2011年12月11日日曜日

週末のアート探し5 コビケンと高橋コレクション

ゆりかもめ「日の出」駅のちかくにある、TABLOIDギャラリーで、「コビケンは生きている −高橋コレクションより−」が2011年12月3日から12月28日の間開催されています。

展覧会のタイトルにもあるように、この展覧会の縦糸は「コビケン」で横糸は「高橋コレクション」です。

コビケンとは東京藝術大学のカリキュラムで古美術研究旅行のことです。
どうも現代活動している作家はこのコビケンに影響されているところが多いようだということで、現在活動している作家にコビケンの思い出を語ってもらい、また再び今あらためて京都、奈良などに旅をして語ってもらおうというという企画をしたのが、雑誌BRUTUSです。2011年11月1日発行のBRUTUSでは「京都・奈良・滋賀・大阪、必修古美術研究旅行」という特集を組んでおり、そこでは、千住博、小谷元彦、山口晃、会田誠、鴻池朋子、ひびのこづえ、といった作家が旅をして古美術を紹介しています。

高橋コレクションは、タカハシクリニックという病院の経営を行う高橋龍太郎さんのコレクションで、日本の現代作家の作品を中心に1000点以上の作品が集められています。
奈良美智、村上隆、会田誠、山口晃、小谷元彦、束芋、鴻池朋子、名和晃平、三沢厚彦、などの作品がコレクションされています。

今回の展覧会はこの2つの切り口を組み合わせたもので、主催は高橋コレクション、協力はBRUTUS編集部、キュレーションは美術ジャーナリストの鈴木芳雄です。
高橋コレクションを使って、現代活躍している作家の、古美術にインスパイアされた作品を見ようと言うものです。

作品展数は13点なのですが、どれもこれも目が離せないような作品です。一部を紹介すると、

  • 小谷元彦《SP4 the specter-Arabesque woman with a heart》。FRP製の女性像で、橋本平八の《花園に遊ぶ天女》を意識しているということですが、手に心臓を持ったこの像が表している感性の中心部分は密教の仏像に繋がっていそうです。
  • 鴻池朋子《無題》。巨大な髑髏が中心にある襖絵。襖をあけると髑髏が左右に分かれるかたちになる。障壁画というフォーマットがインパクトを強めています。
  • 会田誠《美しい旗》。二曲一双の屏風絵。内容は左隻には日本の少女が戦場と思われる場で日の丸の旗を振っている姿。右隻にはチマチョゴリの少女が韓国の旗を振っている姿。二曲一双は風神雷神図につながると解説にありましたが、それだけでないザワメキを感じる作品。
  • 山口晃《九相圖》。これは小野小町が死んで腐乱していくところを描き、生の無常を表現したという、九相図をもじった作品。頭が馬で胴体がバイクの不思議な乗り物が、死んで?、変化していく様子を示している。
現代の、尖った作品も、日本の美術の伝統とつながりを持っている事がわかります。

男の子の雑誌のようなイメージがあるBRUTUSですが、コビケン特集は見ても良いかもしれませんね。
高橋コレクションの方は、「ネオタニー・ジャパン − 高橋コレクション」の図録を見てから興味を持っていました。




週末のアート探し4 斎藤清、日本の田舎

新宿小田急百貨店10Fアートサロンで、12月7日から12月13日まで「斎藤清展」が行われています。斎藤清さんは、1907年生まれ1997年没の、木版画家です。
特に今回展示されていた作品は、こういう風景が日本にはあったんだろうなと思わせる、古い農家があったり、柿の実がなっていたり、家が雪で覆われているような作品です。

私が面白いと思ったのは、たくさん展示されていた懐かしさを強調したような作品ではなく、熟れた柿の実が画面いっぱいに広がっている作品や、屋根の上の重くのしかかった雪の下にお店の暖簾がのぞいているような、構図の面白い作品でした。

百貨店の展示で、作品には値札が付いていたので、ついつい、こういうどこかで見た日本みないな絵は売れるんだろうな、などと思いながら会場を出てきました。

2011年12月10日土曜日

週末のアート探し3 神戸智行、自然なもの

2011年11月15日から12月18日、信濃町と千駄ヶ谷の間にある、小さな美術館「佐藤美術館」(新宿区大京町31−10)で、「イノセントワールド 神戸智行展」が行われています。

神戸智行さんは多摩美術大学で日本画を学ばれた方で、佐藤美術館を運営している公益財団法人佐藤国際文化育英財団の奨学生であった方です。
作品は自然にたいするこだわりがあります。例えば《幸福ノカタチ》では、縦1.5m、横8mの大きな画面にたくさんのクローバーがちりばめられており、よく見ると影に虫やトカゲがいます。自然のなかにいて気持ちいいなあという感慨がわいてきます。
福岡の太宰府天満宮のために描いた、四曲一双の屏風では、木に咲く花という屏風絵の伝統が、現代に生きています。
おすすめです。行ってみてください。

この展覧会と会わせて、銀座7丁目のギャラリー広田美術(中央区銀座7−3−15ぜん屋ビル1F)でも、神戸智行さんの作品が、12月2日から18日の間、展示されていますので、こちらにも行ってきました。
こちらはギャラリーなので小品中心なのですが、植物の間にトンボや小さなカエルがいる作品とか、金魚の作品、虫はいなくても虫が喰った葉に生命を感じる作品など、素晴らしい作品が展示してあります。
こちらには、神戸智行さん本人がいらっしゃいました。《幸福ノカタチ》のクローバーの中に1つだけ四葉のクローバーがあるというような話も伺えて、たいへん良い雰囲気でした。
展示の様子は、ギャラリー広田美術のホームページで見られます。

週末のアート探し2 ウフィツイ・ヴァーチャル・ミュージアム

2011年11月22日から12月8日まえ、イタリア文化会館エキジビションホールで、「ウフィツィ・ヴァーチャル・ミュージアム」展が行われています。これはウフィツィ美術館の作品を高画質・高精細でデジタル化し、実物大で展示するというものです。また画面に触ってiPhoneのように自由に拡大してみるという展示もあります。

主催は、イタリア大使館、イタリア文化会館、イタリア文化財・文化活動省、フィレンツェ美術館特別監督局、フィレンツェ大学MICC、伊日財団です。
技術的には日立も協力しているようです。

実物大になった作品は、ボッティチェリの《プリマヴェーラ》《ヴィーナスの誕生》、レオナルド・ダ・ヴィンチの《受胎告知》、ラファエロの《ヒワの聖母》、ミケランジェロの《ドント・ドーニ》、ティッチアーノの《ウルビーノのヴィーナス》、カラバッジョの《バッカス》などの名画です。

確かに高精度で、画集で見るのとは次元が違っています。《プリマヴェーラ》の右側のゼフィロスの所にある木に光が当たっている所は、金色の斜め線で表現されていたんだとか、良くわかります。
でも本物に近くなればなるだけ、本物ではないんだと言う思いが強くなるのは、しかたがないですね。見終わっての感想はフィレンツェに行かなくっちゃというものでした。
これはイタリアの皆さんの思うつぼかな。

左の写真は、九段にあるイタリア文化会館です。
正面の色が派手なので景観上の問題があるのではないかと話題になった事がありましたね。

週末のアート探し1 ロートレック

今週末はバリエーションにとんだアートを探してみることにしました。

2011年12月9日(金)夜、三菱一号館美術館で10月13日から12月25日に行われている、「トゥールーズ=ロートレック展」を見に行きました。
この展覧会は、所蔵品で展覧会を行うという、展覧会の王道になっています。三菱一号館美術館の所蔵品の他には、フランスのアルビにあるトゥールーズ=ロートレック美術館の作品が多く展示されています。


なぜ、三菱一号館美術館がロートレックを所蔵しているかというと、ロートレックの友人でもあり画商であったモーリス・ジョワイヤンが持っていたロートレックのリトグラフなどのグラフィック作品のコレクションを、三菱一号館が入手したためです。今、250点ほどの作品があるということです。

内容的には、ムーラン・ルージュなど当時の新しい大人の娯楽施設のための宣伝用ポスターが見応えがありました。浮世絵に影響されたという大胆な構図、大胆な色彩、モデルの個性を感じさせる人物表現など、引きつけられます。女性の顔などはなんでここまで変に描くのという感じです。となりに並んで展示されているモデル本人の写真はいい女なのに。でもそこに本人の個性が滲み出しています。

美術の王道からすると、リトグラフという版画作品であり、しかも目的は商業美術ということで、亜流なのでしょうが、19世紀末をこれだけ表現しているのは素晴らしいですね。ロートレックの後は、ハイ・アートと商業美術は交わる事が無くなってしまうようです。

写真は、三菱一号館美術館から見た、下の広場のクリスマスの飾り付けです。

2011年12月9日金曜日

大阪市立近代美術館

大阪市長に当選した橋下徹さんが、大阪市立近代美術館設立を白紙に戻すといっているというニュースが流れました。これに関して少し調べてみました。


  • 1983年に大阪市制100周年の一環として近代美術館が構想され、翌1984年に近代美術館構想委員会が発足。
  • その後紆余曲折があるも現在にいたるまで未完成。
  • すでに153億円の美術品を購入し、4千4百点を超える作品を持っている。
  • 建築予定地は中之島の国立国際美術館の近く。
  • すでにコレクションされている作品の一端。
    • 佐伯祐三の《郵便配達夫》
    • モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》
    • マリー・ローランサン《プリンセス達》
    • など
いったいこれは何だったんでしょうか。
バブル崩壊など経済の混乱、また政治の混乱のなかで、どうしようもなくなっているようですが、大変残念な事です。少なくとも作品が死蔵されてしまうことだけは避けて欲しいものです。

どんな偶然なのか、国立国際近代美術館では今年2011年10月4日から12月11まで、大阪近代美術館建設準備室が持っている作品を含めて『中之島コレクションズ 大阪市立近代美術館&国立国際美術館』を開催しています。




2011年12月8日木曜日

iPadでゴヤ展

国立西洋美術館で2011年10月22日から2012年1月29日まで「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」が開催されています。11月18日には来場者も10万人を超えたということで関心も高いようです。

私もぜひ行かなくてはと思い、国立西洋美術館のWEBを見ていた所、公式アプリeガイドブックというのを見つけました。これは読売新聞社が作った電子ブックで、カタログを元にして作ってあり、Apple iPadやAndroidタブレットで展覧会のガイドブックを見られるというものです。iPadの場合にはApp Storeで「goya2011 e-guidebook」と検索すると出てきて、800円で購入できます。ちょっと高いかなと思いながらダウンロードしてしまいました。

内容は、展覧会の章立てにそって主要な作品と解説がのっている部分がメインで、その他に、展覧会出品リスト、展示室のマップ、展示室のなかでぐるりと周りを見回した影像、ゴヤ略年譜、プラド美術館紹介が載っています。

まだ全部見ていませんが、画像もきれいで、展覧会に行く前に事前に情報を入手するのに最適なツールのようです。

これを見てから、今度の日曜日にでも上野に行ってみよう。