2015年8月23日日曜日

ディン・Q・レ 明日への記憶 森美術館

作家のディン・Q・レは、1968年ベトナムのカンボジア付近で生まれ、ポル・ポト派から逃れて、アメリカに行き、写真とメディア・アートを学んだ作家です。

今回の展覧会は、すべて、ベトナム戦争にかかわった人々や、ベトナム戦争のイメージをテーマにした作品で、平面作品、立体作品、映像、インスタレーションで構成されています。

ベトナム戦争にかかわる写真のイメージを編んで作った作品。ベトナム戦争の有名な写真を大きく帯状に長くしてみた作品。
ベトナム戦争で使われたヘリコプターを「平和利用」しようとしたときに、人々が抱く想いを人々が語る作品。ベトナム戦争に様々にかかわった画家たちが想いを語るヴィデオ。
ベトナムの犠牲者、アメリカの犠牲者にかんする、数字を大きく伝える多くのポスターを並置した作品。
難民の小舟の難破の記憶を呼び起こすインスタレーション。
ハリウッド映画のベトナム戦争のイメージ。
さらには、軍服を着て、戦時の人のように行動してみることを趣味にしている、日本人のヴィデオ。

ある時代、ある地域で起こったことを、人はどう記憶するか、またその記憶とどう関わり続けるかを、考える展覧会になっています。

森美術館で開催されている、「ディン・Q・レ展 明日への記憶」は2015年7月25日から10月12日までの開催です。


2015年6月28日日曜日

国立西洋美術館 ボルドー展 ー 美と陶酔の都へ ー

このブログも少しご無沙汰になってしまっていましたが、久しぶりに上野に足を向けて、ボルドー展へ行ったので、ブログの方も再開です。

展覧会企画には、作家を特定した展覧会、美術のムーブメントに焦点を当てた展覧会、ある美術館のクレクションを中心とした展覧会などがありますが、今回の企画はボルドーという場所を固定して、そこでの美術を石器時代から現代まで見てみようというものです。

作品も、ボルドー美術館、アキテーヌ博物館、ボルドー装飾芸術・デザイン美術館、CAPCボルドー現代美術館、市立図書館、市立公文書館から200展に及ぶ作品が展示られています。

私にとっての見所は、

  • 石器時代のヴィーナスと呼ばれる女性像の一つ、《角を持つヴィーナス (ローセルのヴィーナス)》
  • ローマ時代の墓碑、石棺の断片
  • ベルニーニの《フランソワ・ド・スルディス枢機卿の胸像》
  • ボルドー美術館形成期の作品、ペルジーノ《玉座の聖母子と聖ヒエロニムス、聖アウグスティヌス》、ルーベンス《聖ユストゥスの奇跡》、ゴヤ《闘牛》
  • 今回の目玉になっている、ドラクロア《ライオン狩り》、その消失する前の全貌を捉えたルドン《ライオン狩り》
すごく有名な作品はないかもしれませんが、ある地域が造形作品にどうかかわっていくのかが見られる、興味深い展覧会になっています。

「ボルドー展 ー 美と陶酔の都へ ー」は2015年9月23日まで開催です。

2015年3月22日日曜日

コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流 東京国立博物館

東京国立博物館で開催されている「インドの仏」展には、コルカタ(2001年から正式にこの地名になっているようですが、その前は英語読みでカルカッタといわれていました)にある博物館から、仏教に関する良い作品がたくさん来ています。

今回は平成館が使えなかったせいか、表慶館で開催されていますが、少し小さめの建物の雰囲気と展示が合っていて、良い感じです。

最初に入ったところにある、グプタ朝サールナートの仏立像からぐっと引き込まれます。端正な顔、衣紋のないぴったりした着衣の下に感じる仏の身体、美しい植物文の頭光など、見どころがたくさんあります。

そのあとも、紀元前の仏の表現をみられるバールフトの欄楯浮き彫りがあり、釈迦の生涯ををたどる仏伝図があり、図録でしか見たことがないものを間近にみられて興奮します。

西洋との交流を感じるギリシャ彫刻との関連を感じさせるガンダーラの仏、密教化が進んだパーラ朝の抑揚が強くクセのある仏、南インドの顔に特徴があるチョーラ超の仏など、多様なインドの仏教美術が実物で見られます。

また、インドのヤシなどの樹皮に基づくと言われる珍しい形状の経典に描かれた、多臂の仏たちの細密画も珍しいものです。

全体を見終わって、歴史や地理を整理してみると、展示作品の理解が深まり、興味が倍増するだろうと思われました。例えば、仏伝図の展示などは様々な時代のものが隣り合わせで並んでいるので、仏伝の内容を理解するばかりでなく、年代の違いによる表現の違いを見分けると、より興味が湧いてきます。私も、帰りに図録を買い、もう一度観に行こうと思っています。

仏像に興味がある方、またインド美術に興味がある方には、必見だと思われます。展覧会は2015年5月17日までです。

2015年3月14日土曜日

グエルチーノ展 国立西洋美術館

グエルチーノ(本名:ジョヴァンニ・フランチェスコ・バルビエーリ 1591-1666年)は、ボローニャ派の画家で、対抗宗教改革の中で敬虔な感情を喚起するバロック的絵画を製作しました。国立西洋美術館のWEBには、「かつてはイタリア美術史における最も著名な画家に数えられました。19世紀半ば、美術が新たな価値観を表現し始めると、否定され忘れられてしまいましたが、20世紀半ば以降、再評価の試みが続けられており、特に近年ではイタリアを中心に、大きな展覧会がいくつも開催されています」とあるので、日本ではあまり知られていないのも無理はないかもしれません。

グエルチーノの作品の多くは、彼の故郷の、ボローニャの近くのチェントにありますが、2012年5月の地震で美術館や教会が大きな被害を受け、展示できない状況になってしまいました。それもきっかけになって今回の展覧会が実現したということです。グエルチーノ作品を間近に見られるのは嬉しいのですが、それが地震のせいだというのは複雑な気分になります。

展示は、ボローニャ派のルドヴィコ・カラッチやグイド・レーニの作品が数店出店されていますが、全44点の大部分はグエルチーノの作品になっています。章立ては、時系列になっています。ボローニャ派は、フィレンツェの線描と、ヴェネチアの色彩による質感を引き継ぎながら、バロック的な表現をするようになったと言われていますが、グエルチーノもその伝統に沿っていると言えます。

17世紀、フランドルやオランダで新たな表現がされるようになった時期に、イタリアにおいて、対抗宗教改革により推進された敬虔な宗教画とはどんなものであったかを知るには良い展覧会です。ちょうど、国立新美術館で開催されている「ルーブル展」の17世紀の北方の風俗画と比べてみるのもおもしろいと思います。

2015年2月10日火曜日

ガブリエル・オロスコ展 東京都現代美術館

「ガブリエル・オロスコ展 内なる複数のサイクル」は、オロスコがメキシコ出身の現代作家だという知識しかなく、観に行きました。

フランスの1950年代の名車シトロエンDSという車を縦に切って、幅を3分の1にしてまたつないだ作品が、ポスターになっていて、これは何なんだという感じです。

今回の展示は、東京都現代美術館の3階を使っていますが、そのスペースに多様な作品が展示されています。
・身近で見つけた珍しい形を撮った写真作品
・ポスターにもある実物の車に加工を加えた作品
・天井からぶら下がった扇風機にトイレット・ペーパーを載せて回す作品
・メキシコの村で売っている石に細工した作品
・X字型の、真ん中に花が浮かぶ水たまりを持った、卓球台
・スポーツ紙の写真を切り抜き、図形を書き込み、等身大に拡大した作品

東京都現代美術館のウェブには「人工物でも自然物でもこの世の事物はすべて、これまで移動したりかたちを変えたりしてきた内なる時間を有しています。事物と事物とが時に交わり、また離れるといったことを繰り返し、宇宙の中で万物が流転し循環するその様をオロスコは捉えます」とあります。でも、そんな難しいことを言わなくても、いたずら好きな子供がそのまま大きくなって、身近なものにちょっとイタズラしてみたというような作品のように思いました。

気楽に、友達とつれだって観に行くのが良いのではないでしょうか。

「ガブリエル・オロスコ展 内なる複数のサイクル」は、東京都現代美術館で、5月10日まで開催されています。

2014年12月28日日曜日

リー・ミンウェイとその関係 森美術館

12月は展覧会に行く時間をなかなかとれず、ブログを書くのも久しぶりになってしまいましたが、年内にぜひ行きたかった、森美術館で開催している「リー・ミンウェイとその関係」展に行ってきました。

リー・ミンウェイ氏は台湾生まれのアーティストで、イェール大学で彫刻を学び、ニューヨークで活動しています。

リー・ミンウェイは、個人と個人のつながりを、観客との対話によるパフォーマンスを通して、アートとして表現するという珍しい作品を作っています。

今回森美術館で行われているパフォーマンスを幾つか紹介すると、

(1)中国の、空が破れた時それを縫って直したと言われる「女媧」という女神を、凧にして上げてもらうプロジェクト

(2)観客に縫ってもらいたい品物を持ってきてもらい、会場でそれを観客と縫い手が会話しながら縫い、それを縫った糸とともに展示するプロジェクト(パンフレットに載っているプロジェクトです)

(3)抽選で当たった観客が対話しながら食事をするプロジェクト

(4)花を観客にもって帰ってもらい、帰りにだれか知らない人にそれをプレゼントしてもらうプロジェクト

(5)箱の中に入れた思い出の品物を、観客に開けてもらい見てもらうプロジェクト

(6)個人的な感謝や謝罪の手紙を書くプロジェクト

(7)ピカソの《ゲルニカ》を砂で描き、その上を大勢で歩いたのちに、きれいな色の模様とするプロジェクト

どうでしょうか、個人がひととつながることを意識化するプロジェクトが並んでいます。

また特別企画として、人のパーソナルな関係性をテーマにした、イヴ・クライン、鈴木大拙、アラン・カプロー、ジョン・ケージの作品なども展示されています。

それぞれのプロジェクトに関して、リー・ミンウェイが解説するビデオが流れているのですが、リー氏の穏やかな顔と声が印象的です。

展覧会の会期は2015年1月4日までとあとわずかですが、会期中無休で正月も開催してます。お勧めの展覧会です。


2014年10月21日火曜日

日本国宝展 東京国立博物館

東京国立博物館で、国宝だけを集めた企画展が開催されています。このような企画は、平成になってから3回しか行われてなく、前回は2000年の開催でしたから、かなり久しぶりな企画です。前後期を合わせると120点を超える作品を見ることができます。

今回は「祈り、信じる力」をサブタイトルにして、五章に分けて展示されています。第一章は「仏を信じる」で飛鳥時代から平安時代にかけての仏教美術、第二章は「神を信じる」で土偶・銅鐸・神像、第三章は「文学、記録に見る信仰」で絵巻・書跡・典籍・古文書、第四章は「多様化する信仰と美」で鎌倉時代から室町時代の美術品、第五章は「仏の姿」で仏像となっています。

博物館や美術館で、造形遺品をもともとのコンテクストを離れて、視覚の興味として見ることの是非はあると思いますが、教科書や美術書のなかでみていたものに直接触れる意味は大きいと感じさせられます。

展示は、10月15日から11月9日までが前期、11月11日から12月7日までが後期になっていて、展示替えがあります。特別出品の正倉院宝物は10月15日から11月3日の展示です。さらに10月26日までしか展示されない作品もあります。事前に出展期間の情報をウェブなどから入手して、観たいものを確認してから行かないと、観たい作品を見逃しそうです。

作品リストはこちらから
http://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=item&id=3890

2014年10月11日土曜日

ウィレム・デ・クーニング展 ブリヂストン美術館


2014年10月8日からブリヂストン美術館で「ウィレム・デ・クーニング展」が開催されています。デ・クーニングを日本でまとめて見られる機会は少なかったので、早速行ってきました。

抽象表現主義は、日本でも2012年に回顧展が開催されたジャクソン・ポロックや、川村記念美術館に良いコレクションがあるマーク・ロスコが有名ですが、ウィリアム・デ・クーニングも見逃せない作家です。

今回は、パワーズ・コレクションの1960年代の女性像を中心に35点が、入口に近い2室に展示されています。パワーズ・コレクションのポップ・アート作品は2013年に新国立美術館で開催された「アメリカン・ポップ・アート」で見ることができましたが、パワーズ・コレクションはポップ・アートだけではなかったわけです。パワーズ・コレクションの他には、国内の美術館の所蔵品から7点、ニューヨーク近代美術館から1点、個人蔵の1点が展示されています。

ウィレム・デ・クーニングは、1904年オランダのロッテルダム生まれ、1926年に渡米して、ニューヨークで抽象表現主義の作家といわれるようになっていきます。デ・クーニングの代表作は1950年代の女シリーズで、その強烈な色使い、グロテスクなイメージ、立体感を拒絶した平面性に特徴があります。今回出展されている作品は、作家60才代の作品が中心になっていて、強烈さは少し整理されて弱まっているかもしれませんが、デ・クーニングらしさは十分感じられるものになっています。

今まで図版でしか見ていなかったデ・クーニング作品を目の前にすると、赤と緑の補色を大胆に使った色遣い、白い絵の具が生なまま存在する絵の具の物質感、どこから始まりどこで終わるのかわからない線から見えてくる形象、眼や口を取り出して強調した顔のイメージ、立体感を拒否した筆跡と、見えてくるものがたくさんあります。デ・クーニングは、何かを表象することを徹底的に否定し、作品自体で存在することを追求したのではないかと、感じます。

抽象表現主義というと「アクション・ペインティング」という言葉がセットのように付いてまわりますが、これはハロルド・ローゼンバーグという批評家が書いて有名になった言葉です。もっとも有名なアクション・ペインターはジャクソン・ポロックですが、ローゼンバーグはデ・クーニングを見てアクション・ペインティングといったと言われています。デ・クーニングが、パネルの前でどんな行為を行ったのか、その結果がどうなったのかを考えるのも良いのではないでしょうか。

「ウィレム・デ・クーニング展」は2015年1月12日までの開催です。

2014年9月27日土曜日

チューリヒ美術館展 国立新美術館

国立新美術館で「チューリヒ美術館展」が始まりました。展覧会のサブ・タイトルには「印象派からシュルリアリスムまで」とありますが、フランスの画家たちばかりでなく、スイスゆかりの作家や、表現主義的・象徴主義的な作家の作品も多く、ぜひ行ってみたい展覧会になっています。私がサブ・タイトルをつけるなら「セガンティー二からジャコメッティまで」でしょうか。

次のような作品がお薦めです。

  • アルプスを描いて有名なジョヴァンニ・セガンティーニですが、今回は晩年の象徴主義的な《淫蕩な女たちへの懲罰》《虚栄》が出展されています。
  • 展覧会カタログでもフォーカスされているモネの《睡蓮の池、夕暮れ》は2枚のパネルをつないで横6mもある作品。ここでは絵のサイズや絵の枠とはなにかを考えてみたくなります。
  • ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌは、それぞれの個性が出ていて、理屈をいわずに楽しめます。
  • ホドラーはスイスの孤高の画家。印象派やポスト印象派のペインタリーな作品を観ていると、ホドラーの線描重視に新鮮なものを感じます。今回、日本では馴染みのないホドラーの作品が6点出展されています。
  • ムンクの作品も今回4点出展されています。《叫び》のようなムンク的ではない《ヴィルヘルム・ヴァルトマン博士の肖像》に注目。
  • 日本ではあまり観ることがない、表現主義の作品では、キルヒナーの《小川の流れる森の風景》、ベックマンの《マックス・レーガーの肖像》。
  • ココシュカも5点あります。気味悪さでは《プットーとウサギのいる静物画》。
  • シャガールが好きな方は、今回の5点も楽しめます。
  • シュルリアリスムではエルンストの《都市の全景》。絵に作家の意図しないものをどう取込むか。
  • スイス出身でフランスで活躍したジャコメッティの作品は6点出展されています。《立つ女》に注目
全体を通して、スイスという場所のコレクションのせいか、フランスの作家、ドイツの作家、スイスに関わる作家と目配りされているように思われます。フランス流の画面上の造形を追求する流れと、イタリア・ドイツ・スイスにみられる表現主義的/象徴主義的な流れが、19世紀から20世紀前半にかけて同時並行に存在していたことがわかる、興味深い展覧会です。

国立新美術館での「チューリヒ美術館展」は2014/9/25から12/15です。

2014年9月7日日曜日

メトロポリタン美術館古代エジプト展女王と女神 東京都美術館

エジプトの美術というと、熱烈なファンか、最初から敬遠する人に別れるような気がします。
紀元前4400年頃から紀元まで4000年以上続く古代エジプトにロマンを感じるか、ピラミッドとミイラに象徴される現代からすると馴染みにくい葬祭儀礼を持つ文明と見るかによって異なるのかもしれません。
私は、数千年にわたって、同じイメージを作り続ける、そのときそのイメージとは何なのかという関心で、観に行きたくなります。現代の概念のアートではないイメージとは何なのでしょうか。

今回の展覧会は、ニューヨークのメトロポリタン美術館にある厖大なエジプト・コレクションから、女性という切り口で選択した作品が来日しています。約200点が全て日本初公開だそうです。

見所は、エジプトのハトシェプスト女王関連の展示です。ハトシェプスト女王は、紀元前1400年代の中頃に、夫のトトメス2世の死後、王位継承権をもつ継子トトメス3世の摂政となり、しだいに実権をとり王となったと言われています。歴史の中でたいへん珍しい女性の王という意味では、中国の則天武后のような存在でしょうか。アルカイック・スマイル的な微妙な微笑みを感じさせる像の頭部や、若い男性的な容姿のひざまづく像などが展示されています。石でできた像には、ギリシャ以降の理想的人体像への興味とは異なる、物質としての存在感を感じます。

他には、エジプトの女神関連の展示物や、アクセサリーがたくさん展示されています。展示は年代順ではないので、エジプト数千年の歴史の中でいつごろ作られたものなのかを確認しながら見ると良いかもしれません。

「メトロポリタン美術館古代エジプト展 女王と女神」は東京都美術館で2014年9月23日までの開催になっています。

2014年8月9日土曜日

ヴァロットン 冷たい炎の画家 三菱一号館美術館

フェリックス・ヴァロットン(1865-1925)は、スイスのローザンヌ生まれのナビ派の画家で、多くの油絵と木版の作品を残していますが、それほど知られた画家であるとはいえないようです。

今回の展覧会は、オルセー美術館とRMNグラン・パレにより組織化され、2014年1月までグラン・パレ、6月までアムステルダムのゴッホ美術館、9月まで三菱一号館美術館に巡回する回顧展です。

日本の展覧会タイトル「冷たい炎の画家」よりも、オリジナルの「Fire Beneath the Ice」のほうが、今回の展覧会意図を表しているかもしれません。画面表面の滑らかさの下に、表現したい内容が炎をあげている、それを作品のなかに探ってみようというわけです。オルセー美術館・オランジェリー美術館総裁のギ・コジュバル氏は「ヴァロットンは、欲望と禁欲の間の葛藤を強迫観念的な正確さで描き、男女間の果てなき諍いに神話的なスケールを与えています」と言っています。

三菱一号館美術館が所有している多くの木版画作品も展示され、ヴァロットンとはどのような画家だったのかを知る良い機会になっています。私が気に入ったのは、油絵で公園の人物を多視点で描いた《ボール》です。

「ヴァロットン 冷たい炎の画家」展は、印象派の後に出現した多様な作家に興味をもっている方にお薦めの展覧会です。三菱一号館で2014年9月23日までの開催になっています。

2014年7月12日土曜日

オルセー美術館展 印象派の誕生 国立新美術館

国立新美術館で、「オルセー美術館展 印象派の誕生 描くことの自由」が始まったので観に行きました。

印象派の誕生とありますが、あまり印象派にとらわれずに、19世紀から20世紀にフランスでどのような絵が描かれたのかを観に行くと良いと思います。

展示は、第一章「マネ、新しい絵画」、第二章「レアリスムの諸相」、第三章「歴史画」、第四章「裸体」、第五章「印象派の風景」、第六章「静物」、第七章「肖像」、第八章「近代生活」、第九章「円熟期のマネ」となっており、マネに始まりマネに終わります。

第一章では、マネの《笛を吹く少年》が見所です。正直にいうと、軍楽隊用のするどい音がする横笛を吹く少年の絵のどこが良いのだろうと、思っていました。実物を観ると、平面的な画面に描かれた、黒い上着、赤いズボン、それらを縁取る白い絵の具の、見事な色面の対比が良いのだとわかります。

第二章では、ミレーの《晩鐘》がなんといっても有名です。夕方になり晩鐘が鳴ると、農民が死んだ人々を憶って祈る場面です。庶民を敬意をもって描くのが、この時代のあらたな潮流だったというのがわかります。

第三章はアカデミーの歴史画です。印象派が出現してくる時に、まだ因習的な歴史画も描かれていましたと紹介される絵に興味を覚えます。次の第四章に展示される、ブグローやカバネルも同じ文脈の作品です。

第四章にあるモローの《イアソン》はモローが好きな方には必見。繊細な装飾物の表現などモローならではです。

第五章「印象派の風景」には、日本でも馴染みのある作家の作品が並んでいます。

第六章では、ファンタン=ラトゥールの《花瓶の菊》に、この時代の静物画があらわれているようにおもいます。

第七章の肖像では、ホイッスラーの《灰色と黒のアレンジメント第1番》が見所です。黒い服を着た老女が横を向いて座っている作品ですが、その黒いかたまりと左側にあるカーテンのようなものの対比が観る人に強い印象を与えます。タイトルにあるように、音楽的といってもよいかもしれません。ホイッスラーはもっと追っかけてみたい作家の一人です。

第八章、ドガの《バレエの舞台稽古》はドガらしい作品。モネの《サン=ラザール駅》も観ておきたい。

第九章は晩年のマネの作品ですが、《アスパラガス》がおいしそうです。

今回の展覧会では、観ておきたい絵が多く来ています。できれば、19世紀から20世紀にかけての絵画の展開を整理した上で行くと、より楽しめるのではないでしょうか。

「オルセー美術館展」は国立新美術館で10月20日までの開催です。


2014年5月30日金曜日

チベットの仏教世界 もうひとつの大谷探検隊 龍谷ミュージアム



関西で仕事があったので、空いた時間に龍谷ミュージアムの「チベットの仏教世界 もうひとつの大谷探検隊」へ。

大谷探検隊が西域からインドを調査をしたのは有名ですが、実はそれとは別に2人がチベットに派遣されて、チベット仏教の調査をしていました。今回の展覧会はその業績を紹介するものです。

ちょうど運よく学芸員のかたによるスライドでの説明があり、それを聞けたのですが。チベットにはインドで発展した大乗仏教の最後の形が伝わったのだそうです。そういうわけで中国や日本にはない経典に基づいた像などがあるという話で、そうだったのかと納得しました。

今回の展覧会で特に力を入れて展示されていたのが、現在のダライラマの前のダライラマが、遺言で、その時に渡った学僧、多田等観氏に贈った仏伝図です。仏伝図自体が日本ではめずらしいですが、特にこの仏伝図には、初転法輪から涅槃にいたるまでの知られていない仏伝がたくさんありたいへん珍しいものになっています。そこにはキリストの生涯にあるような、弟子をどのように獲得していったのかなどの伝記がたくさん描かれています。

今回の展覧会は6月4日までの開催です。チベットに興味がある方、仏伝図に興味がある方にはお勧めです。

2014年5月16日金曜日

マインドフルネス 髙橋コレクション展 名古屋市美術館

日本の現代美術の蒐集家で知られる高橋龍太郎さんのコレクション展です。
関西へ出張があったので、時間の都合をつけて行ってきました。

髙橋さんのコレクションは、部分的には色々な所、例えば会田誠展などで見ることがあったのですが、これだけ一堂に集まったのを見るのは初めてでした。
入り口で草間彌生の女子と犬のオブジェに出会うところから、期待を持たせられる展示になっています。展示は一階、二階、地下と広がっているのが、収集の規模の大きさを示しています。

展示は、草間彌生を始め、村上隆、奈良美智、会田誠、山口晃、鴻池朋子、束芋、蜷川実花、小谷元彦と、現代美術の有名どころを集めて多彩です。髙橋コレクションは、幼形成熟という意味のネオテニーというタイトルで展覧会になっていたこともありますが、いわゆる「大人」にならない夢の世界のような作品が多いことに注目させられます。

現代日本に出現した一群のアーチストをどう見るか考えるために、見に行くのも良いのではないでしょうか。

名古屋市美術館で、6月8日までです。

2014年5月11日日曜日

中村一美展 国立新美術館

中村一美さんという方は、勉強不足で知りませんでした。
今回、国立新美術館で中村一美さんの個展が開かれ、150点に及ぶ展示でその全貌が一堂に見られます。

中村さんは、西洋美術のモダニズムの頂点を示す抽象表現主義の研究を出発点に、日本・東洋の美術も研究し、新たな制作原理を確立していったようです。
基本は自然のものそのものの再現ではなく、抽象化された形象を見せる作品となっています。しかしタイトルには、文学的な含意があるタイトルがつけられているものも多く、絵画平面だけに収まらない、人が外的にもつイメージにつながる構想力にも関心がありそうです。

作品により幾何学的な線を強調したものと、色面の対比を基本に記号的な模様があるものに別れるようですが、いずれも垂直方向の強調と斜めの線の使い方が観る人の近くに刺激を与えるようにみえます。

私にとっては、中村一美さんの作品はたいへん興味のもてるものでした。国立新美術館で5月19日までですが、興味のある方はぜひ行かれることをお勧めします。

2014年5月5日月曜日

ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション Bunkamuraザ・ミュージアム

連休中は遠くへ出かけると混んでいると思い、近くのBunkamuraザ・ミュージアムへ。
ポルディ・ポッツォーニ美術館の作品が展示されています。
ポルディ・ポッツォーニ美術館は、1881年にミラノの貴族ジャン・ジャコモ・ポルディ・ポッツォー二をコレクションを展示するために開設された美術館です。コレクションは、古代、鎧・武器、陶磁器、時計、東洋、家具、ガラス器、本、宝石などたいへん幅広いのですが、今回の展覧会では、鎧や時計が少しと、あとはイタリアを中心とする絵画が展示されています。それでも当時の貴族のコレクションがどのようなものであったか、その一端がわかります。

今回一番の目玉になっていたのが、15世紀のイタリアの画家ポッライオーロです。ポッライオーロは、ユニークな構図のロンドン・ナショナル・ギャラリーにある《聖セバスティアヌス》が有名ですが、今回来ている《貴婦人の肖像》もなかなか見応えのある作品で、顔の輪郭の微妙な線、髪飾りやネックレスなどいい感じです。

サボナローラに影響された後の、ボッティチェッリは何となく敬遠していましたが、《死せるキリストへの哀悼》は素通りできずに見入ってしまいました。ここにある線はルネサンスではなくマニエリスムだと思いました。

時代は下って、ヴェドゥータ画の大家、カナレットの《廃墟と古代建造物のあるカプリッチョ》もカナレットらしい変さ加減がでていて楽しめます。

「ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション」は、イタリアが好きな方にはお薦めの展覧会です。5月25日までBunkamuraザ・ミュージアム

2014年4月10日木曜日

東大寺展 あべのハルカス美術館

大阪出張で時間ができたので、天王寺に新しくできた「あべのハルカス」の中にある「あべのハルカス美術館」へ。

今は開館記念特別展ということで、2014年3月22日から5月18日まで、「東大寺展」が開催されています。

「あべのハルカス美術館」のWEBを見ると、特徴は(1)ターミナル立地の都市型美術館、(2)国宝も展示可能な設備、(3)近鉄沿線の文化財をはじめ、日本・東洋・西洋・現代と多彩な展覧会を企画とあります。正直なところ、なんだか良くわかりません。近鉄が力をいれて開設した美術館であることは間違いないようです。

今回は最初の展覧会ということもあって、国宝《誕生釈迦仏立像・灌仏盤》、重要文化財《木造弥勒仏座像》など、国宝や重文が多数出展されていて、見ごたえはあります。

私は、《執金剛神立像》の彩色を東京芸大と理科大が再現したCGに興味がありました。うーん、当時はこんな極彩色だったんだ・・・。

天王寺の近くに行かれるかたは、寄ってみたらどうでしょう。

この美術館の今後の展覧会予定を見ると、今BUNKAMURAで開催されている「ミラノ ボルディ・ベッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション」の巡回、「デュフィ展」、「新印象派光と色のドラマ」、「高野山開創1200年記念 高野山の名宝」となっています。今後は、東京のBUNKAMURA的な路線を目指すのでしょうか?

2014年3月31日月曜日

シャガール展 静岡市美術館

もう終了してしまいましたが、静岡市美術館で開催されていたシャガール展を観ての観想です。この展覧会は2013年の夏から、北海道立近代美術館、宮城県美術館、広島県立美術館、静岡市美術館と巡回し、最後に2014年4月から愛知県美術館で開催されます。

展覧会コンセプトは60才を過ぎたシャガールが、1950年以降、歌劇場、美術館、大聖堂などの大きな空間を飾る作品を制作したのを見ていこうという企画です。

シャガールは、天上画、ステンドグラスなどの様々なフォーマットの中でも、シャガールが獲得したシャガールらしい表現を行っているように見えます。奥行きの無い平面性を強調する絵の具の表現、稚拙ともいえる形象の中に懐かしいようなシンボルを見いだす表現。20世紀後半の作品としてのコンテンポラリーな感じの無さが、劇場、教会などという伝統的な建造物とマッチしているようです。

私の個人的な観想としては、馴染みのシンボルに囲まれる気持ち良さと、20世紀後半の表現がこれで良いのかという思いが交差した、というのが正直な所です。

興味がある方は、名古屋に行ってみると良いと思います。


2014年3月16日日曜日

「幻触」と石子順造 静岡県立美術館

この展覧会は、放っておけない展覧会でしたが、ブログに書きにくい展覧会でした。そこで、展覧会に行った順とブログの順が逆転してしまいました。

展覧会には、静岡で結成された「幻触」というグループとそれに関わった評論家石子順造にまつわる作品や資料が展示されています。

ブログに書きにくかったわけは、まだまだ理解が及ばないことが多いためだと思います。
  • 『幻触」というグループがなぜ静岡で結成されたのか、それは東京や関西のアーティストの活動と何が異なっていたのか
  • 評論家とアーティストはどのような関係だったのか、
  • 今回も展示されている「ハイレッド・センター」や「もの派」との関係は?
  • 「幻触」の思想はどう引継がれていったのか
そんなことが気になります。

今ちょうど、東京国立近代美術館で「あなたの肖像 工藤哲巳展」が、渋谷区立松濤美術館で「ハイレッド・センター 直接行動の奇跡」が開催されています。この展覧会と合わせて、1960年代とは何かもう一度確認したいという思いが強くなっています。

「「幻触」と石子順造」展は、静岡県立美術館で2014年3月23日までの開催です。


相国寺承天閣美術館 円山応挙展

京都でちょっとイベントがあり泊りがけで行ってきました。二日目には時間が空いたので、相国寺承天閣美術館で開催されている「円山応挙展」へ。

今回珍しいところでは、応挙本邦初公開の相国寺開山堂襖絵、与謝蕪村の慈照寺方丈襖絵などがありました。応挙作品は、定番の《牡丹孔雀図》、《朝顔狗子図》などを含めて20点以上展示されています。さらに応挙が研究に使ったような明朝の絵画が展示されたり、弟子の長沢蘆雪、原在中の作品もあり楽しめます。

この展示を見て、改めて、写生と言いながら単純な写実で無い、応挙の表現の多様性に感心しました。開館三十周年記念「円山応挙展」は2014年3月23日までです。

今回の京都でのイベントは、いい年をしての大学(京都造形芸術大学)の通信教育部卒業式だったので、まだ桜は咲いていませんが、春の気分での美術館巡りでした。