2014年1月26日日曜日

クリーブランド美術館展 東京国立博物館

「クリーブランド美術館展」が東京国立博物館で開催されています。クリーブランド美術館はクリーブランドの実業家たちにより、1913年に設立され1916年にオープンした美術館で、コレクションは、エジプト・中近東、ギリシャ・ローマ、ヨーロッパ、アメリカ、アメリカ原住民、中国、インド・東南アジア、現代、工芸、素描と全方位で、そこには日本美術も入っています。2000点に迫る日本美術コレクションの大部分は、第二次世界大戦後の混乱期に日本から流出したものだそうです。

今回の展覧会は、そのクリーブランド美術館から日本の絵画の里帰りという趣向で、平成館の2階の半分を使って開催されています。章立ては「神・仏・人」、「花鳥風月」、「物語世界」、「近代西洋の人と自然」、「山水」です。展覧会カタログでは「神・仏・人」「花鳥風月」「山水」、「物語世界」、「近代性用の人と自然」の順になっていますから、展示場の都合で順序が入れ替わったのでしょう。

私が関心を持った作品を少し挙げると、次のようになります。

  • 鎌倉時代の《二河白道図》。阿弥陀の浄土へ行く道は狭いが、釈迦如来に励まされて行くことができるという話です。今回展示されている絵に関して、展覧会カタログに詳しく解説したテキストが載っているので、興味がある方はそれを読んでみると面白いと思います。
  • 鎌倉時代の《融通念仏縁起絵巻》。「融通念仏縁起絵巻」の最古の伝本だということです。
  • 室町時代の《厩図屏風》。本展覧会とは関係ないのですが、つい最近観た山口晃の《厩図》を思い出して笑ってしまいました。
  • 雪村周継《龍虎図屏風》。雪村は16世紀に関東を中心に活躍した画僧で雪舟に私淑したといわれています。雪村は《呂洞賓図》の龍が有名ですが、クリーブランドの龍もかなり良く、強い「気」を感じさせます。左隻の虎は猫のようですが愛嬌があります。
  • 日本の絵ではありませんが、米友仁《雲山図巻》。米友仁は米芾(ベイフツ)の子で米法山水の基を作りました。今回展示の作品は解説に後補が多いと書かれているが、南宋の山水を感じることができます。
  • 曽我蕭白《蘭亭曲水図》。蕭白おなじみの変な仙人はいませんが、蕭白にかかると普通の風景もなにか怪しくなります。
  • 深江蘆舟《蔦の細道図屏風》。蘆舟は尾形光琳に学んだ絵師。伊勢物語第九段「宇津山」に題をとった作品で、日本の絵の色彩の美しさを改めて感じることができます。


「クリーブランド美術館展 名画でたどる日本の美」は、ぜひ行ってみたい展覧会にです。東京国立博物館で2014年2月23日まで開催。

2014年1月25日土曜日

シャヴァンヌ展 Bunkamuraザ・ミュージアム

シャヴァンヌは、代表的な西洋美術通史の、ゴンブリッチの『美術の物語』やH.W.ジャンソンの『西洋美術の歴史』では全く触れられてなく、美術出版社の『カラー版西洋美術史』に165文字だけ記述があるだけですから、あまり知られていない画家といえるでしょう。そのシャヴァンヌの全貌を明らかにする、「シャヴァンヌ展」が、現在Bunkamuraザ・ミュージアムで開催され、3月には島根県立美術館に巡回されます。

ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(1824-1898)は、フランスで写実主義や印象主義などと並行して現われた抽象主義の画家の一人だといわれていますが、その主要な作品はほとんど壁面装飾なので、大原美術館などに国内所蔵品はあるものの、日本ではなかなか観ることができない画家でした。今回の展覧会では、壁画の習作や、壁画を描いた後に制作した縮小作品を、各地の美術館所蔵品や個人所蔵品を集めて、シャヴァンヌの画業に迫る企画になっています。

今回の展覧会を観て、シャヴァンヌは公共施設がその壁を壁画で飾った時代の、壁画制作のスペシャリストだったのだという感じを持ちます。絵の主題は、アルカディアでの理想的な生活、「幻想」「警戒」「瞑想」「歴史」などの寓意画など、美術館などの公共施設の壁を飾るのに相応しいものです。画面は明暗差を大きくとらず、淡い色で塗り分けたもので、建物との調和が考えられているといえるでしょう。画面構成は強い透視遠近法表現を使わず、むしろそれに反するような描写もあり、壁に穴があいているように見えないようになっています。そのかわり、空気遠近法による表現が大きな自然の空間を感じさせます。人物には彫塑的な立体感はなく、そのポーズで人物を表現しています。平面を強調した画面、描かれる対象の再現よりも色面の強調などは、後のモーリス・ドニなどに繋がるものを感じさせます。

今回シャヴァンヌの頂点を極める壁画そのものを観られないのは残念ですが、それを想像することができるような、作品が集められています。19世紀のアルカディアに憧れる気分を体験してみたい方にも、絵画表現が近代的なものにいかに転換していったのかを知りたい方にも、お薦めの展覧会になっています。「シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア ビュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界」はBunkamuraザ・ミュージアムで2014年3月9日まで開催されています。

2014年1月10日金曜日

山口晃展 群馬県立館林美術館

今週末までの会期の展覧会がたくさんあるのに、見逃しているものが多い、少しでもカバーしておかなくてはということで、最初に選んだのが群馬県立館林美術館で開催されている「山口晃展」。

群馬県立館林美術館に行くのは初めてです。この美術館は群馬県で2番目の県立美術館で、県の東側にも美術館が欲しいということで、作られた美術館だそうです。開館は2001年です。近現代美術を対象とする美術館で、テーマは「自然と人間」だそうで、フランソワ・ポンポンの《シロクマ》などをコレクションしています。どのような活動をしているのかと、昨年の企画展をみると「山口晃展」の他には「籔内佐斗司展 やまとぢから」「鹿島茂 バルビエXラブルール展 アール・デコのモダンなイラストレーション」ですから、かなり個性的です。

今回、2013年10月12日から2014年1月13日まで開催されている「山口晃展」は、現代美術家として人気のある山口晃(1969- )の、子供のころのお絵描きから、東京藝術大学のころの作品、最近の先品まで、作品を集大成しているといえます。館林から乗ったタクシーの運転手さんは、美術館にこんなに人が来ているのは今までなかった、北海道や関西の人も来ていて、週末は駐車場も一杯になっていると言っていました。「山口晃展」は大人気です。

山口晃の作品は、髙橋コレクションの展覧会などで、観たことはありますが、こんなに一堂に会していると大迫力です。江戸以前の日本の絵画様式を転用しながら、発想の赴くままに、確かな技術力を駆使して、制作した遊び心あふれる作品が多いようです。《百貨店圖 日本橋三越》、《九相圖》、《五武人圖》、《厩圖》などなど。そうかと思うと、《頼朝像図版写し》など、「何を観ているの」と問いかけるようなコンセプチュアルな問題提起の作品もあります。《中西夏之氏公開制作之圖》、《澁澤龍彦著『獏園』挿絵原画》なども見所でしょうか。

図録は予約で3月にできるということでしたので、申し込んで帰ってきました。