昨日、いつも美術館見学をいっしょに行っている皆さんと、目黒区美術館で開催されている「佐脇健一 未来の記憶」展に行きました。
佐脇健一さんは、ブロンズや鉄の鋳造作品を中心に作品を創られていますが、今回は大きなインスタレーション、写真と絵を組み合わせた作品、ヴィデオ作品、木の箱を使った作品など、多様な作品が展示されていました。
目黒美術館の展示では、目黒区美術館、大分市美術館を俯瞰した作品に導かれて会場に入っていきます。
最初に、写真と絵を組み合わせたフォト・ドローイングの作品から見ることになります。一番大きな作品は、近代産業の遺物である「軍艦島」の建造物の写真に、手書きの筆あとが残る青い空を組み合わせた作品です。その空は細いグリッド線の上に描かれています。この写真と絵の組み合わせが不思議な感じを引き起こします。たぶん、遺物の写真だけであれば、その遺物の歴史的な意味をさぐったりすることになるはずです、ところがここには手書きの空が組み合わせれています。これにより、作者はこの風景を記憶の中に定着したかったのだと理解されます。そうすると、これを観る者は、その記憶を共有するように仕向けられることになります。
先に進むと、たくさんの木箱がならんだ部屋になります。木箱の中には、ここにはミニュチュアの産業遺物が入れられていて、内側の立ち上がる面には空と雲の写真が貼られています。図録では、これは東洋的な小宇宙で、神棚や仏壇のような礼拝的価値も見いだされると書かれていますが、私の印象では、西洋の聖人の遺物をいれた聖遺物箱のように感じられました。そこには過去からのメッセージが物体の形で目の前に置かれているようです。
2階にいくと、大きな鋳造作品があります。地面から切り取られたような作品には、原子力発電所の炉心や、放射性廃棄物の永久貯蔵施設、捨てられた無人偵察機など、メッセージ性の強いオブジェが載せられています。ここでは、素材の金属の質量がそこにある建造物や機械の動かしがたさを、金属の錆びた表面が長い時間の経過を表しているようです。
今回の展示では、ほとんどの作品には人が登場しません。そのため、これらの展示品は、思い出す人もいなくなった後に残る、記憶の残骸であるように感じられます。最初に感じた不思議さは、記憶の残骸を共有するよう作品が迫ってきたためかもしれません。
目黒区美術館での展覧会は、残念ながら、本日、2013年6月9日に終わってしまいますが、佐脇さんの作品は、また機会があれば観てみたいと感じます。
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