2015年8月23日日曜日

ディン・Q・レ 明日への記憶 森美術館

作家のディン・Q・レは、1968年ベトナムのカンボジア付近で生まれ、ポル・ポト派から逃れて、アメリカに行き、写真とメディア・アートを学んだ作家です。

今回の展覧会は、すべて、ベトナム戦争にかかわった人々や、ベトナム戦争のイメージをテーマにした作品で、平面作品、立体作品、映像、インスタレーションで構成されています。

ベトナム戦争にかかわる写真のイメージを編んで作った作品。ベトナム戦争の有名な写真を大きく帯状に長くしてみた作品。
ベトナム戦争で使われたヘリコプターを「平和利用」しようとしたときに、人々が抱く想いを人々が語る作品。ベトナム戦争に様々にかかわった画家たちが想いを語るヴィデオ。
ベトナムの犠牲者、アメリカの犠牲者にかんする、数字を大きく伝える多くのポスターを並置した作品。
難民の小舟の難破の記憶を呼び起こすインスタレーション。
ハリウッド映画のベトナム戦争のイメージ。
さらには、軍服を着て、戦時の人のように行動してみることを趣味にしている、日本人のヴィデオ。

ある時代、ある地域で起こったことを、人はどう記憶するか、またその記憶とどう関わり続けるかを、考える展覧会になっています。

森美術館で開催されている、「ディン・Q・レ展 明日への記憶」は2015年7月25日から10月12日までの開催です。


2015年6月28日日曜日

国立西洋美術館 ボルドー展 ー 美と陶酔の都へ ー

このブログも少しご無沙汰になってしまっていましたが、久しぶりに上野に足を向けて、ボルドー展へ行ったので、ブログの方も再開です。

展覧会企画には、作家を特定した展覧会、美術のムーブメントに焦点を当てた展覧会、ある美術館のクレクションを中心とした展覧会などがありますが、今回の企画はボルドーという場所を固定して、そこでの美術を石器時代から現代まで見てみようというものです。

作品も、ボルドー美術館、アキテーヌ博物館、ボルドー装飾芸術・デザイン美術館、CAPCボルドー現代美術館、市立図書館、市立公文書館から200展に及ぶ作品が展示られています。

私にとっての見所は、

  • 石器時代のヴィーナスと呼ばれる女性像の一つ、《角を持つヴィーナス (ローセルのヴィーナス)》
  • ローマ時代の墓碑、石棺の断片
  • ベルニーニの《フランソワ・ド・スルディス枢機卿の胸像》
  • ボルドー美術館形成期の作品、ペルジーノ《玉座の聖母子と聖ヒエロニムス、聖アウグスティヌス》、ルーベンス《聖ユストゥスの奇跡》、ゴヤ《闘牛》
  • 今回の目玉になっている、ドラクロア《ライオン狩り》、その消失する前の全貌を捉えたルドン《ライオン狩り》
すごく有名な作品はないかもしれませんが、ある地域が造形作品にどうかかわっていくのかが見られる、興味深い展覧会になっています。

「ボルドー展 ー 美と陶酔の都へ ー」は2015年9月23日まで開催です。

2015年3月22日日曜日

コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流 東京国立博物館

東京国立博物館で開催されている「インドの仏」展には、コルカタ(2001年から正式にこの地名になっているようですが、その前は英語読みでカルカッタといわれていました)にある博物館から、仏教に関する良い作品がたくさん来ています。

今回は平成館が使えなかったせいか、表慶館で開催されていますが、少し小さめの建物の雰囲気と展示が合っていて、良い感じです。

最初に入ったところにある、グプタ朝サールナートの仏立像からぐっと引き込まれます。端正な顔、衣紋のないぴったりした着衣の下に感じる仏の身体、美しい植物文の頭光など、見どころがたくさんあります。

そのあとも、紀元前の仏の表現をみられるバールフトの欄楯浮き彫りがあり、釈迦の生涯ををたどる仏伝図があり、図録でしか見たことがないものを間近にみられて興奮します。

西洋との交流を感じるギリシャ彫刻との関連を感じさせるガンダーラの仏、密教化が進んだパーラ朝の抑揚が強くクセのある仏、南インドの顔に特徴があるチョーラ超の仏など、多様なインドの仏教美術が実物で見られます。

また、インドのヤシなどの樹皮に基づくと言われる珍しい形状の経典に描かれた、多臂の仏たちの細密画も珍しいものです。

全体を見終わって、歴史や地理を整理してみると、展示作品の理解が深まり、興味が倍増するだろうと思われました。例えば、仏伝図の展示などは様々な時代のものが隣り合わせで並んでいるので、仏伝の内容を理解するばかりでなく、年代の違いによる表現の違いを見分けると、より興味が湧いてきます。私も、帰りに図録を買い、もう一度観に行こうと思っています。

仏像に興味がある方、またインド美術に興味がある方には、必見だと思われます。展覧会は2015年5月17日までです。

2015年3月14日土曜日

グエルチーノ展 国立西洋美術館

グエルチーノ(本名:ジョヴァンニ・フランチェスコ・バルビエーリ 1591-1666年)は、ボローニャ派の画家で、対抗宗教改革の中で敬虔な感情を喚起するバロック的絵画を製作しました。国立西洋美術館のWEBには、「かつてはイタリア美術史における最も著名な画家に数えられました。19世紀半ば、美術が新たな価値観を表現し始めると、否定され忘れられてしまいましたが、20世紀半ば以降、再評価の試みが続けられており、特に近年ではイタリアを中心に、大きな展覧会がいくつも開催されています」とあるので、日本ではあまり知られていないのも無理はないかもしれません。

グエルチーノの作品の多くは、彼の故郷の、ボローニャの近くのチェントにありますが、2012年5月の地震で美術館や教会が大きな被害を受け、展示できない状況になってしまいました。それもきっかけになって今回の展覧会が実現したということです。グエルチーノ作品を間近に見られるのは嬉しいのですが、それが地震のせいだというのは複雑な気分になります。

展示は、ボローニャ派のルドヴィコ・カラッチやグイド・レーニの作品が数店出店されていますが、全44点の大部分はグエルチーノの作品になっています。章立ては、時系列になっています。ボローニャ派は、フィレンツェの線描と、ヴェネチアの色彩による質感を引き継ぎながら、バロック的な表現をするようになったと言われていますが、グエルチーノもその伝統に沿っていると言えます。

17世紀、フランドルやオランダで新たな表現がされるようになった時期に、イタリアにおいて、対抗宗教改革により推進された敬虔な宗教画とはどんなものであったかを知るには良い展覧会です。ちょうど、国立新美術館で開催されている「ルーブル展」の17世紀の北方の風俗画と比べてみるのもおもしろいと思います。

2015年2月10日火曜日

ガブリエル・オロスコ展 東京都現代美術館

「ガブリエル・オロスコ展 内なる複数のサイクル」は、オロスコがメキシコ出身の現代作家だという知識しかなく、観に行きました。

フランスの1950年代の名車シトロエンDSという車を縦に切って、幅を3分の1にしてまたつないだ作品が、ポスターになっていて、これは何なんだという感じです。

今回の展示は、東京都現代美術館の3階を使っていますが、そのスペースに多様な作品が展示されています。
・身近で見つけた珍しい形を撮った写真作品
・ポスターにもある実物の車に加工を加えた作品
・天井からぶら下がった扇風機にトイレット・ペーパーを載せて回す作品
・メキシコの村で売っている石に細工した作品
・X字型の、真ん中に花が浮かぶ水たまりを持った、卓球台
・スポーツ紙の写真を切り抜き、図形を書き込み、等身大に拡大した作品

東京都現代美術館のウェブには「人工物でも自然物でもこの世の事物はすべて、これまで移動したりかたちを変えたりしてきた内なる時間を有しています。事物と事物とが時に交わり、また離れるといったことを繰り返し、宇宙の中で万物が流転し循環するその様をオロスコは捉えます」とあります。でも、そんな難しいことを言わなくても、いたずら好きな子供がそのまま大きくなって、身近なものにちょっとイタズラしてみたというような作品のように思いました。

気楽に、友達とつれだって観に行くのが良いのではないでしょうか。

「ガブリエル・オロスコ展 内なる複数のサイクル」は、東京都現代美術館で、5月10日まで開催されています。

2014年12月28日日曜日

リー・ミンウェイとその関係 森美術館

12月は展覧会に行く時間をなかなかとれず、ブログを書くのも久しぶりになってしまいましたが、年内にぜひ行きたかった、森美術館で開催している「リー・ミンウェイとその関係」展に行ってきました。

リー・ミンウェイ氏は台湾生まれのアーティストで、イェール大学で彫刻を学び、ニューヨークで活動しています。

リー・ミンウェイは、個人と個人のつながりを、観客との対話によるパフォーマンスを通して、アートとして表現するという珍しい作品を作っています。

今回森美術館で行われているパフォーマンスを幾つか紹介すると、

(1)中国の、空が破れた時それを縫って直したと言われる「女媧」という女神を、凧にして上げてもらうプロジェクト

(2)観客に縫ってもらいたい品物を持ってきてもらい、会場でそれを観客と縫い手が会話しながら縫い、それを縫った糸とともに展示するプロジェクト(パンフレットに載っているプロジェクトです)

(3)抽選で当たった観客が対話しながら食事をするプロジェクト

(4)花を観客にもって帰ってもらい、帰りにだれか知らない人にそれをプレゼントしてもらうプロジェクト

(5)箱の中に入れた思い出の品物を、観客に開けてもらい見てもらうプロジェクト

(6)個人的な感謝や謝罪の手紙を書くプロジェクト

(7)ピカソの《ゲルニカ》を砂で描き、その上を大勢で歩いたのちに、きれいな色の模様とするプロジェクト

どうでしょうか、個人がひととつながることを意識化するプロジェクトが並んでいます。

また特別企画として、人のパーソナルな関係性をテーマにした、イヴ・クライン、鈴木大拙、アラン・カプロー、ジョン・ケージの作品なども展示されています。

それぞれのプロジェクトに関して、リー・ミンウェイが解説するビデオが流れているのですが、リー氏の穏やかな顔と声が印象的です。

展覧会の会期は2015年1月4日までとあとわずかですが、会期中無休で正月も開催してます。お勧めの展覧会です。


2014年10月21日火曜日

日本国宝展 東京国立博物館

東京国立博物館で、国宝だけを集めた企画展が開催されています。このような企画は、平成になってから3回しか行われてなく、前回は2000年の開催でしたから、かなり久しぶりな企画です。前後期を合わせると120点を超える作品を見ることができます。

今回は「祈り、信じる力」をサブタイトルにして、五章に分けて展示されています。第一章は「仏を信じる」で飛鳥時代から平安時代にかけての仏教美術、第二章は「神を信じる」で土偶・銅鐸・神像、第三章は「文学、記録に見る信仰」で絵巻・書跡・典籍・古文書、第四章は「多様化する信仰と美」で鎌倉時代から室町時代の美術品、第五章は「仏の姿」で仏像となっています。

博物館や美術館で、造形遺品をもともとのコンテクストを離れて、視覚の興味として見ることの是非はあると思いますが、教科書や美術書のなかでみていたものに直接触れる意味は大きいと感じさせられます。

展示は、10月15日から11月9日までが前期、11月11日から12月7日までが後期になっていて、展示替えがあります。特別出品の正倉院宝物は10月15日から11月3日の展示です。さらに10月26日までしか展示されない作品もあります。事前に出展期間の情報をウェブなどから入手して、観たいものを確認してから行かないと、観たい作品を見逃しそうです。

作品リストはこちらから
http://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=item&id=3890