2014年1月25日土曜日

シャヴァンヌ展 Bunkamuraザ・ミュージアム

シャヴァンヌは、代表的な西洋美術通史の、ゴンブリッチの『美術の物語』やH.W.ジャンソンの『西洋美術の歴史』では全く触れられてなく、美術出版社の『カラー版西洋美術史』に165文字だけ記述があるだけですから、あまり知られていない画家といえるでしょう。そのシャヴァンヌの全貌を明らかにする、「シャヴァンヌ展」が、現在Bunkamuraザ・ミュージアムで開催され、3月には島根県立美術館に巡回されます。

ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(1824-1898)は、フランスで写実主義や印象主義などと並行して現われた抽象主義の画家の一人だといわれていますが、その主要な作品はほとんど壁面装飾なので、大原美術館などに国内所蔵品はあるものの、日本ではなかなか観ることができない画家でした。今回の展覧会では、壁画の習作や、壁画を描いた後に制作した縮小作品を、各地の美術館所蔵品や個人所蔵品を集めて、シャヴァンヌの画業に迫る企画になっています。

今回の展覧会を観て、シャヴァンヌは公共施設がその壁を壁画で飾った時代の、壁画制作のスペシャリストだったのだという感じを持ちます。絵の主題は、アルカディアでの理想的な生活、「幻想」「警戒」「瞑想」「歴史」などの寓意画など、美術館などの公共施設の壁を飾るのに相応しいものです。画面は明暗差を大きくとらず、淡い色で塗り分けたもので、建物との調和が考えられているといえるでしょう。画面構成は強い透視遠近法表現を使わず、むしろそれに反するような描写もあり、壁に穴があいているように見えないようになっています。そのかわり、空気遠近法による表現が大きな自然の空間を感じさせます。人物には彫塑的な立体感はなく、そのポーズで人物を表現しています。平面を強調した画面、描かれる対象の再現よりも色面の強調などは、後のモーリス・ドニなどに繋がるものを感じさせます。

今回シャヴァンヌの頂点を極める壁画そのものを観られないのは残念ですが、それを想像することができるような、作品が集められています。19世紀のアルカディアに憧れる気分を体験してみたい方にも、絵画表現が近代的なものにいかに転換していったのかを知りたい方にも、お薦めの展覧会になっています。「シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア ビュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界」はBunkamuraザ・ミュージアムで2014年3月9日まで開催されています。

2014年1月10日金曜日

山口晃展 群馬県立館林美術館

今週末までの会期の展覧会がたくさんあるのに、見逃しているものが多い、少しでもカバーしておかなくてはということで、最初に選んだのが群馬県立館林美術館で開催されている「山口晃展」。

群馬県立館林美術館に行くのは初めてです。この美術館は群馬県で2番目の県立美術館で、県の東側にも美術館が欲しいということで、作られた美術館だそうです。開館は2001年です。近現代美術を対象とする美術館で、テーマは「自然と人間」だそうで、フランソワ・ポンポンの《シロクマ》などをコレクションしています。どのような活動をしているのかと、昨年の企画展をみると「山口晃展」の他には「籔内佐斗司展 やまとぢから」「鹿島茂 バルビエXラブルール展 アール・デコのモダンなイラストレーション」ですから、かなり個性的です。

今回、2013年10月12日から2014年1月13日まで開催されている「山口晃展」は、現代美術家として人気のある山口晃(1969- )の、子供のころのお絵描きから、東京藝術大学のころの作品、最近の先品まで、作品を集大成しているといえます。館林から乗ったタクシーの運転手さんは、美術館にこんなに人が来ているのは今までなかった、北海道や関西の人も来ていて、週末は駐車場も一杯になっていると言っていました。「山口晃展」は大人気です。

山口晃の作品は、髙橋コレクションの展覧会などで、観たことはありますが、こんなに一堂に会していると大迫力です。江戸以前の日本の絵画様式を転用しながら、発想の赴くままに、確かな技術力を駆使して、制作した遊び心あふれる作品が多いようです。《百貨店圖 日本橋三越》、《九相圖》、《五武人圖》、《厩圖》などなど。そうかと思うと、《頼朝像図版写し》など、「何を観ているの」と問いかけるようなコンセプチュアルな問題提起の作品もあります。《中西夏之氏公開制作之圖》、《澁澤龍彦著『獏園』挿絵原画》なども見所でしょうか。

図録は予約で3月にできるということでしたので、申し込んで帰ってきました。

2013年12月23日月曜日

実験工房展 戦後芸術を切り拓く 世田谷美術館

第二次世界大戦後、日本の美術界には戦争の空白を取り戻し再興しようとする様々な動きが発生します。敗戦翌年の1946年3月には、戦前の文展、帝展を受けつぐ日展が開催され、また在野の二科会などの公募展も再開されます。またこれらの画壇の動きに異を唱える日本美術会が出現し1947年に日本アンデパンダン展を開催され、1949年には読売新聞社が主催する日本アンデパンダン展(読売アンデパンダン展)も開催されます。1956年には世界の美術の動向を紹介する「世界・今日の美術展」が日本橋高島屋をかわきりに全国を巡回し、1957年にはアンフォルメルを唱道するミシェル・タピエが来日します。このような時代のなかで、造形芸術と音楽を合わせて展開した前衛芸術運動が、「実験工房」です。美術の分野からは、絵画では、北代省三、福島秀子、山口勝弘、写真では大辻清司、版画では駒井哲郎が実験工房のメンバーとなっています。音楽の分野のメンバーには、佐藤慶次郎、鈴木博義、園田高弘、武満徹、福島和夫、湯浅譲二がいました。

今回の世田谷美術館の「実験工房展」は日本で初めて公立美術館が「実験工房」だけに焦点をあてて企画した展覧会となっています。「実験工房」の代表作が展示されているばかりでなく、パンフレット、手紙などエフェメラの展示も充実しています。

抽象的空間表現を追求した北代省三、福島秀子、絵画や彫刻の枠を離れた視覚表現を目指した山口勝弘など、戦後という言葉を使う必要がない純粋な芸術となっていることに関心します。図録を精読し、このメンバーがこの後どのような活動したかをもう一度確認した後、再び観に行きたい展覧会でした。

「実験工房展」は世田谷美術館で2014年1月26日までの開催です。

2013年12月1日日曜日

江戸の狩野派 出光美術館

日本の美術史の中でも一番有名な流派が狩野派だと言われています。室町時代から江戸時代まで続く御用絵師です。狩野永徳の《洛中洛外図屏風》や《唐獅子図》など直ぐに思い浮かべることができます。でも、改めて江戸狩野といわれると、どれだけ分っているのかとちょっと心もとない。改めて日本美術史の本を見ると、驚くことに、江戸狩野にたいしてページを割いていない。狩野永徳に関して少し書いてあるだけです。

そんな状況の中で、改めて江戸の狩野派って何という疑問に答えてくれるのが、今、出光美術館で開催されている「江戸の狩野派 優美への革新」です。探幽、尚信、安信などが展示されています。

見所は、
  • 探幽《叭々鳥・小禽図屏風》の墨の技、余白の取り方の巧さ。
  • 探幽《鸕鷀草葺不合尊降誕図》の構図のおもしろさ。
  • 探幽《源氏物語 賢木・澪標図屏風》の大和絵への接近。
  • 探幽《 白鷴図》。写生は応挙だけでない。
  • 尚信、安信がこんな絵を描いていたのかというのもわかります。
  • 展示最後の、京狩野と江戸狩野の対比も、なるほどという感じです。
「江戸の狩野派」は出光美術館で2013年12月15日までです。

2013年11月16日土曜日

バルビゾンへの道 Bunkamuraザ・ミュージアム

ときどき名前ではその内容が良くわからない展覧会があります。「バルビゾンへの道」展もそうかもしれません。

山形県山形市山寺には、後藤季次郎氏の収集品を展示する、山寺後藤美術館があります。今回の展覧会は、その後藤美術館の所蔵品から70点の絵画作品を展示するものです。内容は16世紀から19世紀にかけての物語画、肖像画、風景画、静物画です。そういうわけで、バルビゾンだけに反応して会場にいくと、なにこれということになります。それでも、日本では名前はあまり知られていなくても、当時のアカデミーの絵画ってどんなものという興味がもてるなら、楽しめる展覧会だと思います。もちろん、バルビゾンもありますので、そこだけを目指して観るということでも良いでしょう。

私が良いと思ったのは、シャルル=フランソワ・ドービニーの《川辺の風景》でしょうか。

Bunkamuraザ・ミュージアムでの「バルビゾンへの道」展は2013年11月18日までの開催です。

2013年11月5日火曜日

古径と土牛 山種美術館

20世紀の「日本画」というのはどうも苦手な領域です。小林古径は1883年生まれ1957年没、奥村土牛は1889年生まれ1990年没ですから、どうみても20世紀の画家です。ちなみにピカソは1881年生まれ1973年没。デュシャンは1887年生まれ1968年没ですから同じ世代です。そこでどうも腑に落ちないのが、確かに古径の花はきれいだし、ネコはキュートだし、清姫はすさまじいのですが、なぜ20世紀にこれを描かなければいけないのかです。

分らないものは追求したいということで、山種美術館の「小林古径生誕130年記念 古径と土牛」に行ってきました。確かに、古径《清姫》連作の「寝所」の、白い衣を掛けて寝ている安珍、撫子色の十二単を着て屏風から除く清姫、全体を引き締める黄色の几帳の色の対比は見事だし、土牛の《蓮》のこの世のものとはおもえない緑色の雲に浮かぶ蓮の花には引き込まれるのですが。でも、「それでどうしたの」という思いはどうしても残ってしまいます。そこで何となく納得したのが、山種美術館で売っていた図録の最初のページに載っている、小林古径の写真を見たときでした。そこには、古径と土牛が着物を着て絵を描いている写真がのっていました。たぶん、着物を着て絵を描くような生き方が良くわかっていないから、古径や土牛が分らないのではないだろうかと。

そんなことを考えながら山種美術館を出て21世紀の恵比須に戻ってきましたが、どうもまだ良くわからないからまた見てみたいが続きそうです。

「小林古径生誕130年記念 古径と土牛」は山種美術館で2013年12月23日までです。


2013年11月2日土曜日

ゴッホ、スーラからモンドリアンまで 印象派を超えて点描の画家たち 国立新美術館

あまり期待しないで観に行ったところ、素晴らしく良かったという展覧会があります。「ゴッホ、スーラからモンドリアンまで 印象派を超えて点描の画家たち」は、まさにそんな展覧会でした。なにしろ展覧会の名前が長い、しかも「ゴッホと色彩の旅へ」とのサブタイトルまでついています。これってどんな展覧会?という感じです。

その内容は、オランダのオッテルローにあるヘレーネ・クレラー=ミュラー氏のコレクションを展示するクレラー=ミュラー美術館の作品を日本にもってきたものです。図録のテキストで長尾光枝氏は、「本展覧会は、ジョルジュ・スーラが開拓し、その盟友であるポール・シニャックが普及させた「分割主義(Divisionism)」という理念とその実践に着目することにより、モダンアートを特徴づけるひとつの類型を掘り出そうという試みである」と書いています。最初からそう言ってくれれば分かりやすかったのにと思います。

点描と良く言われますが、点であることに注目せずに、色を独立させ分割し網膜上で視覚混合させることに意味があると捉えると、「分割主義」になるということです。そう考えると、スーラやシニャックの「分割主義」の成果はゴッホにつながり、さらにそれをモンドリアンが深化させ、ついにモンドリアンの幾何学的抽象にまでつながっていきます。

この展覧会では、様々な「分割主義」の作家を観ることができます。スーラやシニャックはもちろん、アンリ=エドモン・クロス、マクシミリアン・リュス、モーリス・ドニの作品があります。ゴッホも「分割主義」の視点で観ることができます。私が気に入ったのはゴッホの《じゃがいものある静物》。ベルギーとオランダの「分割主義」者、テオ・ファン・レイセルベルヘ、アンリ・ヴァン・ド・ヴェルド、ヤン・トーロップなどフランスの「分割主義」に比べ精神主義的、象徴主義的な作品にも惹かれる所があります。

モンドリアンも、1903年のまだ具象的な《ヘイン河畔の樹》、「分割主義」らしい1909年の《砂丘》、普遍的な美を目指した1913年の《コンポジションNo.11》、成熟期のモンドリアンらしい1927年の《赤と黄と青のあるコンポジション》などが展示されています。《コンポジションNo.11》の前ではずっと長く立ち止まって観てしまいました。

たいへん楽しめる展覧会でした。「ゴッホ、スーラからモンドリアンまで 印象派を超えて点描の画家たち」は国立新美術館で、2013年12月23日までです。展覧会タイトルに惑わされずに観に行ってはどうでしょうか。