2014年9月27日土曜日

チューリヒ美術館展 国立新美術館

国立新美術館で「チューリヒ美術館展」が始まりました。展覧会のサブ・タイトルには「印象派からシュルリアリスムまで」とありますが、フランスの画家たちばかりでなく、スイスゆかりの作家や、表現主義的・象徴主義的な作家の作品も多く、ぜひ行ってみたい展覧会になっています。私がサブ・タイトルをつけるなら「セガンティー二からジャコメッティまで」でしょうか。

次のような作品がお薦めです。

  • アルプスを描いて有名なジョヴァンニ・セガンティーニですが、今回は晩年の象徴主義的な《淫蕩な女たちへの懲罰》《虚栄》が出展されています。
  • 展覧会カタログでもフォーカスされているモネの《睡蓮の池、夕暮れ》は2枚のパネルをつないで横6mもある作品。ここでは絵のサイズや絵の枠とはなにかを考えてみたくなります。
  • ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌは、それぞれの個性が出ていて、理屈をいわずに楽しめます。
  • ホドラーはスイスの孤高の画家。印象派やポスト印象派のペインタリーな作品を観ていると、ホドラーの線描重視に新鮮なものを感じます。今回、日本では馴染みのないホドラーの作品が6点出展されています。
  • ムンクの作品も今回4点出展されています。《叫び》のようなムンク的ではない《ヴィルヘルム・ヴァルトマン博士の肖像》に注目。
  • 日本ではあまり観ることがない、表現主義の作品では、キルヒナーの《小川の流れる森の風景》、ベックマンの《マックス・レーガーの肖像》。
  • ココシュカも5点あります。気味悪さでは《プットーとウサギのいる静物画》。
  • シャガールが好きな方は、今回の5点も楽しめます。
  • シュルリアリスムではエルンストの《都市の全景》。絵に作家の意図しないものをどう取込むか。
  • スイス出身でフランスで活躍したジャコメッティの作品は6点出展されています。《立つ女》に注目
全体を通して、スイスという場所のコレクションのせいか、フランスの作家、ドイツの作家、スイスに関わる作家と目配りされているように思われます。フランス流の画面上の造形を追求する流れと、イタリア・ドイツ・スイスにみられる表現主義的/象徴主義的な流れが、19世紀から20世紀前半にかけて同時並行に存在していたことがわかる、興味深い展覧会です。

国立新美術館での「チューリヒ美術館展」は2014/9/25から12/15です。

2014年9月7日日曜日

メトロポリタン美術館古代エジプト展女王と女神 東京都美術館

エジプトの美術というと、熱烈なファンか、最初から敬遠する人に別れるような気がします。
紀元前4400年頃から紀元まで4000年以上続く古代エジプトにロマンを感じるか、ピラミッドとミイラに象徴される現代からすると馴染みにくい葬祭儀礼を持つ文明と見るかによって異なるのかもしれません。
私は、数千年にわたって、同じイメージを作り続ける、そのときそのイメージとは何なのかという関心で、観に行きたくなります。現代の概念のアートではないイメージとは何なのでしょうか。

今回の展覧会は、ニューヨークのメトロポリタン美術館にある厖大なエジプト・コレクションから、女性という切り口で選択した作品が来日しています。約200点が全て日本初公開だそうです。

見所は、エジプトのハトシェプスト女王関連の展示です。ハトシェプスト女王は、紀元前1400年代の中頃に、夫のトトメス2世の死後、王位継承権をもつ継子トトメス3世の摂政となり、しだいに実権をとり王となったと言われています。歴史の中でたいへん珍しい女性の王という意味では、中国の則天武后のような存在でしょうか。アルカイック・スマイル的な微妙な微笑みを感じさせる像の頭部や、若い男性的な容姿のひざまづく像などが展示されています。石でできた像には、ギリシャ以降の理想的人体像への興味とは異なる、物質としての存在感を感じます。

他には、エジプトの女神関連の展示物や、アクセサリーがたくさん展示されています。展示は年代順ではないので、エジプト数千年の歴史の中でいつごろ作られたものなのかを確認しながら見ると良いかもしれません。

「メトロポリタン美術館古代エジプト展 女王と女神」は東京都美術館で2014年9月23日までの開催になっています。

2014年8月9日土曜日

ヴァロットン 冷たい炎の画家 三菱一号館美術館

フェリックス・ヴァロットン(1865-1925)は、スイスのローザンヌ生まれのナビ派の画家で、多くの油絵と木版の作品を残していますが、それほど知られた画家であるとはいえないようです。

今回の展覧会は、オルセー美術館とRMNグラン・パレにより組織化され、2014年1月までグラン・パレ、6月までアムステルダムのゴッホ美術館、9月まで三菱一号館美術館に巡回する回顧展です。

日本の展覧会タイトル「冷たい炎の画家」よりも、オリジナルの「Fire Beneath the Ice」のほうが、今回の展覧会意図を表しているかもしれません。画面表面の滑らかさの下に、表現したい内容が炎をあげている、それを作品のなかに探ってみようというわけです。オルセー美術館・オランジェリー美術館総裁のギ・コジュバル氏は「ヴァロットンは、欲望と禁欲の間の葛藤を強迫観念的な正確さで描き、男女間の果てなき諍いに神話的なスケールを与えています」と言っています。

三菱一号館美術館が所有している多くの木版画作品も展示され、ヴァロットンとはどのような画家だったのかを知る良い機会になっています。私が気に入ったのは、油絵で公園の人物を多視点で描いた《ボール》です。

「ヴァロットン 冷たい炎の画家」展は、印象派の後に出現した多様な作家に興味をもっている方にお薦めの展覧会です。三菱一号館で2014年9月23日までの開催になっています。

2014年7月12日土曜日

オルセー美術館展 印象派の誕生 国立新美術館

国立新美術館で、「オルセー美術館展 印象派の誕生 描くことの自由」が始まったので観に行きました。

印象派の誕生とありますが、あまり印象派にとらわれずに、19世紀から20世紀にフランスでどのような絵が描かれたのかを観に行くと良いと思います。

展示は、第一章「マネ、新しい絵画」、第二章「レアリスムの諸相」、第三章「歴史画」、第四章「裸体」、第五章「印象派の風景」、第六章「静物」、第七章「肖像」、第八章「近代生活」、第九章「円熟期のマネ」となっており、マネに始まりマネに終わります。

第一章では、マネの《笛を吹く少年》が見所です。正直にいうと、軍楽隊用のするどい音がする横笛を吹く少年の絵のどこが良いのだろうと、思っていました。実物を観ると、平面的な画面に描かれた、黒い上着、赤いズボン、それらを縁取る白い絵の具の、見事な色面の対比が良いのだとわかります。

第二章では、ミレーの《晩鐘》がなんといっても有名です。夕方になり晩鐘が鳴ると、農民が死んだ人々を憶って祈る場面です。庶民を敬意をもって描くのが、この時代のあらたな潮流だったというのがわかります。

第三章はアカデミーの歴史画です。印象派が出現してくる時に、まだ因習的な歴史画も描かれていましたと紹介される絵に興味を覚えます。次の第四章に展示される、ブグローやカバネルも同じ文脈の作品です。

第四章にあるモローの《イアソン》はモローが好きな方には必見。繊細な装飾物の表現などモローならではです。

第五章「印象派の風景」には、日本でも馴染みのある作家の作品が並んでいます。

第六章では、ファンタン=ラトゥールの《花瓶の菊》に、この時代の静物画があらわれているようにおもいます。

第七章の肖像では、ホイッスラーの《灰色と黒のアレンジメント第1番》が見所です。黒い服を着た老女が横を向いて座っている作品ですが、その黒いかたまりと左側にあるカーテンのようなものの対比が観る人に強い印象を与えます。タイトルにあるように、音楽的といってもよいかもしれません。ホイッスラーはもっと追っかけてみたい作家の一人です。

第八章、ドガの《バレエの舞台稽古》はドガらしい作品。モネの《サン=ラザール駅》も観ておきたい。

第九章は晩年のマネの作品ですが、《アスパラガス》がおいしそうです。

今回の展覧会では、観ておきたい絵が多く来ています。できれば、19世紀から20世紀にかけての絵画の展開を整理した上で行くと、より楽しめるのではないでしょうか。

「オルセー美術館展」は国立新美術館で10月20日までの開催です。


2014年5月30日金曜日

チベットの仏教世界 もうひとつの大谷探検隊 龍谷ミュージアム



関西で仕事があったので、空いた時間に龍谷ミュージアムの「チベットの仏教世界 もうひとつの大谷探検隊」へ。

大谷探検隊が西域からインドを調査をしたのは有名ですが、実はそれとは別に2人がチベットに派遣されて、チベット仏教の調査をしていました。今回の展覧会はその業績を紹介するものです。

ちょうど運よく学芸員のかたによるスライドでの説明があり、それを聞けたのですが。チベットにはインドで発展した大乗仏教の最後の形が伝わったのだそうです。そういうわけで中国や日本にはない経典に基づいた像などがあるという話で、そうだったのかと納得しました。

今回の展覧会で特に力を入れて展示されていたのが、現在のダライラマの前のダライラマが、遺言で、その時に渡った学僧、多田等観氏に贈った仏伝図です。仏伝図自体が日本ではめずらしいですが、特にこの仏伝図には、初転法輪から涅槃にいたるまでの知られていない仏伝がたくさんありたいへん珍しいものになっています。そこにはキリストの生涯にあるような、弟子をどのように獲得していったのかなどの伝記がたくさん描かれています。

今回の展覧会は6月4日までの開催です。チベットに興味がある方、仏伝図に興味がある方にはお勧めです。

2014年5月16日金曜日

マインドフルネス 髙橋コレクション展 名古屋市美術館

日本の現代美術の蒐集家で知られる高橋龍太郎さんのコレクション展です。
関西へ出張があったので、時間の都合をつけて行ってきました。

髙橋さんのコレクションは、部分的には色々な所、例えば会田誠展などで見ることがあったのですが、これだけ一堂に集まったのを見るのは初めてでした。
入り口で草間彌生の女子と犬のオブジェに出会うところから、期待を持たせられる展示になっています。展示は一階、二階、地下と広がっているのが、収集の規模の大きさを示しています。

展示は、草間彌生を始め、村上隆、奈良美智、会田誠、山口晃、鴻池朋子、束芋、蜷川実花、小谷元彦と、現代美術の有名どころを集めて多彩です。髙橋コレクションは、幼形成熟という意味のネオテニーというタイトルで展覧会になっていたこともありますが、いわゆる「大人」にならない夢の世界のような作品が多いことに注目させられます。

現代日本に出現した一群のアーチストをどう見るか考えるために、見に行くのも良いのではないでしょうか。

名古屋市美術館で、6月8日までです。

2014年5月11日日曜日

中村一美展 国立新美術館

中村一美さんという方は、勉強不足で知りませんでした。
今回、国立新美術館で中村一美さんの個展が開かれ、150点に及ぶ展示でその全貌が一堂に見られます。

中村さんは、西洋美術のモダニズムの頂点を示す抽象表現主義の研究を出発点に、日本・東洋の美術も研究し、新たな制作原理を確立していったようです。
基本は自然のものそのものの再現ではなく、抽象化された形象を見せる作品となっています。しかしタイトルには、文学的な含意があるタイトルがつけられているものも多く、絵画平面だけに収まらない、人が外的にもつイメージにつながる構想力にも関心がありそうです。

作品により幾何学的な線を強調したものと、色面の対比を基本に記号的な模様があるものに別れるようですが、いずれも垂直方向の強調と斜めの線の使い方が観る人の近くに刺激を与えるようにみえます。

私にとっては、中村一美さんの作品はたいへん興味のもてるものでした。国立新美術館で5月19日までですが、興味のある方はぜひ行かれることをお勧めします。