなテキストも読み、また展覧会にも足を運び、フランシス・ベーコンとは何かを読み解きたいと思っています。

フランシス・ベーコン展は、東京国立近代美術館で2013年5月26日までです。

2013年3月2日土曜日

「奇跡のクラーク・コレクション ― ルノワールとフランス絵画の傑作」展 三菱一号館 

今日は久しぶりに東京都現代美術館に行こうと思ったのですが、休館中だということを思い出して、三菱一号館美術館へ。三菱一号館美術館では、クラーク・コレクションの印象派を中心とした展覧会が開催されています。

クラーク・コレクションはスタンリーングとセシール・クラーク夫妻により、1910年からフランスで収集されました。そしてそのコレクションは、マサチューセッツ州のボストンからかなり西に行ったところにある、1955年に造られた美術館に収蔵されました。
現在コレクションの中から19世紀フランスの絵画が3年間の海外巡回に出ています、今回の三菱一号館の展覧会はその一環です。

展示は、ルノアールが一番多く、他にピサロ、シスレー、モネ、など印象派を中心とした19世紀のフランス絵画です。私は、最近ブリジストン美術館の「筆跡の魅力 点・線・面」を観てマチエールへの関心が高まっていたせいもあると思いますが、それぞれの作品の筆致の美しさを強く感じました。もちろん一点ごとに良いもの、それなりに良いものと、あるのですが、全体を通して楽しめたという感じです。

今回の出品作がクラーク美術館のWEBからも見えますので、こちらも参照してみたらどうでしょうか。
http://clarkart.edu/slideshows/milan/image-gallery/

「奇跡のクラーク・コレクション」展は、三菱一号館美術館で2013年5月26日まで開催です。印象派のファンの方はぜひ見に行くと良いと思います。クラーク・コレクションはニューヨークからもボストンからも車で3時間位かかるところにあるようなので、現地に行くのもたいへんですから。

2013年2月24日日曜日

中近東文化センター改修記念 オリエントの美術 出光美術館

出光美術館が収集したオリエントの美術は、1979以降三鷹市の中近東文化センターで展示されています。今回はその所蔵品の中から厳選して出光美術館で公開するという企画になっています。2013年1月11日から3月24日までの開催です。

展示の章立ては、
  1. 文明の誕生 エジプト文明とメソポタミア文明
  2. ローマ時代の技術革新 ガラスの美
  3. 実用の美 イスラーム美術
気に入ったのは、イラン、エジプトの動物のモデルにした造形。それにイラクの象牙細工。紀元前に、動物の生き生きとした姿をこんなに捉えられているというのは驚異的です。いまなら写真に撮って研究するのでしょうが、見る目が素晴らしかったのだと思います。
ローマのガラスも技術の流れがわかって面白い展示でした、ガラスと言っても最初は不透明なものだったのが、だんだん発展して行ったのがわかります。
イスラーム美術は、今回は実用に供される皿のようなものが多かったせいか、一目見てこれはすごいというようなものは少なかったように感じました。イスラーム美術に関してはもっと勉強が必要のようです。

2013年2月23日土曜日

国立国際美術館 夢か、現か、幻か 全てが映像作品

昨日は大阪に出張、金曜日で美術館は夜まで開いているということで、中之島の国立国際美術館へ。実は、今どんな展示がされているのか知らずに行ったのでですが、企画展はタイトルにもあるように全て映像作品の「夢か、現か、幻か」展が、所蔵品展は「コレクション現代美術とテーマ」展が開催されていました。
実はビデオ作品は少し苦手、なぜかというと相手(作家のことです)に合わせて、ある時間つきあわなければいけないからです、造形作品はこちらの好きなように作品に対することができるんですが・・・・。しかも昨日は時間がありませんでした。というわけで、映像作品をつまみ食いするという不本意な観賞になってしまいました。

それぞれの作品に勝手な感想を付け加えてみると。

  • 饒加恩(ジャオ・チアエン) Chia-En Jao(台湾出身、台北在住)、《レム睡眠》、東南アジアから台湾に出稼ぎにきた若い女性たちが、皆がさまざまな場所で眠り、一人づつ眠りの姿勢のままで現実とも夢ともつかない話を話し、また眠りにつく作品
  • ヨハン・グリモンプレ Johan Grimonprez(ベルギー出身、ブリュッセル在住)、《ダブル・テイク》、ヒッチコックのそっくりさんの世界は虚の世界か
  • スティーヴ・マックィーンSteve McQueen(イギリス出身、アムステルダム在住)、《ワンス・アポン・ア・タイム》、数式、記号が、時間の流れと、宇宙の広がりを示して・・・・
  • シプリアン・ガイヤールCyprien Gaillard (フランス出身、ベルリン在住)、《ArteFacts》、バビロンの遺跡と現代のイラクの兵士が共存する奇妙さ
  • さわひらき Hiraki Sawa(石川県出身、ロンドン在住)、《Lineament》、それはレコードの溝
  • チョン・ソジョンSojung Jun(韓国出身、ソウル在住)、《ある裁縫師の一日》、古くさくなって行く技術は見捨てられるべきものか
  • 杜珮詩(ドゥ・ペイシー) Pei-Shih Tu(台湾出身、台北在住)、《ヴィジブル・ストーリー》、明るいアンリ・ルソー的な映像、でもそこにいる人間は・・・
  • エイヤ=リーサ・アハティラ Eija-Liisa Ahtila(フィンランド出身、ヘルシンキ在住)、《受胎告知》、大きな三方を囲むスクリーン上に、受胎告知を演じようという人たち、そのあとに見つかるものは
  • クレメンス・フォン・ヴェーデマイヤー Clemens von Wedemeyer(ドイツ出身、ベルリン在住)、《死への抗い》、創られた未開人発見、事実はどこに
  • 柳井信乃(ヤナイシノ) Shino Yanai(奈良県出身、横浜在住)、《UTSUTSU NATION》、若いひよわそうな女性が、玩具のようなハンマーを振り下ろすと、すべてを吹き飛ばすような大爆発が
大阪なので、東京の人が見に行くのはたいへんかもしれませんが、国立国再博物館で「夢か、現か、幻か」は3月24日までです。

2013年2月17日日曜日

ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー二人の写真家 横浜美術館

もともとロバート・キャパという人物がいなかったとは知りませんでした。ロバート・キャパは、ハンガリー生まれのアンドレ・フリードマンと、シュトットガルト出身のユダヤ系ポーランド人ゲルダ・タローが作り出した架空の人物です。二人とも戦場で作品を作り続けた戦場カメラマンです。もちろん架空のロバート・キャパが撮った写真も戦場写真でした。ゲルダ・タローがスペイン戦争の従軍で26歳で若く死んでしまうと、アンドレ・フリードマンが一人でキャパの役を担うことになったという訳です。

今回の展覧会は、ロバート・キャパ誕生に重要な役を果たしたゲルダ・タローの写真が最初に展示されています。これは2007年にニューヨーク、ロンドンなどを巡回した展覧会を日本にもってきたものです。後半は、ロバート・キャパ(つまりアンドレ・フリードマン)の展示で、横浜美術館所蔵の全作品を展示するものです。どちらも、メインのテーマは戦場写真です。

初期のゲルダ・タローの写真は、構成が明確で、写っている人々、例えば人民戦線軍の女性兵士なども自信に満ちあふれていて、危機的な状況にあるというよりも、目的達成に向けて、ある意味楽しそうです。つまり、プロパガンダ的な写真になっています。よくできた写真だとは思いますが、それで良いのかという気もします。その後は、スペインでの共和国側の戦況も悪くなり、戦死者の写真も多くなります。でも80年の歴史が、写真からメッセージを抜き去り、今ではただのBODYの写真だと思えてしまうのは、私だけでしょうか。

ロバート・キャパ(つまりアンドレ・フリードマンの方)は、スペイン戦争、中国戦線、ノルマンディーからフランス解放、インドシナの独立戦争と、こちらもずっと戦場写真です。キャパの写真からは、単純に敵と味方で割り切れない、複雑な思いを持ちながらも、写真というメディアがもっているパワーを強く感じました。その場にいないと見えてこない記録媒体としての性格、良いにつけ問題があるにつけそこにある強いメッセージ、強い造形的構成力。ありきたりな言葉で申し訳ないのですが、そこには人がいるということだと思います。

「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー二人の写真家」展は、横浜美術館で2013年3月24日までです。

会田誠展 森美術館 2度目の訪問

会田誠展にまた行ってきました。今回は解説していただける方もいて、グループで見に行ってみようというのりです。美術手帳の1月号の特集記事も読んで、新たな発見もあるかな?

新たな発見は、BTという文字がかかれたデッサンを巨大化した作品は、美術メディアや美術教育に対するアイロニカルな表現であることとか、戦争がリターンズは焼酎のケースの上に古い襖を使って表現されていることなど、多々ありました。トリビア的な発見では、《灰色の山》のなかにはウォーリーを探せのウォーリーがいるとか・・・・。

今回改めて、会田誠の作品には、意味がたくさん溢れている。そしてその意味を文字ではあらわせない造形表現として表しているところに、すごさがあると感じさせられました。さらに付け加えるなら、その意味は現代の日本という背景の中で意味を持つものが多く、グローバルであったりユニバーサルであったりする価値観とは離れたところで成立しているということも、面白く感じました。そこが、日本の我々には、ざわざわ感、むずむず感、快と不快の間の違和感になり、迫ってきます。

会田誠展は3月いっぱい開催されています。

2013年2月12日火曜日

書聖王羲之展 東京国立博物館

中国では最高の芸術は王羲之の書だそうです。王羲之に関しては中国美術の講座で話を聞いているのですが、やはり私にとって書は敷居が高いので、どうかなと思いながら東京国立博物館の「書聖王羲之展」へ。びっくりしたのは会場が混雑していることです。こんなに書のファンは多いんだと改めて感じました。しかも、書は低い位置に展示されているので、見るのがたいへんです。

書の敷居が高いのは、コミュニケーションの記号であるはずの文字が観賞の対象になっているためだと思います。しかも読めない。さらに王羲之の場合には、現存する真筆はなく、模写か拓本になっていて、もともと一つの王羲之の作品のはずがいろいろあり、それぞれかなり差異があります。これをどう見たら良いのかも?????

これはいけないと思い、帰りにミュージアム・ショップで『もっと知りたい書聖王羲之の世界』を買ってしまいました。もうちょっと勉強してみます。

東京国立博物館の「書聖王羲之展」は2013年3月3日までです。

2013年2月11日月曜日

ブリヂストン美術館収蔵品展 筆あとの魅力 − 点・線・面

ブログを書くのが遅れていますが、先週の金曜日の夜にブリヂストン美術館へ。週末の夜、気楽に行く場所として、ブリヂストン美術館はお気に入りです。

今は、収蔵品の中から28点を選び、筆の跡に眼をつけて楽しもうという企画が開催されています。いつも見ている絵が多いのですが、あらためて近くに寄って、筆遣いを見ると、あらためて絵の良さを感じることができます。

展示は、点に注目、線に注目、面に注目と分かれていて、それぞれ次のような作品が展示されています。

【点】
新印象派のポール・シニャックの《コンカルノー港》
日本の点描画家、岡鹿之助の《雪の発電所》
このへんは点描の人たちですからわかりますが、ゴーガン、モンドリアン、青木繁も点に注目すべき作品があるのがわかります。

【線】
カンディンスキーの《日本の線》
ミロの《絵画》
抽象絵画の人が線には登場します。その他には輪郭線の面白さを追求した藤田嗣治や猪熊弦一郎の作品があります。

【面】
ゴーガンの《乾草》
セザンヌの《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》
安井曾太郎の《薔薇》
印象派の後には、もう一度面への関心が高まったということでしょうか。ポスト印象派の作品が展示されています。

これらの作品を見ていると、20世紀モダニズムの絵画は、それまでの内容重視の絵画から脱却し、メディウムを見せるようになったことが良くわかります。

ブリヂストン美術館、「筆あとの魅力−点・線・面」は、2013年3月10日までです。

2013年2月4日月曜日

那智瀧図 根津美術館

昨日《那智瀧図》を見に根津美術館へ。

熊野の那智の瀧を描いた図です。縦長の画面に瀧だけが浮き出しています。もちろん瀧壺の周りには、よく見ると、樹も社殿も、いわくありげな塔婆も描かれているのですが、何と言っても瀧です。これだけで絵にしてしまう、すばらしい表現力です。見に行ったかいがありました。

今回の展覧会には、《那智瀧図》だけでなく、仏教説話画のおもしろいものも出展されています。《絵過去現在因果経》《釈迦八相図》《仏涅槃図》《羅漢図》《天狗草紙絵巻》《善光寺縁起絵》。全巻の一部だけの展示であったり、絵の状態が良くないものがあったりして、それぞれの話の筋を理解するのは難しいのですが、人の表現が生き生きしているものが多く、楽しめます。

もちろん、根津美術館に行ったら、中国商時代の青銅器も見逃せないので、こちらにも再会してきました。

根津美術館の「新春の国宝那智瀧図 —仏教説話画の名品とともに—」展は、2013年2月11日までです。

2013年1月27日日曜日

吉祥のかたち 泉屋博古館分館

六本木の泉屋博古館分館で、「吉祥のかたち」展が開催されています。七福神のような吉祥のかたちも良いですが、私にとっての興味は、商・周時代の青銅器、漢の四神、それに若冲です。

泉屋博古館の青銅器には、私の好きなものがたくさんあり、今回の展示も楽しいものがたくさん出ていました。私のお気に入りは、商の時代の《饕餮文斝》、これは饕餮文が深く彫られていて良い感じです。西周の《虎卣》、虎が人間を喰う図の卣です、その意味は良くわからないようですが、とにかくめでたい図像のようです。漢代や唐代の鏡もたくさん出品されています。よく見ないと何の図か判りにくいのですが、泉屋のキャプションは親切なので、よく見ると勉強になります。
絵では、伊藤若冲の《海堂目白図》。目白が木の枝の上に寄り添い合っているのが可愛い。

泉屋博古館の「吉祥のかたち」展は2013年2月11日までです。

アーティスト・ファイル2013 国立新美術館

アーティスト・ファイル展は、国立新美術館が2008年から継続的に開催しているプログラムです。今回の「アーティスト・ファイル2013−現代の作家たち」が5回目にあたります。内容は、国立新美術館が、国内外で活動する作家を個展形式で紹介し、またその作家に関する情報のアーカイブも作成しようというものです。所蔵品を持たない国立新美術館としてはアートセンターとしての真価を問われるプログラムです。

今回は8人の作家が、それぞれのブースで展示するという形になっています。
日本からは、東亭順、利部志穂、國安孝昌、中澤英明、志賀理江子の5人。海外からは、イギリスのダレン・アーモンド、インドのナリニ・マラニ、韓国のヂョン・ヨンドゥです。

作品のメディアも、手法も、表現しようとしていることも、それぞれ異なるのですが、私にとっては、どの作家の作品も刺激的でした。

本当は、ここで作品紹介をした方が良いのかもしれませんが、言語化するとどうしてもそれぞれの作品の良さを表現しきれないような気がします。もうすこし時間をかけて考えてみたいと思いますので、今回はとりあえずこんな展覧会があると言う紹介だけにします。

「アーティスト・ファイル2013−現代の作家たち」は2013年4月1日までと会期も長いので、ぜひ一度行ってみてください。

2013年1月21日月曜日

エル・グレコ展 東京都美術館

エル・グレコ(1541−1614)はベラスケスやゴヤとならぶスペインを代表する画家だといわれています。1541年にギリシャのクレタ島で生まれ、イタリアで活動した後、1576年にスペインに渡り、対抗宗教改革ただなかのトレドで活躍します。
今、東京都現代美術館で開催されている、「エル・グレコ」展は、そのエル・グレコの油彩作品が47点、テンペラ作品が3点出展されている、充実の展覧会です。

10点ほどの肖像画を除けば、後はすべて宗教画です。絵を観るとき、そこに描かれている「ものがたり」(内容)を観るのか、形・色・構成(形式)を観るのか、いつも気になります。特に今回のような宗教画では、それをどう観たら良いのか、考えてしまいます。例えば、今回も《無原罪の御宿り》という大きな作品が出展されていますが、今の日本で「無原罪の御宿り」という「聖母マリアは元祖アダムの罪を免れている」という教義に強く感銘する人は多くはないのではないでしょうか。ということは、多くの人は、グレコのこの絵の、形・色・構成(形式)を愛でることになるでしょう。そう割り切ると、グレコの作品の現代にも通じる良さが見えてくるような気がします。

グレコの作品全体を通じて、私が感じるのは、

  • 画面の中の空間に「ねじれ」が感じられ、それが絵を観ている人の空間にまで影響を及ぼすように見えること
  • 赤、青、黄色など、大きな色面の対比が心地よいこと
  • 衣を描く、大胆な筆致に魅せられること
  • 人物の顔に現れる、その人の意志のようなものから、眼をはなせなくなること
絵の見方は人それぞれでしょうが、私には眼をはなせなくなるような作品が多かったことは間違いありません。これは見に行くべき展覧会だと感じました。

東京都美術館のエル・グレコ展は2013年1月19日から4月7日です。

(いつも展覧会に行った後、図録を買おうかどうか迷いますが、今回の図録はテキストが充実していたので、迷わず買ってしまいました。)


2013年1月13日日曜日

会田誠 天才でごめんなさい 森美術館

森美術館の「会田誠 天才でごめんなさい」展に行ってきました。以前地震でエレベータが停まっていて、他に廻ってしまったので、再チャレンジです。

会田誠の作品は、《大山椒魚》《美しい旗(戦争画RETURNS)》《紐育空爆之図(戦争画RETURNS)》などを観たことがありましたが、これだけの作品が集まると壮観です。
こんなことを描いてはいけないのではないかというような自己規制をすべて外して、社会・歴史・戦争の「これは変だよ」、少女趣味、猥雑さへの嗜好、死への憧憬、などを全て掛け算してみると今回の展覧会になります。

好き嫌いはいろいろあるでしょうが、ここにあるのは、文書では伝わらない、造形ならではの表現であることは間違いありません。美術手帖の1月号でも特集されています。

「会田誠 天才でごめんなさい」展は2013年3月31日まで開催です。


手の痕跡 国立西洋美術館

国立西洋美術館で「手の痕跡」展を行っています。内容は、ロダンとブールデルの収蔵品展で、彫刻が60点以上展示されています。素描も22点あります。

ロダンは1840年生まれ1917年没です。モネが1940年生まれ1926年没ですから、ロダンは印象派の画家たちと同じ世代ですが、もっと古い人のように感じていました。当時の先端をいく絵画は「ものがたり」から離れて行ったのに対して、ロダンの作品は強く「ものがたり」と結びついているために、古いと感じていたのかもしれません。

改めてじっくり観賞すると、実物の人間では骨折してしまうようなありえないような造形がされていて、それがドラマチックな感情を生んでいたり、新古典主義の滑らかな表面とは違った表面のラフさなど、なるほどこう表現しているのかという発見がたくさんありました。

2013年1月27日まで開催されていますから、彫刻好きな方はもちろん、たまには彫刻を見ようかという方は、行ってみたらどうでしょうか。同時に『Fun with Collection 2012 彫刻の魅力を探る」というプログラムが開催されていて、ブロンズ像の造り方、大理石像の造り方など、丁寧に説明してあるので、こちらも必見です。





2013年1月4日金曜日

東京国立博物館 東洋館リニューアル・オープン

新年おめでとうございます。

2013年1月2日から、東京国立博物館の東洋館がリニューアル・オープンされ、早速2日に見にいかれた方から、良かったという話を聞きましたので、私も続いて行ってきました。

さすがに展示も多く、午後1時から5時の閉館まで時間を費やしてしまいました。私が興味を持ったのは、

・馬家窯文化の焼物
・左に写真を載せた揺銭樹
・漢代画像石
・唐三彩の壺
・宋代の青磁
・朝鮮の白磁
・中国染織の緙絲(こくし)

などたくさんありました。もちろんガンダーラの仏像や、中国石窟の仏像は期待通りです。

なかでも一番の見所は中国絵画でした。南宋の李迪筆の《紅白芙蓉図》、これは精妙な花の表現に見入ってしまいます。もう一つは、清の乾隆帝が愛蔵していたという北宋の李という作家の《瀟湘臥遊図巻》、この柔らかいタッチの水墨は何とも言えないですね。この2点は1月27日までの展示ですから、興味のある方はぜひ早めに行くことをお勧めします。

今日は、本当に偶然ですが、東洋館で知り合い2人に会いました。皆さん、東洋間のオープンを待っていたと見えます。嬉しいですね。