2013年4月28日日曜日

チム↑ポム「PAVILION」 岡本太郎記念館

2011年5月に渋谷にある岡本太郎の壁画《明日の神話》を、福島第一原発の事故を表すパネルで拡張してみせ、物議をかもしたのがチム↑ポムという集団でした。岡本太郎記念館の平野暁臣は、そのチム↑ポムを認めて、今回、岡本太郎記念館でのチム↑ポム「PAVILION」展開催の運びになったわけです。

チン↑ポムの作品は2階に展示されていて、2つの部屋とそれを繋ぐ廊下が展示場になっています。

最初の部屋には4つの作品から構成されています。一番目をひくのは、無人の福島、岡本太郎の太陽、渋谷を、チム↑ポムに導かれてカラスの群れが飛ぶビデオ作品。そのスクリーンの左側には岡本太郎の墓を見つめる女性の映像。スクリーンの右にはゴミを墓地に埋め黒いゴミ袋を墓石のようにするビデオ作品と、それに呼応する石で創られたゴミ袋。スクリーンの反対側には、岡本太郎が恐山などで撮った写真を、チン↑ポムが焼いた木の上に焼き付けた作品。

最初の部屋から、岡本太郎が書いた「殺すな」というパネルの前を通って、次の部屋に進むと、そこは光が入らない空っぽのホワイト・キューブの部屋。壁に穿かれた明るい部分を覗くとそこにはプラスチックの治具に支えられて宙に浮いている岡本太郎の骨が一片。

ここにあるのは、メッセージ性の強い作品ですが、単純に言葉を造形作品に置き換えただけのアジテーションではありません。こういう形でしか表現できないものがあるという作者の思いが強く感じられます。

展覧会は、青山の岡本太郎記念館で、2013年3月30日から7月28日までです。

2013年4月24日水曜日

貴婦人と一角獣展 国立新美術館

今、15世紀から16世紀にかけては、ルネサンスの最盛期ですが、ゴシックが最後の光を放つ時代であり、リーメンシュナイダーの彫刻などすばらしい作品も制作されていました。実はそのころは、タピスリーの最盛期でもありました。今回、フランス国立クリュニー中世美術館から来ているのは、そんな時代の最上級の6枚のタピスリー《貴婦人と一角獣》で、《触覚》《味覚》《臭覚》《聴覚》《視覚》《我が唯一の望み》です。

国立新美術館の展示は、大きな半円形の部屋を作り、その壁面にこの6枚のタピスリーだけが掛けられています。その部屋の周りには小部屋があり、そこには、このタピスリーの動物、植物、服装、紋章の図像研究の展示があり、一角獣のキリスト教的意味や宮廷での意味が論じられています。つまり、全ての展示がこの6枚の絵に向いています。

ここには、ルネサンスが追求したような、三次元的な空間の描写、自然の再現、理想的な人体表現などはありませんが。赤い色と緑色の対比の心地よさ、植物であふれた画面の豊穣さ、可愛い小動物達、美人というよりも個性的な顔立ちの貴婦人と召使い達、一角獣がもつ象徴的な意味を思いめぐらす楽しみなどがあります。

西洋中世の作品を日本で観る機会はかなり少ないので、今回はたいへん良い機会だと思います。お薦めの展覧会です。開催期間は2013年4月24日(今日です)から7月15日です。

2013年4月22日月曜日

熱々東南アジアの現代美術 横浜美術館


2013年4月13日から6月16日まで、横浜美術館で「熱々東南アジアの現代美術」が開催されています。

横浜美術館が主催、シンガポール美術館が共催の形で、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジアの8ヶ国から25人の作家の作品が出展されています。

この展覧会から感じるのは、東南アジアの現代作家の社会への問題意識です。国境、民族、都市化、グローバル化、独立に関わる痛み、地域社会の閉塞感などの課題を形にして見えるようにしたい、そんな意図を強く感じます。

ここに載せた写真は、シンガポールのリー・ウェンの《世界標準社会(World Class Society)》という作品の一部になっているアンケートに解答した結果入手した「World Class Society」バッチです。

日本でも、会田誠や、Chim↑Pomなど、社会に対する関心をテーマにするアーチストが注目を浴びるようになっているように思いますが、それらとも通底するものがあるように感じます。

とにかく、勢いを感じます。横浜ですが、機会があれば見に行かれたらどうでしょうか。

2013年4月14日日曜日

九州国立博物館

太宰府の観世音寺へ行った後、九州国立博物館へ。

九州国立博物館は2005年に開館した博物館。東京、京都、奈良に次ぐ4番目の開館です。丘の上に地面に沿うようにして造られた建物で、菊竹・久米設計共同体の設計です。

今回はじめて行って、びっくりしたのは、そのアプローチです。太宰府天満宮の奥から、長いエスカレータと動く歩道を辿って行くと、入り口のエントランスになります。

今回は、3階の特別展示室はヴェトナム展の準備中で、4階の文化交流展示室で所蔵品を中心とする展示と古武雄の陶器の展示がされていました。土器、銅鐸など考古学的展示が多かったのですが、私の興味を引いたのは、ガンダーラの仏伝図、ヴァーチャル・リアリティで再現された装飾古墳、古代の年代測定法紹介の一室でした。

九州国立博物館は、新しい博物館として、今後どう展開していくのか注目したいと思います。

太宰府 観世音寺

九州に行ったついでに、太宰府の観世音寺へ。

観世音寺は天智天皇が母の斉明天皇の冥福を祈り746年に建立した寺です。当時は、戒壇院も置かれていて、西日本で随一といわれた寺院です。梵鐘は日本最古で国宝になっています。

境内に「観世音寺宝蔵」があり、仏像13体が収められています。
丈六の《十一面観世音菩薩立像》《馬頭観世音菩薩隆三》《不空羂索観世音菩薩立像》など大きさに圧倒されます。造形的に面白かったのは平安期初期の一本彫りの《兜跋毘沙門天立像》です。

この後、九州国立博物館へ。


石橋美術館 美のレッスン

先週末に九州で仕事があったので、ついでに石橋美術館へ。久留米にある石橋美術館へは福岡天神から西鉄で。

石橋美術館は、石橋正二郎のコレクションを基にした美術館で、東京のブリジストン美術館とは兄弟関係。ブリジストン美術館が西洋近代が中心なのにたいして、こちらは日本の近代を中心にして、一部近世以前のものが収蔵されています。青木繁のコレクションが有名。

今回は収蔵品を「美のレッスン」という形で見せています。女性、服、風景、海など章だてをして美を発見してもらおうという展示になっています。

以前ブリジストン美術館の「青木繁」展に出展されていた《わだつみのいろこの宮》《海の幸》や坂本繁二郎の《放牧三馬》などに再開。

《天平の面影》など藤島武二の作品も充実しています。また古賀春江の作品を多く所蔵しているということにも改めて気付きました。その他興味を持ったのは、百武兼行《臥裸婦》、白髪一雄《白い扇》、野見山暁治《風の便り》、猪熊弦一郎《青い星座》、黒田清輝《針仕事》など。全部で100点以上出展されていて、大満足です。

別館の方も充実していて、丸山応挙《牡丹孔雀図屏風》《竹に狗子波に鴨図襖》、酒井抱一《新撰六歌仙四季草花図屏風》などがあります。磁器では元時代の《青磁鉄斑紋瓶》が見事です。

九州久留米ということで、行くのがちょっと大変ですが、良い美術館でした。
「美のレッスン展」は2013年6月9日まで。

2013年4月7日日曜日

エドワード・スタイケン写真展 世田谷美術館

いつも展覧会は開催すぐに行くことが多いのですが、今日の展覧会は最終日でした。行ったのは、世田谷美術館で開催されている「エドワード・スタイケン写真展 モダン・エイジの光と影 1923−37」。

エドワード・スタインという人はよく知りませんでした。調べてみると、1879年生まれのアメリカの写真家です。青年時代はスティーグリッツなどとともに芸術写真をつくっていましたが、そのご商業写真を撮るようになり、VOGUEやVANITY FAIRに女優やモデルの写真を載せるようになります。その後MOMAの写真部長となり冷戦期に68カ国273人の写真からなる「ザ・ファミリー・オブ・マン」展を開催します。これはアメリカのプロパガンダかと議論され、日本の高島屋にも巡回した展覧会です。

今回の展覧会は、スタイケンが商業写真を撮っていたころの展覧会で、VOGUEに掲載された女優やファッションモデルの写真、VANITY FAIRに掲載された女優、映画監督、文学者、政治家などの写真が展示されています。

おもしろいのは展示のキャプションに、写真の説明ではなく、写っている女優に関する説明がついていた点です。つまり、これは写真自体が興味の対象ではなく、写真が写している女優に興味があるという視点を、この展示で示しているわけです。

ちょっと前まで横浜美術館で開催されていた「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー展」や、今回の世田谷美術館の「エドワード・スタイケン写真展」を見ると、写真は芸術なのかといろいろ考えさせられます。


2013年4月3日水曜日

ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアムのルーベンス展。今日で3回も行ってしまいました。何回も行った理由は、すごく良かったからというよりも、そこにはもった何かあるはずだと思ったせいかもしれません。

その結果、一番良かったのは、ルーベンスの原画を元にした版画作品でした。版画作品はアントワープ王立美術館、プランタン=モレトゥス博物館/市立版画素描館から、30点出品されています。17世紀当時版画は現在の画集のようなもので、だれがどんな絵を描いているということをヨーロッパ中に伝える手段で、ルーベンスは良い版画を作ることにかなり力を注いでいたそうです。その成果がここにあるように思われます。有名すぎる作品ですが、《キリスト降架》の構図などすばらしいものです。

次に面白かったのはヴァン・ダイクの作品。ヴァン・ダイクは、肖像画家として有名ですが、今回は《髭の男の頭部》《悔悛のマグダラのマリア》など肖像画でない作品が来ていて、その表現力の高さに感心しました。

バロックに感心をもつなら、ルーベンスを素通りするわけにはいかないとおもいます。展覧会は4月21日までですから立寄ってみたらどうでしょうか。