2014年12月28日日曜日

リー・ミンウェイとその関係 森美術館

12月は展覧会に行く時間をなかなかとれず、ブログを書くのも久しぶりになってしまいましたが、年内にぜひ行きたかった、森美術館で開催している「リー・ミンウェイとその関係」展に行ってきました。

リー・ミンウェイ氏は台湾生まれのアーティストで、イェール大学で彫刻を学び、ニューヨークで活動しています。

リー・ミンウェイは、個人と個人のつながりを、観客との対話によるパフォーマンスを通して、アートとして表現するという珍しい作品を作っています。

今回森美術館で行われているパフォーマンスを幾つか紹介すると、

(1)中国の、空が破れた時それを縫って直したと言われる「女媧」という女神を、凧にして上げてもらうプロジェクト

(2)観客に縫ってもらいたい品物を持ってきてもらい、会場でそれを観客と縫い手が会話しながら縫い、それを縫った糸とともに展示するプロジェクト(パンフレットに載っているプロジェクトです)

(3)抽選で当たった観客が対話しながら食事をするプロジェクト

(4)花を観客にもって帰ってもらい、帰りにだれか知らない人にそれをプレゼントしてもらうプロジェクト

(5)箱の中に入れた思い出の品物を、観客に開けてもらい見てもらうプロジェクト

(6)個人的な感謝や謝罪の手紙を書くプロジェクト

(7)ピカソの《ゲルニカ》を砂で描き、その上を大勢で歩いたのちに、きれいな色の模様とするプロジェクト

どうでしょうか、個人がひととつながることを意識化するプロジェクトが並んでいます。

また特別企画として、人のパーソナルな関係性をテーマにした、イヴ・クライン、鈴木大拙、アラン・カプロー、ジョン・ケージの作品なども展示されています。

それぞれのプロジェクトに関して、リー・ミンウェイが解説するビデオが流れているのですが、リー氏の穏やかな顔と声が印象的です。

展覧会の会期は2015年1月4日までとあとわずかですが、会期中無休で正月も開催してます。お勧めの展覧会です。


2014年10月21日火曜日

日本国宝展 東京国立博物館

東京国立博物館で、国宝だけを集めた企画展が開催されています。このような企画は、平成になってから3回しか行われてなく、前回は2000年の開催でしたから、かなり久しぶりな企画です。前後期を合わせると120点を超える作品を見ることができます。

今回は「祈り、信じる力」をサブタイトルにして、五章に分けて展示されています。第一章は「仏を信じる」で飛鳥時代から平安時代にかけての仏教美術、第二章は「神を信じる」で土偶・銅鐸・神像、第三章は「文学、記録に見る信仰」で絵巻・書跡・典籍・古文書、第四章は「多様化する信仰と美」で鎌倉時代から室町時代の美術品、第五章は「仏の姿」で仏像となっています。

博物館や美術館で、造形遺品をもともとのコンテクストを離れて、視覚の興味として見ることの是非はあると思いますが、教科書や美術書のなかでみていたものに直接触れる意味は大きいと感じさせられます。

展示は、10月15日から11月9日までが前期、11月11日から12月7日までが後期になっていて、展示替えがあります。特別出品の正倉院宝物は10月15日から11月3日の展示です。さらに10月26日までしか展示されない作品もあります。事前に出展期間の情報をウェブなどから入手して、観たいものを確認してから行かないと、観たい作品を見逃しそうです。

作品リストはこちらから
http://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=item&id=3890

2014年10月11日土曜日

ウィレム・デ・クーニング展 ブリヂストン美術館


2014年10月8日からブリヂストン美術館で「ウィレム・デ・クーニング展」が開催されています。デ・クーニングを日本でまとめて見られる機会は少なかったので、早速行ってきました。

抽象表現主義は、日本でも2012年に回顧展が開催されたジャクソン・ポロックや、川村記念美術館に良いコレクションがあるマーク・ロスコが有名ですが、ウィリアム・デ・クーニングも見逃せない作家です。

今回は、パワーズ・コレクションの1960年代の女性像を中心に35点が、入口に近い2室に展示されています。パワーズ・コレクションのポップ・アート作品は2013年に新国立美術館で開催された「アメリカン・ポップ・アート」で見ることができましたが、パワーズ・コレクションはポップ・アートだけではなかったわけです。パワーズ・コレクションの他には、国内の美術館の所蔵品から7点、ニューヨーク近代美術館から1点、個人蔵の1点が展示されています。

ウィレム・デ・クーニングは、1904年オランダのロッテルダム生まれ、1926年に渡米して、ニューヨークで抽象表現主義の作家といわれるようになっていきます。デ・クーニングの代表作は1950年代の女シリーズで、その強烈な色使い、グロテスクなイメージ、立体感を拒絶した平面性に特徴があります。今回出展されている作品は、作家60才代の作品が中心になっていて、強烈さは少し整理されて弱まっているかもしれませんが、デ・クーニングらしさは十分感じられるものになっています。

今まで図版でしか見ていなかったデ・クーニング作品を目の前にすると、赤と緑の補色を大胆に使った色遣い、白い絵の具が生なまま存在する絵の具の物質感、どこから始まりどこで終わるのかわからない線から見えてくる形象、眼や口を取り出して強調した顔のイメージ、立体感を拒否した筆跡と、見えてくるものがたくさんあります。デ・クーニングは、何かを表象することを徹底的に否定し、作品自体で存在することを追求したのではないかと、感じます。

抽象表現主義というと「アクション・ペインティング」という言葉がセットのように付いてまわりますが、これはハロルド・ローゼンバーグという批評家が書いて有名になった言葉です。もっとも有名なアクション・ペインターはジャクソン・ポロックですが、ローゼンバーグはデ・クーニングを見てアクション・ペインティングといったと言われています。デ・クーニングが、パネルの前でどんな行為を行ったのか、その結果がどうなったのかを考えるのも良いのではないでしょうか。

「ウィレム・デ・クーニング展」は2015年1月12日までの開催です。

2014年9月27日土曜日

チューリヒ美術館展 国立新美術館

国立新美術館で「チューリヒ美術館展」が始まりました。展覧会のサブ・タイトルには「印象派からシュルリアリスムまで」とありますが、フランスの画家たちばかりでなく、スイスゆかりの作家や、表現主義的・象徴主義的な作家の作品も多く、ぜひ行ってみたい展覧会になっています。私がサブ・タイトルをつけるなら「セガンティー二からジャコメッティまで」でしょうか。

次のような作品がお薦めです。

  • アルプスを描いて有名なジョヴァンニ・セガンティーニですが、今回は晩年の象徴主義的な《淫蕩な女たちへの懲罰》《虚栄》が出展されています。
  • 展覧会カタログでもフォーカスされているモネの《睡蓮の池、夕暮れ》は2枚のパネルをつないで横6mもある作品。ここでは絵のサイズや絵の枠とはなにかを考えてみたくなります。
  • ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌは、それぞれの個性が出ていて、理屈をいわずに楽しめます。
  • ホドラーはスイスの孤高の画家。印象派やポスト印象派のペインタリーな作品を観ていると、ホドラーの線描重視に新鮮なものを感じます。今回、日本では馴染みのないホドラーの作品が6点出展されています。
  • ムンクの作品も今回4点出展されています。《叫び》のようなムンク的ではない《ヴィルヘルム・ヴァルトマン博士の肖像》に注目。
  • 日本ではあまり観ることがない、表現主義の作品では、キルヒナーの《小川の流れる森の風景》、ベックマンの《マックス・レーガーの肖像》。
  • ココシュカも5点あります。気味悪さでは《プットーとウサギのいる静物画》。
  • シャガールが好きな方は、今回の5点も楽しめます。
  • シュルリアリスムではエルンストの《都市の全景》。絵に作家の意図しないものをどう取込むか。
  • スイス出身でフランスで活躍したジャコメッティの作品は6点出展されています。《立つ女》に注目
全体を通して、スイスという場所のコレクションのせいか、フランスの作家、ドイツの作家、スイスに関わる作家と目配りされているように思われます。フランス流の画面上の造形を追求する流れと、イタリア・ドイツ・スイスにみられる表現主義的/象徴主義的な流れが、19世紀から20世紀前半にかけて同時並行に存在していたことがわかる、興味深い展覧会です。

国立新美術館での「チューリヒ美術館展」は2014/9/25から12/15です。

2014年9月7日日曜日

メトロポリタン美術館古代エジプト展女王と女神 東京都美術館

エジプトの美術というと、熱烈なファンか、最初から敬遠する人に別れるような気がします。
紀元前4400年頃から紀元まで4000年以上続く古代エジプトにロマンを感じるか、ピラミッドとミイラに象徴される現代からすると馴染みにくい葬祭儀礼を持つ文明と見るかによって異なるのかもしれません。
私は、数千年にわたって、同じイメージを作り続ける、そのときそのイメージとは何なのかという関心で、観に行きたくなります。現代の概念のアートではないイメージとは何なのでしょうか。

今回の展覧会は、ニューヨークのメトロポリタン美術館にある厖大なエジプト・コレクションから、女性という切り口で選択した作品が来日しています。約200点が全て日本初公開だそうです。

見所は、エジプトのハトシェプスト女王関連の展示です。ハトシェプスト女王は、紀元前1400年代の中頃に、夫のトトメス2世の死後、王位継承権をもつ継子トトメス3世の摂政となり、しだいに実権をとり王となったと言われています。歴史の中でたいへん珍しい女性の王という意味では、中国の則天武后のような存在でしょうか。アルカイック・スマイル的な微妙な微笑みを感じさせる像の頭部や、若い男性的な容姿のひざまづく像などが展示されています。石でできた像には、ギリシャ以降の理想的人体像への興味とは異なる、物質としての存在感を感じます。

他には、エジプトの女神関連の展示物や、アクセサリーがたくさん展示されています。展示は年代順ではないので、エジプト数千年の歴史の中でいつごろ作られたものなのかを確認しながら見ると良いかもしれません。

「メトロポリタン美術館古代エジプト展 女王と女神」は東京都美術館で2014年9月23日までの開催になっています。

2014年8月9日土曜日

ヴァロットン 冷たい炎の画家 三菱一号館美術館

フェリックス・ヴァロットン(1865-1925)は、スイスのローザンヌ生まれのナビ派の画家で、多くの油絵と木版の作品を残していますが、それほど知られた画家であるとはいえないようです。

今回の展覧会は、オルセー美術館とRMNグラン・パレにより組織化され、2014年1月までグラン・パレ、6月までアムステルダムのゴッホ美術館、9月まで三菱一号館美術館に巡回する回顧展です。

日本の展覧会タイトル「冷たい炎の画家」よりも、オリジナルの「Fire Beneath the Ice」のほうが、今回の展覧会意図を表しているかもしれません。画面表面の滑らかさの下に、表現したい内容が炎をあげている、それを作品のなかに探ってみようというわけです。オルセー美術館・オランジェリー美術館総裁のギ・コジュバル氏は「ヴァロットンは、欲望と禁欲の間の葛藤を強迫観念的な正確さで描き、男女間の果てなき諍いに神話的なスケールを与えています」と言っています。

三菱一号館美術館が所有している多くの木版画作品も展示され、ヴァロットンとはどのような画家だったのかを知る良い機会になっています。私が気に入ったのは、油絵で公園の人物を多視点で描いた《ボール》です。

「ヴァロットン 冷たい炎の画家」展は、印象派の後に出現した多様な作家に興味をもっている方にお薦めの展覧会です。三菱一号館で2014年9月23日までの開催になっています。

2014年7月12日土曜日

オルセー美術館展 印象派の誕生 国立新美術館

国立新美術館で、「オルセー美術館展 印象派の誕生 描くことの自由」が始まったので観に行きました。

印象派の誕生とありますが、あまり印象派にとらわれずに、19世紀から20世紀にフランスでどのような絵が描かれたのかを観に行くと良いと思います。

展示は、第一章「マネ、新しい絵画」、第二章「レアリスムの諸相」、第三章「歴史画」、第四章「裸体」、第五章「印象派の風景」、第六章「静物」、第七章「肖像」、第八章「近代生活」、第九章「円熟期のマネ」となっており、マネに始まりマネに終わります。

第一章では、マネの《笛を吹く少年》が見所です。正直にいうと、軍楽隊用のするどい音がする横笛を吹く少年の絵のどこが良いのだろうと、思っていました。実物を観ると、平面的な画面に描かれた、黒い上着、赤いズボン、それらを縁取る白い絵の具の、見事な色面の対比が良いのだとわかります。

第二章では、ミレーの《晩鐘》がなんといっても有名です。夕方になり晩鐘が鳴ると、農民が死んだ人々を憶って祈る場面です。庶民を敬意をもって描くのが、この時代のあらたな潮流だったというのがわかります。

第三章はアカデミーの歴史画です。印象派が出現してくる時に、まだ因習的な歴史画も描かれていましたと紹介される絵に興味を覚えます。次の第四章に展示される、ブグローやカバネルも同じ文脈の作品です。

第四章にあるモローの《イアソン》はモローが好きな方には必見。繊細な装飾物の表現などモローならではです。

第五章「印象派の風景」には、日本でも馴染みのある作家の作品が並んでいます。

第六章では、ファンタン=ラトゥールの《花瓶の菊》に、この時代の静物画があらわれているようにおもいます。

第七章の肖像では、ホイッスラーの《灰色と黒のアレンジメント第1番》が見所です。黒い服を着た老女が横を向いて座っている作品ですが、その黒いかたまりと左側にあるカーテンのようなものの対比が観る人に強い印象を与えます。タイトルにあるように、音楽的といってもよいかもしれません。ホイッスラーはもっと追っかけてみたい作家の一人です。

第八章、ドガの《バレエの舞台稽古》はドガらしい作品。モネの《サン=ラザール駅》も観ておきたい。

第九章は晩年のマネの作品ですが、《アスパラガス》がおいしそうです。

今回の展覧会では、観ておきたい絵が多く来ています。できれば、19世紀から20世紀にかけての絵画の展開を整理した上で行くと、より楽しめるのではないでしょうか。

「オルセー美術館展」は国立新美術館で10月20日までの開催です。